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  古紙偽装事件の総括  06.26.2008
     



 今年の1月に勃発したこの事件であるが、製紙業界には、これが犯罪であったという認識が未だに乏しいのではないか、と思われる。まあ、ほぼすべての状況がなんとなく分かった現段階で、王子製紙と日本製紙の対応の違いを明らかにしたい。
 通常は日曜日にアップするのだが、今回は、特別に26日木曜日に緊急アップ。その理由は、27日に環境省の審議会で結論めいた議論を行うため。それ以前に全体の個人的総括を済ませておきたいから。


C先生:「古紙配合率偽装問題」。これが現在依頼されている原稿の題名だ。もちろん、変更することも自由なのだが、発注が衆議院調査局環境調査室なので、この表現のまま原稿を書く予定ではある。しかし、個人的には、これは「問題」ではなくて、「事件」であったと思っている。

A君:事件と問題との区別は、訴訟ができるかできないか、ですか。

C先生:まあそんなところだ。今回の古紙偽装は、最終的に公正取引委員会から排除命令がでた。それでやっと事件性が世の中に明らかになったものと理解しているが、もしもよくあるように、どこかの企業が通販などでニセ科学商品を売り出したら、その商品の販売差し止めになるぐらいの問題だった。

B君:しかし、今回、被害者が訴訟を起こしたという話を聞かない。

C先生:それは、まあ難しい。なぜならば、こんな風になっているからだ。

製紙企業 → 紙問屋 → 小売・取次 → 企業総務部等

最終的な購買者である企業が訴えることができるのは、直接的な小売・取次だが、そのとき、売買契約書に「古紙配合率100%のものを納入せよ」とで書いてあれば、なんとか法律的な対処をすることもできるだろうが、普通そんなことはしない。

A君:しかし、この事件全体の発端になった、年賀はがきの古紙配合率が仕様の40%になっていなかった事件は、当然、契約関係があった。だから、訴訟を起こす気になれば、起こすことができたはず。
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080109/biz0801092211014-n1.htm
http://www.np-g.com/whatsnew/whatsnew08010901.html


B君:多分そうだろう。

C先生:どうも訴訟を起こす気はなかったように見える。しかし、仕様がきちんと記述された取引だったために、問題の発端にはなりえた。このような取引形態が無くて、中間に卸と小売りが介在するような商品ルートだけで問題が発生しても、それを明るみに出すということができなかった可能性もある。

A君:ということは、関係者は、かなり前からこれを知っていた、と考えられるのですか。

B君:いずれにしても内部告発でしょ。そういう意味では、多くの人が知っていても、不思議ではない。

C先生:誰も明言しないが、どうもそうらしい。私個人は報道機関からのなんとなくの情報、「そのうち事件が起きますよ」というところで留まっていて、それが11月ごろだっただろうか。しかし、関係者は、2年以上前から知っていたのではないか、と思われる節がある。当然ながら、内部告発がきっかけだ。

A君:しかし、下手にそれで告発をしても、名誉毀損で逆に訴えられて、痛い目を見る可能性が高い。

B君:古紙の分析手法が無かったことも大きいだろう。古紙といってもセルロースであることに変わりは無い。

A君:報道によれば、東京農工大の岡山隆之教授
http://www.tuat.ac.jp/social/gakuho/present/470/media-470.pdf
が、古紙パルプは漂白をされていることを用いて、顕微鏡下で古紙パルプの量がなんとか分かるという分析方法を開発した。しかし、「実際の配合率が80%なのか100%なのか」、と問われても、そんな結果を出すのは難しいと思われる。

C先生:この方法が無い限り、報道機関も報道に踏み切らなかった。いや、違うかもしれない。日本製紙はいくら報道機関が騒いでも、その事実を認めることは無かった、と言うべきかもしれない。

A君:ということで、古紙偽装の事実が明るみに出たのが、2008年1月。

B君:日本製紙のこの件が一旦明るみにでると、その後は、続々とほぼ全製紙会社が偽装をしていたことを発表して、陳謝。

A君:テレビのニュースを見ると、またかよ。という感じで、滑稽ではあったけど、インパクトが何もない。

B君:それが狙いだったのではないか。どうせこの世の中忘れやすい。だから、一気に全部吐き出してしまえば、忘れることも早い。しかし、徐々に不正が明らかになると、世の中いつまでたっても忘れてくれない。

A君:となると、この作戦は業界ぐるみで行われたと考えるべきでしょうね。

B君:日本製紙連合会なる業界団体があるから、それはそうだろう。幹部が大活躍をしたのではないだろうか。

C先生:その後、どのような状況が起きたのか。それをメディアがどのように報じたのか。

A君:ネットを探ると、こんなニュースがあります。

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2008年01月28日 週刊ダイヤモンド編集部
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再生紙偽装発覚に垣間見る製紙業界のホンネ

 日本製紙が年賀はがきへの古紙配合比率の表示を実際より高く「偽装」してきた問題は、他の再生紙に飛び火しただけでなく、製紙業界全体が偽装に手を染めていたことをあらわにした。

長年、偽装が放置されてきたのは、業界全体に「悪いことではない」との認識があったからだ。

「今回の古紙配合比率が違っていた問題は、わかりやすくいえば、牛肉を豚肉と言って売っていたようなもの。紙のユーザーは品質が高く、製造コストも高いものを安く手に入れられた。食品偽装とは根本的に違う。現場には偽装との意識が低かった」

 再生紙偽装に手を染めていたある大手製紙会社の元社長は、本誌取材に開き直ったようにこう話すなど罪の意識は感じられない。

 それには理由がある。多くの人は、「再生紙は環境に優しい」と思いがちだが、必ずしも正しくない。古紙100%で紙を作るよりも、適度な古紙配合比率か、時には古紙ゼロで作ったほうが、トータルのCO2排出量が少なくなるケースが多い。今現在、再生紙に求められている古紙配合比率では、CO2抑制のための理想的な比率にはなっていないのだ。

 というのも古紙を回収し、製紙工場まで持ち込むと輸送トラックからCO2が排出される。最近は雑誌付録にCD-ROMなどが増えて回収古紙に混入するため、再利用するのに必要な作業工程がふくらんでいる。さらに紙需要の旺盛な中国に買い負けているため、品質も低下している。今の日本でこれ以上、古紙配合比率を高めることは環境にはよくない。

 特にコピー用紙やはがきのような、強度、白さ、均一性が求められる紙は、古紙100%では過度な漂白や添加物が必要となり環境負荷は大きい。海外ではコピー用紙は古紙ゼロが常識である」。

 結局、製紙会社にしてみれば古紙配合比率を勝手に低くすることで環境負荷を低減し、バージンパルプ配合比率を高めてコストもかけていたのだから、悪いことをしている意識はなかった。

 しかし、もちろんそれで許されるわけはない。そもそも表示する成分を満たしていなければ景品表示法違反であり、特注品であったならば契約違反になる。加えて官庁への納入はグリーン購入法に基づいて税金が使われていただけに法令遵守の姿勢が問われる。

 本来、製紙業界は日本の再生紙に関する非常識な誤りを指摘し、あるべき姿にリードすべきだった。官庁や民間企業に求められるがままに過度に古紙配合比率の高い再生紙を作り、100%再生紙が売れ始めると右に倣えで各社が追随する。製紙業界には日和見的な体質が染み付いている。

 大半の製紙会社の社長は偽装を知らなかったとし、続投を宣言した。だが、ある販売代理店幹部は「あれだけ大規模な偽装を知らないはずがないし、知らなかったらそれも大問題」と旧態依然とした体質にあきれ返る。

 製紙業界では2007年、15社25工場でばい煙の排出基準違反が発覚したばかり。

 相次ぐ問題噴出に製紙業界が失った信頼はあまりに大きい。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)
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C先生:この週刊ダイアモンドの野口氏とは、一度、会って話をしたが、もっとも内情に詳しいと思った。特に、記事の後半で主張されているが、R100が環境にとってベストだとする誤解を製紙業界は偽装をしなければならなくなる以前に指摘すべきだった。

A君:これは、C先生たちによるLCAデータを見れば、一目瞭然。

B君:ただし、本当の意味での正解は? と問われれば、R100とR0の組み合わせではなくて、R30とR70の組み合わせぐらい。ところが、市場からR0が無くならないことを考えると、R100である必要はあるものの、R80ぐらいを作る必要はあった。

C先生:環境省なども、R100はシンボルだ、と言っていた。シンボルならシンボルで、ある一定量以上の生産は無意味なのだから、それを製紙業界に積極的に伝える責任はあったものと思う。もちろん、製紙業界はR100を作ることの困難さを十分に知っていたのだから、その社会への伝達をすべきだった。しかし、実を言うと、さらに複雑な事情があったと思われるのだが、それは、後ほど、王子製紙と日本製紙の報告書を解析する時に、詳しく議論してみよう。

A君:それでは、他の報道も少々。

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日本製紙社長が6月退任 環境相に謝罪し報告
- 08/03/03 | 共同通信配信NEWS

 日本製紙グループ本社の中村雅知社長は16日の記者会見で、長年にわたって再生紙への古紙配合率を偽装していたことについて「一部の製品については知っていた」と述べ、自ら黙認していたことを認めた。同席した役員も知っていたとしており、法令順守を軽視した企業体質が厳しく問われそうだ。

 中村社長は、小松島工場(徳島県小松島市)の工場長だった1996年6月からの2年間にコピー用紙の偽装があったことを把握していたと明かした。ただ、今回の社内調査結果で幅広い品目の偽装が判明したのを受けて「恥ずかしい話だが、全体の話を把握できなかったのは私の認識不足と思う」と語った。

 偽装を放置していた経営責任を問われ「品質重視のためで、非常に申し訳ないことをした。コンプライアンス(法令順守)や規則を守るほうが本来は優先すべきだった」と釈明した。

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製紙8社に排除命令 古紙偽装公取委
FujiSankei Business i. 2008/4/26

 再生紙の古紙配合率偽装問題で公正取引委員会は25日、コピー用紙に実際より高い配合率を表示していたとして、景品表示法違反(優良誤認)で王子製紙(東京)、日本製紙(同)など業界大手を含む8社に再発防止などを求める排除命令を出した。

 公取委は、環境に配慮した優良商品だと誤解させる不当表示と判断。「有力企業が実際と異なるのを承知で不当表示を続けていたのは驚きだ」としている。

 ほかの6社は三菱製紙(東京)、北越製紙(同)、中越パルプ工業(同)、紀州製紙(同)、大王製紙(愛媛県)、丸住製紙(同)。国内でコピー用紙を生産する全社が排除命令を受けた。

 各社は再生紙コピー用紙の箱やラベルに「古紙配合率100%」などと表示。しかし実際の配合率は半分以下の製品が多く、数%のものもあった。

 ■薄い罪の意識、けじめに甘さ

 再生紙の古紙配合率偽装問題で、これまでにトップの引責辞任を決めたのは日本製紙と北越製紙の2社だけ。業界には幕引きムードが漂っているが、けじめの付け方が甘いとの批判もある。

 日本製紙の中村雅知社長は引責辞任を表明したが、持ち株会社である日本製紙グループの会長として引き続き経営に関与する。王子製紙などは経営陣の報酬カットなどに処分をとどめた。中越パルプ工業の長岡剣太郎社長が6月下旬に退任するのも「偽装問題とは関係ない」(同社)という。

 再生紙の古紙配合率が表示よりも低いことを知っている業界関係者は少なくなかったとされる。取引先の間では「製紙メーカーの経営陣には悪いことをしていたという思いが薄いのではないか」との不満もくすぶっている。

 製紙業界はリサイクルや植林事業に熱心とされ「環境対策の優等生」とも呼ばれてきたが、偽装問題でそのイメージは大きく傷ついた。

 古紙配合率を高めると複写機や印刷機に紙詰まりなどのトラブルが起きやすくなる心配があったという業界関係者もいる。だが消費者を欺いていたことに釈明の余地はない。製紙各社の経営陣の責任は重く、これまでの社内処分で十分かどうか、あらためて問い直す必要がある。
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A君:この記事も、製紙業界の無責任さを指摘している。新聞も、最初の内はあまり強烈な指摘をしかなったのだが、徐々に内情が明らかになるにつれて、厳しくなっていったように見えますね。

B君:公正取引委員会の排除命令が出たので、これで製紙業界も、自らの行ったことが、犯罪だと認識したのではないだろうか。

C先生:報道関係は、そんなところで良いだろう。テレビも、TBSが頑張ったのだが、その後、さすがに報道を継続することはできないようだ。まあ、報道としてはおさまったのだろう。

B君:いよいよ、王子製紙と日本製紙の報告書の解析をやるか。

A君:王子製紙、日本製紙の報告書は、以下のようなものが公開されています。

王子製紙の報告書
1.http://www.ojipaper.co.jp/release/make_pdf/080118.pdf
2.http://www.ojipaper.co.jp/release/make_pdf/080220_kankyou.pdf
3.http://www.ojipaper.co.jp/release/make_pdf/080220_1.pdf

日本製紙の報告書
http://www.np-g.com/whatsnew/whatsnew08032603.pdf

B君:この報告書をどうやって読むかだが、ちょっと読みだしてすぐに分かったのだが、製紙業界は、まさに合併、倒産といった変化が非常に激しい。特に、日本製紙グループという企業は、巨人王子に対抗すべく、さまざまな変貌を行ってきている。しかし、皮肉というかなんというか、日本製紙の母体になっている十条製紙は、1949年に過度経済力集中排除法によって旧王子製紙が3社に分割された内の1社である。このあたりの細かいことは、たとえば、Wikipediaにも非常に詳しく記述されている。

A君:R100の歴史は、上掲の王子製紙の報告書3の最後に付いている別表1に詳しく出ている。1997年に王子がグリーン100シリーズというものを発売している。これが発端。王子製紙ができたのも、新王子製紙と本州製紙が1996年に合併したからですが、日本製紙は、大昭和製紙と合併したのが2003年で、これは平成15年ですが、このあたりまでのデータは、余りしっかりとは把握できなかった可能性は高いです。

C先生:事実、報告書にもそんな記述がある。実際のところ、平成15年以前の報告を十分行っていない。しかし、もう少々本気で調べれば、分かったようにも思える。それは、DIP設備、すなわち、古紙から印刷インクを取り除くDeInkプロセスを行う設備が、どのぐらいの能力のものが何台ぐらいあって、それがどのぐらいの操業率だったのか、といった観点から古紙パルプの製造能力を把握し、そして、再生紙の出荷量はいくらなんでもあるのだろうから、再生紙に含まれていた古紙パルプの割合は、ざっと計算できるはずなのだ。

B君:いきなり本題に入ったが、まず、報告書を作った調査委員会の構成が、王子製紙と日本製紙とでは全く異なる。

王子製紙の調査チーム
*座長 社外監査役 弁護士
*委員 社外取締役 2名、社外監査役1名、弁護士3名
*事務局 統括技術本部長など4名

日本製紙調査委員会
*委員長 日本製紙グループ取締役副社長(CSR委員長)
*委員 日本製紙取締役、常任監査役、監査役、経営監査室長、CSR室長、コンプライアンス室長など 6名
*外部委員 コンサルティングから1名、弁護士1名

どうもこの両社、報告書を作る姿勢からしてかなり違うように見える。

A君:まさに、いきなり本題に入っていますが、王子製紙の報告書を見ると、実際、DIP設備がどのぐらいあって、そして、再生紙がどのぐらい出荷されたか、そのバランスを基礎に解析を進めたような記述になっています。

B君:日本製紙の報告書は、文章は長いのだが、良く分からないところが多い。
 たとえば、配合率の実際との乖離が起きたのは、いつ頃で、こんな経緯だったという記述はあって、

はじめて乖離が発生した時期
印刷用紙 コート紙 平成10年(1998年)
印刷用紙 上質紙 平成7年(1995年)
印刷用紙 再生高白色葉書用紙平成4年 (1992年)
情報用紙 PPC用紙 平成2年(1990年)

となっていますが、一部に、こんな記述があるものの、もっと詳細を明らかにすべきだと思われる。

「コート紙について、石巻工場で生産された製品は、抄紙機(マシン)の規模と工場内の古紙パルプバランスにより古紙パルプを高配合できなかった」。

 この記述は、分かりにくいものの、抄紙機、すなわち、紙すき機は大型高速のものがあって、大量の紙が生産できたが、古紙パルプを作る設備が不足していたか、無かったために、古紙パルプを高配合(あるいは全く配合)できなかった、という意味だ。

 これは恐るべきことで、古紙パルプ配合率100%の製品を作る工場に、古紙パルプを作る設備が無かった、あるいは、有ったとしても十分ではなかった、ということを述べていることになる。

A君:王子製紙の報告書の中身も同様の部分がありますね。
 「DIPパルプ製造設備が無い江別工場において、当初は、生産数量を少量に限定し、上白古紙を利用することでスタートしたが、その後、古紙調達に支障を来たし、乖離を生ずることとなった」。

B君:なるほど。同じことのようだ。古紙パルプを作ることができない工場でも、再生紙を製造することになっていた。

A君:しかし、王子製紙の記述の方が正直にかつ客観的に書かれているように読めますね。

B君:日本製紙の報告書には、こんな記述もある。
「生産工場においては、技術環境室および製品化にて基準配合との乖離は認識していたと思われるが、古紙配合率を顧客に保証していることに対する重要性の認識に欠けていたため、乖離を是正するはたらきかけは取られなかった。
 品質保証部は、新規製品の受注受付時に営業部門の部長とともに工場へ検討依頼を行うが、この依頼を受けて工場にて作成された品質基準書に公称古紙パルプ配合率が守るべき基準として明記されていなかった」。

A君:そんな状態だから、古紙配合率を守るという気が無かったことが明白。
 王子製紙には、こんな記述があります。
「2002年頃、古紙処理能力よりも販売している再生紙に含まれる古紙量の方が多いことに気付いた営業部門の社員が、技術部門にリサーチを依頼した結果、当該社員が乖離の事実を認識したことが認められる。当該社員は、乖離の実態を事業本部長に報告したが、顧客との関係もあって、一気に変えることはできなかったとのことである」。
 「2003年にコンプライアンス室が設置され、(中略)乖離についてもコンプライアンスに反する問題としての認識が社内に浸透する景気となり、その後の是正の取り組みが進んだ要因となったものと考えられる」。
 「2005年にコンプライアンスの社外研修を受けた技術部門の社員が乖離を放置すれば個人責任を追及される可能性があることを聞き、前出の営業部門の社員とともに、事業本部内に是正のためのプロジェクトチームを立ち上げ、取り組みを開始し、約半年の実態調査ののち、顧客に代替品の提案などを行いながら、徐々に乖離を解消していった」。

B君:なるほど。王子製紙は、この自主的な是正をやったことから、極めて分かりやすい報告書を書くことができた。一方、日本製紙は、最後の最後まで自社内の規律による是正ができなかったのだ。それが結果的に分かりにくい報告書を出すことに繋がっている。

A君:王子製紙の報告書には、非常に含蓄の深い記述があります。
 「なお、是正の過程では、他工場のDIP設備余力を利用し、コストアップを厭わず、他工場DIPを運搬・利用や、上白古紙の配合により対応している」。

B君:なんだ。日本製紙が記者会見などで説明している、「配合率の偽装は、決してコスト要因ではありません。古紙の入手が困難であり、品質を優先したために行ったことです」、というのはやはり嘘だという記述だ。

A君:王子製紙の報告書には、さらにすごい記述があるのです。今回の偽装事件が明るみにでるきっかけになった古紙配合のはがきについてですが、
 「インクジェット葉書の例では、開発過程で、品質上生産不可能との理由で、一度開発断念を決定した案件が、別の事業本部の主導により再開され、最初から乖離した状態の製品が生産・販売されていたことが確認された。しかし、本件の経緯は、(中略)はっきりしない。(スポット的な受注であり、生産ロットも小さかったため、経緯に関する資料も残されていなかった。本製品の生産は2006年をもって中止しており、2007年には在庫品の販売を行った)」。

B君:これも、日本製紙の行動に対する告発とも読み取れる記述だ。
 日本製紙の報告書によれば、平成4年から古紙配合の葉書の生産を行っているが、40%という公称配合率に対して、最大でも6%、最小1%という配合しか行っていない。技術的に無理であることを十分に認識していながら、やっていたことが王子製紙の記述からは明らか。
 「工場内発生損紙を含めれば40%の配合が可能という判断があったが、その後、工場内発生損紙は古紙パルプとしては認められないことが分かり、古紙パルプを増配すべきだったが、雑物が増えて品質を確保できないため、配合率が低いまま受注を継続した」。

A君:その文章から言っても、本当は、上白古紙からパルプを作れば、技術的にはなんとかなるということを表現しているし、そのためには、相当のコストが掛かることは、容易に推測可能ですね。

B君:なのに、偽装はコストの問題ではなく、技術的な問題、と言い切った記者会見は何だったのだ。

C先生:確かに、日本製紙と王子製紙の報告書の比較は、なかなか面白い。メディア報道では、両企業が同程度の偽装をしたように読み取れる記事やテレビ報道が多かったが、実際には、すでに偽装に気付き、そのコンプライアンス上問題であることを認識し、そして、是正していた王子製紙の態度と、それを認識していながら、是正ができなかった日本製紙の態度が、その報告書のトーンの中に明瞭に読み取れる。

A君:「偽装はコストの問題だった」、と訂正会見をするまでは、日本製紙を許すのは難しいという結論になりますね。

B君:王子製紙は、残念ながら偽装をしていたが、2004年以降改善に取り組み、そして、コストの高い再生紙を供給していた。恐らく、かなり損失をこうむっていた。一方、日本製紙はコストを下げるために、偽装を続けていた。この両者が共同正犯だと思われるのは不公平だ。

C先生:この問題、最近はさすがに報道も少なくなったが、報道機関は、もう一度、最初からやり直した方が良いのではないか。何が真実だったのか。報告書を十分に検討して、記事を作るなり、あるいは、番組を作るなり、なんらかの再度の取り組みが必要だと思う。
 最後に、製紙企業以外からの報告書をリストアップしておきたい。これも、作った団体のメンタリティーを極めて明瞭に反映したものになっている。

事件発覚からの経緯(これまでの経緯が良くまとまっている)。
http://www.jpbwa.com/news_pdf/080519_1.pdf

製紙連合会の古紙配合率問題検討委員会報告書(ほとんど内容は無いに等しい)。
http://www.jpa.gr.jp/file/topics/20080404044926-1.pdf