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    精華大学(北京)の研究能力   07.12.2020
       リモートでの情報交換の感想

   



 先週、約3時間にわたって、精華大学の研究者の発表をリモートで聴く機会がありました。その課題と研究費は、もともと日本の企業(自動車メーカーです。推測して下さい)との合意によって決まったもので(研究費の額は知りません)、それを学術的研究として、精華大学の研究者が取り組み、そして、結果を発表するというイベントでした。
 私の担当は、環境科学と材料研究の2つの分野でした。実は、同様なことを過去相当長い間行ってきているのですが、今回は、非常に大きな衝撃を受けました。その理由は、過去の発表会では、中国側からの発表内容になんらかの欠陥があることが、極めて普通だったのですが、今年は、それがほとんど無かったことです。
要するに、完成度がかなり高い研究が行われたこと、それに加えて発表の技術などもが、非常に向上したことを意味します。


C先生:
本来は北京で行われるこの発表会なのだけれど、今年は、コロナのお蔭で、リモートでの対応になった。しかし、リモートはそれなりに難しいところがある。今回も、トラブルが発生。常用のポータブルパソコンに中国製のリモートソフト(VoV)を仕込む必要があったのだけれど、パソコンのセキュリティーソフトが、それを受け入れてくれなかった。何か、怪しい部分があるソフトなのだろうと思って、このリモートソフトを自宅で使うのは諦めて、日本側の企業の東京事務所で、リモート会議用のパソコンをセットをしてもらい、そこから、北京と接続した。パソコンかと思たら、実は、iPadだった。なぜか問題なくインストールできたとのことだった。まあ、ウィルスを作る人々にとって、iPadを乗っ取ったところで、何が達成感があるような状況が起きる訳でもないし、iPadが使えなくなったとしても、使用者側にとってもそれほど大きな問題であるケースは希だろうから、わざわざiPad用のウィルス入りソフトが作られることは、歴史的に見ても、非常に希だったのは事実。

A君:今回の発表の内容は、勿論、細かいことは開示不可能だと思うのですが、これが、どのような記事になる予定なのですか。

C先生:それが問題ではある。今回の意図としては、
日本と中国の研究のレベルの進化のスピードが相当違うのではないか、といった情報がどこかに無いかを探し出して、その情報によって、今回受けたある種の違和感というか、感覚がどのぐらい説明できるかが記述できれば、最善だと考えている。しかし、多分かなり難しくて、実現できない可能性が高いので、本日の記事がどうなるか、それは作業を始めないと分からない。

A君:まずは、
大学のランキングぐらいから始めますか。

B君:了解、いわゆうる論文の引用回数の評価であるインパクトファクターの意味と国際性ぐらいか。

A君:直接的にはそんなものなのでしょうが、大学における研究者のポジションとか、新規課題の提案方法とか、
色々な要素があるように思います。それに加えて、中国ならではの状況の違いのような要素もあるように思います。

B君:それでは、まずは、世界大学ランキング2020。引用先は、ここで、更新日は、2019年9月12日
https://japanuniversityrankings.jp/topics/00130/

A君:このラインキングは、
THE=Times Higher Educationというもので、92ヶ国1300校がラインキングの対象になっている。

B君:
日本のランクイン数は、110校でまあまあの数と言えるとは思う。しかし、問題は、トップ100入りしている大学の数で、日本からは、東京大学と京都大学の2校しかない

A君:
東大は36位、京大は65位。ちなみに、トップ10は前年と変わらずということですが、
1.オックスフォード大学 英国
2.カリフォルニア工科大学 米国
3.ケンブリッジ大学 英国
4.スタンフォード大学 米国
5.マサチューセッツ工科大学 米国
6.プリンストン大学 米国
7.ハーバード大学 米国
8.イェール大学 米国
9.シカゴ大学 米国

10.インペリアル・カレッジ・ロンドン 英国


B君:
トップ10は相変わらず英米独占状態。ただ、1300校までに入った日本の大学は110校。これは、アメリカに続く世界2位。

A君:しかし、ここ数年、上位は英米に独占されている状況で、
日本の第3位以下をご紹介すると、東北大学(251〜300位)、東京工業大学(251〜300位)、大阪大学(301〜350位)、名古屋大学(301〜350位)、北海道大学(401〜500位)、九州大学(401〜500位)。

B君:私学での最上位は、
初ランクインした産業医科大学の351〜400位。藤田医科大学と帝京大学が401〜500位慶応義塾大学と早稲田大学は601〜800位と、日本での名声に比べるとかなり低い

A君:新規にランクインした大学は、久留米大学(601〜800位)、京都府立医科大学(801〜1000位)、聖マリアンナ医科大学(801〜1000位)、三重大学(1001+)、大阪医科大学(1001+)、滋賀医科大学(1001+)で、
いずれも医学部がある大学とのこと。

B君:このサイトをじっくり見ると面白いね。ただし、それを見るときに、このランキングがどのような評価基準によってなされているか、を理解してから判断を行う必要があるのも事実。

A君:スコアを算出する方法ですが、
考慮されるのは、13種の指標で、分類すれば、教育、研究、国際性、被引用論文、産業界からの収入となる。

B君:
それぞれの評価に与える寄与率は以下の通り。
◇教育(教育環境) 30%
  評判(15%)、教員比率、博士課程比率、大学収入
◇研究(量、収入、評判) 30%
  評判(18%)、収入、学術生産性
◇被引用論文 30%
◇国際性(教員、学生、研究) 7.5%
◇産業界からの収入 2.5%


A君:極めて簡単に纏めれば、
教育と研究能力に関する評判が高く、博士課程の学生が多く、大学の収入も多い大学が上位に来て、そのためには、被引用論文を多く書ける教授が多く、国際性も充分にあって、今回の例のように海外にスポンサーがいる大学は強い。こんな感じでしょう。

B君:日本の大学に海外からの研究スポンサーからの資金が大量に流れ混んでいる大学はあるのだろうか。

A君:文科省の報告書などを探しても、そのような大学のリストの例は見つからないですね。そもそも、日本企業は、日本の大学に余り寄付をしたがらない。大学側の状況から言えば、産業界の役に立つような科学的情報を出せる分野が非常に限られている。
最先進の分野だけが恐らく対応可能であって、例えば、AI関係ような研究を行っている研究室であれば、大学院生にも企業から相当の奨学金が払われるといった実例が多いようです。そして、大学院生の就職先もそこに決まるケースも。

B君:大学の先生から話を聴くと、どうも、
文科省関係の研究資金が、古色蒼然状態であって、新しい分野に重点化されることは希というか、まず無いということのようです。

A君:ちょっと解説しますと、日本の大学へ研究資金を供給する政府系の期間としては、いわゆる
科研費を担当している日本学術振興会というものがある。これは、かなり固定的な組織だと言うことができて、従来からのボス研究者が支配しているような臭いがしますが。

B君:科研費の分類だけれど、「系・分野・分科・細目表」というものがあった。それを見て貰うと、極めて古いジャンル分けだったのだけれど、
平成30年度科研費(平成29年9月公募)からこれが廃止された。

A君:新しく決められた「審査区分表」はここにあります。
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/03_keikaku/data/h30/h30_beppyo2-1.pdf

B君:ざっと見ると、あらゆる学問分野が記述されている分類表のような感じ。これだと、
自分の専門分野は、何年経っても、科研費が貰えると思ってしまう

A君:欧米の社会との大きな違いはそれでしょうね。文科省とその周辺の大物学者先生の考え方は、学問分野というものは、極めて重要だから、未来永劫維持される仕組みでなければ、受け入れられない。

B君:しかし、現実は、
学問分野というものでは、常に、新しい領域ができてしまうという特性がある。ということは、新しい領域をすべて拡張するということは有りえないけれど、将来有望な分野へは確実に予算が配分されなければならないけれど、それを実現するためには、科研費もその新しい分野をどんどんと対応するのか、となると、そこには様々な考え方がでてきてしまう。

A君:しばしばこの話題は議論になるのですが、大学からの社会的成果を大きくするには、実は、
最良の方法は、かなり多額の研究費を毎年供給して、それを教授は自由に使うという方法。実は、例外はあるけれど、ノーベル賞を受賞された日本の超ベテラン教授は、そのような恩恵を享受した時代の方々だったのかもしれない。例外もあるとは思いますが。

B君:研究費を出す公的な組織としては、もう一つ、JSTがある。正式名称は、国立研究開発法人 科学技術振興機構。

A君:C先生は、CRESTの枠組みで、一つのプロジェクトリーダーでしたよね。

C先生:古い話だ。地球環境問題、特に、CO
削減が問題になりはじめたときに、どのような科学を推進すれば、技術的に、あるいは、コストを含めて有効な技術が開発されるか、といういささか長期戦略的な意図で研究チームを構成した。審査に加わって下さった先生方は、CO削減技術に関する先駆者だったので、実は、非常に良い勉強になった。その経験を参加した研究者とも共有できたことは良かったと思うけれど、具体的な製品レベルで非常に良いと言えるものは生み出せなかった。言い訳になるが、余りにも、先駆的な取り組みだったようにも思う。

A君:やはり技術開発が、そこまで行くには、それなりの出費が不可欠ということですね。JSTでも、NEDOでも、なかなかそこまでの支援はできない。

B君:そうだね。
この方法を成果がでるまでじっと我慢して維持することができるほど、国税からの収入が現状の文科省にはない。研究に高価な装置が必要となったことも一因ではあるのだけれど。現状だと、大学よりも、理化学研究所の方が予算的に圧倒的に恵まれている。研究したいなら、国立研究所に行くべきかな。あるいは、国立研究所を大学化するか。

A君:いずれにしても、かなり革命的なシステムを導入しないと、日本の大学のランキングは今後も大したことがない状況が続くことが確実。

C先生:そろそろ中国の状況に戻るか。研究費の配分の話になったけれど、
精華大学で何という名前の予算なのか知らないけれど、黙っていても各研究室に支給される研究費(日本の国立大学だと校費に相当)が、教授1名について、1000万円/年ぐらい、あるいはそれ以上の感じだ。この資金を基礎に、全く新しい研究能力・分析能力・チャレンジ精神が伸びる。それに加えて、様々な研究費の申請が行えるという感触だ。

B君:やはり、
日本の大学は、歴史的に見ても、ここ何年かが、もっとも貧しいのかもしれませんね。国全体の予算がこんな状況ですからね。コロナでますます状況は悪化したし。

A君:中国は、そのコロナもなぜかスルリと潜り抜けてしまった。もともと、様々な疫病の出発地ですし、世界でもっとも各種の疫病に慣れている国民だからかもしれませんが。

B君:話が若干戻るけれど、
精華大学が担当した交通関係の研究について、中国の交通の状況は、昔はすごい状況だったのは知っていますが、現状はどうなんですか

C先生:かなりまともになったと思う。しかし、「北京で運転できるか」、と問われても答えは、「とても理解ができない部分があるので、やらないが」。通行には優先順位はあるようなのだけれど、
その評価基準がどうしても理解できない。特に、交差点での左折(日本なら右折)の優先度がどうにもよく分からない。「スキあらば行く」というのが原則のような気がしている。優先順位に関する合意形成があるのかどうか、良く分からない。

A君:まあ、C先生はヨーロッパを色々と運転していますが、中国は、ヨーロッパよりも分かりにくいということですか。

C先生:その通り。ヨーロッパも北からチェコぐらいまでの国々では、規則通りに運転すれば特に問題はない。
困ったのは、路面電車のあるところの軌道内の通行の可否が良く分からなかったぐらい。例えば、クロアチアの首都のザグレブ。しかし、ブルガリアのソフィアだと、中央分離帯が独立していて、路面電車はそこを走っているという状態だったような気がする。運転については、イタリアになるとちょっと例外的な印象があって、どちらが先に行くか、その「優先度」をアイ・コンタクトで合意しあうような感じがある。

B君:無事故でしたか。

C先生:海外はアメリカでは完全無事故。幸いにして、
ヨーロッパで起こした事故は、事故とは言えないような事故が、ただの一回。スペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラで、向こうから来た大型観光バスを避けたとき、歩道に近づきすぎて、タイヤのサイドウォールに穴を空けて、レッカーで運んでもらったという自損事故ぐらい。なんと同じタイヤが無いということだったのだけれど、別の車をすぐ手配してくれて、全く困らなかった。最近の欧州車のタイヤは、サイドウォールが非常に薄いので、ご注意を。いずれにしても、現状の中国では、運転できるとは思えない。

A君:話を戻して、
担当した材料と環境関係の精華大学の研究はどうでした。やはり高評価ですか

C先生:環境系については、やはり、中国最大の問題が大気汚染。自然現象である黄砂のような話は出てこないけれど。
大気汚染の原因としては、過去は明らかに石炭発電が最大の汚染の原因だった。今年は北京に行けなかったけれど、昨年春の印象でも、以前には感じた空気の臭いは、具体的には、石炭の燃えた煙の臭いは、ほぼゼロになった。排気ガスの処理技術を厳しくしたのか、あるいは、石炭発電を止めてしまったのか、そのところは良く分からないのだけれど。コロナ以前の話だが、北京ではマスクを付けたくなったぐらいだった歴史は終わったようだ。

B君:今年も大気汚染系の発表もあったのですか。もう解決済みの問題かと思っていたのですが。

C先生:確かにあった。しかし、それについて、ちょっとコメントをしてしまった。日本でも、ディーゼル車の噴煙の話は重大だった時代があるが、石原都知事のとき、どうやら1999年のことだったようだけれど、ペットボトルにディーゼルの黒鉛粒子を入れて、シャカシャカと振って見せた。その後、
2003年から、東京都のディーゼル車規制が実施されて、都内の大気環境は格段に改善された。恐らく、北京の大気環境も、住民にとってもっとも感知しやすい汚染なので、対策はかなり早期に実現し、問題解決を迎えると考えるのが現実的。昨年の春の状況でも、相当改善されていたので、そろそろ、個人的には合格のレベルへの到達は近いと思った。
 言いたいことは、実は、別の話で、
環境研究の特性として、問題が解決すると、研究費が出なくなるというものがある。大気の問題は、解決が近いものと思わないと、研究費が消滅してからでは遅い。次の研究として、今の中国の現状だと、CO削減が最大の問題である。特に、中国のINDC(≒削減の約束)は、依然として、途上国扱いをされたものだった。2030年以降の規制については、非常に厳しいCO削減が国際社会から求められると思われるので、そろそろ、テーマにCOを含める準備をしておくべきではないか。 こんなコメントをしてしまった。

A君:日本の石炭発電からの離脱にしたところで、やっと今頃になって政府が全面対応を決める。そんなものなのですよね。中国は、活力の高い部分だけみれば、すでに、途上国ではないのですが、果たして、それを中国政府は認めるのかどうか。

B君:環境問題というものに対しては、
政府が「環境正義」という感覚を持っているということが最大の要素なのだけれど、中国は、まだ無理かもね。

A君:今回の
香港のケースをみても、「人権正義」といった感覚があるとも感じられませんからね。

C先生:そろそろ、終わりにしよう。最後は「正義」の話になってしまったけれど、
パリ協定の「気候正義」という言葉を本当に理解できるのは、キリスト教文明圏のみだと、2015年ぐらいから言い続けている。中国の宗教というものがなにか、と問われても、一言で答える解を持っていないけれど、少なくとも、「気候正義」がすぐに理解できる国民性ではないことはほぼ確実。この巨大国が、地球環境をもう少々考えてくれる国になって欲しい、という感覚で、精華大学の研究者とのやり取りをしていたのが、現時点での感想だ。