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  二種の物質が使用禁止になった訳 04.17.2005



 化学物質という言葉自体、いささか不思議な言葉ではあるが、その定義として「化学工業などによって製造される可能性のある比較的純粋な物質」とでもすれば、その総数は10万種ともそれ以上とも言われる。中には毒性の強いものもあるから、その管理は非常に重要である。

 さて、最近、2種類の化学物質が「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 」(以下、「化審法」 )の第一種特定化学物質に指定された。 これはどのような意味があるのだろうか。なぜ指定を受けたのだろうか。

 このあたりの情報の普及が十分ではない、と思われるので、今回はテーマとして取り上げてみたい。



C先生:2005年4月1日付けで、2種類の物質が化審法の第一種特定化学物質に追加指定された。
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5830
 このページには、これら2種類の物質について説明したファイルなどがある。すなわち、
(1)ジコホルについて[PDFファイル 10KB]
(2)ヘキサクロロブタ-1,3-ジエンについて [PDF 9KB]
という2つのファイルにアクセスできるようになっているので、こちらも参照されたい。

A君:まず、質問(1)第一種特定化学物質のリスト、質問(2)化審法とは何か。なぜ化審法ができたのか、質問(3)今回の2物質がどうして第一種特定化学物質になったのか、といった順番で説明して下さい。協力しますが、余り詳しくは無いので。

B君:それが良さそう。質問(1)の第一種特定化学物質のリストも、上記ページから直接リンクされているし。

A君:一応、リストを再掲しましょうか。公文書ですから、著作権上も問題無いでしょう。

最新の第一種特定化学物質リスト

B君:14番と15番が今回新規に加えられた物質だ。それでは、質問(2)化審法とは何か。まず、第一種特定化学物質に指定された物質は、「事実上」製造・使用等が禁止される。

A君:全部で15種類しか無いのですね。ところで、「事実上」というところの意味を知るためには、法律の本文を見ることになりますか?

C先生:そのところは、審議会で配布された文書を見るのが良さそうだ。結構お役所流日本語なので、読みにくい部分があるのは事実だが。文書の中に注釈を入れつつ、読んでみよう。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
U.ジコホル及びヘキサクロロブタ−1,3−ジエン(以下、「ジコホル等」という。)の第一種特定化学物質指定に伴う今後の具体的措置について

1.ジコホル等の製造の規制について
第一種特定化学物質の製造については、許可制(化審法第6条)とされているが、ジコホル等については、我が国においては、現在製造されておらず、今後も製造されることはないものと思われる。このため、現時点では製造の許可が必要とされる事態は見込まれないものと考えられる。
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C先生:現在、なんらかの用途があって、国内で製造されているときには、許可制になると読める。ここには、許可される条件などが記載されていないが、次に述べる「輸入することができない製品」のところにそれらしい記述がある。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2.ジコホル等の輸入の規制について
第一種特定化学物質の輸入については、許可制(化審法第11条)とされているが、ジコホル等については、我が国においては、現在輸入されておらず、今後とも輸入されることはないものと思われる。このため、現時点では輸入の許可が必要とされる事態は見込まれないものと考えられる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

C先生:物質そのものとして輸入されている場合に関しては、製造と同様で、許可制になる。しかし、今回指定された2種の物質については、その物質そのものが輸入されることも無いようなので、今後も、許可は出ないだろうとのこと。

A君:やはり法律というものは、現状との連続性を重視するという立場なのですね。

C先生:次が、今回の2物質が製品の中に含まれている場合だ。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3.ジコホル等が使用されている場合に輸入することができない製品の指定について
(1)製品指定の考え方
第一種特定化学物質の指定に伴って、当該第一種特定化学物質が使用されている製品で国内に輸入されるおそれのあるものについては、海外における使用の事情等を考慮して、当該製品を政令指定し、輸入を禁止することになる (化審法第13条)。
 これは、
@国内におけるそれまでの第一種特定化学物質の使用状況及び第一種特定化学物質が使用されている製品の輸入状況
A海外における第一種特定化学物質の使用状況
等からみて、我が国に輸入されている (又はその可能性のある) 製品中の第一種特定化学物質が、当該製品の使用等を通じて環境中に放出され、汚染を生ずる可能性があると認められる場合において、当該製品を政令指定し、第一種特定化学物質を含有する製品の輸入を禁止するものである。
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C先生:なかなか難しい文章だが、製品の中にこれらの物質が含まれていて、その製品が輸入されるとしたら、その製品の使用中にその物質が漏れるとか、使用後に不適切に廃棄されるなどといったことが起きて、環境中にその物質が放出されることがありそうだと判断できる場合には、その製品の輸入を禁止することになる。
 それでは、どんな基準で、それらの製品を選択するのか、といえば以下のようなものだ。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
現行政令における具体的な製品の選択基準は、従来から以下の基準に拠っている。
【政令指定の基準】
第一種特定化学物質が使用されていると考えられる製品のうち、次の@及びAの基準に該当するものについては、政令指定し、輸入の制限をすることが適当であると考えられる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

C先生:2種類の基準があることが分かる。以下に説明する@及びAの基準を同時に満足した場合に製品の輸入が制限される。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
@次の要件のいずれかを満たし、国内に輸入されるおそれがあること。
(ア)第一種特定化学物質が使用されている製品を過去10年内に輸入していたことが実績又は公電、公文書、海外規格若しくはこれらに準ずる性格を有する情報 (以下、「実績等」 という。) により認められるとき。
(イ)第一種特定化学物質が使用されている製品が過去10年内に海外において生産されていたことが実績等により認められるとき。
(ウ)第一種特定化学物質が当該製品に使用されていることが一般的であって、過去10年内に日本国内で第一種特定化学物質が使用された当該製品の生産の実績があるとき。
(エ)ただし、(ア)、(イ)、(ウ)の要件に合致するものであっても、下記の要件のいずれかに該当する場合は、掲名の対象から除外するものとする。
(a)関連製品等との競合による制約により、今後、輸入されるおそれのないもの。
(b)その後の技術的進歩等により、今後、海外において生産される可能性のないもの。
(c)国内規格、商慣行等の理由で、今後、日本に輸入されるおそれのないもの。
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C先生:実際に輸入された実績がある場合。輸入されたことは無いのだが、海外で製品が製造された実績がある場合。国内においてもその物質を用いて製品が製造された実績がある場合。
 要するに、実績として、過去にその製品が日本に輸入された可能性が高い場合には、輸入を禁止しようということだ。

A君:(エ)に書いてあることは、過去、確かに輸入された実績はあるが、状況の変化によって、今後輸入される可能性が無いと考えられるものは除外しようということですね。

B君:極めて実質的だ。可能性があれば禁止するし、可能性がなければ禁止しない。

C先生:禁止事項はできるだけ少ない方が良いのだ。しかし、この条件の他に、次の条件も満たさなければならない。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A次の要件のいずれかを満たさないため、輸入を制限しない場合には、環境汚染のおそれがあると考えられること。
(ア)当該製品の使用が、環境へ直接放出されない形態であること。
(イ)使用から廃棄に至る間の管理体制が確立されていること。
(ウ)廃棄が適切に行いうるよう制度的に担保されていること。
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C先生:要するに管理がしっかりしていて、環境汚染を引き起こす可能性がなければ、除外しようということだ。まさに、禁止をするのは、できるだけすくなくというのが基本姿勢。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(2)輸入規制製品の指定の必要性
ジコホル等含有製品については、海外調査結果から、過去10年間、我が国に対する輸出はない状況と思われることから、上記基準に照らし、現時点においては、輸入を制限すべき製品はなく、製品の政令指定の必要性はないものと判断される。
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C先生:そして、海外調査を行って、過去10年間輸入はなかったとしており、今後とも、これだというような輸入品は無いだろう、という判断になっている。

−−−−配布資料から引用−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
4.ジコホル等を用いることが可能な用途の指定について
 第一種特定化学物質の使用については、他の物質による代替が困難であり、かつ、環境汚染が生じるおそれがない用途として政令で定めた場合、当概用途の使用は認められ、当該用途以外に使用することが禁止される (化審法第14条)。
 ジコホル等については、現在は製造及び輸入の実績はなく、我が国においては使用されていない状況であることから、現時点においては例外的に使用を認めるべき用途はないものと考えられるため、化審法第14条に基づく用途の指定を行う必要はないと判断される。
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C先生:例え第一種特定化学物質になったとしても、どうしてもこれだけはこの物質でなければ、という用途があった場合には、政令で定めることによって、継続使用も認められる。しかし、ジコホルなどについては、現在使われても居ないのだから、絶対にこの物質でなければならないといった用途がある訳も無い、というのが、この文章。

A君:今回のように、すでに存在していた物質のケースについては良く分かりますが、そればかりではない。新しい物質についてはどうするのですか。

C先生:化審法とは何かということの重要な要素である、「既存化学物質」という概念がある。化審法ができたとき以降に開発された物質は、「新規化学物質」と呼ぶのだが、この新しい物質は、当然のことながら、ある条件を満足して、安全性が確保されなければならない。そこで、年間10トン以上生産しようとする「新規化学物質」については、安全性の試験を行う必要がある。もっと具体的に言えば、
(1)分解性:自然界でどのぐらい分解されるか
(2)蓄積性:動物の体内で蓄積されるか
(3)ヒトや動物などへの毒性の有無

を試験する必要がある。
 そして、次ような基準で、第一種特定化学物質、第二種監視化学物質、第三種監視化学物質という分類がされる。

第一種特定化学物質とは、
(1)分解性:難分解性である
(2)蓄積性:高蓄積性である
(3)ヒトへの長期毒性、または、高次捕食動物への毒性あり。

第二種監視化学物質とは、
(1)分解性:難分解性である
(2)蓄積性:高蓄積性ではない
(3)ヒトへの長期毒性の疑いあり

第三種監視化学物質とは、
(1)分解性:難分解性である
(2)蓄積性:高蓄積性ではない
(3)動植物への毒性あり

 そして、第二種、第三種監視化学物質に分類された物質については、必要な場合に有害性を調査し、もしもヒトや動植物への被害のおそれが認められる環境残留性があるのならば、第二種特定化学物質という分類になる。

 もしも第二種特定化学物質になると、製造や輸入の実績数量などの届出が必要であり、製造・輸入数量の変更命令が国から来る場合もある。また、技術上の指針が公表されたり、勧告を受けることもある。

A君:説明が一度では分からない。

B君:普通そうだ。しかも、平成16年4月1日に改正が行われているので、古い化審法の解説がWebなどに、まだ残っている状態だ。
http://www.safe.nite.go.jp/kasinn/kaisei/kaiseikasinhou02.html
に図があるから多少分かりやすいかもしれない。
 もしも英語の方が分かりやすいということなら、
http://www.safe.nite.go.jp/kasinn/pdf/kaiseieng.pdf
が良いだろう。

A君:すでに存在していた物質の場合は?

C先生:既存化学物質の場合には、安全性点検をすることになっているのだが、なかなか進まない。ただ、かなり長期間にわたって使用している物質だけに、危険性の高そうなものは、今回の2種類のように、試験が行われて、まず第一種監視化学物質に分類され、さらに試験が行われて第一種特定化学物質の条件を満たすと、そのように分類されることになっている。

A君:難分解性、高蓄積性がとにかく条件だということですね。

C先生:その通り。

A君:本当に、難分解性でなく、高蓄積性がなければ安全だと言えるのだろうか。

B君:いや、それはそうではない。質問の(2)の後半に関わることだが、実は、化審法ができたのが、PCB事件がきっかけになっているのだ。PCBは、それ自身猛烈な急性毒性を持つという物質ではないので、化審法というものがPCB類似の物質を対象に取り扱っているのであって、それ以外にも、毒物は多い。例えば青酸化合物、ヒ素化合物などなどだ。これらの毒物は急性毒性が問題になるもので、化審法というもので管理されている訳ではなくて、「毒物および劇物取締法」(毒劇法)という法律で、政令で指定された毒性物質は、登録されたものでなければ、製造、輸入、貯蔵、運搬、販売などを行うことができない。加えて、「労働安全衛生法」でも管理されている。

A君:なるほど。それでは、質問の(3)、今回指定された2種類の物質は、どんな情報が分かっていたのですか。

B君:それは、すでに示した
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5830
から、2種の物質に関するファイルを見て欲しい。実は、被害が出ているというようなものではない。ジコホルについては、環境中から検出されているが、六塩化ブタジエンについては、環境中で検出はされていない。

A君:なるほど。かなり予防的な対応のようですね。

B君:予防原則がすべてではないが、確かに予防的な対応ができるようになっている。もっとも、化学式を見ると、どうも怪しいのではないか、という構造をしているが。

A君:化学物質の管理原則がすべて予防原則的になる必要はないし、むしろ、予防原則という言葉がある特定のイメージを持ちすぎたという部分もあるだろうから、何か新しい原則のようなものが必要なのでは。

B君:法律的には、規制はできるだけ少ない方が良いという根本原則に則れば、予防原則だけで乗り切れるというものでもなさそうだ。

C先生:だからといって有害物質の管理をしっかりやることは極めて重要。しかし、強制的な管理手法だけでは限界があって、自主的な仕組みである、PRTR制度もできている。これで、有害化学物質の使用量は確実に減るようだ。

A君:環境ホルモン騒ぎのようなものがあると、SPEED’98というリストに名前が載っただけで使用を止めて、別の分からないものに代替するという企業が多いですが、それは却って危険なのでは。

B君:専門家は皆そう思っている。不人気化学物質が現れると、その代替品を速やかにチェックする必要がある。最近の例では、確かに環境ホルモン関係の物質がそうだった。

C先生:化学企業には妙なところがあって、不人気物質が出現すると新たなビジネスチャンスだと思う企業も多いのだ。

A君:化学産業というものは、代替の歴史ですからね。容器の歴史を見ても、ガラスから塩ビボトルへ、そしてペットボトル。

B君:やはり何らかの別の原則を導入するしか無いのではないだろうか。

C先生:地球温暖化の世界では、しばしばNon Regret原則ということが言われる。後悔しない対応というやつだ。温暖化が重要だからといって、すぐさまエネルギー消費量が増えてしまう「二酸化炭素の海洋隔離」を実施するのではなく、まずは、省エネ。省エネは、いかなる情勢になっても、正しい対処法だからだ。温暖化よりもエネルギー枯渇が問題になる可能性だって無い訳ではないので、エネルギー大量使用を伴う対策は、慎重に。

A君:EUのRoHS規制にしても、本当のことをいうと、元素を規制すべきではなかった。特に、鉛の規制が悪かった。

B君:Hg(水銀),Cd(カドミウム)なら良いというのか。

A君:現状だとHg,Cdは余り有効な用途が無いので、まずまずでは。

B君:それはそうだが、やや遠い将来を考えればHgが超伝導材料に使われる可能性だって否定はできない。Cdが透明導電材料に使われる可能性もある。それらが、太陽エネルギーを有効活用できる基本的な素材になって、地球環境問題の解決に大きな貢献をするかもしれない

C先生:まあそうなのだが、Hg,Cdについて向こう10年間ぐらいは新規応用の可能性は無いだろう。しかし、遠い将来の可能性を考えると、やはり元素を使用禁止にするというのは、人間の知識の過剰評価、あるいは、自己過大評価と言えるのではないだろうか。もっとも、不合理なRoHS規制が10年続くとも思えない。変わるべきものは、順当な方向に変わるだろう。