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   サーキュラー・エコノミー その2
      EU&米でも、その実現はなかなか難しい



 前回の記事にてご紹介した著書「サーキュラー・エコノミー」〜デジタル時代の成長戦略〜の続きです。前回は、ちょっと褒めすぎたという感覚があって、今回は、かなり厳しめの表現になりました。
 ところで、この書籍は459ページもあるものですが、手元にある書籍は、2016年11月22日発行のものです。Amazonを見ると、新装版(2019/10/3発行)というものがでているようですが、内容は、恐らく変わっていないものと推測しております。Amazonの説明では、「大判で読みやすい」ということですので、「中身は同じ」といういう推測を持って、この記事を書いています。
 とにかく大変に大部な書籍なので、ご紹介できるのも、その極々一部です。今回は、第2部のご紹介でして、第4章「サーキュラーエコノミーの始まりの始まり」ということでして、先駆的企業がこの本が掛かれた時点より前に何をやったか、というご紹介になります。先駆的企業は一つではなくて、多くの企業が登場してきます。ほとんどが日本以外の企業ですが、わずかに、日本企業も登場しない訳ではありません。
 先駆的な企業の実施例のご紹介といった形になるように思われますが、実態を考えると、全く新しいことを事業化するのは、非常に難しいという結論に成らざるを得ないように思われます。日本では、さらに困難だという結論になるのが当然のようです。


C先生:手元の書籍は2016年11月22日発行なので、決して、最新であるとは思えない。もっとも、現在売られているものも「新装版」ということなので、内容が変わっているとも思えない。したがって、ここで記述されていることは、もはや5年前のものだ、という理解をしていただくことが必要なことで、ご自分の企業の現状を比較するときには、先行している企業の5年前のレベルに到達しているかどうか、という判断基準で読んでいただければ、非常に分かりやすい基準になりうるのではないか、と思う。

A君:ということで、今週の記事の対象は、この本の第4章ということになります。タイトルは、「サーキュラー型サプライチェーン 始まりの始まり」でして、繰り返しになりますが、5年前の2015年の5月ごろの状況だと考えるのが適切かと思います。

B君:まずは、サプライチェーンをサーキュラー型にしないと、近い将来、価格的に充分成立する商品を作ることができなくなるのは目に見えているということが大前提

A君:その一つの背景が、「紛争鉱物」だったと思う。コンゴ民主共和国は、様々な有用金属の鉱石の産地だけれど、それが武装集団の資金源になっていた。ちょっと調べると、2012年頃からそのような話題がいくつでも見つかるので、是非。

B君:米国はこの紛争鉱物にかなり厳格に対処して、Dodd-Frank法なる制度を作ったのが2013年。日本で大きな問題になったのが、それから2年後ぐらいか。「企業の社会的責任」といった言葉が、真面目に議論されるようになるのは、どうも日本の場合には、2年ぐらい遅れた感触が残っている。

A君:日本は伝統的に、「企業責任とはしっかりお金儲けをすること」でしたから。特に、RoEが主流になってからは、ますますそうなった。

B君:しかし、他の先進国では、企業の社会的責任を果たしていないみなされる企業は、社会から弾かれる。日本でも、最近は、社外取締役が増えたので、この面でキッチリ指摘されているとは思うのだけど、どうしても、日本の伝統を全面的に変えるのは難しい。

C先生:そろそろ本番に行こう。

A君:繰り返しですが、第4章が本日の対象です。ネタ切れになりそうでしたら、第5章にも入ることになるかもしれませんが。

B君:第4章の題名の後半部分である「始まりの始まり」というのは、何を意図していたのだろうか。

A君:まあ、まだまだ始まったばかり、という意味なのでしょうね。原材料を天然資源から調達して、エネルギーは化石燃料に依存して、製品を製造し、その後の処理責任などは全く考えない、というのが伝統的な企業経営だった時代が余りにも長く続きましたからね。

B君:まあそうだな。日本のリサイクルは、リサイクルをすることによって、価格的なメリットがある場合に限られていた。例えば銅線。使用済み製品から新品を作るプロセスも楽なものだったし、当然、経済的に意味があった。

A君:化石燃料については、日本という国のCO排出に対する感覚の鈍さは、いまだに世界の先進国でNo.1なのでは。やっと石炭発電の大幅削減を実施するみたいだけれど、もっと初期段階から「もう作らないという方針」でやるべきだった。パリ協定に繋がる2020年における温室効果ガスの削減計画、それは約束草案という名前だったけれど、2030年に2013年からマイナス26%というものだった。このときにもっとも配慮されたのが、エネルギー(電力)の価格。そのため、石炭がどうしても優遇されてしまう結果になった。本来的には、この年に、石炭発電の大幅削減が言えるようだったら、まあ、なんとか受けいられれる形になったと思うけど。

B君:日本のエネルギー政策は、「産業の維持だけ」しか考えない。サーキュラー型に社会を変えるといった哲学的な政策が出てくるケースは、確実にゼロと言える。したがって、日本企業は、政府のメンツのために、進歩的破壊的な政策は言えないということにして、保守的なスタンスを維持する。

A君:温暖化対策に比べると、サーキュラーエコノミーへの変換は、それぞれの企業の実態における共通要素が比較的少ないので、それこそ、独自の最適化が可能なはず。だから、世界の企業はそれを考えて実施する。すると、何が起きるのか、というと、今回紹介しているような本が出版されて、その先端的企業の決断は、「エライ」と評価される。すると、その企業の株を先行投資として買う人も出てくる。RoEのような結果としての利益だけを考えるのでは、世界と戦える企業を作ることができないのだけど。

C先生:まあ、一般論としては、そんなところで良いとしよう。第四章の「サーキュラー型サプライチェーンの始まりの始まり」の説明を頼む。

B君:これまでの企業の生産活動における原材料やエネルギーは、バージン材料を使うことが前提だった。特に、その傾向は日本では強かった。しかし、バージン材料であるということだけを理由に、素材を選択し、生産活動を行うと、有害で環境汚染を発生させたり、する可能性が高かった。

A君:それは、ビジネスモデルが一方通行型だと、それ以外に選択肢はないことになりがちだという根本的な問題があるからです。

B君:この書籍の主張は、それは余りにも古い考え方で、新しいサーキュラー型のサプライチェーンを実現できる先端的な原料サプライヤーが増えてきたということ。

A君:さらに、エネルギー源についても、化石燃料から、再生可能エネルギーへの転換が進行した。

B君:この動きは、パリ協定によって加速したというよりも、その成立したときに同時にできたTCFDという組織の威力に依存したものと言えるかもしれない。すでに、何回も説明しているので、ご存じないかたは少ないと思うので、詳細は、Webで調べて下さい。

A君:経産省が後押ししたもので、TCFDに参画することを表明した日本企業は非常に多い。下手に入れ知恵をすると、意味を全く考えないでできるだけ簡単な対応をすることになって、ビジネスへの良い効果が全く生まれないで、事務作業ばかりが増えてしまう企業が続出する事態になりかねない

B君:実際、TCFDへの対応を本気でやろうとすると、実は、非常に大変な作業をこなさなければならない。特に、未来の社会像などを作るという、普通の企業が単独ではほとんど不可能な作業までやらなくてはならない。

A君:そこで、この本の著者であるアクセンチュア・ストラテジーのようなコンサルが不可欠になるのでしょうね。

B君:本当は、自分でこの本を購入して、じっくり読みこんで実施するのが、その企業の成長に繋がる。

C先生:細かい作業プロセスやその導入方法を記述しても意味は無い。どんな考え方で取り組んだ企業が、この本の題材になるほど進化したのか、ということを解析することが最良のように思える。

A君:了解です。そんな方向性で行きます。それには、実名を入れた個々の記述をピックアップすることが不可欠です。
 最初の例から行きます。クレイラー・テクノロジーズ。Webで調べると、Bloombergのサイトはあるけれど、休止中。カナダの繊維関係の企業だったことは分かりますが。コロナでつぶれたかもしれない。

B君:次の例に行こう。ネイチャーワークス社。バイオポリマーの企業だ。Webは見つかるけれど、どのような系統のバイオポリマーなのか、詳細な説明はない。応用分野としては、アパレル、射出成型剤、フィルム、食品包装、不織布などが挙げられているだけで、具体的な組成は分からない。

A君:プラスチックの名称は、Ingeoということだけは分かった。いやいや、英語のWikipediaに項目がある。ポリ乳酸系の樹脂だそうです。

B君:ちょっと古いな。確かに、ポリ乳酸系は一つの候補にはなりうるが、すべてのプラスチックを置換できるようなものではない。しかも、生分解性プラスチックだと呼ばれてはいるが、生分解速度は比較的遅い。もっとも、非常に生分解性が高いプラスチックなどができても、細菌によってすぐ穴が開いて、使い物にはならないが。

A君:ちょっと、この第二の例も問題ですね。第三の例に行きます。アグゾノーベル社。最大の貢献として記述されているのが、植物油と再生PETボトルから製造される新しいコーディング剤の開発。

B君:Webを調べると、トヨタのレクサスに使用されている耐擦り傷性向上の補修製品が販売されている。どのぐらい売れているのかは分からない。けど、高級車用には売れている可能性が高いかも。

A君:この書籍によると、紙コップのコーティング剤として使えばこれまでのコーティング剤だと使い捨てになる運命であった使用済み紙コップが、比較的簡単に紙リサイクルを行うことが可能になったらしいです。

B君:次が著名企業であるイケア社。まあ、大物だから当然とも言えるけれど、再生可能エネルギーに大々的に投資をしていることは事実。

A君:イケアは、もはや世界最大の家具量販店。この書籍での重点は、再生可能エネルギーを積極的に導入していて、例えば、アメリカのイケアであれば、米国内の全イケアの店舗で消費される電力を超える風力発電所を所有しているとのこと。

B君:アメリカの風力発電は、まあ、安定して吹く風があるので、行けるのだろう。日本ではどうなっているのかな。

A君:日本語のイケヤ・サステナビリティ・レポートをチェックしましたが、日本での自家発電量は分からないですね。ゼロかもしれません。レポートの最後にSDGsへの取り組みのところのゴール13については、「住宅用太陽光発電の販売を始め、家庭で再生可能エネルギーを生成できる製品やサービスを多くの人々に提供する」、といういう記述があるだけ。まだ発展途上のようです。

B君:次がエコベール社で、リン酸を利用しない新洗剤を提供しているとのこと。

A君:たしかにAmazonからでもエコベール性の洗濯洗剤は買うことができます。全般的にはまあまあの評価。ただし、臭いが強すぎるとかいう評価もあって、バラバラ肝心のリン酸を使っていないという言葉はどこにも見つからない。

B君:次がノボザイム社。バイオテクノロジーの大手石油原料系の製品をバイオ系に転換した。バイオ燃料の企業を買収し、この分野も主力化する。しかし、今後がどうなるか、若干不明の面あり。

A君:ちょっと分野が変わって、鉱業・金属系の企業。示唆されている分野として、電子機器のリサイクル。回路基板1トンに含まれている銅の量は、銅鉱石に換算すれば、30〜40トン分。金の場合には、40〜800トン分にもなる。

B君:日本においては、金属のリサイクルはかなり厳密に行われているが、その実例が書かれていないね。米国の本だから仕方がないが。

A君:ということで次です。イタリアのエネルギー企業であるエニ社。ベニスにある従来型の製油所を再生可能資源を用いた高品位バイオ燃料を製造する工場に変換するのに、1億ユーロを投資した。プロセスが完全に違うのだからある意味で当然。

C先生:ここまで読んできても、余り面白い例が出てこないような感じがするが

B君:それでは、ちょっと飛ばして、これはどうですかね。「エコベイティブ社の魔法のキノコ」。2007年のこと、米国のレンセラー工科大学の学生が、キノコを使って、整形された生分解性の硬質素材を作る方法を発明

A君:あれ。C先生の留学先だった大学だ。米国でもっとも古い工科系の大学で、「なにやら最近は、マサチューセッツに、MITなどという新しい工科大学があるようだ」、と地元では言っているとかいう話でしたね。

C先生:地域の評価というものは、そんなものだ。ニューヨーク州のトロイという本当に小さな田舎町の大学なので。

B君:トウモロコシの茎などの農業廃棄物と、キノコの菌糸を組み合わせて新しい材料を合成しているとのこと。この製品は、環境配慮型・生分解可能で、従来の発泡プラスチック包装材・断熱材の代替品として使える。

A君:この発明がかなりインパクトがあって、PICNICグリーンチャレンジという大きな賞を獲得したとのこと。賞金50万ドルを得ると同時に、この方法に疑念をもっていた企業も関心をもつようになって、マシュルーム・パッケージングという会社が創立されて、順調に拡大路線を歩んでいるらしいですね。

B君:それではもう一つの成功事例で、締めくくりましょう。それは、DSM社。2010年にこの企業は、”DSM in Motion”という標語を掲げ、新しい戦略としてサーキュラー・エコノミーに踏み出した。”化石燃料から再生可能エネルギーへ”を実践する最大の企業の一つになった。

C先生:これで、この書籍の記述のご紹介はほぼ終了。結論としては、「サーキュラーエコノミーは、やはりかなり難しい」。ここまで検討してきて、サーキュラー・エコノミーを目指して、本当に成功を収めた企業というものは、それほど多くないことが良く分かる。それには、相当なリスクがあることを覚悟して、チャレンジをしなければならないからだ。しかも、日本のように、国の方針もなんだかよく分からないような国においては、自社は「サーキュラー・エコノミーを実践しています」と言って見ても、それほどのインパクトがある訳でもない。兎に角、小規模でも良いから、まずは、コンセプトを作り、それに向けた新たなチャレンジを継続するということだけを経営者に合意してもらって、あせらずじっくりと、しかし着実に毎年少しずつ進化を続けるといったグループを維持する必要があるだろう。コロナのようなことが起きるのが現実社会であって、このような人為的な努力が、一発でブツ飛ぶということも起きるので、現実社会はなかなか厳しいと思う。しかし、現状を長期間に渡って続けられるということも、段々と難しくなっているのが、コロナのもう一つの教えであることも事実だ。
 まあ、余り偉そうなことは言えないけれど、とにかく、『何を実行することが、地球レベルのあらゆる状況との整合性がもっとも高いのか』、ということを判断基準として行動指針を作り、じっくりと取り組むというグループを社内に複数作らないと、今後の企業の発展は望めないのではないだろうか。
 やはり、サーキュラー・エコノミーの本格的な社会実装は、結構時間が掛かるというのが現状なのだろう。