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    今後の電力 数冊の本 (5) 
  06.29..2014
            電力改革―エネルギー政策の歴史的大転換  橘川 武郎 (著)



図書データ

電力改革―エネルギー政策の歴史的大転換
(講談社現代新書 2145)
橘川 武郎 (著)
新書: 256ページ
出版社: 講談社 (2012/2/17)
ISBN-13: 978-4062881456
発売日: 2012/2/17

 経産省や環境省の審議会などで、数回ご一緒したぐらいで、個人的にお話をしたことはない。Wikiによれば、以下のような紹介になっている。

 日本の経営学者。専門は日本経営史・エネルギー産業論。東京大学教授等を経て、現在一橋大学大学院商学研究科教授、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員、2013年1月から日本経営史学会の10代目会長を務めている。和歌山県出身。
 日本におけるエネルギー産業(特に電気、石油)の研究の他、流通業や企業の金融に関する研究なども行っている。また、東大社会学研究所時代から参画する希望学プロジェクトに関連し、釜石市を例に取った、地方・地域経済活性化についての研究も行っている。 経済産業省資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会総合部会(現在は基本政策分科会)のメンバー15名の1人でもあり、2014年4月に発表されたエネルギー基本計画の策定にもあたった。
 このエネルギー基本計画は、2013年の暮から2014年の正月にかけてパブリックコメントが行われ、18,663件のコメントが寄せられた。その内容は、次の文書にまとめられている。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000109636
 当然ながら、「原子力は即時ゼロにすべきである/再稼働をすべきでない」として括られている意見は、実に多数に及ぶ。この基本計画をまとめられたメンバーの一人である橘川氏がどのような発言をされたのか(議事録を見ればわかるのだけれど、実際にはチェックしていない)という推測をしてみたいという狙いで、この本を読んでみた。

目次:
はじめに
第1章 リアルでポジティブな原発のたたみ方
第2章 日本の電力業の歴史
第3章 電力産業体制の改革
第4章 電力需給構造の改革
第5章 原子力政策の改革
第6章 求められるビジネスモデルの転換
おわりに




C先生:ちょっと趣向を変えて、「おわりに」から読んでみた。橘川氏は、日本のエネルギー政策を見直す際に、堅持すべき視点を3つ上げている。A君、ちょっとまとめてくれ。

A君:まず、一つ目は、現実性。例えば、原子力発電に関して言えば、「反対だ」、「推進だ」と原理的な主張を繰り返すだけの時代は終わった。危険性と必要性という両面を直視し、どのようにバランスを取るかという、冷静な議論が求められている。エネルギー問題をめぐる論調では、自分と異なる意見を批判するだけのネガティブ・キャンペーンがまだまだ多い。現状を批判する場合には、必ずポジティブな対案を示すべきである。「脱原発」を主張するのならば、再生可能エネルギーをどう普及させるか、火力発電へのシフトがもたらす燃料調達と二酸化炭素排出の問題をどう解決するか、省エネによる節電をいかに進めるか、などについて具体案を提示する必要がある。

B君:なるほど。同意できる。

A君:そして、二つ目は、総合性である。議論の焦点が原子力と再生可能エネルギーに収斂されがちであるが、現実には、「原発依存の時代」から、「再生可能エネルギーの時代」への移行には相当時間がかかり、その間には、「火力でつなぐ時代」が続く。また、再生可能エネルギー利用の増大には、分散型電源の拡充が効果的であり、事業者の規模を小さくすることが望ましい。一方、火力発電用燃料の調達のためには、事業者規模が大きい方が交渉力を高めることができ、有利である。この面でも、事業者規模に関する総合的な視点に立った調整が求められる。

B君:「火力でつなぐ時代」が必要であるのは事実。しかし、CCSを併用しなければならない状況がいつ来るのか、という議論は、後述のようにほとんどなされておらず、橘川氏の基本的な主張は、高効率石炭火力の海外移転によって、CO排出クレジットを獲得するという方針のようだ。また、再生可能エネルギー以外の分散型電源については、2年前に比べれば、このところ議論が進んでいない。現実には、SOFCタイプの燃料電池などが発売されたのだが。

A君:最後の三つ目は、国際性である。日本だけが原発を縮小しても、韓国・中国・インドなどのアジア諸国では、原発の新増設が相次ぐ。このような状況下で、わが国は、原発の技術を放棄してよいのか。また、温暖化対策を、国内の原発新増設で進める時代は去った。これからは、二国間クレジット方式に基づいて、石炭火力の燃焼技術の移転によって、海外で二酸化炭素排出量を減らす時代がやってくる。エネルギー政策の改革には、国際的な視点の導入が必要不可欠である。

B君:なるほど、国際性が加わって、現実性、総合性、で3つか。確かにその通り。我々も、この3つは重要だと考えている。しかし、最後の国際性だけど、世界の枠組みがどのようになるのか、不明の部分が非常に大きい。特に、2020年以降の枠組みを決めるCOP21が2015年末に行われるけれど、どういう結末になるか全く予想できない。

A君:単なる直感ですけど、二国間クレジットという枠組みでの削減が認められない可能性が高いように思うのです。すなわち、二国間クレジットは、2020年までの枠組みなのではないでしょうか。

B君:その可能性は高い。
 話を元に戻すけれど、エネルギー関連のビジネスモデルの歴史的転換を行わなければならないことは、様々な情勢からみて事実だろう。そこで橘川氏は、氏が専門とする「応用経営史」の手法を採用し、「変遷史を濃密に観察することから出発して、発展のダイナミズムを析出し、あるべき改革を現実化する道筋を展望していく」、ことになる。要するに、歴史的な必然は何か、ということで、改革に説得力を持たせようというアプローチだ。

A君:これから起きる電力のビジネスモデルの歴史的転換を記述するとして、理系的な論理、例えば、リスク論などで必要な対策や方向転換の必然性を説明しようとすると、関係する技術の限界と今後の進化を100%知ることが必要になるのですが、実は、その本当の限界と進化の可能性を知ることは、個人には不可能なのではないか、と思われるのです。なぜならば、現在、電力業界で使われている技術の本質的な欠陥などを含む全性能は、電力業界の内部でしか正確には分からない。電力業界から外部に出た人材も何人もいるけれど、その意見が絶対的に正しいとは思えない部分が散見される。となると、技術の限界を基盤において、最適な組み合わせを求めるという理系的な論理を突き詰める方法論よりも、橘川氏の方法論のように、経営史の変遷を濃密に観察することによって、現実的、総合的、国際的視点から解を求めるという方法が説得力が優れている可能性が強い。

B君:これは「理系」、「文系」という区別から言えば、文系に属する方法ではあるが、その結論の妥当性のもつであろう説得力は高いものなのかもしれない。

A君:このような記述をしている理由は、理系的な論理とは全く違う方法論で結論が導かれているということをあらかじめ述べたいからでしたが、そろそろ第一章から行きますか。


第一章 リアルでポジティブな原発のたたみ方

ポイント
◆1:p12:なぜ原発停止を前提とするか。それは、使用済み核燃料の処理問題を根本的に解決するのは困難だと考えるから。リサイクル方式にしても、ワンスルー方式にしても、最終処分地の立地を実現することは、極めて難しい。
◆2:p13:なぜ「リアルさ」が重要か。原発推進派は、リアルな議論を展開しなかったから、エネルギー自給率が4%という資源小国であるのに、原発への風当たりを弱めることができなかった。
◆3:p13:なぜ「ポジティブ」が重要か。ポジティブな対案を示さなかったから、原発反対派は、広島・長崎・第五福竜丸を経験したのに、ドイツの緑の党のような有力な脱原発政党を作れなかった。
◆4:p14:政策見直しにおける3つの独立変数。再生可能エネルギーの進化、省エネの達成、石炭発電のゼロ・エミッションに繋がるIGCCとCCSの進展。原発による発電量は、従属変数である。
◆5:p18:火力シフトの問題点。(1)燃料をいかに確保するか、(2)地球温暖化対策をどのように進めるか。
◆6:p19:米国の「シェールガス革命」の影響は、国際的なLNG市場が軟化し、LNG価格の原油価格リンクがはずれる方向にあること。
◆7:p21:石炭火力発電技術の海外移転。アメリカ47%、中国79%、インド69%が、石炭火力。これをIGCCなどの海外移転で減らし、クレジットにする。
◆8:p22:アメリカ、中国、インドの石炭発電を日本のベストのものに置き換えるだけで、13億トン以上のCO削減になって、日本の排出量はゼロ以下になる。
◆9:p23:節電を「第4の電源に」。1973年から2008年に日本のGDPは2.3倍。一方、エネルギー消費量は全体では1.3倍になった。まだ、民生、運輸部門は省エネが可能。
◆10:p24:2030年の発電電力量ベースでの日本の電源構成の見通しは、再生可能エネルギー30%、省エネによる節電10%とすると、残りの60%を火力と原子力で分け合うことになる。原発現状維持なら火力30:原発30、脱原発依存なら火力40:原発20、完全脱原発なら火力60、原発0。この最後のシナリオは、火力が60にもなってしまって、燃料コストや二酸化炭素排出量が過大すぎて、現実性は低い。
◆11:p27:ドイツは2020年代初頭に、再生可能エネ35%、火力65%、原子力0を目指しているが、それは、国内炭、主として褐炭を燃焼させるという特殊事情であり、国内炭のない日本では不可能。
◆12:p28:原発ドミノ停止から産業空洞化の危機へ。2012年1月時点の記述。
◆13:p34:原発縮小のシナリオ。福島第一、第二、浜岡、プルサーマル、高経年、などの分類をして脱原発シナリオを作成した。

A君:まず、最初の◆1ですが、理系的な発想で行けば、あらゆるリスクを比較検証する方法が普通。しかし、ここでのアプローチは違う。例えば、最終処分地の問題は重要だけれども、根本的な解決が理論的・原理的に不可能だということでもないのですよ。何が難しいか、それは技術は全く未完成なので時間が掛かるし、さらに、国際的な合意がほとんど不可能なので、実現が難しい。という訳で、具体的な方法については、現時点では「空想である」と一蹴されるでしょうから、詳細に語るのはかなり抵抗がありますね。その原理原則は、ハーマン・デイリーの定常状態の経済の3原則のうち、最後の廃棄物の記述。すなわち、「地球が廃棄物を処理できる速度を超して、廃棄物を排出してはならない」。この範囲内で行うことなのですが。

B君:2100年ぐらいになれば、なんとか、合意しようということになっているのではないだろうか。したがって、余りにも大量の核燃料を使用することは不可能だということではないか。

A君:◆2,◆3の「リアル」、「ポジティブ」についても合意できます。

B君:◆4については、原発を従属変数だとしているけれど、別の立場、すなわち、化石燃料、再生可能エネルギー、原発をいずれも、あらゆるリスクを考慮した上で、リスクの少ない順で使うという立場ももありうる。
 ところで、第一章の題名は、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」となっていて、この点も極めて濃密だ。

A君:原発については、第五章にもありますが、第一章の立場は、原発は従属変数。すなわち、できるだけ他の方式を増やすという考え方が基本です。どうしても供給できない分を原発に依存するという立場。

B君:結論はまずまず妥当で、2030年までに、省エネ10%、再生可能エネルギー30%。残りの60%を化石燃料と原子力で分け合う。脱原発の限界が、火力40%、原発20%ぐらいまでで、火力60%、原発0%は、燃料コストや二酸化炭素排出量が増えすぎて、非現実的という主張だ。

A君:個人的には、省エネを20%ぐらいまで高めることは可能ではないか、と思います。
 さて、話題を変えますが、原発の安全性をどこまで向上させれば良いのか、という考え方は明示されていないですね。

B君:原子力規制委員会が高いハードルを示し、事業者はそれを超える安全性を実現すれば良い、ということなのではないか。

A君:安全性の問題は、後でまた。


第二章 日本電力業の歴史

 これが「変遷史を濃密に観察することから出発して、発展のダイナミズムを析出し、あるべき改革を現実化する道筋を展望していく」実例になっている。ここでは省略するが、周波数分断などの歴史を読むことができる。


第三章 電力産業体制の改革

 この章は、第二章の結果を受けて、今後の日本電力業の改革を議論するという章である。東日本大震災以前の部分は、省略。

ポイント
■1:p117:発送配電分離論の台頭:福島第一事故以後、高まりを見せた。直接的な原因は大震災であっても、構造的な要因として競争回避的な電力各社の企業体質だからという議論が行われた。
■2:p119:発送配電分離のメリット。その1:競争の活発化。その2:再生可能エネなどの分散型電源の拡充の促進。
■3:p120:発送配電分離のデメリット。その1:高い系統運用能力を失う。その2:発電設備、送電設備、配電設備のバランスのとれた投資がやりにくい。2000年頃のカリフォルニアの大停電は、送電網への投資が遅れたのが原因。
■4:p122:橘川氏は、発送配電分離に対して、慎重なスタンス。理由は、「電力会社の現場で働く人々の勤労意欲は相当高い」。発送配電分離を行うと、勤労意欲の低下を招くから。
■5:p124:エネルギー・セキュリティーの確保には、国際競争力をもち、世界市場で活躍する強靭なエネルギー企業が不可欠。それには、電力自由化⇒経営の自立性の再構築⇒強靭なエネルギー企業への成長⇒エネルギー・セキュリティの確保。
■6:p125:原子力事業を電力会社から分離し、政策的支援を受ける専業会社に集中することによって、解決可能。


A君:■1〜5はコメント省略。■6ですが、この記述が、橘川氏の本当の主張だと思います。それは、原子力事業は電力会社が分離して、国有化に近い形にする。

B君:一旦、大事故を起こしたら、大変な額の補償をしなければならない原発を、民間事業者に委ねるのは無理、という考え方だとも言える。

A君:英国は、温暖化ガス放出量の下げることが国際的な枠組みになると読んでいるのでしょう、原子力発電からの電力をFITの対象にしました。

B君:英国の原発は、半分は国営ということだ。
 一方、米国は、原発は事業者が連帯責任を負うというやり方で、国営からは遠い仕組み。連帯責任を実現するための保険料の分担は、事業者がお互いに発電プラントの安全評価を行って、安全だと合意されたものは、保険料が低くなる。これは、自主的に安全性を向上させる仕組みでもあって、効果的のように思える。橘川氏の考え方は、英国よりもさらに国営的な発想のようだが、これで安全性が向上していくのか、という疑問が残る。


第四章 電力需給構造の改革

 この章も、「濃密な歴史的検討」を行なっている章であるが、ほんの2つのポイントのみ。

●1:p160:歴史的には、原子力がエネルギー自給に向けた切り札であるという期待、なかでもも、高速増殖炉が実用化される期待が強かった。
●2:p170:福島第一事故以後の電力需給構造の改革の方向性は次の3点。
 第一:需要サイドからのアプローチ:例としては、スマートメータによるダイナミックプライシング。
 第二:分散型系統運用の並立による再生可能エネルギーへの対応力を増す。
 第三:原発依存度低下による電源構成の最適化


A君:この方向性は同意できるのでは。


第五章 原子力政策の改革

 この章も、やはり「濃密な歴史的検討」であるが、橘川氏が原発の歴史をどう記述しているかに関心があるので、ポイントのリストは作成したい。

★1:p182:国論の分裂の年代1974〜1985年。原子力船「むつ」の放射能漏れ事故が発生したことが最初。
★2:p182:次が、1979年のスリーマイル島の事故。これで国論が分裂。
★3:p185:国論が分裂状態でありながら、大原子力時代になり、原子力による電力が九電力で23.8%になった。
★4:p187:1986年のチェルノブイリ事故で、ペースダウン。
★5:p189:原子力の影の部分が見えるように。核燃料サイクルの確立が進展を示さなかった。
★6:p192:原子力の光の部分としての気候変動回避への適合性。
★7:p195:1990年代後半になると、いっそうの停滞。各種のトラブル隠蔽事件が起きた。
★8:p197:2003年以降、光の部分が前面に。理由は第一が、温室効果ガス排出量問題の深刻化、第ニが、原油価格上昇の影響を緩和するエネルギー・セキュリティ。
★9:p200:2003年以降、原子力ルネッサンス。核燃料サイクル政策の中間取りまとめで、再処理方式の優位性。「原子力立国計画」(2006年5月)
★10:p204:2011年3月11日。福島第一事故。2010年策定の「エネルギー基本計画の破綻」
★11:p209:福島第一事故による国策民営方式の矛盾の表面化。
★12:p210:原子力発電事業を分離せよ。ワンスルーも併用せよ。
★13:p211:電源開発促進税の地方移管によって、原発の運営に立地自治体がステークホルダーとして参画すべし。

A君:この歴史的な記述には説得力が有りますね。特に★8、★9の原子力ルネッサンスの時代には、環境省の中長期ロードマップで二酸化炭素排出量を2050年までに80%削減シナリオなどは、10数基の原発の増設がその中味でした。

B君:いくらなんでも、それは極端という反応も有ったのだけれど、まだCCSが現実的だとは思えないこともあって、それ以外には80%削減は無理だと思っていた。

A君:★12の使用済核燃料を処理してリサイクルするのではなく、そのまま廃棄するワンスルーの併用が主張されていますが、世界的にもその傾向が強まっています。それは、処理が簡単だからです。しかし、すでにちょっと述べたような本質的な最終処分法を開発しない限り、ワンスルーだからといってこの問題が解決するとは言えません。

B君:★13の立地自治体の積極的関与は、フランスのCLIと呼ばれる地域でのリスクコミュニケーションに似た主張になるかもしれないが、制度設計をかなりしっかりとしないと、逆にテロなどのリスクが増大する可能性もある。


第6章 求められるビジネスモデルの転換

 この章は、釜石の事例によって、ビジネスモデルの転換(原子力事業の分離、ワンスルーの併用、立地自治体の参画)の可能性を検証しているが、省略。

おわりに 省略
以上

C先生:これで終了か。おわりにという部分があるが、そこでの主張は、本記事の冒頭ですでに議論済み。
 橘川氏の主張の核心は、当面、原発をすぐゼロにするのは、化石燃料の輸入量が増えて、エネルギーセキュリティ上の問題が発生する可能性が高く、リアルな案ではない。しかし、事業者が原発を運用するにしても、責任を本当に事業者に被せるのが良いのか、という問題がある。

A君:北澤宏一先生の本を先日紹介しましたが、国のサイズによって原発に対する態度を決めるべきだ、という主張をされています。米国、ロシア、カナダ、オーストラリアぐらい広く、かつ人口密度が低ければ、原発も不可能ではない。しかし、スイスが原発から離脱する方向性を決めたことは、やはり国のサイズが大きな要素だったのではないか。

B君:日本は、海があるので、スイスよりは多少空間的な余裕はあるけれど、人口密度が高いので、一度なにか起きれば、影響は大きい。

A君:まあ当然ですね。中国は広いけれど、人口密度が大きいので、結構危ないかもしれない。韓国は日本海側に原発を多数設置していて、もし何かあれば、その影響が心配。まあ、大地震の無い国ではありますが、どこかの国がテロを仕掛けるといった心配がゼロではない

B君:要するに、日本の場合には、原発の事故の発生頻度を放射性物質の大量放出を伴うというものについては、100万年・基に1回程度というレベルに抑えることが必要なのではないだろうか。

C先生:橘川氏は、安全性の議論をやっていない。原発の安全性については、PRA(probablistic Risk Assessment)と呼ばれる方法論が存在している。これを100%活用して、あらゆるリスクの低下を目指すこと、それによるコストの増大をどこまで許容できるか、考えること。さらに、すでに貯めこんでしまった使用済核燃料の処理方法を、今一般的に言われている10万年保存といった人知を超えた方法が主流だが、これらの方法に加え、高速減容炉などの開発、地球の能力に依存した最終処分法の開発を含めてどうするか、しっかり考える必要がある。
 同時に、化石燃料の場合には、温室効果ガスの放出による次世代リスクの増大、さらにエネルギー安全保障面、電力価格の増大による国内企業の海外逃避をどう考えるか。加えて、国際交渉での存在感をどう維持するかといったややマイナーな問題もある。
 再生可能エネルギーの場合には、太陽光発電のFITの価格の猛烈な増大が予測され、これによって、最終的には30兆円を超す費用負担が見え始めている。化石燃料よりも日本の産業構造に対する影響が大きそうだ。風力は洋上風力が主力になるかもしれないけれど、漁業権などでもめるのは必定。しかも、得られる電力は不安定で、その安定化のために各家庭にも電池の導入が必須で、数10万円の投資が必要になるかもしれない。
 などなど、すべてのエネルギー源にはリスクがある。やはり、すべてのエネルギーを対象に、どのような方策を用いて、リスクを最小化しつつ徐々に原発と化石燃料を減らし、省エネをできるだけ進めつつ、最終的には、多分2100年頃になるだろうけれど、ほぼ再生可能エネルギーだけの社会をつくり上げるか。いずれにしても、解決には21世紀の終わりまで掛かる気の長い問題だ、と理解する以外に方法は無いように思うのだ。

 結論:論理がしっかりしているので、一読に値する。推薦!