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   エネルギー・環境イノベーション戦略 04.09.2016
          2050年を目指す戦略にするために        




 NEEISと略されるエネルギー・環境イノベーション戦略が策定されました。策定をしたのは、エネルギー・環境イノベーション戦略策定ワーキンググループであり、そのメンバーは
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/juyoukadai/wg_enekan/kouseiin.pdf
でご覧いただけます。

 現時点で最新の文書は、「エネルギー・環境イノベーション戦略(案)3月24日版」で、
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/juyoukadai/wg_enekan/4kai/shiryo2.pdf
からダウンロードが可能ですが、まだ、最終バージョンではないようです。

 発表されて、すでに半月経過したのですが、詳細に読み下す時間が取れなかったので、今回、その概要をまとめて見ることにします。

 個人として、この文書の策定に関わっていませんで、全くのアウトサイドに居たものとして、その位置付けは何か、そして、これをどう活用すべきなのか、という観点から読み下してみたいと思います。



C先生:まず、この文書が画期的なのは、2050年までというスコープを持った文書であること。これほどの長期間をカバーするような公式文書が作られたこと自体、空前絶後なのではないかと思われる。大体、35年後までカバーしているとすると、過去を振り返れば、1980年代頃に現時点が予測できただろうか、ということになる。そのころの技術と、現在の技術がどれほど変わっているか、ということを理解しないと、今後の35年でどのぐらい技術というものを作ることができるか、全く予想できない。まあ、そんな前提を最初に議論してから、この文書を読み下して行こう。

A君:大きく進化した部分と、余り進化していない部分があるというのが歴史が示すことなのでは。大きく進化した部分は、やはり消費者が持っているものであって、例えば、電力事業者が資産として所有しているもの、となると、それほど大きくは変わっては居ないのでは。

B君:今回検討するのはエネルギー・環境関連なので、エネルギー多消費でない製品は検討の対象にする必要はない。その例が、スマホのようなものだ。そもそも携帯電話が一般的になったのは、ドコモのムーバからと考えれば良いのではないだろうか。提供開始が1991年のことだけど。

A君:消費者用の製品としては、電化製品、自動車、電動XXがどのぐらい進化したか。XXは例えば、自転車。そのイノベーションの鍵となった技術は何か。といったもので十分なのでは。

B君:そうだろう。電化製品でもっとも消費エネルギーという面から進化したものとしては、冷蔵庫・テレビを挙げるべきだと思う。その鍵は、2つ。インバーター技術と真空断熱技術。特に、真空断熱が効いたのかもしれない。

A君:環境省の製品買換えナビゲーションサイトである「しんきゅうさん」を使って、1994年以前の250リットル(この程度のサイズが一般的だったと思う)の冷蔵庫と現在の440リットルの冷蔵庫を比較してみると、年間消費電力が770〜960kWhであったものが、現時点だと180kWh程度。

B君:1/4から1/5になっている。

A君:テレビだと、1994年以前となると、ブラウン管。26インチだとして、年間消費電力が244kWh。それが、47V型だとすると、現在は、77kWhぐらいになっている。1/3程度にはなっている。

B君:エアコンだと、1994年以前が1292kWh、現時点だと779kWhとなっていて、それほど画期的な進化ではない。

A君:実は、冷蔵庫、テレビ、エアコンの省エネ進化の歴史は、本Webサイトでも取り上げていて、
http://www.yasuienv.net/EneSaveHis.htm
1973年ぐらいからの比較は、この図のようになっていると思われるのです。


図1:1973年から2013年ぐらいまでの省エネ図(再掲)

B君:そうなんだ。この図を見ると、1973年、すなわち、第一次石油ショックをきっかけにして大幅な省エネが行われたと考えるべきなのだ。その後1982年ごろから省エネは全く顧みられることがなくなって、再度、省エネが進化し始めるのが、1994年ぐらい。1992年のリオサミットによる地球レベルの環境問題が認識されるようになったことがきっかけなのだろう。

A君:確かに。そうだと思います。冷蔵庫、エアコンの進化のうち、インバータの採用による部分は、1983年ぐらいで完成形になっているという理解で良いのかもしれない。となると、35年間の進化というものは、それほど大きな期待はできないのかもしれない。

B君:「しんきゅうさん」には、LED照明への転換による効果が計算されているのだけれど、白熱電球をLEDに変えることによる省エネ効果は確かに大きいのだ。しかし、「しんきゅうさん」では読み取れないことだけれど、蛍光灯、特に、Hf型の40W蛍光灯となると、LEDに変えることによる省エネ性能の向上は恐らくほとんど無いのが現状だ。同じ蛍光灯でも、電球型蛍光灯からLEDへの買い替えなら、20%を超すぐらいの省エネ効果が期待できるので、まずは、これをやっていただくのが良いと思う。ただ、2020年には、日本国内で、蛍光灯の生産は行われていないだろう。それは、水銀条約のためだけれど。

A君:それでは、消費者が買う製品の最後に、自動車。自動車の燃費の向上は、ハイブリッド車の導入によって、格段に進化しました。具体的には、平成5年(1993年)から平成25年(2013年)の20年間で、12.3km/Lから22.5km/Lに、ほぼ倍増しました。

B君:ハイブリッドもそうだが、実は、軽自動車の燃費の進化はすごくて、平成22年(2010年)から急激に燃費が向上した。軽自動車がベストセラーに食い込むようになって、燃費競争が激しくなり、同時に販売数が増えたもので、エンジンを新規に設計したものに変更したことが大きい。価格優先の軽には、かつて回転部分にベアリングを使っていなかったようなエンジンもあったのだ。

A君:この図は、
http://www.mlit.go.jp/common/001084230.pdfを参考にして、作ったものです。



図2 日本における自動車燃費の推移

A君:車両重量1266kgから1516kgの平均燃費が平成20年(2008年)に飛び上がるのですが、これは、このクラスの燃費競争が、3代目プリウスの発売によって、ますます激しくなったことが影響しているのではないでしょうか。20年で燃費が倍以上になったのはすごいことです。

C先生:しかし、ここまで進化してしまった消費者用製品だけれど、今後、2050年を視野に入れたとき、どこまで省エネが進むのだろうか。

A君:恐らく進むものが無いとは言いませんが、もっと基盤というか基本から変わらないと、進化しないのではないですか。有線の電話がスマホまで変わったようには。

B君:多分そういうことだろう。しかし、スマホ程度の重さのものと、電力用の発電機といった重い製品では、全く進化のスピードが違う。それは、物量だけでなくて、エネルギー量が全く違うからで、それほど進化するようには思えない

A君:風力発電がまさに典型的なもので、現時点での最大の風車は、三菱重工とヴェスタスの合弁会社が作る8000kWぐらいのものだけれど、羽の直径が160mとか言った規模になってしまう。これ以上、大きくはならないように思えるのです。

B君:半径で80mか。陸上競技場のトラックは一周400m。そのカーブは、半径35mなので、なんというサイズ。陸上競技場レベルの場所があっても、羽を置くことはできない。

A君:今でも、こんな羽がよく作れるなあ、という感じはありますね。

B君:となると、例えば洗濯機の消費電力は、スマホと風車の中間的存在だけれど、どちらかと言えば、まあ、すでに進化してしまっていて、今後改善されることはまあない、に分類されるのだろう。

A君:車も中間的ですが、2050年を考えると、先進国では、ほぼゼロエミッションの車以外は難しい。今からだと、CO2排出量80%カットでも足らない。となると、毎日短距離を乗る車としてはEVが理想的。ときどき、ドライブ旅行に出かけるといった車であれば、エンジンで動く距離がほとんどないという状況にしなければ。となると、充電用のエンジンを積んだ車が許可されるが、ガソリンの値段は課税によって、非常に高くなっている。

B君:しかし、途上国だと、燃費を倍にすれば良いので、今のプリウスぐらいの技術で対応ができてしまう。ただし、これは、その国の車の保有台数が増えないという仮定なので、できれば燃費を4倍にしたい。やはりプラグインハイブリッドぐらいかもしれない。

A君:EVの場合には、毎回言っているように、充電時間が最大の問題で、5分以内に充電が完了できるようになれば、すべての車はEVになる。

B君:それは無理だ。そんな電気量を短時間で移動することはほぼ不可能。ということで、水素燃料電池車がインフラの問題が解決すれば、やはり有力かも。ただし、水素は、再生可能エネルギーで作ることが大前提。あるいは、石油・天然ガスからCCSプロセスを含む製造法で作る。

A君:要するに、これらのことは、すでに分かっているもので、新しいアイディアが全くでないですね。やはり、イノベーションは、このような発想では起きない

C先生:さてさて、なんとなく否定的な結論になったようだ。そろそろ、本題に入らないと長くなりすぎる。「エネルギー環境イノベーション戦略」の内容を紹介して欲しい。

A君:これが、この戦略の趣旨だとされています。
 「今回策定した本戦略は、2050 年頃という長期的視点に立って、世界全体で温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するイノベーション創出をターゲットとしている。研究開発をより重点的・集中的に進めていくべき技術を特定して、それぞれの克服すべき技術課題を明らかにし、研究開発の推進体制の在り方を示すとともに、世界に向けて我が国が貢献する方策を示す戦略と位置付けている。

B君:「例えばテレワーク、省エネ住宅・ビル、風力発電、高効率火力発電、原子力発電のように、既に推進体制が構築され、実証段階・実用化段階にある技術、あるいは短中期的に実用化が見込まれる開発段階にあるものについては、研究開発に長期間を要するリスクの高い革新技術を対象とする本戦略には馴染まない」、という記述もある。

A君:以下は、平成25年9月に策定された37分野にもとづいている例です。次の分野です。
「(※)環境エネルギー技術革新計画で掲げられた 37 分野
高効率石炭火力発電、高効率天然ガス発電、風力発電、太陽エネルギー利用(太陽光)、太陽エネルギー利用(太陽熱)、海洋エネルギー(波力、潮力、海流)、地熱発電、バイオマス利活用、原子力発電、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、人工光合成、次世代自動車(HV、PHV、EV、クリーンディーゼル等)、次世代自動車(燃料電池自動車)、航空機・船舶・鉄道(航空機)、航空機・船舶・鉄道(船舶)、航空機・船舶・鉄道(鉄道)、高度道路交通システム、革新的デバイス(情報機器、照明、ディスプレイ)、革新的デバイス(パワエレ)、革新的デバイス(テレワーク)、革新的構造材料、エネルギー・マネジメント・システム、省エネ住宅・ビル、高効率エネルギー産業利用、高効率ヒートポンプ、環境調和型製鉄プロセス、革新的製造プロセス、水素製造・輸送・貯蔵(製造)、水素製造・輸送・貯蔵(輸送・貯蔵)、燃料電池、高性能電力貯蔵、蓄熱・断熱等技術、超電導送電、植生による固定、その他(メタン等)温室効果ガス削減技術、温暖化適応技術、地球観測・気候変動予測」

B君:そして、革新技術分野の特定のための評価軸という記述があって、
@ 非連続性が高く、インパクトの大きい革新的な技術
 既存技術あるいは既に実用目前の開発・実証段階の技術またはその延長上ではなく、全く新しい材料や構造、システムを適用することにより、効率や性能が大幅に向上する等、非連続的で大きなインパクトを持つ革新技術であること。
A 大規模に導入することが可能で、排出削減ポテンシャルが十分大きい技術
 技術課題を解決して実用可能なレベルまで開発が成功すれば、経済性も成立し、将来のエネルギー・システムに大規模に導入が可能な技術であること。国内だけでなく海外にも適用可能で、世界の温室効果ガスの削減ポテンシャルが十分大きいと考えられる技術であること。
B 実用化まで中長期を要し、開発リスクが高く産学官の総力を結集すべき技術
 現在は基礎研究あるいは初期の開発段階で、実証や実用化には未だ困難な技術課題が存在する開発リスクの大きな技術であって、産学官の総力を結集しなければ解決できないと考えられる技術であること。
C 日本が先導できる技術、日本が優位性を発揮し得る技術
 研究段階で日本が世界を先導しており、本格的な開発段階でも世界を先導し得る技術。あるいは、現時点では日本に技術的優位性は無くとも、日本の地理的特性、自然条件等から、日本で導入すれば CO2排出量の削減効果が大きく、優位性を発揮し得る技術であること。

A君:この評価軸を検討することが、戦略だということになる。そして、この戦略で特定された分野が、以下の通り。
[1] エネルギー・システム統合技術
[2] 省エネルギー分野
[3] 蓄エネルギー分野
「4」 創エネルギー分野
[5] 二酸化炭素固定化・有効利用

 今回の記事は、これらの内、[2]について、若干検討したことになるけれど、やはり、全く新しい発想を持つことは、極めて困難であることを示しただけになってしまった。

B君:これらの分野について、具体的な例が記述されている。省エネについては、「革新的生産プロセス」が重要との認識が記述されていて、その例として、
<膜分離技術>
<革新触媒利用生産プロセス技術>

の二つだけが記述されているに過ぎない。

A君:これは単なる例示だと思う。すでに、かなり検討がなされていて、今後の画期的なイノベーションのためには、何か、新規材料開発のような根底から概念を覆すような、言い換えれば、本戦略も主張しているハイリスクな研究を行わないとやはりダメなのでは。

B君:となると、発想を変える必要があるかもしれない。やはり、明確なゴールを決めることが、第一段階かもしれない。
 例えば、上記の37の項目を選択し、そのゴールを決める。例えば、人工光合成としようか。これまでの人工光合成は、「合成」を全く目指さない研究が多かったのだけれど、東大名誉教授の五十嵐先生が言うように、「合成」ができて初めて意味がある。となると、どのような物質を合成するのか、をまず決める。五十嵐先生の主張は、C−C結合を持つ化合物を作れなければ、光合成とは言えない、とのことなので、それを採用する。

A君:ちょっと待って。東芝が、「二酸化炭素をエチレングリコールに変換する人工光合成向け分子触媒を開発」というニュースがあります。昨年の9月ですね。
https://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/1509_01.htm
 現在、植物PETと呼ばれる製品では、サトウキビから作ったエタノールを原料として、エチレングリコールを作っていますが、サトウキビではやはりブラジルに勝てない。エチレングリコールであれば、C−C結合はあるし、しかもPET樹脂の原料なので、この方法が確立すれば、日本でも勝負できることになる。

B君:要するに人工光合成の研究ならなんでも良い、と言うのではなくて、C−C結合をもった化合物であるエチレングリコールを作る人工光合成を開発せよといった具体的なターゲットを設定し、そこに向かって研究開発を進めるべきだということになる。

A君:ある方法論を進化させるといった発想ではなくて、将来とも有用であろう物質、場合によっては、物質でなくて、新しい物性でも良いのかもしれないですが、それを特定して、その実現のためにあらゆる分野の研究者が協力して一斉に取り組む。

B君:それなら、確かに分野間での協力が進んで、新しい発想が出る可能性が高まるかもしれない。

A君:例えば、フランスあたりでは、結構、試みが行われているゼロエネルギービルですが、これを作るとしたとき、やはり高層ビルでは難しい。理由は、屋上の面積が小さいので、太陽電池を大量に設置することができないから。そこで、「高層ビルでも、かなり大量の電力を発生する再生可能エネルギーシステム」の実現を戦略的目標にして、広い範囲の研究分野がこれに取り組む。

C先生:国連大学に居たとき、東向きの部屋だったのだけれど、朝、太陽光が非常に強くて、暑くて仕方なかった。そこで、反射フィルムを貼ってもらったのだけれど、本当なら、発電フィルムを貼りたいところだった。

A君:夏は暑いでしょうが、冬だと太陽光をできるだけ透過するようなフィルムが欲しいですね。温度によって、光吸収が変わるフィルムも必要なのでは

B君:可変機能フィルムか。どうやって機能をスイッチするのかな。といった発想が必要になる。昔なら、フォトクロミズムだろうか。今なら、ボーイング787の窓みたいなものに、できれば、これに加えて、発電機能を持たせたもの。

A君:そんな発想を自由に行って、物質の特定や材料特性の特定、さらには、可変特性材料のようなものを目的に応じてターゲットとして、様々な分野の研究者が競走しつつ取り組むといったやり方が、2050年を目指すような長期的な研究プロジェクトの方法論のようには思えますね。

C先生:かなり長くなったので終わりにするけれど、結論的に言えることは、「エネルギー・環境イノベーション戦略(案)3月24日版」に例示されていることは、取り組めば良い戦略になるものでは全く無いと思う。すでに発想法が決まっていて、何か革新的な結果が得られるものではないからだ。これらの例は、この戦略が目指すものとは全く反対の性格を持ったもののように思える。真のゴールをいくつか設定したいものだ。