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 ダイオキシンの現状 04.13.2008
     



 久々にダイオキシンの話題である。特に、何が状況が変わったという訳でもない。ここ5年間ぐらい、徐々に状況は良くなっているだけである。
 この記事を書くことになった理由であるが、それは、化学物質と環境円卓会議というリスクコミュニケーションを目的としている会議があって、
http://www.env.go.jp/chemi/entaku/index.html
そこで、久々にダイオキシンが取り上げられたからである。この段階で情報を再認識していただくことが有効だと思われる。


C先生:化学物質と環境円卓会議では、前回、大阪で行われた会議で、これは個人的には欠席したのだが、残留農薬が取り上げられた。そして、もう一回残留農薬の話題を取り上げるべき、というのが前回の方針だったようだが、例の中国ギョーザ事件で、いささか状況が難しくなって、急遽ダイオキシンを取り上げることになったというのが実態。

A君:下手をすると、中国攻撃の円卓会議になりかねない。あるいは、食品への農薬テロ拡大という副作用を生みかねない。

B君:実際、農薬入りのペット飲料事件が散発しはじめている。といっても、入れているのが除草剤グリフォサート(商品名ラウンドアップなど)なのだが、この農薬は無害だとは言わないが、もともと植物ホルモン系の薬剤なので、作用機構も、毒物とはちょっと違う。これで命にかかわるような事態になることは考えにくい

C先生:ということで、懐かしいダイオキシン話をやった。この円卓会議では、毎回、話題提供者というものが出る。今回は以下の3名。

遠山千春氏 東京大学大学院医学系研究科  疾患生命工学センター 健康環境医工学部門 教授

鈴木隆一郎氏 関西医療技術専門学校 校長 元大阪府成人病センター 参事

只見康信氏 環境省 水・大気環境局 総務課ダイオキシン対策室 室長補佐


A君:遠山氏は環境研以来、ダイオキシンの研究を進めている。特に、発生時の影響に着目した研究。

B君:鈴木氏だが、ダイオキシン問題が1999年に久米さんのニュースステーションで大々的に話題になったて世の中を恐怖に陥れた。特に、母乳をあげるべきか、それとも止めるべきか、という問題は深刻に受け止められた。しかし、その後、冷静にダイオキシンを見ることができるようになったきっかけは、ある重要なデータだった。1973年から大阪府に保存されていた母乳中のダイオキシンが分析されて、なんと、1973年以降、ダイオキシン濃度は順調に低下していることが分かった。このデータにかかわったのが鈴木氏。

A君:その図は次のようなものですが、環境省のHPにも報告書があるので、ダウンロードが可能。
http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph.html
 そのうちの、ダイオキシン類2005 (関係省庁共通パンフレット)
http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph/2005.pdf
のp15の図5がそれ。



図1 母乳中のダイオキシン類の濃度の推移

B君:それも、排出量が順調に低下しているから。今回は説明をしないけれど、以下のようになっている。



図2 ダイオキシンの全国排出量の推移。1970年頃、年間60kgほども放出されていたものが、最近では、1/200以下の300g以下になった。

C先生:ということで、遠山氏、鈴木氏の発表の内容を簡単にまとめよう。

A君:まずは、遠山氏。ダイオキシンのリスクアセスメントについて ・・・実験研究からのメッセージ・・・ という発表。
 ポイントをいくつか以下にまとめます。
(1)ダイオキシンは発がん性や慢性毒性の観点から、発生時における次世代への影響の方が低暴露で可能性が高い。
(2)PCBについては、母親の血漿中のPCB濃度が高いと、子供の学習・認知能力の発達が遅れる。
(3)男親がダイオキシンに暴露すると、女児の誕生が増える。
(4)母親が妊娠中にダイオキシンに暴露すると、男性性器のサイズが小さい
(5)胎児期にダイオキシンに暴露すると、男児も女児なみに甘さ(サッカリン)を好むようになる。
(6)ダイオキシンの影響に対して敏感な種と鈍感な種の違いは、1万倍もある。
(7)それはAh受容体の構造による。
(8)ヒト型のAh受容体をもったマウスはダイオキシンの毒性に対して鈍感。
(9)しかしさらなる検討によって、Ah受容体の違いだけでは、説明不能ということが分かった。


B君:研究課題としてみれば、なかなか面白そう。しかし、これらの成果がヒトに対するリスクアセスメントだと言えるようになるまで成長するには、まあ、相当の時間がかかる。場合によっては、そこまで成熟しない可能性も高い。すなわち、環境研究としてのダイオキシン研究は、しばらく止めて、通常の毒性学的に興味のある研究だけをやっていればよいのではないか。

A君:男児がサッカリンを好むようになるという実験でも、やや微妙ながら、あるダイオキシン暴露量の時にその影響が大きいという傾向が見える。しかし、だからといって、これをヒトの場合にあてはめて何か環境規制的なものに結びつけるのは無理。

B君:ヒトを使った実験というものはできない。有害性の高い農薬などの場合だと、事故があったり、自殺があったりするので、ヒトのデータも存在しているが、ダイオキシンの場合には、自殺もできるほどの量が入手できる訳でもないので、とにかくヒトのデータは無い。ただし、ヒトはダイオキシンの毒性に対して鈍感であることは、分かっている。

C先生:ダイオキシンへの暴露は、それこそ、タバコだとか、焚き火だとか、焼き肉だとか、その他の状況で、ヒトは歴史的に相当なレベルだったのではないか、と考えられる。だから、ダイオキシンに対して敏感な人種は、場合によっては滅びた可能性もないとは言えない。

A君:現時点での4pg/kg/日という耐容摂取量ですが、当然ながら動物実験によって決められていて、ヒトに関するデータは皆無。通常の毒性だと、動物種によってそれほど違わないということで、安全係数を100倍しているケースが多いのだけど、この耐容摂取量を決めたときには、安全係数を10としている。それは、ヒトが比較的鈍感で、敏感なマウスの100倍から1000倍ぐらいは鈍感だろうから、ということで決められたものと思われる。

B君:まあ、先ほどの図1のように、日本でのヒトへの暴露は下がり続けていて、それを考えると、そんなに危機的な状況には無いことが推測できる。

C先生:動物実験のデータで様々なものが出てくるが、それはダイオキシンのように注目を集めた物質だから出てくるといった要素がある。要するに話題性があった物質だから、危険性がさらに研究されて、良く分かるということ。しかし、ここまで研究しても、まだ未知の要素が非常に大きい。となると、リスクが未知だが評価を必要とする物質が多数存在している状況から言って、ヒトへのリスクを評価するという立場からは、ダイオキシンに多くの人的金銭的資源を割く必要性はほとんど無い

A君:鈴木氏の発表は、日本人におけるダイオキシン類の蓄積量についてが重要な観点で、その資料としては、先ほど紹介したサイトからたどることができて、
http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph/cd/index.html

B君:結論はまず蓄積量がそれほど多いとは言えない。年齢的には、年齢層が高くなるほど蓄積量は大きい。ということは、2つの可能性があって、(1)過去において暴露量が多かったか、(2)ダイオキシンというものは体内に蓄積されていくものだから。

A君:ダイオキシンのヒトの体内半減期は7.5年程度だと言われている。一方、げっ歯類では、半減期はかなり早い。だとすると、(2)の可能性は無いのでは。

C先生:鈴木氏の説明によれば、どこにも証拠はないのだが、能勢町のケースのように、短期間に高濃度の暴露を受けた場合には、半減期が7.5年ぐらいだと思われるが、それこそ日常的に同じぐらいの量を摂取した場合には、半減期がもっと長いのではないか、という説明だった。

A君:となると過去の暴露量の蓄積量が分かることになる。

B君:それは面白い。図2か。これを見ると、確かに年齢が高くなると、血中のダイオキシン類濃度が高くなっている。しかし、よくよく見ると、50歳代ぐらいから、多少増加割合が減っているとも見えなくもない。

A君:図3に例の中西先生、益永先生の推測によるダイオキシンの環境中への放出量の年次推移の推測値を示しますが、大体、1961年から増え始めて、1978年ぐらいまで継続する。この調査が平成14年度から18年度まで。ということは、2002年から2006年まで。平均して2004年だとすると、1978年生まれが26歳、1961年生まれが43歳。この26歳から43歳までの増加割合が、高いはずということになる。どうだろ。



図3 年齢別のダイオキシン蓄積量

B君:なんとも言えない。ただ不思議なのが、48歳ぐらいにかなり突出した血中濃度の人が出始めていること。これは、なんだろう。魚だけを食べている人なのだろうか。

C先生:その前に、ひとつ確認をしておく必要がある。ダイオキシンをどこから摂取するかだ。可能性としては大気を呼吸すること、汚染土壌を吸入すること、それ以外は、食事になる。この資料のp26にある平成17年度の推定値によれば、内訳は、次の図4の通り。



図4 ダイオキシンの平均的な摂取量。 耐容摂取量の1/3ぐらい。

 これを見ると、大気と土壌から合わせて1%ぐらい。残りの99%は食事。なかでも、魚介類からが90%ぐらいになっている。

A君:ということは、漁村などで魚をおもに食べている人々は、ダイオキシンの体内蓄積量が高くてもおかしくは無い。ということで、実際にデータが出ていて、都市地域、農村地域での蓄積量が18pg−TEQ/g−fat、すなわち、TEQ毒性当量にして、血中の脂肪1gあたり18pg程度。ところが、漁村だと、24ぐらい。

B君:動物実験で、これ以上の体内蓄積量だとなんらかの影響が出るとされ、そこから現在の耐容摂取量である4pg/kg/日が決まったはず。その値が86ng/kg。こちらは、体重あたりの数値。

A君:血中の脂肪中のダイオキシン濃度は、その人の脂肪中のダイオキシン濃度とほぼ同じだとされています。脂肪以外にダイオキシンの蓄積はなさそうなので、例えば体脂肪率が20%とすると、18pg/g−fatということは、3.6ng/kg。

B君:細胞中には水が大量にあるが、それは計算に入れない? 体重の70%は水だというとこと、どう考え方の整合性が取られているのだ?

A君:体脂肪率というものの定義がどうかですね。詳細不明ながら、乾燥重量の割合ではなく、湿ベースでの脂肪組織の割合なのでは。

C先生:確かにそのあたりは要確認。しかし、漁村の場合でも、5ng/kg程度の蓄積量だということになって、これだと、86ng/kgに対して安全計数10を用いて場合の8.6ng/kgという値よりは低いことになる。さらに、すでに議論したように、ヒトの感度は低いので、まあ安全だということだ。

A君:しかし、魚は種類によりますね。
 平成18年度魚介類中のダイオキシン類蓄積実態調査結果
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/tikusui/pdf/080125-02.pdf
というものがあって、魚も様々。

B君:その議論もしている。日本の場合、4pg/kg/日という耐容摂取量が決まっているが、こんなに蓄積性の高い物質の場合には、日という単位も変なので、世界的には、週とか月とかを単位にしようとする考え方もあるが、食事を考えるときには日という単位も悪くは無い。

A君:体重50kgの人だと、200pg/日が耐容摂取量。平成18年の魚の調査で、最大濃度がオランダ産のマイワシで24pgTEQ/g。これだと、1日に10g食べると1日の耐容摂取量を超すことになる。

B君:そのマイワシの濃度は異常に高い。

A君:過去の測定値が、
http://www.maff.go.jp/fisheat/fish-2nd2.htm#ダイオキシン類
にあって、それでは、この程度の値になっているものも結構あります。たとえば、マグロの大トロの部分とか、ドジョウとか、アナゴとか。

C先生:1日の耐容摂取量は1日2日超しても、あまり問題にはならない。なぜならば、この数値は蓄積量から決められたものなので、まさに平均値で考えればよい。
 江戸前のアナゴのような高級魚を毎日食べる人、マグロの大トロばかり毎日食べるような富裕層は危険!??だが。

A君:欧米の場合というのが紹介されていて、7〜8割が肉類、乳製品経由とのこと。
日本でも畜産品の分析も行われていて、
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/tikusui/pdf/080125-01.pdf
牛肉がやはり多い。ばらつきが非常に激しくて、平均値0.25pg/gぐらいですが、最高値は2.2ある。しかし、魚ほどではない。

C先生:化学物質と環境円卓会議で議論になったのが、中下裕子委員が、魚に基準値を設けることが必要なのではないか、とかなり食い下がった。会議の全体的な雰囲気は不必要ということだったが。

A君:現時点で、日本人が魚から摂取しているダイオキシン量は1.5pg/kg/日ぐらいなので、当然でしょう。

B君:もっともWHOは微妙な表現をしていて、耐容摂取量は1〜4pg/kg/日。中下委員は、昔から、日本も基準を強化すべきだと主張しているのでは。

C先生:それも今回の円卓会議では、不必要なのではないか、という雰囲気だったと感じた。

A君:まあ、影響が出るのが、確かに子どもだということだと慎重にならざるを得ないのだけれど、ダイオキシンをはじめとする化学物質の子どもへの影響は、暴露量の低下がこのところかなり改善が著しいので、もしも、今が問題になるとしたら、過去には大変だったはずという状況。一方で、子どもを教育できない親が増えてしまったとか、乳幼児死亡率が低下したために、アレルギー性の子どもが増えてしまったとか、まったく別の要因があまりにも多くて、化学物質だけをいくらゼロリスク化しても無駄。

B君:輸入食品に普通に含まれているアフラトキシンなどの強力なカビ毒のような問題もあって、食品のリスクにしても、食品添加物だけを問題にしてもほとんど無意味なのと似た状況とも言える。

C先生:日本という社会は、本当に、世界に自慢して良いぐらい、実質安全を全国均等に実現した。そのために、無添加食品などを求めるというゼイタクも可能になっている。サルモネラ菌などの食中毒の可能性もこの国は非常に低いので、無添加食品も実用になる。

A君:日本という国は、生の食品が安心して食べられる世界でも特異な国ですからね。

B君:マグロも、日本から輸出されたものは生でも食べられると思われているらしい。実際、そのマグロはインド洋で捕れたものだったりするのだが。

C先生:最近、環境関係では、「安全になりすぎると、不安が増大する」、という原理があると考えているが、ダイオキシンについても、すでに、そのレベルかもしれない。魚がダイオキシンの摂取源ではあるが、魚を適量摂取することは、栄養面から考えて、健康にとってプラスだろう。高級魚にダイオキシンが多いが、まあ、魚種を気にすることもないだろう。人類にとって、食の贅沢ができるというのは、恐らく、人類史上で極めて短期間しかない。現時点の日本はそんな状況だから、ダイオキシンや食品添加物、残留農薬などを気にすることなく、せっせと食を楽しんで貰いたい。気にすることで感じるストレスの方が余程体に悪い。