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  食品中の「放射能」  03.20.2011

      福島第一事故の報道



 またまた厄介な問題が起きた。「農産物 基準を超す放射能」(朝日1面)、という大きな文字が20日の朝刊に踊った。

 日経は、「一部で基準超す放射能」(3面)と比較的冷静だった。

 参考までに、他の新聞社の反応を見ると、「食品から放射性物質、県が出荷自粛求める」(読売オンライン)。読売は「放射能」という言葉を使わない方針なのかもしれない。

 毎日jpには、なんとこれに関する記事が見つからない。意図的に取り上げなかったのかもしれない。

 いずれにしても、朝日の過剰反応が目に付く結果となった。

 チェルノブイリ事故での子どもに発生した甲状腺がんは、汚染された牛乳が売られ続け、ヨウ素131を毎日摂取したことが原因だとされている。

 そのためもあり、厚生労働省食品安全委員会が、食品中の放射性物質の暫定基準を定めた。妥当性について検討するよう、食品安全委員会に諮問をだした。
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/emerg_genshiro_20110316.pdf

 何が厄介か、と言えば、またまた耳慣れないベクレルという単位を理解しなければならないことである。「他に表現のしかたは無いのか、やっとシーベルトという単位に耳が慣れてきたのに」、という声が聞こえてきそうである。

 このあたりをできるだけ簡単に、しかもできるだけ正確に理解するには、何を知るべきなのか。これにチャレンジしてみたい。

 しかしそれにしても、全く簡単ではない。またまた5000字を超す文章量になりそうである。(実際には7200字になった)



目次

1.用語の再確認
 *放射線 そのイメージ
 *放射性物質、放射性元素
 *放射能とは何
2.今回放出された放射物質と放射線
 *核分裂
 *原子炉停止直後の状態
 *使用済み核燃料貯蔵プール
3.食品に含まれる放出された放射性物質
 *ベクレルという単位
 *放射性物質による差と実効線量係数
 *規制値の決め方
 *規制値の妥当性
 *内部曝露のベースラインの疑問
4.まとめ



1.用語の再確認
 放射線、放射性物質、放射性元素、放射能、などを理解すれば良いだろうか。


*放射線 そのイメージ

 放射線は、健康診断などで胸部X線撮影をするときの、X線のイメージで良いと思う。X線は眼に見えない光だと思えばよく、今回の福島原発の件で、問題になるのはγ線(ガンマ)で、さらに波長が短いので、モノを透過する力が強く、人体などの生体に吸収されたときには、遺伝子(DNA)を傷つけるので、がんを発生する原因となる。通常のがんだと平均的に20年後ぐらい、白血病だと8年後ぐらい。

 光でも、紫外線が皮膚がんの原因になることは良く知られているが、その理由も全く同じ。なぜ可視光線では皮膚がんにならないのか、と言えば、それは光の持っているエネルギーというものが決めることである。

 光のエネルギーは、波長の逆数、すなわち、1/波長の値が大きいと(波長が短いと)、大きなエネルギーを持っている。

 X線は、紫外線よりもずっと波長が短く、γ線はさらに波長が短い。すなわち、エネルギーが大きい。

 医療用のX線を出すには、テレビのブラウン管用の電子銃と似た装置が必要。それで電子線を出して、電子を水で冷やしたタングステン製の電極にぶつけると、そこからX線が発生する。

 このような装置であれば、電源を切ればX線の発生が止まることは分かる。ブラウン管を使ったテレビのスイッチを切れば、画像がでなくなることからも推測が可能であろう。


*放射性物質、放射性元素

 放射性物質のイメージは、ウラン、ラドンなどのイメージで良いと思う。

 ウランは普通の固体だと思えばよく、要するに形がある。

 ラドンは気体で、ラドン温泉というものの正体をよく知らないが、水に溶けるとも思えない物質である。

 欧米ではラドンによる自然放射線の量が多く、欧米での1年間の自然被曝量は、日本よりも多い。それは、地中に存在するウランやラジウムの量が多いからだと考えられている。

 一方、放射線は、先ほど述べたように、X線のイメージで光の一種なのだから形はない。

 放射性物質と放射性元素はどこが違うのか。放射性物質はより広い意味で使われ、放射性元素という言葉は、ウランとか、ヨウ素とか、元素名が付いている場合に使われる。

*放射能とはなに

 この項目を書くのを忘れました。本来は、放射線を放出する「能力」を意味する。そのような能力をもつものは、放射性物質なので、通常は、放射性物質を意味する。JCOの事故のとき、漏れたのは中性子線=放射線であるのに、NHKは放射能という言葉を使った。放射線と放射能は厳密に区別すべきであると思われる。

 ちなみに、家内に放射能と放射線のイメージの違いを聞いてみた。「放射線は光みたいに直線状」、「放射能は雲か霧みたいないイメージ」、だそうである。まあ合っているとも言える。


2.福島第一原発事故で放出された放射物質と放射線


*核分裂

 食塩はいつまで置いても、例え、湿ってしまっても食塩は食塩である。すなわち、普通の元素は、いつまでたってもその元素のままであるが、放射性物質は違う。

 放射性物質は、放射線を出しながら、別の元素に変わる。放射線には、中性子線、γ線、α線、β線(電子線)などの種類がある。

 元素が他の元素に変わることを(放射性)崩壊と呼ぶ。どのような放射線を出すかによって、名称が付く。α崩壊、β崩壊、γ崩壊である。

 中性子線を出す(あるいは吸収する)ときに起きる崩壊は、原子の核が2つ(3つのこともある)に割れて複数の元素に変わると同時に中性子線を放出する。これを核分裂と呼ぶ。

 核燃料は、核分裂を連続して起こすように作られた燃料である。主力はウラン235(注)である。

(注)235は質量数なのだが、背番号だと思えば良い。背番号によって、性格が違う。核燃料に用いるもっとも普通の元素がウラン235で、天然のウランには僅かしか含まれていない。大部分はウラン238で、連鎖反応を起こすのに必要な中性子を吸収しやすいので、ウラン235の濃度をある程度高めないと、核燃料には使えない。

 ウラン235が核分裂をすると、主に生成する元素は、モリブデンやランタンであるが、様々な元素になる。福島第一原発は、地震直後から、緊急遮断装置が働いて、核分裂は停まっているが、核分裂の結果生じた様々な不安定な元素が、電子線やγ線を出しながら、安定な元素に変わりつつある(それぞれβ崩壊[電子線]、γ崩壊[γ線]と呼ぶ)。そのとき熱を出す。


*原子炉停止直後の状態

 原子炉の炉心にある核燃料は、地震前まで核分裂を続けていたため、2000℃ぐらいと想像される高温であり、また、核分裂を止めた瞬間には、不安定な元素の数が多いために、かなり大量のβ崩壊などが起きている。そのため、発熱量はかなり多い。

 通常なら、緊急炉心冷却装置ECCS(、Emergency Core Cooling System)と呼ばれるものが作動して、核燃料を冷却するのだが、これが今回の津波で電源を失って、機能しなかった。

 そのため、核燃料の表皮が高温になって、ジルカロイという合金で作られた被覆が溶けた、もしくは、水と反応して破壊した、と思われる。

 しかし、この変化は原子炉の中なので、圧力容器、格納容器という容器の中での現象である。水蒸気などとともに、放射性元素が放出されない限り、外にでる放射線はほぼゼロである。

 今回、これら容器の内部が高圧になって破裂することを防止するために、内部の水蒸気などを外部に放出したため、若干、外部にも放射性物質が放出された。


*使用済み核燃料貯蔵プール

 もう一つ問題になったのが、使用済み核燃料棒の貯蔵プールから水が無くなったことである。

 使用済みの核燃料も、使用直後はかなり発熱をしているため、その熱を冷やすために、プールの中に保存されている。ところが、この水が漏れたか、蒸発したかで、核燃料の上部が空気中に顔をだして、やはり過熱状態になって、ジルカロイが溶けたのだろう。

 特に、4号炉は、定期点検中だったこともあって、停止したのが比較的最近?と思われる。

 といっても、定期点検が150日間を超すのは通例ではないらしいので、最長100日前ぐらいか?

 要するに、4号炉の燃料棒は、完全な安定状態にはなっていなかったものと思われる。そのため、発熱量も多く、水冷の必要性が高かったのだろう。

 原発の敷地内では、放射線のレベルが高い状態が続いている。その理由を考える。

 水は他の放射線はもちろん、γ線も吸収する。30〜40cmの水を通過すると、90%ぐらいが水に吸収される。60〜80cmの水なら、99%が吸収されることになる。2mの深さの水に入っていれば、γ線は外にほとんど出ない。

 要するに、貯蔵プールの水面から顔を出した核燃料棒から出たγ線は、本来γ線を吸収するはずの水の層が無いもので、いきなり空気中に出る。空気中では、γ線は余り吸収されることが無い。しかし、発生源からあらゆる方向に広がっていくので、距離の3乗に反比例して弱くなる。

 一方、β線は電子線であり、空気の吸収も大きい。水を通り抜けて出ているようなものではない。貯蔵プールの使用済み核燃料が、臨界状態になって、核分裂を始めると中性子線がでることになるが、今回、幸いなことに、そのような危機的な状況にはなっていない。

 要するに、原子炉周辺においても、また、多少離れた地域においても、現状、問題となる放射線はγ線のみだと思われる。

 現在、避難地域の外で観測されている放射線は、放出された放射性物質がその地点まで風で輸送されて、地面などに落ちたヨウ素、セシウムなどが、その地点で出している放射線だと思われる。


3.食品に含まれる放出された放射性物質


*ベクレルという単位

 核燃料の温度が高くなってジルカロイ被覆材料が壊れると、核分裂によって生じた元素のうち、蒸発しやすい元素が外部に逃げ出す。今回このようなことも起きた。

 蒸発しやすい放射性元素の代表例が、ヨウ素131とセシウム137である。これらは空気中で冷やされると微粒子になって、風にのれば、遠方に運ばれることもある。

 今回、食品で問題になっているも、この2種類の放射性元素である。

 食品の危険性といえば、残留農薬だと思う人々が多いかもしれない。そのとき、何を問題にするだろう。やはり残留している農薬の量だ。

 食品が放射性物質で汚染されているとしたら、やはりその量が問題である。

 同じ農薬といっても、残留しているのが毒性の強い農薬であれば、毒性の弱い場合よりも、摂取量が問題になる。

 放射性物質でも同じで、放射性の強い、すなわち、より多くの放射線を出す放射性物質は、摂取量が少ないことが必要である。

 ということは、放射性物質が一定時間内に出す放射線の量を考えるべきだということになる。

 1ベクレルとは、1秒間に1回の崩壊が起きることを言う。

 ベクレルが大きい数値であれば、より多くの頻度で崩壊が起きることを意味する。


*放射性物質による差と実効線量係数

 さらに重要な問題がある。それは、食品の場合には、同じベクレル数であっても、含まれている放射性元素の種類によって、人体への影響が違うことである。

 それを実効線量係数(経口)と呼ぶ。

 放射性元素は、崩壊をしながら次の元素へと変わっていく。変わる速度は、それぞれ違う。その速さを示す言葉が、半減期なのだが、これは比較的普及している言葉だろう。

 セシウム137、ヨウ素131の半減期は、それぞれ30年、8.1日である。

 人体に入ったとき、セシウムは、体としては使いようのない元素なので、いずれ排泄してしまう。

 通常の状態であれば、セシウムの代謝はかなり速いようだ。中国の文献によれば、内蔵器官と組織中の放射線量は、6時間の蓄積後にピークになり、その後減少したとされている。
http://china.jst.go.jp/F/C2036A/09A1304044.html(アクセス不能、キャッシュで読んだ。)

 もちろん、摂取経路にもよる。セシウムを含む微粒子を肺に吸い込むのと、食品に付着したセシウムの微粒子を食べるのでは、ちょっと考えると、肺に吸い込んで、肺胞に付着する方が、排出するまでにずっと時間がかかるような気がするが、後述の実効線量係数を見ると、吸い込んだ場合の値がかなり小さい。これは、肺に沈着しないで、排出してしまうということなのだろう。

 一方、ヨウ素は必須栄養素の一つである。すなわち、人体組織のどこかで使われる。その最大の用途(99%)が甲状腺ホルモンの原料である。

 甲状腺ホルモンは、トリヨードサイロニン、サイロキシンという物質だが(Wiki参照)、いずれも、ヨウ素を大量に含む化合物である。そのため、甲状腺にはヨウ素を貯めこむ機能がある。

 もしもヨウ素131を摂取すると、甲状腺に貯まる。そこで核崩壊が起きれば、β線を出す。β線は、ほぼその場で人体に吸収される。甲状腺がんの治療にも、これが利用されていて、ヨウ素131を摂取すると、ピンポイントで甲状腺がんを攻撃するからである。
 もしも正常人がヨウ素131を大量に、かつ継続的に摂取すると、やはり甲状腺に貯まる。そのため、甲状腺がんを発症することになる。

 ヨウ素131の半減期は8日程度であるから、自然減衰は速い。8日間で半分になるのだから、16日で1/4、1ヶ月経てば、1/16程度になる。3ヶ月だと、0.00024とほぼゼロになる。

 というような条件が加味された上で、実効線量係数(経口)というものが決められている。

 セシウム137の実効線量係数(経口)は、1.3×10^−5、ヨウ素131は、2.2×10^−5である。

 日々の摂取量を考えて、食品の安全基準が決められているようだ。


*規制値の決め方

 ヨウ素131の場合には、飲料水と牛乳・乳製品が300Bq/kgであり、野菜類(根菜、芋類を除く)が2000Bq/kgである。

 セシウムの場合は、飲料水、牛乳・乳製品が200Bq/kg、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他が500Bq/kgである。

 このような数値の求め方であるが、まず、ヨウ素131とセシウム137の両方で許容濃度を仮定し、そのぎりぎりまで汚染されている食品を食べた場合、その食品の摂取量を仮定して、1日の被曝量を求める。

 このような食品ばかりを365日間食べ続けたと仮定し、被曝総量が20mSv、ヨウ素の場合には甲状腺で50mSv、セシウムの場合は、全身が対象で5mSv、すなわち、通常の状態での、食品からの1年分の平均的な被曝量の10倍ぐらいになるように、仮定する数値を調整する。

 その際、いくつかの要因を考慮しているものと思われる。

 まず、摂取した食品の成分のすべてが体内に留まることは無い。ヨウ素が甲状腺に取り込まれる割合は、30%程度と仮定するのが妥当のようだ。(未確認であるが、日本人の食生活を考慮して20%にしているとの情報あり)。

 より詳しい情報は、
http://www.rist.or.jp/atomica/で「年摂取限度(ALI)」を検索のこと。


*規制値のその妥当性

 セシウムについては、このような計算で良いかもしれない。しかし、ヨウ素131の半減期は8日ぐらいなので減衰速度も大きい。

 原発事故のように、一定期間内で放射性物質の放出が止まるようなケースであれば、その後、2ヶ月もすれば汚染の影響は消えるので、過剰な基準値ではないだろうかという疑問が残る。

 今回のような非常事態において、ここまで厳格に規制をすべきなのかどうか。むしろ、危機的な状況にある最初の30日間程度は、もう少々緩い暫定的な規制値を定めるべきではないか。そうしても、まず、問題は出ないだろう。

 30日を超えて、定常的に汚染食料を食べなければならないような状況になったときには、妥当な規制値かもしれない。

 それでも、ヨウ素131の場合には、過剰かもしれない。

 なぜならば、ヨウ素という必須元素については、日本人は特殊だからである。世界中で、これほど海藻を食べている人種はいない。海藻にはヨウ素が豊富である。

 海苔(浅草海苔)を消化できる腸内細菌を飼っているのは、海外の論文によれば、日本人だけだとのことである(韓国人は論文の検討対象になっていない)。

 ヨーロッパ人種は、ときにヨウ素不足になる。そのような状況だと、チェルノブイリの場合もそうだったが、ヨウ素が体内に入ると、その大部分を甲状腺に貯めこむ。

 ところが日本人は、ヨウ素を体内(甲状腺)にかなり大量に蓄積しているので、余分なヨウ素が入っても、それをさらに貯めこむことはしない。先ほど、30%という数値を使ったが、せいぜい20〜40%を程度を貯めこむだけで、残りは排泄してしまうと考えられる。
http://www.nutweb.sakura.ne.jp/webdemo/JIodine.htm

 ということは、日本人用と輸出用は分けて、輸出用のみ規制を厳しくする必要があるかもしれない。

 一時的な非常事態だと想定される場合の国内消費だけを考えた場合には、もっと緩い規制値を適用すべきだとも考えられる。


*内部被曝のベースラインの疑問

 このように、食品、飲料水などで体内に持ち込まれた放射性物質による被曝を内部被曝と呼ぶ。

 内部被曝としては、すでに、このHPでも解説をしているが、カリウム40が有名である。

 カリウムという元素は、体内に140g(体重70kgの場合)も存在しており、そのうちの0.012%が放射性元素であるカリウム40である。
http://kyoto.cool.ne.jp/zebedee/becquerel.html

 その量でのカリウム40の内部被曝は、4343Bqであるとされている。しかも、カリウム40の半減期はベラボウに長いので、この値は、ほぼ一定である。

 これが本来のベースラインになるべきだと思われる数値であるが、この数値が、年摂取限界にどのように反映されているのかといった情報は、Webを調べた範囲内では、見つからなかった。


4.まとめ

 いずれにしても、規制値は、その放射線量の食品を最低でも1年間食べ続けても大丈夫という仮定に基づいて作られている。

 むしろ、未来永劫食べても大丈夫な基準値だと言えるようだ。したがって、ほんの1回、2回食べることで、何が起きる訳でもない。

 セシウムは微粒子でホウレンソウに付着しているだけだから、洗えば、あるいは、茹でれば落ちる。

 牛乳は、さすがにどう処理をしてもヨウ素131を取り除くのは無理だが、この牛乳を、1ヶ月間毎日1L飲み続けても、問題が起きるとは思えない。もしも牛乳が足らないのならば、福島産の牛乳を特別に配送してもらって、飲んで差し上げたいぐらいである。というのも、自らの年齢から考えて、甲状腺がんになる確率は、相当低いと思うので。

 もしも、ラドン温泉が健康に本当に効果があるとすれば、それよりも効く可能性があるかもしれない。もっとも、ヨウ素は甲状腺に集中するので、そうも行かないかもしれない。