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環境・エネルギーの夢 01.03.2009 |
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環境エネルギー技術関係の投資額は、不景気のど真ん中にあるにも拘わらず、今年も増額される傾向だ。 2010年に環境エネルギー技術はどのような夢を見るのだろうか。初夢はバラ色か、それとも悪夢か? 環境エネルギー関係の技術を見るとき、常に確認すべき条件というものがあるように思える。その条件を満たすものは、バラ色になるだろう。もしも、その条件を満たさないものに期待を持てば、悪夢になる可能性が高い。 その条件というものは何か。再度検討してみたい。 例題として、もっとも分かりやすいと思われる自動車用のエネルギー技術を重点的に取り上げる。 来年度の予算にみる環境エネルギー技術 C先生:まずは、夢を考える前に、超現実的な話から始めよう。平成22年度予算を検討してみよう。エネルギー対策関連予算にある、環境・エネルギー関係のキーワードを探してみてくれ。 A君:研究開発に関係がありそうな事項のリストを作成しました。 経済産業省関係 ■エネルギー革新技術計画に基づく研究開発 826.5億円 +4.8% 対象として例示されているもの。 ○固体高分子型燃料電池実用化推進技術 51億円(新規) ○二酸化炭素削減技術開発(CCS)59億円(+161%) ○革新型太陽電池国際研究拠点整備事業費 19億円(+26.7%) ○省エネルギー設備等導入促進リース事業支援費補助金 80億円(新規) ○住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金 401.5億円(+100.2%) ○クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金(電気自動車など) 123.7億円(+385.1%) ○高効率給湯器等導入促進事業費 ▲40% 文部科学省関係 ■戦略的創造研究推進事業 505億円(+1.5%) ■先端的低炭素化技術開発 25億円(新規) 国土交通省関係 ■運輸部門の環境負荷低減 ○船舶からのCO2排出量30%削減を目標とした革新的な省エネルギー推進費 9億円(同額) ○低公害車普及促進対策事業費 (305億円) ○海上交通低炭素化促進事業 (50億円) 環境省関係 ■地球温暖化防止に向けた技術の開発・普及 50.2億円(+31.7%) 例示されている事項 ○再生可能エネルギー地域実証研究 ○次世代自動車普及モデル実証研究 ○ゼロエミッション住宅・オフィス普及実証研究 B君:これらの予算で具体的に挙げられているものは、商品として使えるもの、すなわち、景気対策として有効なものが多い。それ以外のものについては、文部科学省関連予算の中でカバーされると考えるべきなのだろう。 A君:夢の対象としては、やはり具体的過ぎましたね。 B君:しかし、環境・エネルギー技術には、夢の技術と言えるものが少ない。それにはいろいろと難しい条件があるからだ。空想をいくらしても、夢にはならない。 新規技術の条件 C先生:講演などで毎度言っていることだが、新規技術が必要不可欠。しかも、世界的に普及できるものでなければならない。というとコストが安いとかいう条件だと思われるかもしれないが、それだけではない。 A君:地球がもともと持っている潜在的な能力の範囲内で行われなければ、すぐさま新たな限界に衝突して終わりになる。 B君:地球の潜在能力の例としては、太陽光の総エネルギー量とか、淡水の量的限界とか、言えば分かりやすい。 A君:それよりも、地球の大きさ。すなわち、使える面積にも限界がある。 B君:人口が増えると、その人口を養うのに、農業が必要。 A君:バイオマス系の限界は、利用可能な土地の限界が大きい。 B君:もちろん資源的な限界も大きい。化石燃料だけでなくて、鉱物資源や、すでに述べられているが水の限界とか。 A君:ということは、エネルギー効率、資源効率が十分に配慮された技術でなければならない。 B君:どのような選択が賢いかということを評価するのが、エネルギー効率、資源効率、面積効率、などの一群の効率の評価でしょう。それ以外に、環境汚染や環境悪化、さらには景観などの問題がある。 C先生:本日の主題は、これだ。新しい提案が本当に技術として成立するためには、絶対的な物理学の条件を満たさなければならない。それは熱力学である。 B君:というと単に永久機関はできない、という話だと思われるのではないか。 A君:もちろん、永久機関はできないことも熱力学の制限の一つ。しかし、現実には、地球を構成している元素は90数個で、そのうち、実用になる元素が限られていることも、非常に大きな限界です。 B君:元素の数が決まっていることが、やはり、選択肢を狭くしている。 A君:選択肢が少ないということは、具体的には、元素の化学的な性質にも大きな限界がある。これは、物理的な熱力学的の限界ではないのですが、化学熱力学という別の制限だと考えるべきでしょう。 B君:化学熱力学がどこまで理解されているか。これは大きな問題。その最大の例が電池だろうか。 電池技術の難しさと自動車の燃料 C先生:電池は、未来の環境・エネルギー技術の中核をなす技術だろう。しかし、結構開発が難しい技術なのだ。なんと言っても、歴史が長い。ボルタが電池を発明したのが1800年のこと。すでに200年以上を経ている。現時点で実用になっている電池は、かなり限られている。 A君:電池と言えば、電気自動車。電気自動車は、CO2排出量から言えば、例え、電気を化石燃料から作った場合でも、少なくすることが可能。エネルギー効率の観点からもまずまず良好。 B君:未来技術として自動車を考えると、環境・エネルギー技術というものの考え方の基本が分かるのでは。 C先生:その通りだ。これまでも、水素燃料電池車の提案などがなされてきているが、本HPでの主張の通り、実現されても普及することはない。 A君:電気自動車についても、本HPの予測は、電池の価格と寿命が問題で、価格が1/10になるか、寿命が3倍にならない限り、電気自動車は高々30km以内のコミュニティーユースになる。 B君:価格1000万円といった電気スーパースポーツ車は、別に毎日運転する訳ではないので、場合によっては成立するが、それは例外中の例外。 C先生:未来の技術といっても、どのぐらいの時点を考えるかで、かなり状況が違う。ここでは、2050年をターゲットとして考えよう。 A君:2050年だと、これまでの一般的な予測台数だと、世界全体で20億台の自動車が存在している。それは、2000年の約3倍だと考えれば良い。 B君:20億台。それが毎年何km走るのか。 A君:2000年の7億台の車が排出したCO2の総量の推計値が約5Gt−CO2。 ガソリン1Lあたり2.3kg−CO2ぐらいの発生量だとすれば、1台の車が、精度1桁だけれど年間3000Lものガソリンを使ったことになる。 B君:燃費10km/Lだとすると、3万キロか。営業車なら不思議ではないが、自家用車だと相当な距離になる。通勤に使ったとして、100km/日といった距離、片道50kmを運転することになるので。 C先生:細かいことは良いが、2050年で、先進国はCO2排出量80%削減をすることになっている。となると、2050年での車の燃費も、2000年の1/5以下になっている必要がある。先進国の車の台数は増えないという仮定でだが。 A君:ここで肝心なことは、CO2排出量がゼロである必要は必ずしもないことでしょう。電気自動車は、「走行時のCO2排出量がゼロだから究極のエコカーだ」、という主張もあるのですが、究極のエコカーである必然性は無い、ということです。 B君:どうも日本人というものは極端だから、CO2が悪いとなったら、その排出量をゼロにするのが良いと思ってしまう。 A君:リスクなどでもそうですが、バランス感覚が無いのが日本の特徴。メディアの特徴と言うべきかも。そのため、答は常に0か100。しかし、多くの場合、中間に最適な答がある。 B君:1/5を目標ということで、若干厳しくして1/6としますか。プリウス級のハイブリッドであれば、1/2になる。それをプラグインにすることで1/4程度は達成可能。それでも、2トン以上の大型の車を許容することは難しいだろう。まあ、1.5トンまでということで小型化が必須。 A君:現状のガソリン車のエネルギー効率は10%程度。ラジエータと排ガスから90%の熱量を捨てている。 電気自動車は、やはり小型のコミュータ・タイプ。要するに二人乗りのミニカー。これにすれば、電気をどうやって発電するかによるけれど、現在のような発電方式でも、効率は30%程度が確保できる。これで排出量は1/3。小型化で1/2。合計1/6は簡単。 B君:電力をグリーン化すれば、まずまずという結果にはなる。 C先生:結局のところ、プラグインハイブリッドと、コミュータタイプの電気自動車で目標は達成可能だという結論か。 A君:水素などは不要。他のエネルギー源も考える必要はない。 B君:本当は、それが正解だと思うが、途上国はどうするのか。インドのタタ自動車のナノのように、余り燃費のよくないガソリン車がどしても安価だから普及する。 C先生:となると他の燃料も考えておいた方が良いということもありうる。 一応、合理的な検討をしたいので、以下のような順番で考えることにする。 燃料(エネルギー)は(1)気体、(2)液体、(3)固体、(4)電気。 動力源は、(1)内燃機関(熱機関)、(3)モーター、(4)ハイブリッド、とする。 A君:動力源は、内燃機関だけでなく、熱機関では、どうしても効率が悪い。いくら頑張っても、効率を15%以上にすることは不可能のように思えます。 B君:となると、最低でもハイブリッド。可能性としては、モーターが動力と言うことにならざるを得ない。 C先生:ということで、結局のところ、内燃機関とは言っても、ハイブリッド用。それ以外は、燃料電池、もしくは、電池としてモーター駆動に使う以外に方法は無い。 A君:ということで、燃料の検討をします。 (1)気体は、どうやって貯蔵するか、配送するか、これが問題。現時点で気体燃料はLPGにしても、CNGにしても、圧縮して液体にしている。だから、LPG、CNGは液体燃料だと言える。気体のまま貯蔵し、配送せざるを得ないのが、水素。それ以外の気体でも、COなどは物理的にはありえても、化学的というか、生物的というか、有害性が強すぎて、使えない。 B君:水素を車に搭載する方法として現実的なのが、高圧ガス。現時点は350気圧程度。最終的には700気圧だという。この耐圧容器のコストも馬鹿にならない。 A君:BMWは、液体水素にして搭載するという主張をしている。しかし、これも難しい。 B君:液体水素が気体に変わる温度(沸点)は、−252.6℃。この温度に保つことは、いくら魔法瓶のようなタンクにしても難しい。蒸発して気体に変わると、内部の圧力が高くなってしまう。そこで、水素を少しずつ、外に逃がす必要がある。これをボイルオフというが、密閉された車庫の外に水素を放出するのは、余りお勧めできない。 A君:「余りお勧めできない」? 全くお勧めできない。 水素スタンドでも、どうやって水素を貯蔵しておくかが問題なので、同じ問題がある。 水素スタンドへ、どうやって水素を供給するかも問題。都市ガス(天然ガス)から水素を作るぐらいなら、天然ガスをそのまま車に搭載すればよいので問題外。 B君:結局のところ、これらの問題が解決できず、水素を車用として使うことは無い。 A君:次は、(2)液体。これは問題なし。となると(3)固体。 B君:固体? それは無いだろう。熱機関としての利用は、ハイブリッド用以外に無いことになったのだし。ハイブリッド用の熱機関としても、ペレット状にしてジャラジャラと積み込むのか。それを燃やすのか。 固体燃料としてマグネシウム? A君:木製などのペレットをストーブみたいに燃やして走るとなると、蒸気自動車になりそう。ではなくて、実は、最近、こんな本が出たのです。 「マグネシウム文明論」、矢部孝、山路達也著、PHP新書641、¥720. この本の主張は、(1)海水から塩化マグネシウムを採取、(2)加熱して酸化マグネシウムにする、(3)太陽光レーザーを使ってマグネシウム金属を作る、(4)「マグネシウム空気電池」で電気に変換、(5)電気自動車の電源として使用、(6)酸化したマグネシウムは、(3)に戻すというリサイクル。 これが固体を加えた理由です。 B君:資源的に見ても、確かにマグネシウムは問題がない。現在の精錬法でも、マグネシウムの原料は確かに塩化マグネシウム。ピジョン法と呼ばれる方法と、電解法がある。 ピジョン法は、主として中国で行われている方法で、 Si+2MgO → SiO2+2Mg という原理。実際には、フェロシリコン(鉄とケイ素の合金)が使われ、熱源としては、石炭が使われている。石炭は、中国ではもっとも安価なエネルギー源。 電解法は、電力が不足気味な中国では難しい。水力発電の電力があれば、安価にできる可能性があるが、現時点では、むしろピジョン法が主力になっている。 A君:中国は、環境負荷を余りうるさく言わないことで、塩素を適当に処理しているからピジョン法が成立している可能性もありますね。 ということは、もしも先進国でマグネシウムを自然エネルギーで作るとしたら、さきほどの本のように、太陽光レーザーでマグネシウム金属を作るよりも、太陽熱発電とか、風力発電で電力を作り、電解法でマグネシウムを作る方法が現実的のように思いますね。 B君:この本は、レーザーの研究者である矢部氏が書いているので、レーザーを使わない方法は無意味なのだ。 A君:マグネシウムの製造法として、レーザー法が本当にコスト的に優れているということならば、誰かが投資をするでしょう。マグネシウムは、パソコンの外装用などに使われているので、今後とも需要はあるでしょうから。 B君:余程確実なコスト評価ができないと、誰も投資はしない。中国とコスト競争をしても、多くの場合勝てない。特に、ローテクだとそうだ。 A君:恐らく「この本のシナリオには無理がある。どこかに問題が起きる」、とマグネシウムビジネスをやる人々は考えているのでしょう。もっと問題だと思うことが、なんとかマグネシウムができたとして、それが燃料になるのか、ということです。 B君:この本だと、マグネシウムの用途として、発電所で燃焼させて発電用にするとか、車に搭載し、「マグネシウム空気電池」を使って電気自動車の動力にする、と書かれているが、自動車用はともかくとして、発電所で燃焼させて発電用は、エネルギー効率的に見合わない。もちろん、車に搭載し、マグネシウムを燃やしてスターリングエンジンなどの外燃機関を動かすことも、熱効率上ありえない。折角の化学的エネルギーを熱に戻したら、もったいない。 A君:化学熱力学の基本。一旦熱にしてしまうと、車載用だと最大でも15%。通常の発電所で発電しても、効率が40%程度に落ちてしまうので、風力発電などを使うなら、すなわち、電気という形態を経由するのなら、電気の形で貯めて、そのまま使うのが正しい。 B君:再生可能エネルギーという不安定な電力で発電して、水を電気分解して得た水素をエネルギー貯蓄用として使うという方法もある。現在、水の電気分解技術はかなり進化したので、そこでのエネルギー効率は問題にならない。 A君:しかし、問題は、水素をいかに使うか。大規模燃料電池ができない限り、効率が稼げない。熱にしたら、効率は40%程度に落ちる。 B君:水素を燃やす燃料電池が白金などを使わないで動作するようになれば、これも一案ではある。 A君:マグネシウムがもしも水素以上のポテンシャルがあるとするのなら、それは、やはり自動車用。 マグネシウム空気電池は? B君:上記の本では、水素の場合の燃料電池に相当するものとして、自動車用としては、「マグネシウム空気電池」だと提案している。 A君:実は、ここが最大の問題点。マグネシウム空気電池は原理的にみて実現可能性が低い。金属空気電池で、現在、製品になっているのは、亜鉛空気電池。 B君:小型長寿命なので、補聴器用の電源として実用化している。メーカーのHPに出ているこの電池の構造図は、こんなもの。 http://nexcell.co.jp/airbattery/air-bat.html A君:動作原理などは、 http://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai/117/3/117_177/_article/-char/ja を参照していただきたい。 電極反応は、 正極:O2+2H2O+4e− → 4OH− 負極:2Zn+4OH− → 2ZnO+2H2O+4e− B君:上述の文献に則って、動作原理を言葉で説明すると、まず、電解液は、アルカリ水溶液が用いられる。例えば、水酸化カリウム水溶液。この水溶液の中には、OH−イオンがあるので、これが金属亜鉛と反応して、負極反応が起きる。すなわち、電子と酸化亜鉛ができる(実際にはゲル状の水酸化亜鉛なのでは?)。電子は、金属亜鉛を伝わって外部に移動。補聴器の回路を通って、正極側に移動する。正極では、その電子と酸素と水が反応して、OH−イオンができる。 A君:正味の反応は、正極、負極の反応を加えて、両辺にある同じものを除けば、 正味の反応:2Zn+O2 → 2ZnO B君:要するに、亜鉛と空気が反応して、電気が発生している。 A君:この電池が動作するためには、亜鉛がOH−イオンと反応して、電子が出ることが重要。さらに、電子と酸素と水が反応して、OH−イオンができることが必要。すなわち、水の存在が必須。 B君:この条件を満たす金属として、どのような性質が必要かというと、水と金属を接触させたときに、反応して水素ガスを出すような金属は使用不能。これが電気化学でいうイオン化傾向なるもの。元素の化学熱力学的な性格で決まる。 A君:マグネシウムは、粉末状態だと水を分解して水素を出す。塊状だと、表面が酸化していて水に対しても、比較的安定。 B君:マグネシウム空気電池に使うマグネシウムの表面は酸化していないものを使うに決まっているので、水を分解すると考えざるを得ない。 A君:すなわち、マグネシウム空気電池は水溶液を電解質に使う形式だと、原理的に動作しない可能性が高い。 B君:少なくとも、その本に書かれているような「コンビニでマグネシウムの粒を購入して、それで車が走る」ことは無さそうだ。 C先生:マグネシウムを外から供給可能な形式のマグネシウム空気電池の完成を待つようだと、マグネシウム文明はできそうもない、という結論になる。それは、マグネシウムという金属のもっている化学的な特性、まあ元素特性とでも呼ぶべきなのだろうが、これをなんとか変えることができるように、電解質を工夫することが必要になる。リチウム電池のように、有機系の電解質にするのか。あるいは、イオン液体などを使うのか。これは非常に難しいチャレンジだ。 新型電池には新しい材料が必要 A君:一般に、新しい電池を作ろうとすると、新しい材料が必要になりますね。 B君:たしかに。電池の歴史は長いが、20世紀の終わり頃、ニッケル水素電池(1990年量産)とリチウムイオン電池(1991年量産)が開発されたが、これにしても、水素吸蔵合金というものの研究が進んで、ある種の金属が水素を吸ったり出したりできるようになった。これがニッケル水素電池を可能にした。リチウムイオン電池にしても、ある種の炭素材料がリチウムを原子状態で出し入れできることが分かり、また、ある種のコバルトの酸化物がリチウムイオンの形で出し入れできることが分かって、電池ができた。 C先生:新しい電池を作るには、結局のところ新しい材料が必要なのだ。材料研究は、あらゆる元素が対象になるのだが、電池用の材料となると、対象がかなり限られてしまう。そのため、新材料の発見・開発がそう旨くはいかない。常に努力が必要だ。 A君:「マグネシウム」ですが、いずれにしても環境エネルギー技術の夢ということになると、もっと現実性の高い提案が欲しいということになりますね。例えば、新しい電解質とか、水と接触しても水素を出さないマグネシウム包接化合物とか。これが結論。 B君:しかし、現実性ばかりでコストを最優先するといった考え方だと、まず、夢にはならない。 現実的な2050年での液体燃料 C先生:いやいや。現実的な方向性をまず検討し、それを拡張して夢に変えるのは、悪くはない。例えば、資源面だ。 A君:2050年をターゲットとすると、石油・天然ガスは資源的には多少厳しくなっているものの、まだまだ石炭という化石燃料は充分にある。 B君:となると、この石炭を液化して車用の燃料が合成されている可能性がもっとも高いのではないか。もちろん、これまでの議論にあるように、プラグインハイブリッドの電気以外の部分の動力用だが。 A君:石炭の組成はC:H=1:1よりも、多少炭素が多いぐらい。 B君:あるWebページだと、 「石炭の有機質の元素組成は石炭の種類によってさまざまですが、およそC100H30〜110O3〜40N0.5〜2S0.1〜3」 http://www.sekitanland.com/hg/index.htm とある。 A君:いずにしても化石燃料相当の平均組成がC:H=1:2程度なので、水素が足らない。 B君:水素をどうやって作るか。現時点で水素が大量にできてしまうのは、石炭からコークスを作るプロセス。この水素を使って、化石燃料を作る。 A君:コークス用の石炭は強粘結性炭と呼ばれる特殊なものなので、燃料製造用の石炭を別途準備すれば良さそう。 B君:水素と一酸化炭素を原料として、メタノールを合成することは簡単。問題は、燃料というものが値段的に安すぎることだろう。 C先生:2050年の液体燃料は、メタノールだということか。エタノールよりは毒性が強いが。 A君:作業環境の許容濃度が200ppm。エタノールだと1000ppm。それほど違わない。 B君:バイオエタノールをそのままガソリンに添加するのではなくて、ETBEという物質に転換してから添加すべきだ、と主張されているが、このETBEの作業環境許容濃度が5ppm。 C先生:バイオエタノールは、当面、ガソリンに添加して使うことになるだろうが、そのガソリンをすべてバイオエタノールに変えるという訳には行かない。2050年で、20億台の車が走っているとして、その内訳を先進国が8億台、それ以外が12億台として、先進国では電気自動車とプラグインハイブリッドで、余り液体燃料は使っていないとしても、12億台分の液体燃料が必要。 A君:2006年での世界のエタノール生産量は約5000万kl。 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_ecofuel/05/mat01_5.pdf 12億台の液体燃料用としては、恐らく12億klが必要。食糧生産との見合いになるだろうが、3億kl程度は、バイオエタノールもしくはバイオディーゼルでいけるかもしれない。 B君:世界的には、E10かE20ということになる。 C先生:残りの80〜90%はどうする。やはりガソリンだということになれば、価格は極めて高くなっているだろう。 A君:やはり、先進国以外でも、簡単な電気自動車が普及しているのでは。ベトナム製か何かの。 B君:風力発電などの揺らぐ再生可能エネルギーで発電して車に充電。 A君:いや、電池がそこまで行きますかね。やはりメタノールではないですか。発熱量が低いので性能は出ないですが。 夢の一つはやはり新型二次電池 C先生:ということになると、やはり電池が鍵を握るか。リチウム電池以外の動力用の電池が無いと、やはり夢が描けない。 A君:マグネシウム、カルシウム、アルミなどの金属を使った二次電池ですか。 B君:電池に限らない。電力貯蔵・エネルギー平準化の技術が必須だ。 A君:揺らぐ再生可能エネルギーの平滑化を行うための高効率水電解装置と定置型新型水素燃料電池。 B君:いずれもNAS電池 http://www.ngk.co.jp/product/insulator/nas/index.html よりも安くならなければならないとなると、結構難しいか。 現実解だが、一部非現実的な原子力 C先生:そろそろまとめに入りたい。現実解として原子力を考えている人は多い。ウランは充分あるから、というのがその根拠。しかし、もしも原子力が本格的に普及をした後には、世界中に現在の10倍ほどの合計5000台の原発が動いていることになる。 となると、整備不良で結構事故率が高くなったり、また、ウランの資源量も問題で、可採埋蔵量が15年程度になって現実解としても怪しくなる可能性がある。 A君:原子力は、それに依存するとしたら、資源面から考えて、最低でも高速増殖炉が必要不可欠。 B君:それ以外にも、インドと共同でトリウム転換炉の開発を行うことが必須。燃料精製過程で副生するレアメタルを省エネ技術に使う手もある。 C先生:原子力技術がもし完全なものになれば、原子力文明は1000年間は継続できるだろう。 A君:誰がどのぐらいのコストを掛けて、真剣に取り組むかが問題で、余り現実的ではないようにも。 B君:最終処分の問題を完全解を出さないと。それに、日本の原発は老朽化が始まっている。 C先生:最終処分だが、管理に1000年間かかる。 A君:やはり、核変換かなにかによって、もっと管理を短縮しないと。 B君:その気になればできる。これも期待。 A君:それ以外にも、ジオテクノロジーとでも言うべき処理法は無いのだろうか。 B君:日本列島にめり込んでいく大陸プレートに穴を開けて、そこに入れることができれば、地球の中心部に入っていく。マグマに溶け込めば、マグマの熱源になる。 A君:そんなことを言うと、危険思想だという発言が絶対に来る。 B君:1000年ものあいだ、人間が管理できるという思想の方が、危険思想だと思うが。 C先生:いずれにしても、原子力関係は、リスク感覚が変わっていないと無理ということかもしれない。しかし、選択するのは結局は市民レベルの意志だ。 2050年の本当の夢としては、人々の知性的なレベルが上がって、様々な知恵を備えた人々が増え、地球の限界と人間活動とのバランスが充分に理解されていて、最適な技術の選択をできるようになっている。これが2050年での環境エネルギー技術に関する夢だということか。 A君:個人的には原子力は現実解で夢とは言いにくい。 B君:なんとなく夢では無い。 それでは夢は?? C先生:確かに。個人的に本当の夢は、やはりエネルギー自給率が2050年には50%を超していることだ。 その可能性だが、やはり、地熱、さらに言えば高深度地熱技術が開発されること。 加えて海洋エネルギーがなんとかならないものだろうか。海岸線の長さであれば、世界でも6位という国なのだから。 さらに、省エネ油田だ。使用エネルギー量を半減すれば、自給率は倍になる。 こんな方向で、技術が進むことが夢だ。 |
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