-------

シリーズ「持続可能な循環型社会」
  実例で検討するリサイクル 
  06.21.2015
   その1 鉱物資源の枯渇とは何を意味するか        




 ある元素が枯渇寸前、といった言葉を聞くことがありますが、不思議だと思ったことはありませんか。今、もっとも枯渇が近い元素は、ヘリウムかもしれません。

 そもそも地球は物質的には閉鎖系です。厳密にいうと水素ガス、ヘリウムあたりは、余りにも軽いもので、重力の縛りが弱く、大気の上端から宇宙に向かって徐々に離脱しています。しかし、これは例外です。

 ロケットを飛ばして、地球上のある元素を地球の重力圏外に出してしまうことも行われていますが、地球の総重量に比べれば、まあ、カワイイものです。

 多くの場合、通常の元素であれば、人類がいかにめちゃなことをやっても、地球上にはとどまっている訳で、決して、消えてしまう訳ではないのです。

 それなのに、枯渇をするということは何を意味するのでしょうか。これがまず第一の疑問点になるでしょう。

 元素同士が結合して物質になると、多少状況は変わります。例えば、石油は物質です。この物質は燃やせば無くなります。すなわち枯渇します。しかし、その本当の意味は何でしょうか。これは、次回以降の検討課題にします。

 生物多様性が失われると心配されています。ヒトを中心にものを考えれば、これも生態系サービスの担い手が枯渇すると表現できるでしょう。しかし、生命体とは何かを考えれば、元素の複雑な集合体ですが、生命であると呼べるものを人工的に作ることは、現在、人工生命といった研究がなされていますが、今のところできていません。生物多様性が失われるということを突き詰めれば、非常に特別な機能をもった群で、しかも、人工的に作ることができないシステムであるゆえに、それがほぼ永久に(少なくとも数100万年以上)失わるという意味のようです。

 リサイクル・循環を考えるとき、「枯渇」について、基本的な検討が必要不可欠だと思われます。いささか、常識的に過ぎるかとは思いますが、持続可能な循環の考察として、ここから始めようと思います。

 最初に元素レベル、鉱石レベル、次に物質レベル、そして、生物資源レベルとより複雑なシステムへと進むのが妥当のように思えます。今回は、元素と鉱石レベルです。



C先生:ということで、まずは、有用金属の枯渇がもっとも単純だろうから、これから始めるとして、次に化石燃料というか、有機燃料というか、そのようなものを検討し、そして、もっと複雑で生命現象を利用した有機物資源の場合。ざっとこの三段階に分類して話を進めてみよう。

A君:了解。最初は有用金属元素。実例で検討するリサイクルとなっているので、典型的な実例をまず決めないと。

B君:金属元素の枯渇については、もっとも枯渇が心配される元素が何かを議論してから決めよう。

A君:まあ、それで良いのですが、答えは、亜鉛になるだろうということでは。他にも銅とかは候補かもしれません。

B君:それはそれでよし。有機燃料は石油で良いだろう。

A君:生命現象による有機物資源は、食糧ではないものが良いのでは。しかし、大量に使う可能性がなければ検討する意味がない。ということで、バイオ燃料。

B君:天然物の石油との対比で、議論するのが良いかもしれない。

C先生:生命体そのものの希少性というものが、その先の議論になる可能性が高いが、その話は、むしろ生物多様性の問題として議論するのが良いと思うので、今回は、そこまで行かないというより、行けないように思う。

亜鉛の枯渇

A君:さて、先ほど亜鉛を検討するのがもっとも適切ではないか、と言いましたが、その理由は、と言えば、
(1)地殻中での存在量がそれほど多くはない。
(2)硫化物として存在している。
(3)主な用途が防錆膜なので、最後には、溶けてどこかに失われる用途とも言える。
(4)その割には価格的にそれほど高くはないので、循環を進めるインセンティブが低い。
(5)しかも、価格的に許容されれば、恐らく、代替物はある。
(6)生態系を決定的に破壊するほどの被害は指摘されていないが、河川・海域の水質環境基準がある。
(7)ヒトにとって必須元素だが不足気味。食物としては、カキが特異的に高濃度。

B君:そんなところだろう。この七項目に、循環を決めるほぼすべての要素が含まれている。具体的な数値をまとめるか。

A君:まずは、地殻中の存在量から。厳密ではない数値ですが、ランキングは25位ぐらいですね。
 地殻中の平均濃度だとすると、70〜79ppm程度とするのが良さそうです。

B君:それはWikiのデータだな。そこに年間の採掘量がでている。12,500,000トン。銅の採掘量よりはやや少ない程度。鉛の4倍ぐらいの採掘量になる。金属の採掘量ランキングとしては、鉄、アルミ、銅に続くのではないか。

A君:その割には、安価で資源的に豊富だとされていますね。

B君:探せばまだまだあるということなのかもしれない。確かにその要素はあって、余り高価ではない金属資源は、本気になって投資をして探しても、結果的に儲からないので。

C先生:枯渇を議論しようとすると、亜鉛の用途を調べて、リサイクルが可能かどうか、さらに、どのぐらいのリサイクル率なのか、をチェックしないと、なんとも言えない。例えば、鉛は主たる用途が蓄電池なので、リサイクル率がかなり高い。といっても、日本国内だと60%程度のようだ。しかし、統計上、スクラップの輸出が除かれているので、実質的には、韓国、中国などで再生されていて、世界レベルでのリサイクル率はもう少々高いと思われる。

A君:亜鉛の国内リサイクル率は、どうやら20〜30%の間とのことです。亜鉛メッキ鋼板のスクラップからの亜鉛リサイクルも結構あるようです。というのも、亜鉛メッキをそのままにして溶融し、鉄を取り出そうとすると、亜鉛が蒸発して、炉材を痛めるとか、酸化されて酸化亜鉛になると、それが溶融した鉄に混ざると欠陥になるといった理由からのようです。鉄のリサイクルが本来の目的のプロセスなのですが、その前に邪魔な亜鉛を分離しなければならない。そのために、減圧状態にして亜鉛を蒸発させるという方法が取られようです。

B君:まあ、それでも日本での亜鉛のリサイクル率は低い。やはり薄膜状なので、リサイクルしにくいのだろう。

A君:もう一つの要素が、自動車用鋼板のように、塗装がしっかりしていてキレイなものは亜鉛がほとんどすべて残っていますが、いわゆるトタンと呼ばれる亜鉛メッキ鋼板はむき出しで雨ざらしになる用途も多く、亜鉛が溶けて、最終的には海に行ってしまう。だから原理的にリサイクルができない用途も多い。

B君:結論としては、亜鉛の最大の用途はメッキ。大体、50%がメッキ鋼板、その他のメッキに15%ぐらいが使われている。それ以外の用途としては、銅合金用。例えば、真鍮とか青銅とかいった銅合金、専門用語では伸銅と呼ばれる用途で、これも15%ぐらいで、ここまでで80%の用途をカバー。

A君:リサイクル率は、大体30%ぐらいとのことですが、リサイクルのプロセスで不純物が含まれてしまうことが当然起きるのですが、最後には、電気メッキの原理を使った電気亜鉛というものを作ることができるので、純度を高めることは可能です。亜鉛は900℃ぐらいで蒸発するので、この性質を使って、蒸留をすることも可能ですが、この方法による純度は、電気亜鉛ほどには上がりません。

B君:いずれにしても、このようなプロセスがあるために、非常に純粋な亜鉛をスクラップから作ることも不可能ではない。ということだ。

C先生:技術的にそのような高純度化が可能だということは非常に重要だ。しかし、現実には、高純度化のコストが決定的で、非常に高価なプロセスであれば、行われることはない。スクラップの質によって、コストが決まるとも言えるので、できるだけリサイクルが可能なスクラップの姿を想定した製品設計が重要だということになるだろう。

A君:リサイクルでは、DfE(design for environment)ということが重要視されて、簡単に分解ができて、リサイクルが容易に行われること、などが製品設計の中に組み込まれました。そのきっかけになったのが、家電リサイクル法で、リサイクル料金の中で、グループ企業が分解と資源化を行わなければならなくなったことが大きな影響力となりました。

B君:今の基準から言えば、異様に高いリサイクル料金が設定されたと思うのだ。自動車リサイクルも積み立てられたリサイクル料が余ることになって、値下げに踏み切るようだけれど、家電製品のリサイクル料金は値下げされないのだろうか。

C先生:その話は、非常に重要な観点なので、いずれ機会をみてやろう。

A君:今回の主要な検討課題が、「そもそも枯渇ということは何を意味するか」でしたね。

B君:そうだった。亜鉛は毎年1250万トン採掘して行けば、そのうち、鉱山からは採掘不可能になる。現時点での可採年数は、20年前後をフラフラしている状態。

A君:この可採年数というものが曲者で、もしそれを過ぎれば資源がゼロになると考えると間違いで、現在程度の亜鉛価格だとして、まあまあ採算が合う鉱石の量を推定して求めたものです。

B君:ロンドン金属取引所(LME)の価格は、リーマンショック前の2007年には4500ドルぐらいだったものが、リーマンショックによって1000ドルちょっとまで落ちた。その後、若干復活して、このところ2000〜2500ドルぐらい。

A君:という訳で、可採年数というものも、相場に高度に依存するので、余り宛にはならない数値です。究極的に亜鉛鉱がどのぐらいあるのか、と言われても、それはその物質の特性に依存しますね。金属の鉱石は、酸素と結合した酸化物として産出するものと、イオウと結合して硫化物として産出するものに大別できますが、イオウと結合した鉱石の存在量は、地球の元素構成から言っても、酸化物の鉱石よりも絶対量はかなり少ないですね。

硫化物と酸化物の鉱石の違い

B君:そろそろ話題リストの(2)に入った。
 例えば、鉄鉱石やボーキサイトは酸化物として産出するものの代表例。もちろん、イオウと結合した鉄の化合物も地球上には大量に存在する。例えば、黄鉄鉱がその代表例。黄鉄鉱は、きれいな金色の鉱物なので、Poormans Goldなどと呼ばれることもある。Pyriteが黄鉄鉱の英語名。

A君:酸化物として産出する鉄鉱石の品位は、こんな感じで表現できます。高品位の鉄鉱石は少ないけれど、品位を60%、40%、20%と下げていけば、それを満たす鉄鉱石の量はどんどんと増える

B君:ところが、イオウと結合した硫化物は、亜鉛、鉛、銅などの鉱石がそうなのだけれど、鉱石の品位を下げたとしても、その存在量が増えるという訳ではない。酸化物と分離された形で存在している場合が多いようだ。

A君:その事実は、黄鉄鉱の写真を見ていただければ明らかです。元の図はこれです。
http://nl.treknature.com/gallery/Europe/Poland/photo10761.htm


図1:鉄の硫化物である黄鉄鉱(Pyrite)の存在形態

A君:この写真で金色(茶色)の部分がFeS(Pyrite)でして、白い部分が何かは記述がありませんが、ケイ素の酸化物を主成分とする結晶(石英があるのは確実)であることは確かでしょう。鉄でさえ、硫化物は、他の鉱物と混じらない形で存在している。

B君:硫化物系の鉱石は、したがって、採掘が極限まで進むと、枯渇の恐れがあるけれど、鉄鉱石やボーキサイトなどの酸化物系の鉱石は、品位は下がるけれど、枯渇するという恐れは少ない。

A君:ただ、それが本当に本質的な差なのかどうか、そこまで人類は地球を掘りつくしていないので、よく分からないというのが実情ではないか、と思います。

B君:地球は、まだまだ広い。若干横道に逸れて、重希土類(レアアースのうち原子量の大きなもの)であるジスプロシウムの話をしてみるか。ハイブリッド車のモーター用永久磁石などに必須だとされている元素だ。その産出は、ほぼ中国国内に限られていて、輸出制限を掛けたものだから、入手が困難になって、価格が暴騰した。たしかに、非常に特殊な存在状態なので、現時点では中国国内に産地が限られているのだけれど、よくよく探せば、世界中のどこかにあるかもしれない。

A君:化学屋だとすぐに周期律表を見るのですが、ジスプロシウムなどの希土類はランタノイドという15種の元素からなる分類になっていて、周期律表のすぐ下にアクチノイドという分類の元素があります。性質が似ているのです。アクチノイドのウランより重い元素は人工的に作られた元素ですので、天然に産出する元素としては、トリウムとウランの二種類だけを考えれば、まあまあ十分なのですが、希土類の鉱石には、トリウムがほぼ含まれているのです。トリウムは放射性元素ですし、核燃料にも使える元素ですから、商品化するには、トリウムをかなり厳密に除去する必要があるのです。

B君:ところが、中国の重希土類の鉱石は、花崗岩が風化して、雨水などで水に溶けやすい成分が溶け出して、それがどこかに流れて溜まり別の泥に吸着された形で存在しているというものなのだ。そのため、水に溶けにくい極めて安定な元素であるトリウムは、風化したところに残されていて、重希土類の鉱石にはほとんど含まれていない。そのため、この吸着鉱と呼ばれる鉱石は、その後の処理が簡単なので、ジスプロシウムの精製費用が安くて、経済的競争力が高いのだ。

A君:という訳で、枯渇というもっと資源として重要な特性を考えようと思えば、やはり、鉱石の話まで知らなければならないですね。

代替物の問題

C先生:その他の項目で、リサイクルに影響することはなんだろうか。

A君:さきほど提示したリストの(5)代替物があるかどうかは極めて重要です。

B君:その通り。メッキ材料として亜鉛が使われるのは、価格的にも有利だから。これは金属が比較的安価ということだけでなく、メッキ工程も簡単だといったことがある。鉄の薄板の防錆をするとなって、もしも亜鉛が無かったら、恐らく、アルミをなんらかの方法でコーティングすることになるだろうけれど、経済的見地から合理的なプロセスはあるのだろうか。

A君:溶融アルミナイズ処理という方法があるみたいですね。700℃に溶かしたアルミに鉄のパーツを浸漬して、表面にアルミ層、鉄ーアルミ合金層を作る方法です。鉄の薄板にも可能なのでしょうか。

B君:アルミナイズ処理によって、薄板の加工性や反りなどの問題がでるかどうかではないか。

A君:現時点の結論としては、亜鉛が無くなって困れば、アルミで代替される可能性が高いと考えれ良いのかもしれません。

B君:代替物がアルミであれば、環境毒性などもそれほどは大きくないと考えらので、環境汚染なども対応しやすいのではないか。

C先生:さて、以上のような結論だとして、亜鉛のリサイクルはどう将来プランを考えていくべきなのだろうか。

A君:しばらくは亜鉛メッキ鋼板で行けそうですね。リサイクルは、亜鉛メッキ鋼板からのリサイクルシステムをしっかり回すこと、ではないですか。

B君:かなり保守的な対応でしばらくは良いのかもしれない。リサイクルに必要なエネルギー源を低炭素化することが、エネルギー効率を高めることが必要な対策。亜鉛資源が問題になるのは、2050年頃になると、埋蔵量ベースを超す需要が出てくるだろうから、亜鉛の価格はかなり高くなる。となると、できるだけ亜鉛の代替を考えておくことは必要不可欠。

リサイクルの長期的政策は?

C先生:以上のような動向は、多くの金属資源で言えることだろう。銅も同様のことが言えるのではないだろうか。鉄、アルミは、地殻鉱物だから、元素の存在量としてはほぼ無限。最終的に、鉄、アルミで代替できれば、なんとでもなる。となると、次の問題が、高純度化する方法論が確立しているか、であって、蒸留法とか電気分解とかいった方法論が可能な金属であれば、条件は満たすことになる。
 すべての金属の機能を鉄、アルミで代替できるのかどうかは大きな問題。勿論、その他にもクラーク数が多い元素も活用できるかどうか、という問題でもある。
 これは、高機能性材料としての元素の代替が可能か、とも表現し直すことができて、例えば、永久磁石用として希土類が不可欠なのか、といった問題に回答を与えることになる。恐らく、Nd-Fe-B磁石などを上回る実用的な永久磁石が新規に発明されることは難しいかもしれない。となるとNdという元素が十分かどうか、ということになる。一般に、希土類は、存在量そのものはその名前の希という字に反して、結構多い。念のため、スクラップをどこかにまとめて保存しておいて、本当に必要になったら、鉱山代わりに使うという戦略が良さそうに思える。取り敢えずは、大型のモーターぐらいを対象に考えれば良いのではないだろうか。携帯のバイブレータに使われている磁石まで対象にする必要は無いのかもしれない。

A君:ちょっとまとめ直します。
(1)その元素の代替性が重要。特に、地殻鉱物に含まれている元素で代替できるかどうか。
(2)高純度化する方法が確立していれば、比較的楽。
(3)高機能材料の場合の特殊元素、例えば、Nd(ネオジム)磁石のような場合には、元素的には地球上にかなり存在するが、念のためスクラップを戦略的に備蓄することもあり得る。

B君:前回、太陽電池のガラス板をリユースあるいはリサイクルできないのはもったいないということを議論したけれど、ガラスの原材料は、上記の(2)の条件が難しいから。ガラスの主要原料の内、珪石はSiO2だけれど、天然産の高純度なSiO2は、自然現象によって、不純物が還元されたり、水によって分離されてできた。言い換えれば、地球ならではのプロセスで精製されたもので、これを人為的に再現しようとすると、かなり難しい。純粋なSiO2は、コメの藁の中にもかなり存在するが、これを工業レベルで実用化するのは将来とも困難だろう。天然に産出する珪藻土を処理して高純度化するといった方法論がもっとも現実的かもしれない。

A君:要するに、ガラス製造に使われている珪石の高純度化プロセスは、勿論、一旦、塩素化して気体状態にした上で蒸留するといった光ファイバー用のプロセスは、別途存在しているけれど、それを板ガラスに採用するのはコスト的に無理ということですね。だから、恐らくは、ガラスからガラスというリサイクルシステムもあることだから、建築リサイクル法で回収を義務化すると同時に、太陽電池のガラスもリサイクルを積極的にすべきではないか、ということになるのでは。

B君:そう思う。ケイ石のような鉱物資源は、地球の天然精製システムによってできたものなので、比較的枯渇しやすいと言えるのかもしれない。

C先生:まあ、そんなことだ。要するに、現時点の科学の知識で、絶対にできないということは少なくなったが、コスト的に適正は範囲内で行うことができるとは限らない。将来、どの鉱物資源の価格がもっとも変動する可能性が高いか、それには、かなり包括的な知識が必要不可欠ではあるが、徹底的に調査研究を行って、優先順位を付けておくことが、日本のような資源に恵まれない工業国にとっては、重要なことなのだと思う。