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  カーボンオフセットその2 再検討 05.24.2008
     



 日経エコロミーで報告したように、その後、日本カーボンオフセットの仕組みを用いて、実際にカーボンオフセットを体験してみた。今回は、追加的な検討の報告。

 さらに、M尾さんから、日本カーボンオフセットは、「どうみてもおかしい。ダブルにカウントされている」、とのご指摘をいただいた。先行している英国などのオフセットの取扱とどこが違うのかを再度検証してみることにする。


C先生:前回カーボンオフセットを検討したが、どうしてもすっきりしない。再度検討することにしたい。

A君:それには、もう少々問題点を明らかにすると同時に、自分でも経験してみないと。

C先生:Webでしばしば使われる言葉だと、「人柱」かい? 

B君:いやいや、そうしないと真剣に考えないから。

C先生:それでは分かった。先日のエアーズロック行きの往復の排出をカーボンオフセットしてみよう。

 以上が先週の日曜日に起きたことで、すでに、以下のように、日経エコロミーに掲載。その部分の記述を再掲。



 日本でも、すでにご紹介した日本カーボンオフセットが立ち上がってて、そこで相殺が可能になっている。
http://www.co-j.jp/home/

 やはり飛行機による排出量を算出できる。成田−エアーズロックは、13636kmで、4,006kgと出た。この値は、英国のCarbon Neutral社のものとは大幅に異なる数値である。

 しかし、HPにしっかりと説明がなされていて、飛行機のように成層圏で水分を排出するケースでは、その水分が強力な温室効果ガスとしての作用をする。そのため、水分の寄与を二酸化炭素量に換算して加えてあるとのこと。そして、実に、4トンの排出だという。

 これがいくらに相当するのか。会員登録を済ませて、何はともあれ払ってみることにする。4006kgの全部をオフセットするのか、それとも10%だけか、色々と選択肢がでてくるが、エイヤとばかり、4500kgをオフセットしておくことにした。
支払総額が18900円となった。二酸化炭素1トンあたり、4200円であった。高い!

 同HPによれば、この価格は変動をするとのこと。さらに言えば、この金額は、排出権を買ったことではない、との説明である。Q&Aページにこのような記述がある。

Q2.カーボンオフセットとは、つまり個人が排出権を買えるということですか?

A2.いいえ、違います。
排出権を活用したカーボンオフセットという仕組み・サービスをCOJが提供し、皆様にはそのサービスに賛同したうえでお申し込みいただき、その費用を負担していただくものです。したがって排出権そのものを購入して皆様に所有していただくわけではありません。排出権はCOJから日本に移転させて、京都議定書に貢献します。

 さて、この文章の解釈は難しい。そもそも排出権だが、元は何かと言えば、その主流はCDMである。たとえば、中国での炭鉱からのメタンの自然放出分を回収して燃焼させ、等価的に削減された分を排出権として商社などが入手する。そして、市場で販売する。これを今回費用負担をして一部買い取って、自分のものにするのも可能ではあるのだが、個人が排出権を持っていても全く無意味なので、日本国に寄付したことになる。




A君:日経エコロミーは、そこまでで終わっている。

C先生:実際にやってみても、どうしても違和感が残った。加えて、M尾さんからメールで情報もいただいた。なぜ違和感があるのか、その解析が必要だったのだが、日経エコロミーには、検討が間に合わず記述しなかった。それを本日このHPでやろうということだ。

A君:さて、このような議論をするとき、もっとも基本になる情報とは何ですかね。

B君:まず、(1)排出削減になるのか、(2)支払った金がどこに行くのか、この2点が必要だし、それで十分。これを厳密につきつめれば、ダブルカウントなどの問題も解明可能だ。

A君:図1を作りました。飛行機でエアーズロックまで行くときに、まあ4.5トンのCO2が出たとして、の図です。乗客が18900円を支払って、そしてカーボンオフセット業者から4.5トンのCO2の排出権を買って、それで実際に出してしまった4.5トン分をキャンセルする。これは普通に行っても何も問題が起きそうもないですね。



図1:通常のカーボンオフセット。

B君:最初に航空機のカーボンオフセットを導入した英国航空のHPを調べてみると、どうも、そんな考え方で仕組みが作られているようだ。乗客個人が排出権を買って、自分の排出量を相殺する。

A君:英国航空のHPですか。これですね。
http://www.britishairways.com/travel/csr-carbon-offsetting-trading/public/en_gb

もっと詳しく読むという次のページにいくと、こんな説明があります。

1.How does carbon offsetting work?
2.How is the carbon offset contribution calculated?
3.Where does your money go?
4.Cost of Certified Emission Reduction
 それぞれの説明はこんな風です。

1.How does carbon offsetting work?
The money you pay to offset the emissions from your flying is used to buy and cancel carbon credits that will have been registered and verified through the United Nations Kyoto Protocol. These carbon credits balance the effect of your emissions by funding projects that reduce the amount of greenhouse gases released into the atmosphere.

The United Nations process validates and audits projects to ensure they produce authentic benefits and are genuinely 'additional' activities that would not be otherwise undertaken.

 実際に排出権を買うと書いてあるので、個人が買ったことになるようだ。


2.How is the carbon offset contribution calculated?
There are two key elements within the calculation of the carbon offset for your flights:

volume of carbon produced
cost of carbon credits per tonne
The amount of CO2 produced from your flight is calculated using carbon dioxide factors published by the UK Government. These factors tell us how much CO2 is produced for each kilometre travelled per passenger.

This amount reduces the further you travel, as flying longer distances is more fuel efficient.

Example:
London Heathrow to Barcelona

Distance = 1146km
Kg CO2 per passenger km = 0.13
No of passengers = 2
Total CO2 = 0.298 Tonnes of CO2


ここは、排出量の計算法なので、今回の話とあまり関係はない。


3.Where does your money go?
Your money goes towards supporting projects in developing countries and typically focus on providing new sources of renewable energy and in promoting energy-efficiency schemes.

In addition to balancing your CO2, the projects we have chosen must also bring social and economic benefits to the communities in which they are based and often bring health benefits from improvements to local air quality.

金がどこに行くのか。それは、途上国における再生可能エネルギーへの転換に使われるとしている。これはCDMに基づくCER(Certified Emission Reduction)なのだろうか。


4.Cost of Certified Emission Reduction
The cost of the Certified Emission Reductions and hence the price of the offset is based on the market price, which may change from time-to-time due to supply and demand and also currency exchange rates.

Morgan Stanley, who are specialists in sourcing emission reductions, will use offset contributions to fund a portfolio of projects.


最後の説明によれば、どうやらCERらしい。しかし、説明がどうも不十分。


B君:いずれにしても、実際に削減対象なっているプロジェクトは、途上国における風力や水力のようだ。まあ、このスキームなら余り問題はないように思える。

C先生:次は、COJ=日本カーボンオフセットの場合。
http://www.co-j.jp/home/
このHPでは、次のようなQ&Aがあることは、すでに説明した通り。
http://www.co-j.jp/home/faq/
「排出権はCOJから日本に移転させて、京都議定書に貢献します」、これが問題の文章。

A君:「サービスに賛同した上で」がカギ。その場合を図2に示しますが、乗客が持っていたCO2の排出権は、日本国に移転されるとなっています。




図2:日本カーボンオフセットのように、日本国に排出権を移転する場合

B君:ちょっと考えると、持ち主が変わるだけだから問題は無いようにも思えるが、実は、奇妙なことが起きる。もしも一旦、乗客を経由したらどうなるか。それを図3に示す。これは明らかにおかしい。なぜならば、乗客は、すでに、その4.5トン分の排出権をエアーズロックに行く時に出した排出量の相殺のために使っているので、もともと日本国に移す権利はすでに使ってしまっていて、持っていない。



図3:航空機による排出を相殺してしまったら、日本国に移転する排出枠はもう残っていない。すなわち、ダブルカウントになる。

C先生:そうなる。もしも日本国に権利を移すのならば、もともとの目的だった飛行機分の相殺はできなかったことになる

A君:確かに。日本国が排出権を受け取ったとしたら、その排出権は、日本国内で排出される他の行為によるCO2の相殺に使用される。もしも、自分の飛行機分を相殺したのなら、それはもはや不可能。

C先生:これが先日来持っていた不可解感の原因だ。

A君:なるほど。しかし、たとえば、C先生が運転したプリウスからの排出量を相殺したいのなら、それはそれほど妙なことではない。自分で相殺する代わりに、日本国に相殺して貰えば良いのだから。相殺を委託することになる。

B君:いやいやそれも甘い。ある目的を決めて、そのためだけに相殺したら、それはすでに排出権を使ってしまったことになるから、一旦目的から切り離して、総体としての排出を政府に任せるという気持ちになる必要がある。その総体の中に、自分のプリウスからでたCO2も含まれている、と考え直すのことになるのだが。

A君:そこまで厳密に考えなくても、日本国内での排出量なら、その分の相殺を日本政府に委託した、と考えることも完全にダメだということでもない。国際線での排出の相殺は、日本政府にはできないことですが。

B君:そんな状況が図4か。今回、C先生はエアーズロックに行ったことで、自らのCO2排出量の莫大さに気づいた。しかし、国際線から排出されるCO2は、現状では、どの国の排出量にも算入されないので、これを相殺しても国益にはならないと思った。そこで、直接的な相殺をあきらめて、今回の旅行をきっかけに、自ら運転するプリウスからの排出量などを含む日本国内での排出を相殺することを思いついて、日本政府にその相殺をまとめて委託しようとした。この「など」が重要なのだ。



図4:相殺を委託するという考え方。しかし、目的を特定しての委託は不可能。

A君:なるほど。COJのページにドライブというものがありますね。プリウスなら21km/Lぐらい。これだと1トンのCO2が9000kmのドライブに相当しますね。

B君:そこで、C先生は、CO2の4.5トン分を今回のエアーズロック訪問記念としてオフセットすることにした。これは、プリウスなら4万kmの走行分に相当する。

C先生:最近、プリウスの走行距離が伸びない。5年目なのに、まだ2万5千キロを超したところ。

B君:これで、恐らくこの車を保有している期間内でのCO2排出量を全部オフセットすることになる。

A君:同じ飛行機でも、国内線の場合には、日本の排出量に算定されますから、その相殺を日本国に委託すると考えることも不可能ではない。日本国に排出権を移転することで本当に奇妙なことになるのは、国際線の場合か。

B君:航空会社が主体になって実施しているプログラムは、他にもある。これの意味は、すべて同じだろうか。

C先生:実は、ほぼ同じころオーストラリアのパースを訪問したY田さんご夫婦は、カンタス航空でカーボンオフセットを実行したとのこと。カンタスのHPを見ると、英国航空の場合とほぼ同じようだ。
http://www.qantas.com.au/info/flying/flyCarbonNeutral/index
価格的にも比較的安くて、パース往復2名で、2.2トン、26オーストラリアドルだったそうだ。

A君:1トンあたり1180円で、これは、格安かも。そもそも価格の基準は何。

B君:その点の詳しい説明が必要だ。

C先生:カーボンオフセットに関しては、詳しい説明がとにかく必要だろう。
 ところで、日本の各企業や各プロバイダーは、カーボンオフセットをどんなつもりで普及させようとしているのだろうか。やはり、商品の拡販なのだろうが。

A君:排出権の取引を行うには、まず、キャップがあって、企業ならある量以上には排出できない、という状況があることが普通。ところが、日本の場合、排出権取引が未整備状態。

B君:それは企業の場合。英国などでも、個人にも排出権の割り当てがあるという訳ではない。しかし、個人にもそのような思いを共有して欲しいということで、始まったのだろう。

A君:特に、航空機の場合には、国際線の排出はどこの国の排出量でもない。英国航空がそこに目を付けたのは卓見なのかどうか。

B君:責任感をもった個人が何人かいたということと話題性で商品が売れた。新聞ダネにもなった。そこで、枠組みを作った。これが実態だろう。

C先生:具体的に、日本の例を再調査して、それぞれどのような枠組みだと主張しているか検討しよう。

A君:カーボンオフセット年賀はがきの場合です。
http://www.carbonoffset-nenga.jp/carbonoffset.html
 もともとの排出削減は、やはり国連認定のCDMベースのもの(いわゆるCERだろう)。寄付金5円で、日本政府が排出権を購入するために使う、とされている。

B君:要するに、5円で年賀状の配送で排出されたCO2の削減をしようというものではなくて、全く別の話だが、まずは排出権購入のために寄付をしてくれ、というもののようだ。

A君:その理解ができなかったためか、人気は無かった。

B君:一方、旅行業界がこれは商売になると大挙参入中

A君:最初は、JTB関東のGreenShoesなるブランドらしいのですが、これの公式の説明が見つからない。
 間接的なプレスリリースを見ると、
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=187673&lindID=5
グリーン電力証書(発行:自然エネルギー・コム)を利用するものらしい。

B君:近畿日本ツーリストのものは報道資料が見つかった。
http://www.knt.co.jp/kouhou/news/08/no021.html
 使う排出権は、やはりCDMベースの国連認定のもの。株式会社リサイクルワン
http://www.recycle1.com/
と連携する。

A君:リサイクルワンは、英国のカーボンニュートラル社と連携している。カーボンニュートラル社は英国の企業なので、さすがに、CO2排出をオフセットすると同時に、その排出権をどこかの国に移転するといったダブルカウントまがいのことはやっていないようだ。

B君:日本人的感覚としては、日本政府に排出権が移転されるという方が納得できるかもしれないが、そのためには、実は、目的とする行為のオフセットが直接的に行われた訳ではなくて、一旦、「二酸化炭素なら普段の生活でも色々と排出しているから、原因の一つだけをオフセットで潰してもあまり効果は無い。全体として減らすために、すべては政府に任せよう」、という気持ちに切り替えてから実行する必要がある。これができるか。

A君:個人だと、単なる罪悪感を減らしたいという単純な動機で何も考えないでやる人が多いだろう。

B君:個人ベースのものはまあ可愛いもの。本当に怖いのが、企業のCSR担当者が、中身も良く分からないまま、企業イメージの向上のために「カーボンオフセットという新しい方法があるから乗ろう」、といったメンタリティーで動きだすことだ。

C先生:日本の場合、「ロハスの失敗」があった。ロハスというイメージを環境ビジネスや有機栽培などの拡大ために使おうという思いが強すぎて、真実が覆い隠されると同時にその哲学性を失った。これと同じことが、またまた「カーボンオフセット」で起きないか心配。雰囲気を伝達するだけで、中身を十分に説明できているとは思えないので、その可能性が高いと見る。少なくとも、国際線搭乗にかかわる排出のオフセットは、もっと丁寧な説明が必要だろう。さらに、日本国に排出権を移転するという意味をもっと突き詰めて説明してもらいたい。