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  中小製造業の環境経営 03.25.2005



 先日、さいたま新都心で、「中小製造業の環境経営化による企業競争力に関する調査」というものの報告会があった。実は、この調査委員会の主査を務めていた。

 これまで、企業の環境経営というと、大企業だけを対象として考えてきた。今回、中小製造業を対象としたものであったために、かなり面白い結果が得られた。

 この調査であるが、財団法人 広域関東圏産業活性化センター(GIAC)がUFJ総研とともに行ったもので、そのうち報告書が発行される。


C先生:企業の環境経営というと、ISO14001、環境報告書、CSRといったキーワードを思い浮かべる。今回の調査では、いくつかの先端的な中小製造業について、主としてヒアリング調査・アンケート調査を行ったもの。

A君:中小製造業というと、上のキーワード以外に、さまざまな環境関係の仕組みの影響を受けていますね。特に、最近問題になっているのが、ヨーロッパの規制。特に、RoHS規制。Ristriction of Harzardous Substancesというこの規制は、4種類の元素(イオン)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr6+)と2種類の臭素系難燃剤の電気電子機器への利用を禁止するもの。

B君:元素の使用禁止という非常に強行な規制なのだが、もしも、これを本当に守ろうとすると、大変な仕組みが必要になる。

A君:元素というものは、化合物と違って、地球上に90種類余しかない。そのうち4種の使用を禁止するというのは、相当な規制。

B君:電機メーカーというのは、基本的に最終組み立てしか行っていない。部品は、下請けから仕入れる。下請けは孫受けから素材などを仕入れる。となると、孫受けまで、使用が禁止されている元素が含まれていないかどうか、きっちりと管理する必要がある。このような管理をサプライチェーンマネジメントと呼ぶ。

A君:ところが、すべての部品や素材が本当にある種の元素を含んでいないかどうかをチェックするのは不可能。なぜならば、元素の使用が禁止ではあるのだが、一部の化合物に関しては、許容されているものがある。例えば、鉛ははんだとしての使用は禁止されているが、圧電材料として、スピーカーやマイクに使用されるPLZTという化合物や、光学ガラス用の鉛ガラスに関しては、使用が許可されている。となると、元素分析をやればよいというものでもない。

B君:どうやって管理するのか、といえば、それは、環境管理システムがしっかりしているかどうか、というのがほぼ唯一の評価基準になる。

A君:という訳で、電気電子関係の中小製造業は、環境管理システムを整備することが必須になっている。

C先生:ということで、最近では、中小製造業にも環境経営を行うところが増えている。進んでやるというよりも、やらざるを得ないという状況のところが多い。

A君:これまでの理解ですと、環境経営というものは、防御的に行うということが常識だったように思うのです。環境などに配慮していないと、企業としてのスタンスを世間に問われる。世間から高く評価されることは、企業業績にとっても重要な要素である。したがって、配慮しているように振舞う。

B君:コスト削減にも効果的などという見解もあって、一見、攻撃的であるように見えるが、実は、世間から後ろ指を指されないようにということが主目的で良いというのがわれわれの見解であった。

C先生:ところが、今回の調査で分かったことは、実はいささか衝撃的で、中小製造業の場合には、環境経営を行うことによって、企業の活力に別の良い効果が生まれることがあるということであった。

A君:これまで知られているアンケート結果をまず示してみましょう。


  図1:大企業のISO14001導入の効果。以前の結果。

A君:この図のように、環境意識の向上、環境負荷の低減に続いて、コスト削減があります。


   図2:中小企業のISO14001導入効果。以前の結果。

A君:以上見ていただいたように、中小企業の場合だと、企業イメージの向上という言葉はあっても、コスト削減などは期待できないというのがこれまでの調査結果でした。ところが、今回のアンケートの調査は、以下のようなものでした。


 図3:今回の中小製造業へのアンケートの結果。左:環境経営導入の目論見、右:環境経営の実際の効果

A君:この図のように、社員の動機付けに有効というのが大きな効果だとしています。

B君:中小製造業だと、社長が全部仕切って、社員はついていくというのが一般的だから。

C先生:どうも社員の提案力とか、参画意欲とかが向上するようだ。

B君:先ほど話題になったコスト削減などについては、どうなんだ。

A君:表1を見てください。不良品率の改善や歩留まりの向上といった効果も出るようです。したがって、コスト削減にも繋がっているのでしょう。


   表1:今回のアンケートの結果。

B君:従業員のスキルの向上といった効果も出るとしたら、これはすごいことだ。

C先生:その理由の説明は、このアンケートからでは見つけることができない。

A君:いくつかの先進的中小製造業をヒアリングして、得られる効果とその解析を行っています。そして以下が結論です。

a) 原価低減のチャンス
環境マネジメントシステムを「原価低減のチャンス」という経営に活かす視点で取り組むことにより、環境負荷の低減だけではなく、原材料や製造工程の見直しが進み、原価低減につながる。紙ゴミ電気の削減のみならず、環境を起点とした原材料の見直しや生産工程、治具類の改善といった徹底的なムダとりこそがコスト低減につながるきっかけになる(参考モデルスタディ:平和工業株式会社、株式会社鈴幸製作所)。

b) 環境(E)=品質(Q)
 環境マネジメントシステムを「環境(E)=品質(Q)」という経営に活かす視点で取り組むことにより、環境配慮の取組が生産工程の省エネ・省資源化につながり、不良品の低減、歩留まりの向上、さらには品質そのものの向上につながる(参考モデルスタディ:平和工業株式会社、株式会社篠崎製作所)。

c) 社員の提案力アップ(能力向上)
環境マネジメントシステムを「社員の提案力アップ(能力向上)」という経営に活かす視点で取り組むことにより、社員の環境意識の向上だけではなく、スキルとして提案力がアップし、様々なアイデアや取組が生まれる土壌ができる。社員の環境意識の向上は、個人の意識レベルまで浸透するが、単なる環境意識で止まるのではなく、企業の生産工程や経営などに対する提案力がアップすることで、新たな発想が生まれてくることが最も大きな効果となる(参考モデルスタディ:株式会社篠崎製作所、株式会社鈴幸製作所)。

d) 新技術・製品・サービスの創出
環境マネジメントシステムを「新技術・製品・サービスの創出」という経営に活かす視点で取り組むことにより、自社技術・製品等の見直しや具体的な新技術・製品・サービスの創出につながる。これは、環境ビジネスとして自社と全く接点がない事業やアイデアが突然出てくるのではなく、社員の提案力アップによって、自社の既存技術を環境という視点から見直すことで新たな技術・製品分野が開けるというものである(参考モデルスタディ:株式会社篠崎製作所、株式会社鈴幸製作所)。

C先生:これが本当なら、環境経営を導入することが、企業にとってプラスであり、例え、500万円という導入費用がかかるとしても、これは価値があるという結論になる。

A君:ただ、本音を言わせて貰えば、環境経営といいながら、コスト削減が第一のポイントになっているところが本当は気になる。

C先生:それは、もっともな感触だ。後ほど、これらの企業の社長の発表を聞いた感想を述べてみたい。

B君:社員の提案力があがるというのは大変な効果だとは思うものの、それまで、社員は何をやっていたのか、という思いもある。

C先生:それももっともな感想だろう。大企業だと、各社員は、企業の経営全体に目を配るということもあるだろう。しかし、中小製造業の場合には、社長がすべての経営方針を決めている場合もあり、また、社員は、各専門作業の名人であるという自己認識があり、多くの場合には、自分のテリトリーから出ようとしない。このような状況が、環境という共通の課題を提示することによって、改善されたのだろう。

A君:ということは、大企業よりも中小製造業の方が、環境経営導入の効果が大きい可能性があるということを意味しますね。

B君:多分そういうことなのだろう。

C先生:そうだ。ただし、やはり中小製造業の場合だと、コスト削減にどうしても強い関心が行ってしまうのも、事実だ。先日の報告会の感想をそろそろ述べたいのだが、どうも、中小企業に環境経営を導入すると、電気ケチケチ、ゴミは完全にゼロにする、といった対応になるようだ。それが悪いという訳ではないのだが、環境経営の究極の目的は、そのようなものではない。

A君:究極ですか。それは、これまでわれわれが問題にしてきた発展段階だと第四段階、すなわち、二酸化炭素削減と、物質・エネルギーからの離脱まで考えての話のようですね。

C先生:その通り。20世紀型の環境経営であれば、コスト削減と環境負荷の削減でよかった。しかし、21世紀型の環境経営は、22世紀になろうとするころには、まあ80年後には、必ずや物質・エネルギーの離脱といった視点に到達しているに相違ない。

B君:しかし、中小製造業にとっては、余りにも遠い未来のような感触だろう。

C先生:それはその通り。しかし、遠い未来の方向性を認識しながら、現時点から近い未来への道筋を考えることも悪くは無い。

A君:いろいろと考えて、次のような図を作ってみました。


   図4:20世紀型環境経営と21世紀型環境経営の相違

A君:この図のように、20世紀型の環境経営では、やはり、環境経営を導入することによって、売り上げを増大することが最終的な目標だったのでしょう。しかし、21世紀型になると、物質・エネルギー使用からの離脱という話になれば、売り上げは、むしろ下げるのが妥当。しかし、利益は確保するということが目的になるでしょう。

B君:売り上げは下げて、利益を確保。これは、これまでの経営者にとって、根本的な思想の転換になる。しばらくは難しいのではないか。

C先生:その通りではあるが、当分の間、「売り上げは下げ、利益は上げる」、を標語にしていろいろと考えてみることにしたい。

A君:これから日本という社会は、人口が減少しますよね。となると、売り上げを増やすことはかなり困難。だから、価値の高い商品を買ってもらって、利益は確保するのが正しい対応。

B君:そんなことは分かっている。しかし、他にもっと説得力のあるような説明がないと、信用して貰えないだろうと言っているのだ。

A君:こんな説明はどうですか。売り上げを1億円上げるとする。いつもの例ですが、ルイビトンというハンドバックは塩ビ製だけど10万円する。しかし、塩ビ製の1000円のバッグだってあり得る、という話で行きたいと思います。
 もしも、1000円の商品だと、10万点を売る必要がある。今後の日本では、そんなことをすると、すぐさま市場に商品が溢れ、飽和状態になってしまう。ユニクロの低価格製品がそうだったように。

B君:読めた。しかし、10万円の商品であれば、1000点売れば良い。1000点しか売らなければ、市場はなかなか飽和しない。

A君:しかも、1000円の商品では、利益は、まあ、1個あたり100円が良いところ。となると、10万点売ったとして、荒利益は、1000万円。

B君:ところが、10万円の商品だと、利益は1個当たり5万円ぐらいある可能性が高い。となると、粗利益が5000万円になる。

C先生:ということが、これからしばらくの主張だ。売り上げを伸ばさないことのメリットを企業が気づいてくれればよいのだが、日本という国は結構お互いの足を引っ張る。

A君:最近起きたことだと、DVD・HDDレコーダでしょうか。パナソニックとパイオニアがライバルで競っていた。この商品が導入されたときには、商品価格は、20万円ぐらいだった。しばらく前でも、10万円ぐらいはした。

B君:ところが、ソニーが本格参入して安売り攻勢を掛けた。そのおかげで、消費者は高くても欲しい商品だったのに、安売りが常識になって、これでデジタル家電が企業収益を生まなくなった。薄型テレビも同様。

C先生:まず、「売り上げを下げて利益を確保」、これが21世紀型環境経営の最初の課題だろう。そして、これは、究極の課題になるのだろうが、「利益を下げて幸福感を上げる」、のが21世紀型環境経営の真髄。

A君:そこまで行くと、資本主義そのものの変換ということになりますからね。

B君:現代資本主義は、株主の利益ということを重視している。しかし、株主という存在は、目先の利益で動く。長期的な企業の成長を目指すと、株主は去ってしまうかもしれない。となると、企業の本当の社会的貢献を実現するには、株主への配慮を下げるべきであるのは事実なのではないか。

A君:米国型の経営というのは、株主の利益重視。そして、M&Aなどで勝者が全部を取るというのも米国流。

B君:米国の悪いところは、米国流を「グローバルスタンダード」だと言うこと。先日訪日したライス長官も、そういう価値観。

A君:米国流に同調しているのは、英国ぐらい。しかし、このところの温暖化ガスの削減では、英国は極めて立派。となると、そろそろ、米国と日本の一部の米国かぶれの経営者だけが、「グローバルスタンダード」という名の米国流を賞用するのでは。

C先生:いずれにしても、最終的な目標は、利益ではない。企業がなぜ利益を上げなければならないか、といえば、それは社会貢献をして幸福感を得るため。ブータンという国は面白い国で、経済的な指標で国の開発状態を評価するのを止めた。幸福を中心に据えた指標を使い始めている。国民総幸福量なる指標だ。この国の先進性には、米国は勿論、日本も負けている。これが、21世紀型環境経営の究極の目標だろう。まあ、先の話だが。