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  環境ホルモン終焉決定的  02.22.2003



 昨年の12月8日の記事「ビスフェノールA(BPA)と先天異常」の発表が行なわれた広島国際会議場での国際シンポジウムだが、そこに参加された方々からの様々な情報を得た。
 環境ホルモン問題、どうも自己崩壊を始めているような感じだ。どう見ても、終わったようだ。

概要:
(1)参加者は、17ヶ国から3日間で延べ2200人(うち海外から約200人)。

(2)特別講演は、先日来新聞で話題になった、東京大学教授堤治氏が行なった。しかし、いささか中立性・科学性を欠くか。

(3)指名コメンテイターとして招かれたジョン・P・マイヤーズは、パラケルスス(1493(?)〜1541)による毒性学の大前提、「毒などというものはない。一切が毒なのであって、毒となるかどうかは、調合しだいだ」を否定しようとしている。

(4)そして、すでに本HPでも取り上げたトピックスだが、「ビスフェノールA(BPA)と先天異常」、平原史樹・横浜市立大教授(産婦人科学)と黒木良和・神奈川県こども医療センター長による生データが以下のようなものであったとのこと。
・対象母体血       0.40±0.29ng/ml n=1655
・臍帯血          1.37±2.29ng/ml n=398
・出産障害母体血    0.65±0.16ng/ml n=5
・尿道下裂患者の母親 1.32±0.93ng/ml n=30
   だだし、出産後半年から16年後の採血?? n=20


C先生:まず、この最後のトピックスをもう一度復習すると、尿道下裂児を出産した母親の血液中のBPA濃度が高い。すなわち、先天異常とBPAとは相関があるというのが、この発表の論旨であった。

A君:続けますが、しかし、ちょっと考えるとおかしな話で、その母親は、半年から16年前に尿道下裂児を出産していて、BPAのよう、半減期が6時間といった物質の血中濃度を測ったって、それが出産時の体内濃度を反映しているとは思いにくい。

B君:さらに続ける。そのことは、発表者の黒木氏も認めている。ただし、それらの母親が、BPAの代謝能力が低い可能性があるという発表のつもりなのかもしれない、という解釈。

A君:ところが、そんなことは、BPAを少々飲んでもらえば実証的に分かるのだが、そんな実験はできないということ。

C先生:BPA自体、急性毒性などは気にするような物質ではないから、同意してもらえば、実験が不可能とは思えない。しかし、社会的な抵抗感があることを敢えてしようとする人はいない。

B君:それは当然だ。今回の発表も、もともと、BPAに環境ホルモン性があることを証明したい人々が実施している研究なんだ。客観的・中立的にBPAの作用について知りたいから研究をしている訳ではない。ある意図が先にある研究は、やはり科学ではない。

A君:ところが、こんなことも一般市民は知らされていないから、新聞記事を見て、まだ環境ホルモンは大問題だということになる。その研究の意図が何か、全く知らされていないのだから。

C先生:この黒木氏の発表に対する批判が発表会場で行なわれ、なおかつ、終了後の記者会見も用意され、黒木氏はかなり緊張して待っていたが、結局日本のメディアは、誰も来なかった。しかし、新聞には、発表が行なわれた。それは、どこか(??)が事前に配布した資料に基づいて行なわれたらしい。

A君:記者は中身を全く理解しないとかいう問題ではなかったらしい。実際に会場での発表を聞くことも無く、新聞記事になった。

B君:記者は何を考えたのか。その配布資料を参考にして、BPAなる物質の特性と、ダイオキシンといった体内半減期の長い物質との差も分かっていないまま、記事だけは出た。

C先生:毎回言うように、メディアの役割は、世の中に警鐘を鳴らすことであって、世の中を安心させるためにあるのではない。したがって、科学的な論拠が極めて薄弱でも、警鐘として価値があると考えれば、それは記事になる。今回、記者のもつこんな特性が利用されたのか。

B君:出てしまえば、まあ勝ったも同然。さて、その勝者は誰

A君:メディアの特性を、世の中一般の市民は知りませんよね。

B君:しかも、日本という国は、メディアを信じるということでは世界的にも特異。

C先生:人間、何かを信じないと安心できない。欧米人は、一応、宗教的な教育を受けているから、それに頼るところがある。ところが日本人も、完全な無宗教とは違うと思うものの、多神教的なあやふやな宗教観の人が多いから、宗教が精神的なバックボーンにはなり得ない。メディアが神の言葉になる。

A君:テレビの中の「みのもんた」が神になる。

B君:自己判断というものに対する責任感が少ない国民性であることに、間違いはない。

C先生:今回の発表に関連して、こんな情報も得た。
 まず、北大の山田教授による発表では、1989年のBPAの血中濃度が5.62ng/mlだったものが、1998年には、0.99ng/mlと低下しているという。さらに、東大・堤治教授による過去のデータでは、1〜2ng/mlがバックグラウンドの値であるとのこと。この両者のデータから判断すると、今回の対象母体血中のBPAの濃度0.4ng/mlはずいぶんと下がっていることになる。これが本当だとすると、もしもBPAが尿道下裂の原因物質だとすれば、尿道下裂患者は減っているはずなのだ。日本にデータはあるのだろうか。

A君:日本では患者数は少なく、欧米では多い。しかも、欧米では尿道下裂患者は増えているという話ですね。調べて見ましょう。

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A君:見つかりました。

西川洋三氏 元三菱化学
http://www.southwave.co.jp/swave/8_cover/2001/cover0115.htm

日本における尿道下裂の発生率は1万出産当たり2.2である。(この発生率は欧米の約1/10。)発生状況の推移を図に示す。これからは近年増加傾向がみられる。しかし、最近ほど早産児も調査対象にしていることを考えると、真に増加していると言えるかどうかの判断は難しい。それでも、平原先生は増加傾向にあると感じている。

B君:その平原先生というのは、広島シンポジウムで発表をした平原教授のこと。いずれにしても、その図を見ると、尿道下裂児が1990年頃から増加傾向にあることが見て取れる。北大の山田教授のBPAの体内濃度の推移とは、全く逆の傾向だ。

A君:やはり広島での発表は妙ですね。西川氏は、その報告の最後のところで、こんな指摘をしています。

欧米での尿道下裂の発生率が日本の約10倍もあることは興味深い。環境ホルモンが関係しているかもしれないヒトの異常として、日本ではもっぱら精子数減少が取り上げられている。しかし、欧米では、乳がん、前立腺がん、睾丸がん、停留睾丸、尿道下裂なども取り上げられている。これらの日本での発生率は欧米に比べて、いずれも非常に低いのだ。すなわち、乳がんの発生率は1/4、前立腺がんでは1/10、精巣がんでは1/5である。日本人の乳がんと前立腺がんの発生率の低いのは、脂肪分がすくなく、大豆(植物性女性ホルモン)の多い食事が原因と見られている。一方、尿道下裂は出生時に判る異常であるから、遺伝的要因すなわち人種差が主たる原因になるのだろうか。

環境ホルモンが原因かもしれない異常は日本では欧米に比較してずっと少ない。それにも係わらず、日本政府の環境ホルモン予算は欧米に比較してずっと多いのは不思議だ。日本の予算は1998〜2000年の間、約80億円/年である。米国は約30億円/年、英国は1994〜2001年の8年間で合計27億円にすぎない。

C先生:市民も、そろそろ環境ホルモンが大した問題ではないことに気付き始めている。

A君:これも、また聞きですが、あるところで市民団体の代表から、現在の環境ホルモンの問題をどう思うかを講演してもらったところ、2002年の6月14日に出た環境省による発表、すなわち、ヒトに対しては、ほとんどすべてのフタル酸エステル類は環境ホルモンとしての特性は問題にならない、という情報を持っていなかった。さらに、フタル酸エステルの一種、DEHP、DINPが赤ちゃんの「おしゃぶり」に使えなくなったのは知っていたが、ただし、これらの化合物が環境ホルモン性があるという理由で禁止になったのではなくて、通常毒性がたまたまセルトリ細胞という精子のお母さんみたいな細胞に対して出るために禁止になったということは知らなかった。

B君:その市民団体は、自分達でニュースレターなどを発行しているはず。だとしたら、そのような情報ソースで、誤った報道をしていることになるが。

C先生:それも、ある意味で当然。すでに、市民団体も環境ホルモンをきちんとフォローしていないのだろう。

A君:その場にいた人が、「そんな対応では、商業メディアと同じ情報提供にしかならない。すなわち、問題が起きたことだけを伝えている。それ以後のフォローをきちんとしないと、二次情報を会員に与えるという意味が無いのではないか」、という指摘をしたところ、「今後考慮したい」という反応だったようだ。

C先生:一般的NGOにとっては、化学品のリスクに関する理解はかなりハードルが高い。欧米だと、毒性学の専門家が多いから、NGO専属の専門家がいて、また、企業専属の専門家もいて、それなりに活躍しているから情報の正しい伝達が行なわれる。

B君:NGOの一部には、それは、「行政がきちんとした情報を流さないから悪いのだ」、という非難をもって、自らの怠慢を弁護するという態度をとるところがある。

A君:先日、エコマーク関係の講演会では、あるNGO関係者が、行政はインターネットに情報を出したというが、「インターネットなどは見ている暇が無い。また、見ることができない人も多い」、と言い訳を言っていました。

B君:NGOでもNPOでも、環境関連を名乗るとしたら、誰か一人、インターネット情報検索担当者を任命しない限り、運営は不可能だと思う。インターネット上の情報は、そのぐらい価値がある。

C先生:化学物質関係についても、推奨できるインターネットページへのリンク集ぐらいを作るべきかもしれない。そんなことを、さる団体に推奨しておこう。まあ、「何か感じたら、ここを見ると情報がどこかにあります」、というページを作っておいて、その宣伝をすることが必要かもしれない。

A君:本HPは、やりませんよね。

C先生:なんでもかんでもやると、破滅するからやらない。

B君:本HPの存在意義は、第一段階の解説。要するに、誰にでも判るレベルまでの解説は不可能だが、多少判る人が増えるレベルまで、「親切に、なおかつ基本的に、さらに、できればその背景や場合によっては裏を説明すること」。

C先生:そんなところまでが限界だ。今回の「」とは何だろう??

A君:最後に、ですが、日本化学工業協会では、内分泌かく乱物質関係がどのぐらい新聞に取り上げられているか、調査して統計を取っているようです。それによりますと、ピークが1998年の7月で、800件。話題はカップめんの容器論争。

B君:ポリスチレン中のダイマー、トリマーが問題になったのだが、今は、例のSPEED’98という1998年に環境庁が作った「環境ホルモンと疑われる物質のリスト」からも外れている。

A君:今にして思えば、なんの騒ぎだったのでしょうか。その次が、1999年1月の600件余でして、これは、京都での第1回シンポジウムの報道。例の米国フォンサール教授が講演をしたとき。もっともそれ以降も、フォンサール教授な何回もシンポジウムに参加していますが。

B君:フォンサール教授の低用量効果と言われている、あるいは、逆U字特性と言われている現象は、彼自身を除いて、再現ができない。

A君:科学というのは、「誰がやっても再現ができる場合に、そう名乗れる」、のだと思いますね。そして、それをピークにして、次の神戸シンポジウム(1999年年末)では、250件程度。そして、現時点では、100件程度になっているらしいです。

B君:余程のことが無い限り、環境ホルモンが新聞記事に載ることも無くなったが、100件程度という件数は、今後とも継続することだろう。国が研究費を続けて出している限りにおいては。

A君:ジョン・P・マイヤーズなる人物が、「環境ホルモンは毒性学の枠組みを超している」と主張しているらしい。この人物が「この研究分野の延命に有用だから招かれている」としたら。

B君:いささかきな臭い。勿論、ご存知のように、ジョン・P・マイヤーズは、「奪われし未来」の筆者の一人。

C先生:いずれにしても、どうやって納めるか、考えどきになったようだ。