-------

    「デジタルグリッド」 阿部力也著  02.03.2019
       50,60Hz共存の国の未来は暗いか

               



 パリ協定を実現するとなると、2030年の目標値の達成がまずは条件になりますが、その先の2050年あたりのゴールとなると、なかなかイメージが浮かばないのが実情。いくつもいくつも考えなければならない限界があって、そのすべてを満足させながら、2050年におけるエネルギー供給の理想的な姿をイメージすることすら難しいのです。

 制約事項としては、(1)燃やすとCOを発生する液体燃料・気体燃料の存在が有り得ない。 (2)しかし、備蓄できる液体燃料はある程度の量が必要不可欠。となると、カーボンニュートラルなCOを原料にして、水素を用いて、液体燃料(一部、気体燃料)を合成しなくてはならない。

 ここまでなら、まあ、比較的簡単に理解ができます。しかし、もっとも難しい課題が、どのような電力システムになっているのか。必須の条件は、同じくCOゼロであるが、再生可能エネルギーという気まぐれ・不安定な厄介者を、どうすれば、大量に電力網に導入することが可能なのか、でして、このイメージを持てない。

 これは、筆者が電力網の素人であるからが根本原因ではあるのだけれど、専門家、すなわち東京電力をはじめとする現行の電力の専門家がどのような未来のイメージを持っているのか、しっかりした思想が公表されていないように思えます。意思の表明がこれほど無い状況が続くと、今のまま、2050年でも現在のビジネス持続ができると思っているのか、と理解(誤解)してしまうのです。

 しかし、そんな甘いことは絶対に起きない。海外の状況をちょっと見ると、日本という国が、さすが島国というぐらい独自性があるためか、かなりの遅れた状態で動いていることが分かります。

 そもそもこの国は、日本50Hzという国と日本60Hzという国に二分割されていて、この電力網は、現状では、大欠陥状態であると思っています。すなわち、50Hzの地域と60Hzの地域が混在していて、この境界を超すためには、交流を一旦直流に直して再度交流に戻すという面倒な仕組みが必要不可欠な国である。その最大変換容量が、現時点では、120万kWのようで、そして、2027年度までに300万kWまで増強される予定となっています。

 本州と北海道は、同じ50Hzであるのですが、海底を通すために、直流にして連結しています。現在、60万kWの容量であるが、新たに青函トンネルを通るルートで30万kWの増設が間もなく完成するのでしょう。

 そもそも、交流というものは相当に厄介なもので、周波数をピッチリ合わせなかければならないのです。これを同期型電力系統と呼びます。ところが、負荷が高くなると、周波数は下がり気味になる。なぜなら、発電機が回るのにより多くのエネルギー必要になるから。それをなんとかして、周波数を維持するために、電力会社は大変な努力をしているのです。太陽電池のセルは、もともと非同期で発電(太陽任せで発電)をしてしまう素子なので、これが大量に入ると同期型電力系統とどうやって折り合いを付けるのか、大問題となるのです。風力も風まかせなので、夜にも発電できるので、かなり有利ですが、同じようなものはあります。

 もしも根本的な解決を目指すとなれば、どうやら現在の技術の延長線上に答えは無さそうです。なぜなら、パリ協定のNZEを国産エネルギーで満足させようと思ったら、北海道と東北の再生可能エネルギー(風力)が頼りであって、他には、房総半島の洋上風力、などが有力である程度で、西日本には大きく依存できる場所が見つからないのです。場合によったら、ロシアから電力の輸入を考えるといった離れ業(実際、400km以上離れている)を考えなければならないのかもしれない。

 前回にも述べたように、このような問題意識で、この年末から正月には、3冊の本の読破に挑戦することにしました。今回の本が、その3冊目になります。著者は阿部力也先生で、現時点では、東京大学の特任教授。デジタルグリッドなる未来の形態を予測し、普及することを目指しています。しかし、予備知識が多少あるぐらいでは、非常に難しい本でした。苦戦の連続であり、いまだ中途半端な理解です。

 「Digital Grid デジタルグリッド」
 阿部 力也著
 平成28年11月1日
 (株)エネルギーフォーラム
 本体1800円


C先生:パリ協定を遵守するためには、何が必要なのか。これまでもしばしば述べているように、「パリ協定とはエネルギー革命」であることを認めることが出発点だと思う。億年単位で地球が太陽のエネルギーを化石燃料として貯めてくれた。それを使う技術を開発したのが産業革命。それ以来、化石燃料を300年程度使ってきたけれど、燃やすことで発生するCOの怖さを、人類はこれまで全く知らなかった。大気中の寿命が万年オーダーで、100年程度の寿命のあるヒトからみると、一旦上昇した気温は永遠に下がらないことと等しいのだけれど、この重要な知識は、いや、事実は、まだ一般社会に共有されていない。

A君:さて、この問題の解決方法は何か、と言えば、解は一つしかなくて、化石燃料を使わないで、自然エネルギーによる電力がメインの社会に切り替えること。原子力もCO排出の点では”有り”なのですが、現行の軽水炉は、使用済み核燃料の処理処分が余りにも面倒くさいので、嬉しくないですね。となると、勝手に電気を出す種類の再生可能エネルギーが主力になってしまう。

B君:阿部力也先生の提案するデジタルグリッドが、どうやらそのための解決法らしいのだが、どうみても、現状の電力システムの考え方は全く違うように思える。

A君:そのようです。太陽電池・風力発電が多くなりすぎると何が起きるのか。それをどう克服できるのか。

B君:例えば、何を克服しなければならないのか、簡単に言えば、太陽電池からの出力を分担しているインバーターの不出来なところをなんとかする必要がある。その第一の理由は、インバーターは、系統の周波数に合わせて交流を作っているから。もしも、電力が余り気味で、周波数が高い状態でも、その周波数の電力をどんどんと送り込んで、ますます電力が余る状態を作るから。

A君:その場合の対応法としては、もしも系統の周波数が高いときには、インバーターが電力を捨てるという方法論しかないことになる。

B君:今の電力システムそのままでこの問題を解決するとなったら、水の電解装置を接続しておくけれど、普段は動作しない状態にしておく。もし、電力が余って周波数が高くなったら、運転を開始して、電力を水素に変える。この水素は、バイオマスを燃焼して得たCOと反応させて、メタンなどを合成するのに使う(メタネーションと呼ばれる技術)。勿論、水素燃料電池用の水素として有効活用することもあり得る。

A君:それは良いのですが、装置の運転時間が短くて、設備投資をしようという気にはならないですね。

B君:阿部先生の結論としては、どうもこんな感じ。「現在の電力システムでは、未来の再生可能エネルギーが主役になる電力系統を構成できない」

A君:加えて、こんな主張では。「すでに存在する技術では、実現は不可能なのだけれど、それに加えて、現在の制度が大問題で、これを変えなければならない。その際に使用される技術の名前が『デジタルグリッド』である」。

B君:ちょっと先走り過ぎ。ドイツは、あれほどの再生可能エネルギーを導入できた。しかし、日本はできないとされている。その理由から説明しないと。

A君:ドイツのグリッドは、7ヶ国につながっていて、そのグリッドの規模が6億7000万kW。ドイツの再エネの輸出入の変動の規模が欧州全体の電力系統規模の2.2%ぐらい。

B君:日本の東日本の50Hz域の規模は、東京電力と東北電力で7500万kWぐらい。北海道電力とは、直流で繋がれているので除外。要するに、電力網の規模が小さい。そのため、発電電力の受け入れ可能な幅も非常に小さい。

A君:ということは、北海道には、再生可能エネルギーのポテンシャルが大きいのだけれど、そこで、発電しても、東京に送るためには、まず、北海道と東北を結んでいる北本連系線を今の何倍にも強化しないとならない、ということになります。

B君:中部から西日本、九州までの60Hz域は、風力発電のポテンシャルが少ない。やはり、現在の同期電力系統では、国土的な限界が非常に大きくて、再生可能エネルギーの導入量が限られてしまう。

A君:となると、結論としては、日本という国土の状況と電力系統だと、全く別の電力系統システムを導入しないことには、多量の再生可能エネルギーを入れることができない。すべての家庭が大きな電池、あるいは、電気自動車を持つというシナリオも理論的には不可能だとは思えないけれど、現在だと300万円以上ぐらいの投資が不可欠。将来、電気自動車だけになれば、それを電池代わりに使うという方法がもっとも合理的かもしれない。

B君:いや。災害による停電対応を考えると、COは多少出るけれど、プラグインハイブリッド車も考えるべきではないか。給電量は1500Wと量は少ないけれど、ガソリン満タンなら1週間以上の発電が可能なので。単なるハイブリッドだと、普段の走行がガソリンなので、CO排出量の点で、ちょっとむずかしいかもしれない。

A君:阿部先生の提案がデジタルグリッド。これは、配電網の自由化が必要。現在、電力系統の配電網では、一需要家一受電と決まっています。しかし、これは法律で決まっている訳ではなくて、電力会社の供給契約約款が決めていることです。

B君:阿部先生に言わせれば、太陽電池を所有している家は、すでに「二受電」になっているとのこと。もう一つの電力が太陽電池の付属品であるインバーターから来ているので。

A君:まず、この社会的な枠組みを変えることが第一でしょうか。次に、阿部先生の「デジタルグリッド」のような再生可能エネルギーを大量に導入できる「同期電力系統ではないシステム」を導入するが解になるのでは。

C先生:そこから先は、デジタルグリッドの説明になるのだけれど、これは本サイトには向かないぐらい専門的。我々がもう少々勉強して、もっともっと噛み下せる実力を付けないと無理だ。現時点では、使う技術のリストだけでも作ろう。

A君:了解。
1.日本名「時刻同期電力系統」
2.時刻は、GPSから得ることが基本。
3.インバーター(交流と直流を変換する機器)が複数台。
4.電力インターネット
5.デジタル・インバーター
6.電力パケット
7.CO
の価値もパケット化

B君:2.の簡単な説明を。これまでは、系統から供給される電力が時間軸も決めていた。しかし、GPSであれば、10のマイナス13乗の精度があるので、同期電力を作ることが可能

A君:3.インバーターは、最近の電気機器にはほぼすべて搭載されている。典型的なものが洗濯機。昔の機器は、モーターと洗濯槽がベルトで動力を伝達していたけれど、現在の機種は、ほぼすべて直結。洗濯槽が直接モーターで駆動されている。そのためには、交流ではあるけれど、1Hzとか言った電気が作られています。

B君:4.電力インターネットは、通常のインターネットと同様に、IPアドレスでハードウェアが特定されるシステム。当然、アドレスの数がほぼ無限のIPv6を採用。

A君:5.デジタル・インバーターは、一つのハードウェアで、DC/DCコンバーターなど多様な機能をもつように設計される。

B君:6.電力パケットは、インターネットの通信が、情報のパケットで送られることと同様のもの。

A君:7.排出するCOの量などの情報もパケット化して送られる。これは、インターネット上での情報としてなのだから、当然。

C先生:確かに、全く新しい電力網の提案だと思う。ただ、これが唯一の解だとは思えない部分が残る。基本的な発想は非常に優れているとは思うのだけれど、技術的に優れているという理由だけでは普及しないのが現実の世界。直感的には、このシステムは現行のシステムと余りにも発想のレベルが違う。もし、このシステムが一瞬で実現することになったら、現在の電力会社は消滅することになるように思える。これまでの同期電力網に一時期でも併存する形で、全く新しいシステムを作ることが可能なのかどうか、といった過度的な状況がどうなるかの検討が不可欠なのではないか。
 もう一つ重要なことが、電力供給と同時に、熱供給も考えるということで、本書でも指摘されていることである。特に、固体電解質を使った燃料電池(SOFC)の効率は、熱まで計算に入れれば、90%ぐらいになる。ただし、現在の天然ガスが燃料であると、どうしてもCOが発生してしまうが、2035年ぐらいまでは仕方がないことなのではなだろうか。それから先になると、カーボンニュートラルなCOと水素から作る合成ガスにせざるを得ないかもしれないし、それでも2050年を越すことは難しいかもしれない。
 この本最後の方に出てくるけれど、この提案は、米国のEPRI(Electric Power Research Institute)でもテストをしたらしい。日本の有力な研究所では、様々な利害関係があるので、テストができない状況なのかもしれない。スマートメーターが今後日本でも増加することになっているが、その実態であるハードウェアは、実は、米国製のメーターだったりするようだ。どうも、公的な制度に関しては、日本という国はブレーキがしっかり掛かっているような気配なのだ。
 結論として、デジタルグリッドが最終型だというつもりは全く無いけれど、あらゆる可能性について、もっとも自由に議論ができないようでは、いよいよ世界の流れの方向性から置いていかれることが確実のように思えるのだ。もっと、危機感をもって欲しい。
 さてさて、以上で、3回に渡って書籍の紹介をしてきたけれど、何か、感想はあるかな。

A君:やはり、日本列島という島国の特異性を日本人は良い方向にしか理解していないですね。確かに、「世界とはちょっと違う良さ」を持った国なのですが、少なくとも、何が問題なのかというと、それがエネルギー供給体制。特に、パリ協定対応のCOゼロを実現するときのもの。この実現のためには、電力網をできるだけ広範囲にして、需要が分散するようにすることが条件。しかも、その電力網は、網の目型が望ましいのですが、日本列島のように細長い土地での電力網は、魚の骨型になってしまう。となると、少なくとも、魚の背骨部分は非常に大容量なものにしなければならないのでしょう。さらに、すでに述べた50Hz、60Hzの問題がある。

B君:あとは市民側の理解かな。そもそも、電力供給というものが、実は非常に難しいと思えないほど、日本の電力は安定だった。しかし、その理由は100%これだった。すなわち、「化石燃料が使えたから」。地球が億年単位で貯め込んでくれたものなので、貯めることとなれば、化石燃料が最適に決っているのだ。再生可能エネルギーの形態である電力を貯めるには、非常に高価な設備を必要とする。これが第二番目に必要な理解かな。

C先生:電力というものを理解するには、かなりの予備知識が必要なのだけれど、残念ながら、高校の理科でも習わない。となると、多少なりとも電力というエネルギーを語ることができる人は、大学で理系を専門とし、エネルギー学とか熱力学とか言った講義を受けていた人に限られてしまう。したがって、平均的に言って、メディアの記者であっても、エネルギーの本質を語れることができる人は希なのだ。これまでも説明した同時同量といったことは、実は、大学の理系の講義としても、通常は出てこない。それこそ、電力工学を専門とした人だけが知っていることなのかもしれない。勿論、「雑学博士」であれば、話は別だが。
 ということで、3冊の本でどれを読むことをお薦めか、と言えば、やはり、竹内純子さんの編著になる、「エネルギー産業の2050年」かな。ただ、市民的な感覚から言えば、この題名だと、エネルギー産業とは無関係な市民には不要の知識のように思えてしまうことが最大の問題
 最初、この本の題名を見たとき、これは一般人向けではないな、と判断してしまったぐらいなのだ。