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  化学物質リスク管理のあり方  09.27.2003



 10月16〜17日、松山にて、日本弁護士連合会の第46回人権擁護大会が開催されるが、そこで16日午後に、第2分科会「蓄積する化学汚染と見えない人権侵害―次世代へのリスク」なるシンポジウムが行なわれる。

 化学汚染が人権侵害であるとは、少々意表を突かれた表現ではある。しかし、誰の人権なのか。資源・エネルギーの過剰消費が次世代の人権侵害であることは間違いのないことだが。

ここで次のようなメンバーと議論をすることになった。

パネリスト
立川涼氏(愛媛県環境創造センター所長)
安井至(東京大学教授)
藤原寿和氏(化学物質市民研究会)
小倉正敏氏(日本化学工業協会常務理事)
安栖宏隆(経産省化学物質管理課課長補佐)
神山美智子氏(弁護士)


コーディネーター(実行委員会より)
池田直樹(弁護士)
佐藤泉(弁護士)

さて、果たしてどんなことになるのか。本日のHPは、その論点を整理するための作業である。


C先生:今回のこのシンポジウムは、かなりしっかりと準備をしなければならないだろう。

A君:ここで、立場を余り明らかにしてしまうとまずいのでは。

B君:全部明らかにして、それでもなおかつキチンとした主張ができることが重要。別に策略を凝らして勝負をするといった性質ものではない。

C先生:あたり前の話だが、ここに出てくる方々ぐらいになれば、それぞれの主張があって当然。その主張が間違っているといわれても、その場で自らの間違いを認めるような方々ではない。要するに、勝負が付くといった話では元々なくて、自分の考え方が100%伝わることが重要。そのために、論点を完全に整理して対応する必要がある。

A君:そうですね。パネルディスカッションが120分予定されていますが、6名で均等に時間を使ったとして、たったの20分ですからね。

B君:実際には、20分は無い。コーディネータが結構時間を使うし、会場からのコメントなどもあるから。

A君:15分以内で考え方を明らかにすること、これが重要だとなると、確かに論点を徹底的に整理しておくことが必要。

C先生:まあそういうことだ。今回、シンポジウムは、以下のような順で展開される予定。
1 サブテーマ1 「化学汚染」は進行しているのか?今の化学物質管理のあり方のままでいいのか(パネリストの現状認識) 約15分
2 サブテーマ2 「リスクをどう捕らえるか? ダイオキシン神話は終焉したのか?」約20分
3 サブテーマ3 「予防原則をどう見るか?具体的な事例での検討」約20分
4 サブテーマ4 予防原則:産業界の責任強化の是非と市民の役割について 25分

A君:いささか市民団体的な色彩が強いようなアプローチですね。

B君:恐らく、人権擁護大会だから、人権を侵害されていると言う立場がスタートポイントなのだろう。

A君:1970年代には、明らかに化学物質によって人権が侵害されていたと言えるでしょうね。その後も、交通公害では、裁判の判断もそんな方向。

B君:となると、時代変遷の把握が最大の問題点。そして、今後に未来における推移の予測が重要なのだろう。

C先生:そろそろ、サブテーマごとの検討に行こう。
 まず、サブテーマ1 「化学汚染」は進行しているのか?今の化学物質管理のあり方のままでいいのか(パネリストの現状認識) 約15分

A君:このメンバーだと、立川先生がダイオキシンなる物質について、歴史的な解釈を行なうということのようですね。

B君:藤原さんは、「問題だ」と発言するのが役割だろう。しかし、何を主張するか。余り情報がない。「通販生活」に藤原さんの主張があったのを読んだが、余り科学的では無かった。感情的のように感じたが。

C先生:今回、このセクションで全部話せるかどうか分からないが、以下のような論点を準備している。

「1970年ごろが、ほぼすべての化学物質汚染が最悪状態であった」
「人体中の濃度も、ダイオキシン、BPAなど、順調に低減しつつある」
「化学物質汚染は、産業からの排出に限れば、着実に改善されている(中小企業は不明)」
「化学物質審査規制法によって、難分解・高蓄積性の有害物質に対する規制が掛かり、使用している物質のヒトに対する毒性は低下傾向にある」
「したがって、化学物質によるリスクも低減しているものと考えられる」
「ただし、問題になった物質の代替品の放出がどうなったか、把握できない」
「しかし、自然生態系への影響は増大している可能性がある。それは、日常生活の生活規模が拡大し、人口も増加しているから」
「さらに、ヒト以外の生物に対する毒性をこれまでほとんど考えてこなかった」
「WHOのデータを損失余命で示すと、世界全体としては、まだまだ環境によって人命が失われていることが分かる」
「世界は二極化している。我が国は、途上国のことを考えるだけの余裕をもつべき時代になった」
「化学物質に限らず、ヒト以外、先進国以外への視点をもっと持つべきだ」

A君:図をそれぞれ1枚ずつ用意すると、それこそ時間が相当に掛かりそう。

B君:ここだけで15分は必要。

C先生:サブテーマ1だけで、15分を予定しているらしいが、不可能だということになるな。
 しかし、時間が無いからということで、次のサブテーマに行くだろう。
 サブテーマ2 「リスクをどう捕らえるか? ダイオキシン神話は終焉したのか?」約20分

A君:「リスクをどう捕らえるか」、と「ダイオキシン神話は終焉したか」の論点はずれているように思いますね。

B君:むしろ、ダイオキシンの話は、サブテーマ1の現状認識で行なうべきかもしれない。

C先生:そう思うが、個人的にはここで対応する。いずれにしても、リスクというものをどう把握するか、を述べる予定。そして、リスクが低下してきた現在、ゼロリスクを目指すべきではないことを主張する予定。

「リスクとはハザード×暴露である」
「ダイオキシンは実害の無い猛毒神話であったが、いまだに神話が生き延びている」
「ただし、ダイオキシン特別措置法は評価している。焼却炉の性能が向上したことで、特に、水銀、鉛、カドミなどの重金属の放出が事実上ゼロになったのが大きい」
「ダイオキシンへの暴露を下げることも可能だが、その効果は損失余命で1.3日程度」
「リスクにはトレードオフの原則がある。あるリスクを下げると、別のリスクが増える」
「もともと天然のリスクはかなり大きい。天然自然のリスクと人工的リスクの大きさは、どの程度に抑えるべきなのか」
「もともと有限の寿命しかないヒトの命をどこまで守る必要があるのか」
「むしろ守るべきは、健康寿命なのではないか」
「アレルギー、アトピー、化学物質過敏症などのQOL関係:ライフスタイルの影響が大きい?:人命とのトレードオフ?:感染症の減少?:超清潔指向?

「妊婦への配慮、子供への配慮が必要」

A君:これまた議論をしたら、1時間は掛かりそう。それを20分でやろうということですか。

B君:中途半端になりそう。

C先生:時間を極力効果的に使用したい。そのために、プレゼンテーションは徹底的に省時間タイプで、なおかつ凝りに凝ったものにしてみたい。

A君:このHPの構成にも、その一旦が見えてはいるのですが、そんな感じですか。

C先生:話がどこに行っても、大丈夫なように、柔軟性に凝りたい。

B君:しかし、時間が無いから次に行くというコーディネータの発言が見えるようだ。

C先生:そこで、サブテーマ3 「予防原則をどう見るか?具体的な事例での検討」約20分

A君:予防原則ですか。この言葉は、ある種の呪文みたいなものですから、議論にならないのでは。

B君:そう言えるだろう。ある立場の人は、ある意味でこれを使い、一方、企業サイドの人は、予防原則という語感に対して極めて防衛的な反応を示し、使うことすら拒否する。

C先生:予防原則が企業側から警戒されるのは、いくつかの要因がある。この予防原則を主張する団体にグリーンピースもあるのだが、その主張は、「誰かが有害情報を出したら、その物質は製造・使用禁止にする」とでも言えそうなものだ。

A君:天然自然のリスクの大きさだとか、そんなものは問題にしない。

B君:グリーンピースは環境保護団体ではない。あれは、政治団体。政治に理屈は無い。

A君:企業側の人々は、グリーンピース流が予防原則だと思っているのでしょうか。

B君:一旦、このようなものが原則になったら、化学物質に限らないが、すべての製品は、製造・使用禁止になる。

A君:すべての食品は、生産が許可されない。となると、全世界が餓死する。

B君:違うな。先進国では、全員、餓死するだけだ。

A君:グリーンピースに、どこか世界の一部地域を運営してもらうと、どんな社会になるのか、極めて面白いですね。

C先生:なにか、どんどん過激になっているが、予防原則で、本当の意味で企業関係者が問題にしているのは、立証責任の設定の仕方と、そのための費用負担の原則ではないか、と思われる。EUは、明確に企業の責任と負担を言っている。

A君:産業界にいる人間として、企業が費用負担をすると、わが社が潰れると思うのが普通なんですよ。

B君:実際のところは、製品価格に転嫁されて、最終的には、消費者が負担するたけ。

A君:しかし、最終製品を作っているトヨタなどは強いから、中間製品を作っている化学工業としては、製品の価格が多少でも上がることは、自らが負担する以外には無い、と思う。すなわち、自らの首を絞めることになると感じる。

B君:それは、日本の化学業界の構造的な問題が大きい。それぞれの企業が脆弱なんだ。しかも、これまでもコスト削減という消耗戦ばかりやってきたから。

A君:同時に、最終組み立て産業も、フェアな取引とは何かを考える必要がある。

B君:ノキアという会社は、どうもそんな会社のようだ。

A君:生態系も同じですが、やはり共存共栄が最終目標だと思うのですよ。

C先生:というような話はここでやめて、予防原則については、以下のような論点を準備している。

「予防原則は、定義が色々有って、この言葉を使うのは、適当でない」
「予防的措置は、すでに様々な形で行なわれている」
「化学物質の管理の手法は、基本的にリスクを評価し、あるリスクのところで境界を設定するという方法以外にない」
「連続的なリスク、科学的に不確実なリスク、これをどのように賢く利用するか、これが鍵」
「EUの予防原則も、実は、リスクアセスが基本になっている」
「新規化学物質については、現状でも予防的な措置が行なわれている(対アレルギーなどは疑問)」
「既存化学物質については、なんらかの対応が必要だが、経験がある物質については、大局観を持つことが重要なのではないか」

A君:次のサブテーマ4も予防原則ですね。

C先生:その通り。費用負担が特別に取り上げられている。
サブテーマ4 予防原則:産業界の責任強化の是非と市民の役割について 25分

A君:すでに議論を済ませてしまったような。

B君:ここの時間が25分と比較的長い。これは、ここで結論を出そうという意図が明確に見えるプログラムだ。

A君:そうでしょうね。企業側が立証責任を持て、国も十分な対応と行政的な責任を取れ。

B君:費用負担は企業が行なうのが当然だ。

C先生:それはそれで当然という主張でもある。しかし、現状からの軟着陸が必要で、何年後にそのような体制にするのか、といったことが重要なのだろう。要するに、未来の姿を明らかにし、今後の対応を求めるといったことだ。まあ、環境問題すべてについて、必要なことなのだが、日本の政治の世界では、10年後の有るべき姿を議論するといった態度が全く無いし、したがって、行政にも欠けている態度だ。
 いずれにしても、論点として用意したのは、以下のようなものだ。

「産業界が一義的に責任を背負い、既存化学物質については、国が行政的責任を背負うという現体制が妥当なのでは」
「産業界が直接的な費用負担をするのは、それで商売をする以上、当然」
「しかし、産業界の責任強化といって費用負担をさせたところで、結局は市民が背負うことになる」
「国に責任を背負わせたところで、結局は市民がリスクを受ける」
「市民が理解すべきことは、完全なリスクゼロの社会を構築しようとすると、実現はされない上に、しかもコストが無限にかかる」
「しかも、化学物質以外のリスクが増大する可能性が高い:例:塩ビ、難燃剤など」
「さらに、日本のような技術立国の国とデンマークのような農業と消費者の国との違い」
「日本という国の製品製造と輸出による生存形態を考えると、リスクの撲滅ではなく、リスクとの賢い共存を目指す以外に無いのでは」
「経済と環境は両立可能。むしろ、両立するのが普通。ただし、自然破壊と資源・エネルギーの過剰消費は可能な限り最小限にすることが条件」
「資源エネルギーの過剰消費こそ、次世代へのリスクの付回しである」

A君:なにか最後は産業論ですね。

B君:ということは、この国の社会体制をどのようにしたいか、これが予防原則への態度を決めている。

A君:現体制とか言う言葉が飛び交うのでしょうか。

B君:そんなことはない。日本という場にたまたま存在している人々が、今後とも経済・環境の両面で良好な状態を享受できるように、ということが、重要な視点なのだから、社会体制は本来関係が無い。社会体制がなんであっても、目標は同じはず。

C先生:このテーマ、今回用意された4つのサブテーマでは、十分にカバーしきれていない。他にも、現実の世界での課題が余りにも多い。例えば、数万種の化学物質をどうやって評価するか。いちいちネズミやサルを殺して評価するだけが方法論なのか。それこそ、ネズミ権やサル権の侵害なのではないか。

A君:実験動物を使うことも、今後徐々に難しくなるでしょう。

B君:となると、やはり科学的な方法論を開発して、化学物質の評価を実験生物以外の方法論でなんとか行なうということが究極の目標になる。

A君:現在、DNAマイクロアレイとか、あるいは、計算機化学的な方法論によって、毒性を如何に評価するか、といった検討が行なわれていますが、まだまだ今後の研究開発が必要不可欠。

B君:化学物質の管理は、やはり、その化学物質のリスクをしっかりと把握することが根幹をなす。

A君:グリーンピース的なアセスメントを否定するような方法論は、人類の自滅を推奨するようなものだ。

B君:人類は、大脳によってその存在意義がある。賢いとはどういうことか、これが化学物質管理においても、もっとも問われることだろう。

C先生:いずれにしても、この話、一人で話をしても、多分2時間掛かるように思う。それを6人+コーディネータ2名でやるのだから、まあ、結果は中途半端なものになるに違いない。どうせなら、5時間ぐらい掛けてやれば良いのに。