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   ESGの考え方をすべてに拡張する
     
良い社会実現の有力な手法 01.28.2017
               



  このところ、講演などのチャンスがあれば毎回主張していることは、「2015年という年は、歴史的に重要な転回点であった」。すなわち、人類が産業革命以来もっていた考え方を、変え始めた年であったということになるのではないか、ということです。トランプ大統領の就任後の行動や、欧州各国の状況を見ていると、この解釈が正しいと言えるかどうか、全く楽観を許さないのですが、それでも、今世紀末ぐらいまでの長い視点で見れば、恐らく、最低限、「変曲点ではあった」という結論になると思っています。

 この変曲点であるという認識がまだ無い日本という社会は、どのような思想によって支配されているのか、それが問題です。日本社会は、もともとこの国の支配原理は何なのか、大変に分かりにくい多様な社会構造を持っています。そのため思想も分散するのが通例ですし、既得権益は極めて強大かつ強固ですから、どうしても、世界の標準的な価値観について行けず、大体、二周遅れぐらいになります。

 しかし、「世界のスタンダードになっている原理原則」は積極的に取り入れることが、グローバルな日本を作るために必要不可欠でしょう。さて、それは何でしょうか。

 このところ、個人的な予想を遥かに上回る速度で広まったことが、「ESG投資」です。このESG=Environment, Society, Goveranceという基本的な考え方を日本全体に継続的に広めることが、かなり特殊な日本という国ではあっても、もっとも有効なことのように思えます。「ESGを良い社会を作るツール」として、磨きを掛けたいと思っている次第です。

     
C先生:ESG投資、さらに、ESG対応企業ランキング、などの概念が急速に広がりつつある。それもこれも、2015年の9月に、GPIF(年金積立金運用独立行政法人)が、2006年に国連事務総長であったアナン氏の提案でできた国連責任投資原則(UN−PRI=Principles for Responsible Investment)にサインしたことがきっかけになった。これで、ESGという考え方が、日本でも広まり始めた。GPIFは、世界最大の年金ファンドなので、ここの資金の運用を手掛けようとする金融機関であれば、自分自身もESG投資を行う必要があるので、連鎖的に広がることになった。

A君:最初は、GPIFがUN−PRIにサインをすることで、日本で何かが起きるとは思えなかったのですが、考えてみれば、お金というものは世界全体で通用するものなので、あらゆる製品よりも普遍性が高いですね。だから、お金に関するスタンダードは、製品に関するスタンダードよりも伝搬速度が速いということになります。

B君:もともと、ノルウェーの年金基金(Government Pension Fund of Norway)とか、カリフォルニア州職員の退職年金基金The California Public Employees' Retirement System)とか、先進性の高いファンドがあった。ノルウェーの年金基金は、北海油田からの石油のお陰で世界有数の富裕国になったノルウェーが、そもそも地球資源である石油は、現世代だけで使う訳にはいかない共有資産であって、将来世代のためにも使えるような仕組みを作らなかければならないという思いを含めて作られたものだとされている。

A君:ノルウェーは、未来社会を十分に考えているということで、SocietyのSがFuture Societyという方向に進化していると言えますね。

B君:未来を見ること、これは、なかなかにノルウェーらしい考え方だと思う。

C先生:ノルウェー人は、お金を稼ぐことに執着しているようには見えない人々だ。それは、税制のためでもある。一定の金額を超す所得に対して、税金が急激に上昇するのだ。もともと平均所得は高くて、その限界値に近い。残業をやったとしても、ほとんどが税金で持って行かれるので、実際の所得は増えない。当然、定時退社が当たり前。そして、こんな社会制度を自慢している。

A君:しかし、日本では、ESG投資も、短期的な金儲けの手法として注目されているのですが、それが妙なことであるという感覚を持っている人が少ないのですね。事の本質が分かっていない。

B君:そうだな。例えば、ESG投資と株価は相関が有るという分析が最近多いのだ。次の記事は、日本のESG投資の企業ランキングを示しているのだけれど、この上位の企業の株は、成長が期待できるという見方だ。そして、儲かるから投資せよ、となる。
http://toyokeizai.net/articles/-/133130?page=3

A君:この表の「総合評価」が最初のカラムにありますが、CSR分野が「人材活用」、「環境」、「企業統治」、「社会性」の4つに分かれています。人材活用、環境がそれぞれ100点満点、企業統治と社会性が合計で100点。実際の投資適正の判断と思われる「総合評価」は、CSR分野の得点に、「財務」(収益性、安全性、規模を各100点)を加えて、合計600点で評価しているようです。

B君:要するに、総合的な判断材料として、ESGファクターが入った財務評価基準を作ったということだ。

C先生:ファンドとか個人がESG投資をするということは、長期に渡ってその企業を応援するという考え方がその本質なので、株を長期間に渡って保持する覚悟をもってその企業の株に投資するというマインドでないとおかしなことになるのだ。年金基金というファンドは、自分達の性格からして、長期に渡って少しずつ、しかし、確実に成長する企業との相性が良い、という判断をしているのだから。それを、短期的な利益のために投資するための判断材料として使うことは、まあ、間違っていると言える。

A君:この東洋経済のランキングの説明ですが、ここに「どのような要素が判断基準として使われた」という長大なリストがあります。
http://www.toyokeizai.net/csr/ranking/aboutCSRRanking2016.html

B君:長いなあ。しかし、個々の項目をチェックしてみるか。人材育成は省略しても良いと思うが。

A君:では、環境から。
【環境】
1.環境担当部署の有無
2.環境担当役員の有無
3.同役員の担当職域
4.環境方針文書の有無
5.環境会計の有無
6.同会計における費用と効果の把握状況
7.同会計の公開状況
8.環境監査の実施状況
9.ISO14001取得体制
10.ISO14001取得率(国内)
11.ISO14001取得率(海外)
12.グリーン購入体制
13.事務用品等のグリーン購入比率
14.原材料のグリーン調達
15.環境ラベリング
16.土壌・地下水の汚染状況把握
17.環境関連法令違反の有無
18.環境問題を引き起こす事故・汚染の有無
19.CO2排出量等削減への中期計画の有無
20.スコープ3
21.2014年度の環境目標・実績
22.気候変動への対応の取り組み
23.環境関連の表彰歴
24.環境ビジネスへの取り組み
25.生物多様性保全への取り組み
26.生物多様性保全プロジェクトへの支出額

B君:かなり外形的な要素ばかりだな。評価をするときには、こんなことになりがちなのだけれど、本当のところ、まあ「本音」といった方が良いかもしれないが、それを知るには、役員との面接を行って、もっと何が環境対応の本質だと思うか、といった見解を聞き出す必要がある。

A君:5.環境会計の有無という項目がありますが、そのとき、どのようなことまで、この中に含まれているか、それが重要ですよね。今回は、最初の試みですから、細かいところまで解析は無理なのですが、今後、この資料を参考にして、具体的な企業の環境会計のレポートをチェックしてみる必要があるでしょう。

B君:企業が本当の意味での環境会計を行っているかどうか。それを知るには、企業活動の「外部性」をどこまで認識していて、それに対する会計的な評価を行っているか。これが重要なんだけど。

A君:「外部性」の定義は、企業活動が環境あるいは社会に与える悪影響が、企業の財務的な自己評価の中に含まれているか、だと思うのですが。これが、【環境】に含まれているのか、それとも【社会性】に含まれているのかどうかですね。

B君:社会性の項目のリストを見てみたい。どうなっている?

A君:こんな風です。
【社会性】
1.消費者対応部署の有無
2.社会貢献担当部署の有無
3.商品・サービスの安全性・安全体制に関する部署の有無
4.社会貢献活動支出額
5.NPO・NGO等との連携
6.ESG情報の開示
7.投資家・ESG機関との対話
8.SRIインデックス・SRIファンド・エコファンド等への組み入れ状況
9.消費者からのクレーム等への対応マニュアルの有無
10.同クレームのデータベースの有無
11.ISO9000Sの取得状況(国内)
12.ISO9000Sの取得状況(海外)
13.ISO9000S以外の品質管理体制
14.地域社会参加活動実績
15.教育・学術支援活動実績
16.文化・芸術・スポーツ活動実績
17.国際交流活動実績
18.CSR調達への取り組み状況
19.紛争鉱物の対応
20.ボランティア休暇
21.ボランティア休職
22.マッチング・ギフト
23.BOPビジネスの取り組み
24.海外でのCSR活動
25.プロボノ支援
26.CSR関連の表彰歴
27.東日本大震災復興支援

B君:どうも、ここには、外部性は含まれていないようだ。若干ニュアンスが違う。社会性も、もっと「本業」の立場から「外部性」を評価する方法論を入れて、総合的に評価しなければならないと思う。

A君:どうも、上述の【社会性】指標は、2種類に分類できると思うのですね。まずは、「外部からのなんらかの非難行動が起きたときのために、そのリスクに対応しているか」という問への準備があるかどうか。これは、財務状況に影響が大きいですから、重要と言えば重要なのですが。もう一つが、「金銭的なメセナと従業員によるメセナ活動」。こちらは、ある意味1990年代的な発想で、古い考え方と言えるかもしれない。

B君:いずれにしても、社会性をこれらの項目だけで評価してはいけない。これだけで充分ではない。やはり、何か本質的な考え方が欠落しているとしか思えない。

C先生:今回はリストの検討はしないが、【企業統治】に関しても、何か、外形的すぎて、これで本質が分かるかどうかというものになっている。また、企業理念の評価にしても、本業というものを中心に据えたESG的な考え方が評価されているのかどうか、その内容も不明確だ。

A君:ということは、「ESGというけれど何がその本質か」、という議論をやることにしますか。

B君:ということだろう。キーフレーズは、「本業と環境・社会との関係をどこまで企業理念の中と財務会計評価の中に組み込んでいるか」、となるのでは。この最後の企業理念が「企業統治」の最大の本質なので、これで、ESGになる。

C先生:具体的な例を上げて、その本質の議論をしてみるか。

A君:はいはい。例えば、スマホを考えてみましょうか。スマホは、様々なデバイスが組み込まれています。そこで使用される元素の大部分は、実は、2050年頃には鉱石が枯渇状態になっていると考えられていて、製品からの回収が極めて重要になります。スマホメーカーとしては、その時点の自分たちがどのような企業活動をやっているかを考えて、持続可能な社会とはどのようなものかを具体的に指摘し、それが現在のやり方の延長線上で充分対応できるかどうかを熟考する必要があります。

B君:現時点で液晶には、透明電極として、インジウムという元素が使われている。この元素も、枯渇する可能性がある。電子回路には、コンデンサーが必須だけれど、そこにはタンタルのような金属が使われている。スマホが寿命になったとき、そのに使われている金属類を徹底的にリサイクルすることが、2050年を見通したときには、必須であると言える。

A君:それには、どのようなリサイクル技術が将来使われるか、それを予測した上で、その資源効率を最大化するような仕組みを導入することが、スマホメーカーにとって、社会的に必須であるという状況になりつつある。

B君:例えば、プリント配線板にパーツを実装する製造プロセスを逆に走らせて、個々の部品が回収できるようにする。そして、寿命が非常に長い部品の場合には、それ再利用をする。これが実現できるためには、部品の標準化のようなことが実現されなければならないし、自社で、分解工程まで実施することが必須になる可能性もある。

A君:このような本業を今後30年間以上継続しようとすれば、部品別でその色を変えるといったリサイクルのための識別に有効なシステムの標準化に取り組むことが必須となる。このような考えて基いて本業をやっていることが、ESGへの対応をしていることを意味しますね。

B君:自らの本業を持続可能にするために、世界の同業者を説得して、より持続可能なスマホの製造業を目指すといった動きを、例えばアップルがやれば、「貴社はESG企業」ですという認証をしても良さそうだ。

C先生:リユースびんの全国協議会で、今後の方策を色々と考えた。しかし、自分たちだけでできることは、すでに万策尽きている状態に近い。例えば、あの一升瓶ですら、リユースができない状態に近づいている。その大きな理由が、プラスチックケース、いわゆるプラ箱で出荷されないで、ダンボール箱に入れて出荷されてしまうからなのだ。プラ箱が存在していないと、回収したり、洗瓶業までの輸送が不可能になってしまうことがその理由だ。ダンボール箱で出荷されてしまう理由は、その方が安価だからだ。しかし、これで良いのだろうか。また、ダンボール箱を造るための木材資源も、本当に持続可能な経営がされているのだろうか、それも問題だ。
 さらに、2050年頃になると、石油原料のプラスチックは燃やせばCOが排出されるために、焼却が不可能となって、廃棄物としてかなり厄介なものになる。そこで、現時点では、メーカーは、植物原料のプラスチック容器への転換を目指しているところもあるけれど、実際には、人口の増大によって植物原料の供給は森林を伐採することになって、これが地球環境を保全する上で、やはり問題になる。となると、プラスチック容器も2050年頃には、ワンウェイ容器は無くなって、例えば、PEN製のリユース容器以外は存在していないかもしれない。そして、高級な飲料の容器は、ガラス瓶に戻っているようにも思えるのだ。以上が環境上の問題点。要するに、ESGのE:環境だ。
 ESGのS:社会がこれまた問題だ。将来、環境面から、びんのリユースは必要不可欠な状況になるだろう。そのとき、全く新たに規格を作り投資をしてリユースびんのビジネスを始めるのか、あるいは、現時点から一定量はリユースびんを活かしながらビジネスを行う社会を維持することが良いのか。恐らく、社会の持続可能性という意味から言っても、リユースびんビジネスは継続しておいた方が良さそうにも思うのだ。なぜならば、完全に記憶から失われたものは、発想しても、実現までに色々なトラブルが起きることが必然だからなのだ。
 それには、現時点でのリユースに関する問題を解決しておきたい。と考えると、現状、最大の問題点が、ラベルに剥がれない糊が使われているということかもしれないのだ。どのようなびんでも同じだけれど、剥がれない糊を使われてしまうと、濡れた状態だと良く分からないのだけれど、完全に乾燥したとき、はじめて洗浄不良だという判定されて不合格になる。これは大変に困る。対応としては、このような特定の酒蔵の瓶は、最初からリユースのための洗浄は行わないで、破砕するという対応方法になってしまう。こんな糊を使うビジネスをしているある日本酒メーカーは、リユースという資源を大切にする社会的活動を、最初から阻害していることになる。すなわち、社会をよく見ていないので、ESGのS面では、落第だということになる。しかし、このようなことまで考える企業は、現状、極めて稀な状況なのだ。
 他の日本酒メーカーでは、R瓶というリユース可能な瓶の”新瓶”を使っているが、洗浄されたリユース瓶は使わない。その理由は、何も知らない新潟県が表彰をしてしまったからかもしれない。洗浄されて再度使って、はじめて環境面の効果がでることを全く無視しているが、恐らく、その行為の意味を企業も理解していないし、また、自治体も見抜けないのだ。
 そこで、ESGの登場になる。本業において、環境Eだけでなく、社会Sとの協同あるいは協働をしっかり考えている企業かどうかを判定できるスキームを確立し、自己判定をして貰えるような仕組みを新設することが有効かもしれない、と思っている。
 日本はフランスのような国と違って、残念ながら、一回しか使わないプラスチック食器を法律で禁止をするなど、思い切ったことができる国ではないので、徐々に行くしか無いのだ。
http://www.huffingtonpost.com/entry/
france-plastic-cup-plates-ban_us_57df66d4e4b08cb14096812c

   そして、最終的には、ESG経営やESG投資だけではなく、ESG科学ESG開発学ESGイノベーションESG行動ESG社会形成など、様々な分野で、ESGという概念が共通基盤になるようにすべきかと考えている次第。