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  原発の選択肢と国民的議論
   06.24.2012




 6月20日の新聞報道によれば、これまで、資源エネルギー庁の基本問題委員会中央環境審議会地球環境部会、そして、原子力委員会と別々に行われてきた、今後のエネルギー供給に関する選択肢の議論がほぼ終わって、エネルギー・環境会議に提出され、そして、エネルギー・環境会議が国民に選択肢を示し、新しい方法による国民的議論を経て、国民的な決定を行うとのこと。この話は、ある程度、当事者ではあったのだが、本Webサイトではあまり説明をしていなかったので、今回、これを取り上げたい。

 実際に行われたことは、基本問題委員会による議論が最悪の状況だったと思うが、原発推進派と原発反対派の自己主張による対立だけが目立ち、本来、国民による判断基準として何を提案すべきか、という議論になかなかならなかった。特に、あらゆる視点からのリスクや経済的影響・雇用への影響のように、定量的に議論すべきことも、最初は、0か100かの議論しかできなかった。

 国民的議論という言葉はすばらしい。しかし、そもそも国民的議論をどのようにやるのか。まず、意向を聞き、その後、若干の議論をして、その後意向が変化したか聞く。このプロセスを決定に生かしたいということのようであるが、それにどのような意味を見いだし、そして、それを今後の政策にどのように生かすのだろう。



C先生:当事者とは言っても、環境省中央環境審議会の一委員にすぎないが、その下の地球環境部会、さらにその下の組織である2013年以降の施策対策小委員会、さらにその下のワーキンググループ、マクロフレームWGと技術WGの主査、副主査という形で、環境省関係では、一応、四階層あった上から下まですべてに参画した。
 政府全体としての決定権は、基本的に、閣僚が構成しているエネルギー・環境会議にあるが、そこが国民に対して選択肢を提示し、それを国民的議論を経て、最終的にどの選択肢がよいかを決めることになる。

A君:それには、まず、国民に提示する選択肢を決める必要があるのですが、経済産業省資源エネルギー庁の審議会である基本問題委員会が、まずは、原発の割合について選択肢を示すのが最初のステップ。それに対して、原子力委員会が、使用済み核燃料の再処理に関する選択肢をしめす。そして、中央環境審議会が、化石燃料の使用量の増大、経済的な影響による日本の産業構造の変化などを勘案した経済モデルによって、温室効果ガス特に二酸化炭素の排出量を推定するとともに、もしも、なんらかの施策や対策を行うことによって、どのぐらい削減量を追加することができるか、といった議論を行うという役割分担でしたね。

B君:本来、そのような順番で行われるべきものだった。しかし、時間不足で、これが並行して行われたために、選択肢の表現などが統一性を欠いた。しかも、委員会に参画している委員が自分の役割を誤解していて、国民に提示すべき選択肢を決めることが本当の役割であるにもかかわらず、特に、基本問題委員会で顕著だったが、自分が所属している組織にとって、どのような選択肢が有利かという議論を繰り返し、反原発派と原発推進派と、キレイに二つに分かれた議論になって、最初のうちは、中間的な選択肢も書けないという事態になったこともある。

A君:議長が、何がこの委員会のノルマであるのか、毎回それを宣言しないと、往々にしてそうなる。基本問題委員会は完全に公開で、しかもテレビカメラが入り、ネットで実況中継が行われた。このような状況になると、当然ながら、自らの所属する組織などの意見を代表せざるを得ないということになる。

B君:C先生がしばしば言う、「背後霊」が声を出させている状況、すなわち、委員本人は、その場における自らの役割と自らの良心を忘れて、後ろから操縦されて何かをしゃべる状況にハマる。

A君:最終的に、基本問題委員会からは3つの選択肢。それに、原子力委員会の使用済み核燃料の処理のシナリオは1:1対応したものだった。地球環境審議会は、温暖化対策として、上位、中位、下位という3つの選択肢を考慮したものの、結局、下位はあり得ないという判断をして、上位・下位の2つの選択肢になった。
 そして、実質上2×3=6つの選択肢ができることになるのだが、地球環境審議会の作った選択肢は、いささか違ったものになっている。
 いずれにしても、最大6つの選択肢から一つを選ぶということになるのではないでしょうか。

B君:再度整理すると、
a.原子力への依存度の選択肢  3つ
b.使用済み核燃料の処理の選択肢 3つ
c.温暖化対策の選択肢 上位、中位、下位の3つ

だったが、
実は、bの選択肢については、1:1対応としたので、独立の選択肢ではなくなった。
cの選択肢も下位という選択肢は検討したが採用されなかった。
 結果として、
a&b.原子力の依存度と使用済み核燃料の処理に関する選択肢   3つ
c.温暖化対策の選択肢 2つ

 普通に考えれば、2×3=6つの選択肢になるはずなのだが、原発への依存度を低くすると、温暖化対策を強化しなければ、全く問題外になるので、すべての組み合わせが可能ではないことになって、現実的な組み合わせは減る。

C先生:そんな整理で行こう。
 まずはa.原子力への依存度から。その前に、政府全体としての方針として、福島事故を踏まえて、原発への依存度は下げるということは大前提であることが表明されている。基本問題委員会では、これに反対する意見も採用される方向に決まりかかったが、さすがに、今では参考意見ということになっている。
 具体的には、2030年に原発をこれまでの26%ぐらいから何%にするか、というのが最初の選択肢であったはず。これがなかなか決まらなくて、平行して議論をするという無駄な作業をせざるを得なかった。
 なぜ決まらなかったのか、というと、委員会の進め方に問題があったと思うのだが、ややもすると、国民の特性として、「よくわからからないから選択肢の真ん中でも選択するか」、という人が多いと想定し、そのときには、これまでよりも原発が多い選択肢を入れることが有利だと考えた人々が居たからであり、また、反原発派は、当然、ゼロ以外の答えを言ったら、背後霊に後ろから首を締められる、という意識で発言をしたからだ。

A君:もともとこの国は0か100か、という国なので、中間的な答えを言うのはコウモリだけで、正義の人の選択ではない、という価値観が若干残っていますね。

B君:潔さ、漢字で書くより、いさぎよさとひらがなの方がよいかもしれないが、自らの信念からの判断と自分の社会的な立場での判断の二種類を考え、正義とは何かと言った哲学的な自らの信念を活かし、社会的立場による判断を切り捨てるというのがもっともいさぎよい行為なのだと思っているが。

A君:個人的にはそうかもしれないですが、背後霊が何をするか分からないと思うと、そうもできない。

C先生:という訳で、混乱が続いたのだが、最終的には、基本問題委員会でも、さすがに中庸な選択肢も加えるべきだという主張も出て、というか、そもそも国民に提示する選択肢なのだからということで、結果的に、選択肢は3つになった。

A君:その選択肢の図を基本問題委員会の6月19日付けの資料から引用します。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/27th/27-1-2.pdf



図 基本問題委員会が提示した選択肢

B君:この図のイメージだが若干理解はできるけど、選択肢(2)の2030年から水平になるというものは不要だったのではないか。なぜなら、選択肢(3)がそれなのだから。

A君:選択肢(2)の本来の意味は、40年で廃炉にすることを原則だった。2030年以降も直線的に減る、という一番下のものになる。これが本来の選択肢の意味であったはず。

C先生:見れば見るほど、分かりにくい図になっている。そもそも選択肢(1)にしたって、2本の点線が何を意味するのか。もっとも左の点線は2020年にゼロという意味のようだが、選択肢(1)のもっとも右にある点線を選択することと、選択肢(2)の直線的に減少する点線を選択することの差が分かりにくい。

A君:この図の後に、選択肢(1)〜(3)の説明文があるので、それを示しますが、これがまた分かりにくい。

B君:選択肢(3)だけは、1本しかないので、極めて分かりやすいけど。


説明文 選択肢(1)


説明文 選択肢(2)


説明文 選択肢(3)


A君:選択肢(3)と選択肢(1)だけにして、(1)を(1−1)2020年にゼロ、(1−2)2030年にゼロ、(1−3)2040年にゼロ、しかも曲線は無しで直線のみといった形にするのが良かったのでは。

B君:報告書のp56を見ると、2030年以降の表現がカットされているものが出てくる。(1)2020年0%、(1’)2030年0%、(2)2030年15%、(3)2030年20%、(3)2030年25%と5種類になっている。



図 選択肢の別の表現

C先生:この報告書そのものが、妥協の産物だということが、このあたりでも読める。
 実は、そろそろ次に行くのだろうが、地球環境審議会と2013年以降の対策施策委員会では、この5種類について、最初から議論をしていて、どうも、資源エネルギー庁と環境省の事務局の間では、なんらかの作戦が共有されていたのではないか、という印象なのだ。

A君:それでは、それは地球環境審議会の説明の際にということにして、もともとの選択肢(1)について、どのぐらいの費用が必要になるかという図(p70)を次に示します。


図 実現のために必要になる費用

B君:この図をもっとも良く考えて貰いたいところ。なんだかんだと言って、コストは二の次、安全性のためには度外視すべきだ、という意見に振り回されがちなのだが、結局、このコストは国民一人一人が負担することになる。

A君:再エネ35%導入に92兆円ということは、2030年までに、今から17年間余で、国民一人あたり、電気代を80万近く、年間にすると4万5千円余分に払うことを意味する。4人家族だと、総額320万円。年間18万円。勿論、産業界経由で払う金額も含まれているのだが、製品価格などに転嫁されるから、結局は同じこと。

B君:これまでの電力会社の経営方針がそのままだと、ほとんどすべての利益は消費者から得ているので、直接的に払う金額が、その値に近くなるだろう。

A君:電気代が4人家族だと月々平均1万5千円アップすることになる。

B君:もっとも、省エネ投資を含めてなのだが、省エネ分を引いた金額は、この負担額に入っている。
 例えば、太陽電池に150万円投資して100万円分を電気代が減ることで回収できたとしたら、50万円分が純粋な投資金額となって、この金額が計算に入っている。

A君:エアコンを省エネ型にした場合でも同様。そのために10万円余分に投資をして、省エネによって7万円回収できたとしたら、3万円分は、この計算の中に入っている。

C先生:ということで、省エネ機器に対する投資総額ではないことに注意すると、結構な金額だということになる。
 そろそろ次に行こう。

A君:それでは、原子力委員会による選択肢を示します。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/kettei120621_2.pdf

B君:この報告書は極めて短い。次の図だけで十分。


図 原子力委員会による核燃料サイクルの選択肢

C先生:これは、基本問題委員会の選択肢(1)、選択肢(2)、選択肢(3)と1:1対応しているので、組み合わせによって選択肢が増えるということにはならない。

A君:ただ、本当にこの選択肢がよいかどうかは、かなり問題で、どの選択肢にも時間的に異なった大きなリスクがある。

C先生:この話は、それだけで相当に長くなりそうなので、またの機会にしよう。
 さて、それでは、気候変動対策の議論に移ることにしたい。
 気候変動対策は、上位、中位、下位と3種類を考えた。その違いをまとめてほしい。

A君:ここからの引用は、
http://www.env.go.jp/earth/report/h24-03/main.pdf
です。

B君:本来、すべてをまとめてある表や記述がp40に産業部門、p46に運輸部門、p50に業務・家庭部門、とあって、あまりにも膨大。

A君:しかし、やはり再生可能エネルギーの導入量が象徴的だと思うので、それだけを示しますか。



図 再生可能エネルギー導入の上位、中位、下位

C先生:そして、結果的に意味のある組み合わせとして、次の6種類になったのだ。これは、基本問題委員会報告書のp56にある5つの選択肢を採用し、2030年に15%という、いわゆる40年廃炉シナリオに、上位と中位を組み合わせたものを加えた形になっている。

原案1−1:2030年に原発ゼロ   上位
原案1−2:2020年までに原発ゼロ 上位
原案2−1:2030年までに15%  上位
原案2−2:2030年までに15%  中位
原案3:2030年までに20%
原案4:2030年に25%


A君:選択肢として重要なのは、選択者にとって何が関心事かということ。それを考えると、こんなことになるのでは。
(1)まず、気候変動が今後大きな要素になるとは思うものの、温室効果ガスをどのぐらい排出するか、という量。
(2)日本全体の経済活力がどうなるか、ということ。

B君:排出量はこんな計算値になっている。


図 排出量の削減量

A君:鳩山さんが首相になってすぐ国連にいって演説をしたときの公約、いわゆる鳩山公約が2020年に25%削減だったのだが、それは実現不可能という結論。原案2−2すなわち、原発比率15%で、高位の対策を行った場合でも、15%程度のGHG排出削減量にとどまる。

B君:このシナリオだと2030年には31%削減になって、まあまあ妥当以上の努力ということになると思う。

A君:経済への影響ですが、これは経済モデルの個性によって、かなり違った値になっている。なんとも言い難いが、いずれにしても、経済成長率は低下することは確実。だから、ダメというものでもないかもしれない。


図 経済への影響


C先生:これで大体のところの説明が終わったようだ。
 さて、問題は、これをすべて説明するのに何時間掛かるかということだ。国民的議論をどうやってするのか、ということに繋がるのだが。

A君:単に、表面的に説明しても1時間は掛かるでしょう。もしも、その中身をいちいち説明していたら、2時間は最低でも必要。

B君:説明を受ける方も大変だ。

C先生:実は、昨日の土曜日、山口県立大学で似たような講演を行ってみたが、やはり、難しい。全部で90分だったが、最初の60分をこの説明に掛けたが、どう考えてみても、時間が足らない。

A君:これらの話を、なんとなく聞いたとしても、実際の生活にどのような変化があるのか、実感するのが難しい。

B君:経済的活力が7〜8%低下するといっても、その意味をきちんと理解するのは困難。非常に荒っぽく言えば、それだけ給料が下がるということなのだろうが、物価がどうなるかによって、生活程度も違ってくる。

A君:それよりも、給料・物価は基本的に変わらないが、7〜8%失業率が増えるという説明の方がよいのでは。

C先生:何にしても、説明を単純化しなければならないが、単純化したとたんに、「割り切り」という「嘘」が入ってくる。裁判員裁判ぐらいの覚悟をもって議論に臨むことができる人を抽出して、それで議論を行うことが唯一の方法なのかもしれない。
 ちなみに、基本問題委員会は、計26回、合計68時間の議論を行ったらしい。それでこの程度のまとまりの悪い選択肢しか出せていないのだから、いかに直接的な目的とかけ離れて、委員が自己主張をぶつける議論が行われたかが分かる、ということを証明しているように思える。
 いずれにしても、国民的議論がどのように行われるか、しっかりと注視したい。