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     企業”統治”が諸悪の根源    10.18.2015
              環境経営最前線の用語・解釈の誤り



 16日金曜日、17日土曜日の両日、パシフィコ横浜の会議棟で、エコアクション21(EA21)の全国交流研修大会が行われました。EA21の中央事務局が置かれている(一般財団法人) 持続性推進機構の非常勤理事長を務めている関係で、最初の導入の講演を行いました。

 17日のプログラムは、後藤敏彦氏の講演から始まりました。後藤氏の講演は、最近の環境経営がどのように進展しつつあるか、日本の大企業の環境経営はどのような状況にあるのか、力の入った包括的なご講演でした。

 様々な話題が出たのですが、今回、この記事で取り上げたいことは、この分野では、どうにも誤訳が多くて、そのため、誤解が蔓延しているのではないかという後藤氏の指摘です。

 誤訳とまでは言えなくても、日本語の解釈が適切でない故に、追求を受けてしまうというケースもかなりあります。

 本日は、いくつかの項目に分けて、誤訳、解釈、文化、などの相違によって、日本企業が今後犯してしまう確率の高いと思われる事項を説明してみたいと思います。

目次
1.企業ガバナンスは企業”統治”ではない。
2.ISO26000の日本語版も誤訳
 Interestは利害ではない
3.加担するという言葉の意味は?
4.デューディリジェンスの効用
5.「思いやり」が求められているのではない。
6.石炭はすでに危ない燃料
7.目標、ゴールなどと達成の考え方
8.ESG投資は社会貢献投資ではない




1.企業ガバナンスは企業”統治”ではない

 まずは、企業統治という言葉ですが、ガバナンスという言葉を統治と訳したこと(後藤氏に言わせれば日経新聞が最初なのでは)が諸悪の根源なのではないか。



C先生:本日(10月18日)の日経朝刊の国際面に、米国の自動車アナリスト、マリアン・ケラー氏が、VWのディーゼル排気ガススキャンダルについて、こんな風に語っていた。

「VWのウォルフスブルグの本社に呼ばれて、講演をした。そこでの印象は、創業家のフェルディナンド・ピエヒ氏を頂点に、階層がはっきりした会社だということ。誰もが責任と役割を持ち、コントロールが効いた組織だった」。

「そうした組織で『一部の不心得な技術者』が不正を犯したなど誰が信じるだろうか。VWの経営陣は何が起きる知っていなければならない。先日、GM元会長のボブ・ラッツ氏が、トップが望めばそれが成される会社がVWだった、と語っている」。


 ここで主張したいことは、ケラー氏が記述しているように、VWはある意味で極めて統治の効いた企業だったということだ。統治とはトップダウンというイメージのある日本語だ。すなわち、上からの意向を下が無条件に受け入れてしまう構造、それが統治。しかし、ガバナンスは効いていなかった。それが、今回のスキャンダルによって、証明されてしまった。やはり、統治とガバナンスは違うということだ。


A君:統治という言葉をGooの国語辞典で引いてみたら、関連語という言葉があって、独裁、専制、征服、君臨、治世、牛耳る、が上がっていました。これが統治というニュアンスだとしたら、明らかにトップダウンを意味しますね。

B君:一方、ガバナンスという言葉は、governanceで、これをGoo英和で引いてみると、統治、支配、管理、統制とあって、こちらもトップダウン的なニュアンスになっている。

A君:governという言葉がトップダウンを意味するのなら総理大臣に全権限を与えて、全部やって貰えば良いことになりますね。しかし、本当の政治のシステムとは、国民が主権を持っていて、その一部を一時的に委託しているから、政府がある行為を実施できることなのでしょう。トップの選択が重要。

B君:企業の場合だって、東芝の例のように、何が何でも金を儲けろ的な発言をする社長を選ぶことが、そもそもの間違いではある。

A君:東洋ゴム事件とか、最近の傾くマンション事件にしても、恐らく、トップダウンの統治はかなり強かったのではないでしょうか。要するに、「手段を選ばず儲けろ」と言われればどうなる? 例えば、ゴムを実際に製造している担当としてみれば、何かの条件、例えば、天然原料が変わったときに、ある特性も変わって、商品の規格を満足しないものができることはあるのだけれど、それを上司に報告すると、極めて面倒なことになる。お前の責任だと、強く叱責されてしまう。だから、「可能性としてはあるのだけれど、まあ、現実に被害がでることは無いから、誤魔化してしまえ」、というマインドを持ってしまうことは、十二分にあり得ることです。

B君:このような状態にならないためには、もっとも重要なのは、コミュニケーションなのだ。そのような状況にならないことが100%保証されている訳ではないので、もし、不具合が起きたとき、どのような対応が適切なのか、担当とその上司は当然として、さらに上の役員クラスまで、しっかりと合意ができていなければならない。このようなトップダウンとボトムアップの両方向の意志の伝達が行われている状態を「ガバナンスのある状態」と言うべきなのだ。

A君:よく我々が議論しているときに使う言葉としては、「ある組織が自然に上手く回っている状態」をガバナンスが効いた状態と定義する。その鍵は、「両方向のコミュニケーションがあるかどうか」に尽きる。

B君:東洋ゴムのように、不具合が頻発するということは、トップの人格のどこかに欠落した部分があると判断せざるを得ないのではないか。

A君:このような状態になった企業は、どうすれば、その状態から離脱し、企業を再興することができるのでしょうか。

C先生:個人的には、京セラの稲盛和夫氏が、JALを再興したあの手法が、極めて重要だと思うのだ。実は、稲盛氏が日本セラミックス協会の会長を務めて下さっていたときに、まだ若造(40歳ちょっと?)だった私が総務理事の役割を背負っていて、理事会では、いつもお世話になっていたのだ。すべての経営者が稲盛氏の著書を読みなおす時期になっているのではないだろうか。例えば、この言葉だ。「社員が喜んで仕事をし、立派な業績を挙げれば、株主価値は上がる。社員すら幸せにできないで、会社がうまく運営できるわけがない」。

A君:そろそろ結論で良いでしょうか。企業ガバナンスの日本語としては、トップダウン的なイメージが強い訳語である「統治」を使うべきではない。

B君:余り一般的ではない訳語なのだけれど、「協治」という言葉に変えることを、本Webサイトは推奨中。

A君:この「協治」は、地方分権の制度化の議論の中で使われた言葉のようでして、Webを調べると、墨田区の例などが見つかりますが、このところ、余り使われなくなった理由は、恐らく、かなり特殊なNPO用語になってしまって、日経などの新聞が使いにくい言葉になったことでは、と推測します。

B君:それに、このところの「企業利益&株価至上主義」と「協治」という言葉の持つニュアンスがそぐわない。やはり、社長の責任が大きいという株主側の主張が勝っているのだろう。


2.ISO26000の日本語版も誤訳  Interestは利害ではない

 ISO規格にも誤訳??


C先生:それでは、次の誤訳に行こう。

A君:これは結構重大かもしれないです。なぜなら、日本のISOの本家本元である日本規格協会が発行している解説文
 http://iso26000.jsa.or.jp/_inc/top_iso/2kaisetsu.pdf
においても、ステークホルダーの「利害」の尊重と訳されているので、事態は深刻だと思われます。なぜなら、この規格は、JIS Z 26000として日本語訳が出されていて、経済産業大臣が制定した日本工業規格の一部になっているのです。

B君:そうかもしれない。しかし、そもそも日本の企業における社会的責任は、その出だしからして、不幸の連続だった。それは、社会的責任とは、余剰金を寄付したりする行為、しばしばフィランソロピーとかメセナといった言葉で表現され、この種のことが企業の社会的責任だという誤解が起きてしまった。

A君:未だに、そのような誤解がありますね。

B君:さて、本題のISO26000の日本語訳は、すでに指摘しているようにJISになっているので、これを読むのがもっとも正式かと。
http://kikakurui.com/z26/Z26000-2012-01.html

A君:問題の表現はp18ですね。
 4.5 ステークホルダーの利害の尊重。 この利害のもともとの英語は、interestとのこと。

B君:4.5には、いくつかの事項が羅列されているけれど、その2つ目に、このような文章がある。

− 自らのステークホルダーの利害及び法的権利を認識し,当然払うべき注意を払う。また,それらのステークホルダーが懸念を表明した場合はそれに対応する。

 利害のまま読んだときの印象と、利害を関心に置き換えて読んだときの印象をどう思う。

− 自らのステークホルダーの関心及び法的権利を認識し,当然払うべき注意を払う。また,それらのステークホルダーが懸念を表明した場合はそれに対応する。

A君:下の文章だと、例えば、NPOのような組織を対象として考えているということが明らかですけれど、上の文章だと利権を持つ団体などを対象にして考えているような感じですね。

B君:そうだろ。しかし、そのような印象を避けた訳文になっている可能性はある。

A君:日本の大企業のNPO、例えば、WWFなどに対する認識は、まだまだ「敵」ですからね。


3.加担するという言葉の意味について

 「加担する」ことが問題だ、と記述されていると、「何も加担していないよ」と言いたくなるのですが、実は、ある商品をインターネットで買っただけで、「加担した」ことになってしまうということが現実。現時点で、この状態にもっとも近い商品が木材と紙。カリマンタン島(インドネシアとマレーシア)における違法伐採が国際的に大問題になっていて、現時点で、もっとも注意を要する調達行為だと思われるのです。

 敢えて言えば、インターネットで相当に低価格のOA用紙を買えば、多くの場合、その用紙は怪しいです。出元がどこかを確認されていない紙だということです。

 読者の皆さんも、できれば、大手メーカー製のFSC認証などがある紙を買いましょう。



C先生:この手の話は、結構大問題になり得るのだ。特に、このところ心配しているのが、東京オリンピック用の建材としての木材。やはり、インドネシア、マレーシア産、といっても、カリマンタン島で違法伐採された木材が問題。

A君:WWFあたりが、推奨することが、次のような方法で使用木材をしっかりとチェックすることです。

*FSC認証のような森林認証のある木材を調達するか、あるいは、廃材としての履歴がはっきり分かっている木材だけを使うこと。

B君:ちょっと待った。調べたら、東京オリンピック・パラリンピック大会に向けたメッセージをWWFが出しているではないか。
http://www.wwf.or.jp/activities/2015/10/1286815.html
http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20151015wwf_olpc.pdf

A君:なるほど。ここでは木材・紙だけを取り上げていますが、それ以外の問題になるパーム油、水産物についても、述べていますね。

WWFの木材の調達コードに関する推薦事項
 適切に利用すれば木材は再生可能な資源であるが、世界の森林では違法伐採ないし合法であっても環境面・社会面で持続可能ではない木材生産が行われている場合がある。
 森林減少・劣化を引き起こさず、生物多様性や地域社会に配慮した木材を選んで調達することが消費国に求められている。
●違法伐採材の排除、保護価値の高い森林の保全、社会面での配慮を含む調達方針を策定し、適合する木材を調達・供給すること
●方針への合致を確認する手段として、FSC 認証材または市中回収された原材料のみで生産された再生木材製品を優先調達すること
● FSC 認証材が入手できない場合には、調達方針に対する適合について、サプライヤーに対してアンケート等で確認をすること
●各種の第三者監査や木材サプライヤーの自己宣言等については、調達方針への合致を担保するものかどうか、保証の範囲・程度を判断することが求められる。調達方針への適合を部分的にしか担保できない場合には、追加的な確認をすること
●調達方針への不適合のリスクが高い地域については、現地確認などの追加的な確認を実施すること
●具体的方法について、既に責任ある調達方針を有して運用している潜在サプライヤー、専門家、木材生産地の事情に詳しい NGO 等に相談することも有用である

B君:この調達コードは、WWFなるNPOだけのもだから気にする必要はないのか。いやいや、それが大間違い。世界のトップ企業やトップ自治体は、大体、このような調達コードをすでに持っている。東京オリンピックの組織委員会がどのような調達コードをもっているのだろうか。それがかなり心配だ。

A君:それこそ、このような調達コードを制定しないと、「加担」したことになってしまいますね。

B君:紙製品についても、ほぼ同様の調達コードが推奨されている。

A君:選手村での食事用に調達される水産物も、MSC、ASC認証製品を優先するなどの対応が必要になるでしょうね。

B君:北京のオリンピックでは、どんなことが言われたのだろうか。

C先生:東京都の環境関連の部局は、しっかり知識を持っているので、現実の調達段階では、余り心配していない。しかし、組織委員会が価格優先的な調達を指示したときに、危機的な状況になる可能性があるとやや心配だ。それに、そもそも、トップが、今回なら組織委員会のトップが、そのような発言を、自分の言葉でできないようでは、先進的な都市や企業から相手にされない、という厳しいルールがあると考えなければならない。この点は、東京オリンピック・パラリンピックの相当大きな懸念点だ。
 今回、議論すべき項目として記述したものが8項目あったが、このところ、週末に働きすぎているので、このぐらいにしよう。残りの5項目は、次週送りということにする。