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     「エネルギーデジタル化の未来」   
        結論:この程度の情報では不十分 01.19.2019



 江田健二氏の著書の紹介
 (エネルギー情報センター理事)
 出版社:エネルギーフォーラム
  2017年2月26日 第一刷発行
  2018年4月7日  第三刷発行


C先生:昨年末のことになるが、電力の未来に関する記述をしていると思われる本を、渋谷のジュンク堂で立ち読みして3冊ほど選択し、そして購入した。これらを正月の間に読破することをノルマにしていた。この本が最初のノルマだった。「しっかり読んだ上で、1月どこかの記事のネタにするからよろしく」と言ったよね。

A君:小泉元首相の「原発ゼロ」の本が割り込んだので、ちょっと遅れましたが、まあ、専門からは遠いのですが、ちょっとだけなら議論できますね。

B君:タイトルにある江田氏の本。エネルギー情報センターの理事という方による本だが、どういう人物?

A君:エネルギー情報センターとは、会員制の総合情報サイトである「新電力ネット」というものを運営している一般財団法人(企業と思えば良い)。この本の著者である江田健二氏は、もともと(株)PAULという企業を2005年に設立し、その後、一般財団法人を立ち上げたようです。1977年1月5日生まれ。

B君:元アクセンチュア日本法人の社員が独立したという感じ。もともとエネルギー・化学業界を担当していた。卒業大学は慶応の経済学部

C先生:大体経歴は分かった。電力の専門家という訳でもなさそうだ。本日の構成は、普段よりも自由な形式にしよう。なんとなく雑談をしながら、その結論のようなものを、A君、B君の共同作業で、まとめてもらおう。途中で分かると思うけれど、この本は、そんな読み方が似合うと思うので。では、スタート!

A君、B君:了解。まず、二人でまとめた読書感から。
全体の感想: 電力の未来の姿を知りたい人にとって、極めて基礎的な知識を提供している本である。しかし、むしろ、電力に関する新しい記述はほとんど無いに等しいとも言える。しかも、電力独特の技術的なバックグラウンドなどはすべて省略されている。むしろIT系の知識の持ち主が書いた本で、「IT屋から電力を見ると似てる要素があるね」というスタンスでまとめた本だと言えるかもしれない。しかし、本来は、電力と情報系とは全く違う情報は、それだけで価値があるのだけれど、電力の場合には電力だけに価値があって、その状態を示す情報は、取引などには重要であるものの、あくまでも付加的な情報なのだ。要するに、電力を運ぶには、それなりの太い銅線が不可欠だけれど、情報の場合には、光ファイバーがあれば、それだけで良いという根本的な違いがあるのだが、太い銅線側の事情や状況がどうなっているかについては、ほとんど説明されていない。すなわち、電力の将来について知りたいとしても、この本を読んだからといって、何が分かる訳でもないと言えそうである。
 しかし、一方で、電力は元々実態はあれども、重さはないものなので、要するに情報と全く同じ扱いをすることも不可能ではないという特性があるのは事実。もっとも、情報伝達に使うエネルギーと、例えスマホであっても、何かを駆動しようとすると、どうしても必要となるエネルギー量のレベルが違う。そのあたりを無視していることは、題名をしっかり理解すれば分かる。「エネルギーデジタル化の未来」であって、これは、「エネルギーに関するデジタル技術の未来」を語るという意図であり、「電力網そのものの未来」を語るものではないからだ。

A君&B君:全体の感想としては、まあ、こんなもので良いとしよう。

A君:では第1章から。

A君&B君の感想:
 全体が3章構成になっていて、第1章では、電力自由化に踏み切った理由などが書かれている。しかし、この章で書かれているように、電力は送電インフラを伴うものなので、デジタル情報であれば、それ自身に価値があるが、電力の場合には、送電網が別途必要で、エネルギーが送られることによって、やっと売買が成立するのだ、という理解は余り強調されていない。さっと読むと、電力と情報は同じものであるという誤解をしてしまうのかもしれない。
 実際、その差は非常に大きいのだ。電力の伝送に使う太い電線と、情報用に光ケーブル、この2本の両方が不可欠、という表現がもっとも良いかもしれない。送電用ケーブルであれば、電力を送るので、銅線でしっかりした太さが必要。一方、情報であれば、光ファイバー1本で、莫大な量の情報が送れる。要するに、情報は情報に過ぎないが、電力あるいは送電とは、エネルギー伝送なのであるというところの説明が余りない。

A君:しょうがないと言えば、しょうがないけど、誤解してしまう読者が出そうな気もする。この本の「本当の狙い」は、これから議論することにましょう。

B君:次に行こう。

A君&B君の感想:
 第2章になると、スマートメーターのデータの活用から始まる。上述のように送電とは、エネルギー伝送なのだが、一旦インフラが整備されてしまえば、あとは情報によって、スイッチを操作すれば、制御はほとんど可能である。だから情報系だとも言える。勿論、どこかに風力発電を大量に建設することになれば、北海道、東北が主力になる。そのために、送電線の増強が不可欠になることは当たり前。現時点の日本だと、こちらの方が大きな問題であるというのが現状。
 しかし、それから先は、先端技術の紹介にとどまっている。「ワイヤレス充電ができる」としているが、スマホの充電がワイヤレスでできたとしても、充電器の上にスマホを置けば別だけれど、部屋のどこにあっても充電が可能なシステムを作ろうとすると、無効電力の量が相当のレベルになってしまう。そなわち、効率が悪い。そんなことが記述されていない。まあ、EVのワイヤレス充電は技術的意味があるけれど、スマホレベルでは、ほとんど無意味。やり方も決まっているから、面白みが無い
 日本という国の特異な状況も無視されている。将来、自然エネルギー主体の電力網を作ろうとしても、相当な限界がある。太陽電池はあまりにも気まぐれなので、電池が不可欠。となると、コストは高くなる。風力は、夜でも発電できるという意味で、太陽電池とは全く違うのだが、やはりこれまでのやり方、すなわち、「需要に合わせて発電量を変える」ということは不可能である。余った電気を捨てるという以外の方法を採用しようとすれば、なんらかの電力貯蔵の設備が不可欠である。こんな真実が無視されている。
 すなわち、電力の議論をしようとすれば、必ず同時同量という話が出てこないと現実性が無いのだが、この本では、同時同量という言葉はどこにも見当たらない。すなわち、電力そのものの変革を語るのではなく、そこで使われる可能性があるデジタル情報技術だけを語る本なのである。
 しかし、さすがにそれだけを厳密に書くだけだと、だれも関心を持たない可能性がある。なぜなら、電力は今や生活環境の一部でしかないので、有って当たり前。もし無くなったら困るという理解が一般的。「電気の利用情報が資産となる時代」だという指摘をしているが、実は、それに関係する個人は極めて少数である。一般人は、それを知らなくても自動的に制御されてしまう、というか、もし電力が不足したら、自分の家に備えた蓄電池から電力を補充するということだけであって、もし蓄電池に溜まった電気を使い切ったら、停電する以外に方法は無いのである。もし災害時のような非常事態であれば、ハイブリッド車のガソリンを使って、発電をするしかない。デジタル化がいくら進んだとしても、発電量が大きく下がったときの非常時対応は全く無力なのである。

A君:ここまでを振り返ると、ちょっと、失望した記述ということでしょうかね。

B君:やはり電力というものを、根本から理解してもらうという発想はなさそうだ。エネルギー情報センターの理事ということだが、正確には情報センター(エネルギー関係も少々)といった感じなのではないか。

A君:ただ、エネルギー関連の新ビジネスは、米国などでかなり盛んになっている。だから、もし情報のプロであれば、ちょっと電力のことを勉強すると、そこでなんらかの稼ぎは可能だよ、という主張であれば、まあ、正しいのでは。

A君&B君:まあ、エネルギー分野で「情報技術で金儲け」を狙う人が最初に読むべき本ぐらいか。

 第3章は、ビジネスチャンスの見つけ方という表題である。しかし、実態は、事例の紹介だけ。

 実例その1:最初は、Enernoc社というデマンド・レスポンスサービスをしている企業の紹介。
 しかし、電力が不足したら、結局、どこかで電力消費を減らす以外に方法はない。これが厳然たる事実なのである。すなわち、消費者が電気を減らさなければ、と考えてスイッチを切る以外に方法論はないのである。そのために、「現在、電力不足ですから、これから電力の単価が3倍になります」、というメッセージを出すと、普段、米国のような国では、エアコンのスイッチを切ることはなくて、旅に出るときもエアコンは入れっぱなしが普通なのだけど、さすがに3倍となると切る人も出てくる。これと同じことを日本の夏にやろうとすると、もともとかなりケチケチとエアコンを使っている人が多いので、もしエアコンを止めたら熱中症による死者続出という状態になってしまう。このようなサービスが、果たして日本で成立するのだろうか

 実例その2:次に紹介されているのが、ニュージランド・オーストラリアのPowershopという企業。日本では当たり前の、電力は使っただけ請求が来るという常識を破ったもの。電力を事前に購入することもできたり、季節変動する電力単価を、1年の平均値で払い続けたり、場合によっては、使った電力代をしばらくしてから払ったり、かなり自由自在。要するに、払う方法を消費側の都合で決めて良いという商売。まあ、金融業。

 実例その3:三番目に紹介されるのが、Espotという日本での試み。プリペイドカードかクレジットカードで、店舗や特別なスポットでスマホの充電ができるというもの。20分間の充電が100円。
 感想:正直な話、これって魅力的ですか??

C先生:やはり日本の実例はインパクトが無いなあ。

 実例その4:次が、イギリスのMoixa Technologyという企業。ネットワーク型の蓄電池を開発し、家庭や企業に販売している。電気料金が安い時間、あるいは、自宅の太陽電池が発電しているときに充電するというもので、次の世代のニーズにあっている。
 蓄電された電気は自分でも使えるし、他に売ることもできる。これは、日本でも実現する方向だろう。

A君:日本でも2019年問題といって、FITの期限が来てしまう太陽電池に対して、どのような対応をするのか、という問題が発生しています。実際、C先生宅の太陽電池は、FITが始まるかなり前に設置したものなのですが、さてどうしようという状況ですよね。

B君:このMoixa Technology社が日本にあれば良いな、という感じはするね。東電が新しい企業を作ったようではあるけれど。


 実例その5:次がWattway。フランスの建設会社Colasが国立太陽エネルギー研究所と共同で開発したもので、道路全体を太陽電池にするという方法。フランス政府は、今後5年間で1000kmの道路をこの方法で発電所にするとのこと。加えて、世界100ヶ所で試験運用を行うとのこと。

A君&B君:これはこれで良いかもしれませんね。小泉元首相の本にも、実は、出てきたけど。

 実例その6:(株)音力発電所。日本ではメディアに騒がれて有名になりましたが、慶応大学の湘南藤沢キャンパスからの学生ベンチャー。いわゆるエナジー・ハーベスティングという考え方で、どこにでもあるエネルギーを使って、発電をしようというもの。

A君:しかし、これがいくら進化しても、これでテレビや冷蔵庫が使えるようになる訳ではないのです。まして、道路の振動を発電に使って、それで電気自動車が走る訳もないのです。もっとも有効な応用方法は、将来、すべての家に設置されるであろう電力消費を下げるためのセンサーの電源用など。例えば、その部屋に人が居なくなった自動的にエアコンの出力を下げるための人感センサーなどがかなり多数設置されると考えられますが、そのための電源を配線するのは大変に面倒です。自分の動作するためのエネルギーぐらいは、センサーが自分で発生させる、という世界が来ると良い。

B君:まあそんな評価が順当なのでは。

A君:先日のICEFでも、元東大生産研の藤田先生がそんな話題を提供していました。そのために使うことを考えるのが、もっとも正統的だと思いますが、残念ながら、この本にそのような記述はありませんね。
 なお、音力発電所の社長のインタビューがしっかり掲載されています。「相変わらず」という印象。大きな商売は無理だと思うけど。

 実例その7:C3IoTという米国の企業。Googleの関連会社らしく、IoTに必要なハード・ソフトを統一的に販売しているらしい。

A君&B君:現時点のIoTの状況は、やはり、企業の人件費の削減などが最大の目標であって、エネルギーやCO2排出の削減に繋がる訳では必ずしも無い。しかし、そのうちに、そのようなマインドが重要になることも予測していて、それには、カーボンプライシングが必須だろいうというのが最終見解。
 このC3IoTという企業も、エネルギー料金の削減を目的としたサービスをやっているとのこと。それは、米国の場合の電力価格のシステムが日本と違うから実現できているのではなかと思えるのだけど。


 実例その8:日本のSassor(颯爽のモジリかな)という企業。家電ごとの電力使用量をモニタリングできる機器を開発している。しかし、高そう

 以上で企業の紹介は終了。

C先生:こんな感じなので、この本を買うことをお薦めする対象は、情報系の未来像をよく知っていて、それを活用して、電力分野でなんらかのベンチャーを立ち上げたい人なのだが、そんな人だったら、この程度の内容は知っているはずなので、特に買うまでもない。
 すでに買った人に対する警告だけれど、情報技術だけ分かっていて、「なにか電力が新しい市場になるらしい」と思ったら、大間違い。電力業界と情報技術業界とは、全く、重さが違う。むしろ、電力業界の重い重い状況を批判的に解析して、現状、硬直状態にあるから、大きなビジネスチャンスがあることを論理的に証明するようなスタンスで書かれた本が、本当は必要なのだ。

A君:電力の未来が本当にどうなるのか、といったことは、この本からは得ることは不可能です。

B君:となると、誰が買うのだ。まあ、情報系の技術に関して余り詳しくはないけれど、現在の日本の電力は自由化が行われてグジャグジャ状態なので、なんらかのビジネスチャンスが落ちているはず。それを見つけたいから情報系と電力の関係を記述した本が欲しいという人かな。

A君:まだまだ情報関係の実力の無い初心者がこの本を買って勉強しても、とても間に合うとも思えない。

B君:そうか、これを読むべき読者層が分かった。ただ、実例を読んでも、日本の実例が相当寂しいものばかりなので、海外動向をもっと調べれば、なんらかのヒントにに巡り会える可能性が高くなる、といった感触を得るためならば、読む価値があるかもしれない。

C先生:しかし、このぐらいのレベルの本が、意外と売れているのではないか。

A君:アマゾンをチェックすると、江田氏は、「世界の51の事例から予見するブロックチェーンxエネルギービジネス」を2018年6月20日に刊行していますね。その評価がほぼ満点。実は、本書の評価もほぼ満点。まさに、狙い所を突いていますよ。

B君:そのコメントを見ると、やはり、「これで一発狙えるか」という感想のようにも思える。電力側の実情を知らない感想のように思える

C先生:やはり予想通りということか。電力改革に関しては、日本の場合、妙な拘束条件が多いものだから、なかなか進まない。そもそも、日本では、FIT制度にしても、余りにも強烈すぎて、全く持続可能ではない政策だったように思える。当然、「これで儲ける」と決めた人は、実際に、儲けることができた。そのため、電力というと、またまたFITと同じようなチャンスが来るのではないか、と思っている人が多いということなのではないか。実際には、もう来ない。すべて入札制になるのが未来像。
 残念ながら、本書で述べられた状況と、本当の未来の状況はかなり違うのではないだろうか。日本では、相当に地味な世界に変わっていくような気がしている。電力は社会インフラの最重要要素であるという考え方に戻して、政策的に整備計画をしっかり作らないとダメだろう。もともとの国土の状況が再生可能エネルギーの全体像を規定してしまうため、再エネを中心として、化石燃料離脱の議論をすればすぐ分かるけれど、日本のエネルギーの未来はかなり暗いので。逆に言えば、送電線などに関しては、やるべきことだらけだ。