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   バイオマスのNEDO Foresightセミナー
     
発電だけではない将来  11.04.2017
               




 11月1日に、イイノホール&カンファレンスセンターRoomAでNEDO主催のバイオマスに関するセミナーが行われました。バイオマスというと、もっとも一般的にはバイオマス発電になりますが、それだけではモッタイナイというのが、最大の趣旨だったと言えるかもしれません。

 今回は、次世代バイオ燃料バイオマスからの化学品製造、この2つが主題でした。いずれの話題も、極めて戦略的に物事を考えないと、2050年は乗り越えられない、ということを主張するために採用されたと言っても良いと思います。

 個人的な役割は、NEDOのTSC(Technology StarategyCenter)の客員フェローとして、60分間のパネルディスカッションのモデレーターを務めることでした。しかし、このパネルの最大の任務は、実は、参加者から提出された質問に対して講演者の方々に答えていただくというもので、とてもパネルディスカッションと言えるようなものではありませんでした。しかし、どのような質問が来るか、それは、専門家の現在の理解度を示すものとも言えますので、なかなか興味深いのですが。

      
C先生:バイオマスは非常に重要な低炭素技術なのだけれど、日本のバイオマスは、現状だとFITによる優遇を利用したバイオマス発電に留まっていて、これだと、宮崎県などで森林がどんどんと失われていて、しかも、その後の植林も行われないというような事態になるだけ。しかし、本来、バイオマスにはもっと重要な役割がある。その「究極とも言える役割とは何か」を理解するには、植物が光合成という機能を使って、炭素を循環させていることを、人類はいかにに有効に活用するか、という発想に基いて戦略的に考えなければならないということなのだ。

A君:しかし、現時点の日本では、特に森林バイオマスについては、考えられるありとあらゆる問題点がすべて発生しているような状況です。

B君:そのためには、やはり国がリードして行かなければならないのだけれど、林野庁にその力があるかどうか、と言われると、なかなか問題なのではないか。単なる憶測ではあるけれど、ある種の既得権益の塊になっている状況なのかもしれない。

C先生:そのあたりの話は、最後にちょっとだけ触れよう。まずは、ポジティブな話に限って進めよう。

A君:そのポジティブな話題が今回のForesightセミナーの課題でした。一つは、バイオ・ジェット燃料の話。そして、次がバイオからの化学品製造の話。バイオジェットの話は、すでに欧州では一部で試行が行われているのですが、日本ではバイオジェットと言えば、ユーグレナのミドリムシから生産する話題が有名ですが、これで実用化レベルの生産量が実現できるかどうか、かなり疑問。ミドリムシはやはり健康食品のレベルを超した生産量を確保することができるかどうか、それが大問題。

C先生:微細藻類からの油生産については、やはり当日のパネリストの一人だった株式会社ちとせ研究所の千田(チダ)さんのおっしゃっていた通りだと思うのだ。なによりも、油生産に適した微細藻類の育種ができる技術があるかどうか、これがもっとも重要。JSTのCREST研究プロジェクトでも微細藻類が取り扱われたのだけれど、自然から適当な種を探し出して、それに適した育成方法を考えるといったマインドではダメで、さらに最適な特性の藻類になるように、育種、すなわち、改良品種を作る出すことができなければ、使える技術にはならないと思う。

A君:遺伝子組換も勿論有効なのですが、それを野外で育成するとなると、これは全く別の問題が発生するので、これまで野菜などで使われてきている育種、すなわち、栽培条件を変えることで、改良された品種を自然の力で作り出して、選択するという方法論を採用する以外に無さそうですね。

B君:それが可能な技術を持っていれば、成功の可能性は確実に高くなるだろうね。

C先生:最初の課題であるバイオ・ジェット燃料については、ICAOとIATAが目標を定めていて、2050年までに、CO発生量を半減することにしている。その方法論は、恐らくただ一つしかなくて、ジェット燃料の半分をバイオジェット燃料に転換して、混合燃料にすること。

A君:実際、様々なバイオ燃料が検討の対象になっていて、植物油、動物性油脂、などなどから作ることになるのでしょう。しかし、植物油は、今後の世界人口の伸びを考えると、穀物生産と農地の奪い合いになる可能性も無いとは言えないでしょう。アフリカの人口がますます増加して、2050年の世界人口は98億人と推定されていますから。

B君:最終的にどのような原料になるか。そこで、重要なキーワードが非可食部ではあるのだけれど、実際には、恐らく耕作可能地をどう使うのか、ということがコンフリクトの最終的な要因になる。

A君:現在考えられている原料は、セルロース系(樹木、草本)、微細藻類、都市ごみ・廃ガス、油脂と分類できるでしょう。

B君:ジェット燃料は、アルコール類のような酸素が分子内に存在する燃料では発熱量が足らないので、現在使われているジェット燃料、それは灯油のようなものだけれど、炭化水素燃料でなければならない。そのため、上記の原料は、いずれも酸素を分子中に含むものばかりなので、結構面倒なプロセスになる。

A君:大別すれば、原料はすべて酸素を含むので、それを取り除くプロセス、すなわち、合成ガス化、水素化などのプロセスを経ることになります。

B君:合成ガスとは、一酸化炭素COと水素Hの混合物。これからFT合成(Fischer-Tropsch process)を行うことになる。

A君:バイオディーゼル燃料には、酸素が含まれているものなので、これを原料にすれば、水素化というプロセスが不可欠になります。

C先生:要するに、現時点で、化学プロセスとしては充分に実行可能な段階にあるということ。となると、いかにコスト面での競争に勝つかというビジネスの問題になる。そのあたりは、最後にまとめよう。

A君:それでは、次の課題です。現在、プラスチックは石油を原料として作られています。したがって、最終的にはCO発生量をゼロにする要請を満足するとなると、廃プラスチックを燃やすのではなくて、炭素分は循環して使うことになりますね。あるいは、CCSとして、地中に埋めるか。

B君:それ以外にもあって、すべてのプラスチックを生分解性プラスチックにして、最終処理としては、地中に埋める。そのうち、分解されて、有機物になって長期間炭素が地中で維持されることになる。大量に処理するとなると、途中で色々と問題が起きそうではあるけれど。

A君:このあたりの総合戦略をどうするか。これは、非常に広い視野で考えなければならないですね。

B君:広い視野と言えば、バイオマスについては、過去バイオマス・ニッポンというプロジェクトがあって、平成14年12月に閣議決定されたものですが、その後、バイオマス・ニッポン総合戦略というものが、平成18年3月31日に策定されている。
http://www.maff.go.jp/j/biomass/

A君:いずれにしても、京都議定書の発効に伴って必要な処置を述べているもので、まあ、古い。しかも、かなりローカルな対応も多かった。行政レビューでも、見直しが要求されていました。次の文書のp16です。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000299347.pdf

B君:なにやら地域の活性化が中心になりすぎて、バイオマスの利活用によって、本当にCOは減ったのか、ということが指摘されている。LCA手法がまだ出来ていないのか、ということも言われている。

A君:今回のジェット燃料対応とバイオマスからの化学品は、これまでの提案とかなり違います。その根源には、パリ協定の中心課題である「気候正義」をどう実現するのか、という考え方について、欧州がかなりリードしているという現状を反映したからだと思います。

B君:やはり、日本は、特に、日本の産業界はパリ協定を意識的に置いてきぼりにした印象なのだ。そろそろ「追いつかなければならない。これが喫緊の課題」だという意識に転換しないと。

C先生:この話になると、実は、なかなか重症だと言わざるをえない。当日のフロアーからの質問用紙による質問にも、『ジェット燃料の商用化といっているが、あくまでもサーチャージに頼るということか? つまり、CO削減という政策目標を達成することが目的なのか』という質問があった。『Yes』、と回答したが、それは無意味だという質問だったような気もする。

A君:明確には述べられていないのですが、解釈にしようによっては、「産業界は、CO削減という政策目標に従うことは不要」というニュアンスが読み取れますね。確かに、日本政府だけの2050年80%削減という政策目標だけが、孤立して存在しているのであれば、そのような考え方もあり得るのですが。

B君:「地球限界」というものがあって、これを超すと地球上の人類の生活が、の影響を受けるということを無視している。企業は、これを当たり前だと言ったら、少なくとも西欧企業としては、もはや破滅以外にない。日本という特殊な社会、これを「世間が決める正義の社会」とC先生は命名しているけれど、なんとか成立しているということが認識されていない。

A君:世間のレベルが低ければ、それで、日本社会のレベルも低くなる。世間とは何か。一橋大学の元学長、阿部謹也先生の著書による定義では、「世間=お香典の出し方のルールを共有している人々の集合体。正義はその世間が決めるもの」と定義しているように思いますね。

C先生:どうしても、一神教の世界と、八百万の神の日本とでは、考え方が一致しない。しかも、西欧人は、八百万の神の社会は、「文明以前=未開社会」だと思っているので、厄介なのだ。日本人にとっては、一神教は、遠い他の世界のものなので。別の宇宙と言った方が良いかもしれない。

A君:多神教というものを最大限社会に活かした国が日本で、だから、居心地が良いのですよね。そもそも、多神教でやって行ける国は、非常に優れているとも言えます。欧州は、あれほど宗教戦争をやったし、イスラム教の世界でも紛争が尽きないのは、その原因の一部が、やはり、一神教だからですよね。しかし、「世界全体が理解できないからダメだ」が続発する時代になってしまった。トランプ大統領もダメの一例ですが。

B君:パリ協定では、そのためもあって、序文に、この文書は「Climate Justice」を基本原則として書かれた、という趣旨が表明されている。序文を英文で読んだ人が何人いるか、という問題のように思う。読んでも本当の意味は理解できないのだろうけれど、読むだけでも価値がある。特に、今後、グローバルな商売を少しでも考えるなら、必須だと思う。

C先生:そろそろ、まとめに入るが、昨日のプレゼンでは、九州大学の林潤一郎教授のプレゼンが極めてインパクトがあった。総合的なバイオマス戦略を考えておられる。

A君:化石燃料全面使用のこれまでの社会を変えるために、最初に出てきたのが、京都議定書の低炭素社会だった。パリ協定が合意されて、低炭素社会では対応しきれなくなって、新しい社会、それがゼロ炭素排出社会、Net Zero Emission社会が公式用語だけれど、これを実現しなければならなくなりました。それは、ゼロ炭素社会ではなくて、炭素排出ゼロ社会であって、炭素は必要不可欠な元素なので、林先生の言葉を借りれば、『炭素循環社会』を実現することが、今後の方向性だという結論になります。

B君:極めて明確。NEDOよりもコンセプトがスッキリ。炭素循環社会という言葉、NEDOも経産省も、即採用なのでは。次の言葉が未来を明確に示している。「いずれは、バイオマスと社会に蓄積した炭素資源だけが、『使ってよい炭素資源』になる」

A君:しかし、国内バイオマスの問題点は、生産ポテンシャルが低いことだと喝破していて、「エネルギー源としてのバイオマス発電は余り意味がない」と判断すべきだという主張のようです。発電効率が、例え、30%になったとしても、生産ポテンシャルは、高くて1800万トン/年なので、電力供給の1.9%が良いところ。むしろ、化成品や燃料製造用の原材料として考えるべきだとことです。

B君:しかし、それにはコストが重要で、歩留まりを最大化するとともに、外部ケミカルを使わないで水だけにする。結晶性セルロースの用途開発、例えば、CNF(カーボン・ナノ・ファイバー)の高度利用をする。地域特産化学品の開発。カスタマイゼーションをして、種類と地域の多様性に対応できるようにする。などなどの戦略的工夫が不可欠になる。

A君:でも、日本のバイオマスを活用するためには、そもそも前提となる様々な条件がありますよね。そもそも、森林の所有者すら分からない山地が多い。そのため、大雨などのときに、崩落するような山地もあって、災害の被害が大きくなる。先日、台風のために朝倉市・日田市で起きた災害も、いささか人災のような気がします。ここでも問題解決が不可欠です。

C先生:そろそろ終わりにしよう。
 林先生は、もともと化学工学のご出身だと思うが、化学工学は、「全体合理化の学問」なので、様々な提案が迫力があるということなのだろう。
 そして、林先生の主張は、やはり、国がバイオマスを効率的に採取できるための基盤整備を行わないと、バイオマスからのコアケミカルズを製造するといっても、実現は不可能、ということなのではないかと思う。
 対応は、林野庁だけではダメなので、経産省よ動け、と主張していたような気がする。現時点で、産業技術環境局の局長は、農水省から出向している末松氏なので、今がチャンスかもしれない。
 最後に、個人的に考える日本のバイオマスの問題点と必要なチャレンジをいくつかリストアップすることで締める。
 必要なチャレンジ:これらを早期解決。
(1)森林の所有者すらはっきりしない場所がある。
(2)樹種が杉ばかりの山林が多い。
(3)バイオマスの発電用途以外のチャレンジ必須。
(4)竹林の減少も目指した応用開発。
(5)日本の国土に適合した伐採方式の開発。
(6)化学品製造を含めたビジネス化。