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  環境技術ポートフォリオ&人材 03.23.2008
     



 環境技術を使った国際貢献が実行可能である。これこそ日本の生きる道である。といった主張が多く行われている。確かに、日本という国の歴史をみると、そう考えられる。しかし、無条件にこのような枠組みが実施可能ということではなくて、かなりさまざまな準備を行う必要があるのではないだろうか。
 本日の話題、環境技術ポートフォリオに関連して、こんな研究公募が出たので、ご覧いただきたい。
http://www.jst.go.jp/kisoken/teian/vol2/04-c04.html
 この領域の研究総括役を務めされていただくことになった。


C先生:最近、環境リーダーの育成といったプログラムが公募されていて、日本という国の国際貢献は、環境技術を中心として行うといったイメージが急速に広がっている。

A君:アジア・アフリカにおける環境リーダーの育成といったプログラムの公募が、昨年12月25日から、今年の2月25日締切で行われていましたね。

C先生:その通り。基本的には大学学長しか応募できないので、多くの方々には無関係だったのだが、次のようなものだ。
http://www.jst.go.jp/shincho/20koubo/youryou/y40851.pdf

B君:要点を述べれば、「優れた環境リーダーとして、これら諸国等で活躍できる人材(国外リーダー)、及び我が国で途上国の課題に対応した環境技術開発や環境政策推進にあたる人材(国内リーダー)を育成する「環境リーダー育成プログラム」を産業界と協力しつつ策定・実施する」

A君:環境省からも公募が出ています。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=9411
「環境人材育成のための大学教育プログラム開発事業」というものですが、どちらかというと、大学が中心となって、企業・NPO・などと連携してアジアの環境改善に貢献できる人材育成を行うというもの。

B君:こちらは、4月11日締切だから、まだ間に合う。

C先生:このHPが公開される次の日である3月24日に、環境省がこれまで検討してきたアジア環境リーダーに関する報告会が行われる。
http://www.env.go.jp/policy/edu/asia/index.html
 状況は満員に近いとのことだが。

A君:今年のキーワードの一つが明らかに「環境リーダー」ということ。

B君:これは、そのうち取り上げるべき話題だろう。

C先生:今日の話題は、環境リーダーの話は最後にちょっとまとめるだけ。途上国における環境技術と、先進国における環境技術がなぜ違うのか、という話からはじめていきたい。そして、結論として、大学、研究所、企業などの研究者としては、技術のポートフォリオをできるだけ多層に準備しておく必要があるということ、を導きたい。

A君:ポイントを整理すると、先進国と途上国が必要とする環境技術はどう違うか。別の表現をすれば、現在日本で使われている環境技術のようなものが、途上国に移転しても、例え中国のような途上国の顔をした先進国においてすら使用されないのはなぜか。これを最初に明らかにする。

B君:環境技術でなければ、例えば携帯電話などの技術であれば、先進国のものと途上国のもので本質的な違いというものがある訳ではない。

C先生:携帯電話の話になると、どうしても一言言っておきたいのだが、日本のケータイは、世界標準では携帯電話ではない。あれは通話もできるゲームやテレビ機能の付いた電子メール機。世界中で、こんな使い方をしている携帯電話は無い。ヨーロッパ、アメリカでも超多忙なビジネスマンは、似たような機能の電話機、いわゆるスマートフォンをもっている。日本で売られているものとしては、例えばNokiaのE61、Blackberry、それに、何種類かのMobile Windowsを搭載した機種。しかし、中国などの携帯電話は、本当に携帯できる電話なので、日本製の携帯電話は、まず売れない。なぜならば、高価すぎるからだ。

B君:携帯電話という例を出したのは、まずかったのかもしれない。それなら、液晶テレビならどうだろう。

C先生:中国ならば、そのニーズは全く日本と同じようだ。すなわち完全に薄型テレビ需要だけになっている。しかし、世界全体だと、薄型テレビがブラウン管テレビの生産量を超えたのが、2007年の第四半期なので、世界的には、生産量の半分近くがブラウン管テレビではある。

A君:やはり、価格が主要なファクター。どうしても、サイズにもよるけれど薄型テレビになると、$500といった価格。一方ブラウン管テレビならば、$100ぐらいからある。

C先生:価格が決定的要素であることは事実。しかし、テレビであれば、ある国でまったく需要が無いという可能性は無いのだが、環境技術であれば、国によっては全く需要が無いということがあり得る。

A君:それは、需要の仕組みが違うから当然ですよね。
 図1に通常の技術の場合を示します。直感的ニーズといったはマーケティングを専門とされる方々には失礼かもしれないが、マーケティングが可能になるには、商品のイメージが出来上がってからの話で、まったくイメージもないような新製品は、マーケティングの対象としてもなかなか難しい。



図1: 通常の商品・技術の開発


B君:それに対して、環境技術の場合には、かなり違った経路を取る。直感的なニーズというものは、たとえば、この空気の汚さはなんとかならないか、といったようなもの。あるいは、この水だと、どこか体がおかしくならないか、といったような直感を意味する。途上国だと、そのまま放置されてしまう場合も多いのだが、先進国であれば、その実証が行われる。すなわち、測定、観測、データ解析などが行われて、そして、法体系などが整備される。それが「社会的枠組み」という表現になっているもの。そして、いったん枠組みができれば、そこから論理的なニーズが発生する。となれば、経済原則がどうのこうの、ということは不可能なので、技術開発が行われ、商品開発、そして普及という段階になる。



図2: 環境技術の場合の技術開発。

C先生:直感的ニーズがあっても、先進国であれば、すぐに対策が取れられるのだが、途上国だと無視されることも多い。もしも測定などが行われたとしても、たとえば、中国の硫黄酸化物の規制のように、違反しても罰金を払えばよくて、その罰金が公害対策装置を運転する費用よりも安ければ、その装置は運転されない、といった状況になることもある。

A君:すなわち、社会的な構造がどのようなものになっているかによって、ある技術が開発されるか、あるいは、公害が無視されたまま時間が経過するか、が決まることになる。

B君:したがって、いくら優れた環境技術であっても、それがあらゆる市場で受け入れられるということではない。

C先生:だからといって、汚染物質除去に関する性能を落とせばよいということでもない。なぜならば、性能を多少落としても、装置のコストなどはそんなにも変わらないから。むしろ、原理的なステージから検討を行って、さまざまな技術の集合を作っていく必要がある。

A君:ただし、日本のメーカーは、それをあまり得意としない。どちらかと言えば、高くても買ってくれる自治体を相手に商売をしてきたから。

B君:自治体としてゴミ焼却炉を選択するとき、ダイオキシンの排出濃度をあまりにも問題にしすぎたために、運転費用が相当に高いガス化溶融炉を買い込んでしまって、今、困っている自治体が多いのが、その証明になるだろう。

C先生:焼却炉の解体の基準も非常に高いものになって、宇宙服を着ないと解体もできない、と揶揄されたのだが、現状でもあまり変わっていないようだ。

A君:日本社会がリスクゼロを目指しすぎた時代があった。環境問題においては、完全なゼロも完全な100も正解ではない、ということをそろそろ理解できる段階になったのではないですか。

B君:いやいやまだまだだ。リスクゼロを求める市民に対して、どのような情報を与えることによって、その要求が無意味であることを悟ってもらえるか。この問題は、まだまだ十分な解が無い。

A君:日本の環境技術は高度すぎるとも言えて、実際のところ、途上国用としては選択肢が十分にないという欠点が存在している。省エネ技術にしてもそうだ。本HPで以前に検討したように、プリウスが経済的に成り立つかどうか、といえば、最近のように、ガソリンが150円を超すと多少可能性は高くなってきているのだが、それでも、1年間に1万キロ以上ぐらいは走らないと、元が取れない。途上国は、一般にガソリン代が安いので、普及は難しい

C先生:最近日本の消費者には、「経済的な余裕がでてきたから、環境に対して良いことをしよう」と考える人も出てきている。これは、経済的な余裕が精神的余裕と一致している、ということろが重要で、途上国では、一部の富裕層が出始めているのだが、そのようなメンタリティーにはなりにくい。日本ですら、高い車に乗っているから偉いのだ、という自己満足のために高級車を買うという人々がまだまだ多いのだから、途上国の状況は推して知るべし。

A君:結論的には、環境技術で途上国に貢献できるとしても、それには、まだまだ技術の選択肢が足らない。

C先生:選択肢が多い状態、特に、技術を手元に用意しているような状態になることを、ここでは「技術のポートフォリオ」を用意したと表現することにする。前回のHPで若干記述した経産省が発表した21種の温暖化対策技術も、ポートフォリオと表現することが可能だろう。

B君:経産省(NEDO)の技術群は、出口が見えている温暖化抑制技術のポートフォリオとでも表現しますか。

A君:しかし、出口がまだ見えていない技術のポートフォリオも、そろそろ準備を開始しておく必要がある。

C先生:ポートフォリオという言葉は、元々は金融用語。

A君:ポートフォリオ(Portfolio)とは、「紙バサミや書類入れ」を意味する言葉で、投資家が保有する金融資産の組み合わせをいう。

B君:どうやら、株券などを紙ばさみに入れて保存したことから派生したらしい。

C先生:だから、ポートフォリオも目的別に多数用意して、その中に十分な技術群を入れておく必要がある。そして、常に、その技術の競争力を評価しながら、どの技術が今後可能性が高くなるか、といった予測を行い、技術開発への戦略的な投資を行う必要がある。

A君:いずれにしても、環境技術全体の俯瞰図を描いてみて、現在の技術ポートフォリオが十分かどうかを検討する必要がある。

C先生:環境技術の俯瞰図は、多重入れ子式多層ポートフォリオになる。なぜならば、他の技術分野であると、その技術群に共通の学理のようなものがあるので、その学理に従って整理が可能なのだが、環境問題の場合には、もともと問題解決指向が強いこともあって、さまざまな学理が入り混じって入ってくるのが現実。要するに、環境技術には雑学的な色彩が強いのだ。

B君:何か例を出すべきではないか。

A君:環境技術の俯瞰図をどうせ作らなければならないのだから、試作をしますか。

B君:まず、俯瞰図のトップ。現時点の状況を見れば、
(1)温暖化対策分野
(2)環境汚染対応分野
(3)循環型社会分野
(4)自然共生分野

といった4つに分けるのが妥当だろう。

A君:地球観測ということで資源探索なども行われてはいるのですが、これは、環境分野とは切り離した方が妥当ということでしょうね。

B君:エネルギー資源の限界、金属資源の限界は、循環型社会分野に対する必須の情報ではある。

C先生:まあ、そんな理解で良いだろう。ということで、この図1が環境技術俯瞰図のトップか。



図1:環境技術俯瞰図のトップ層(第1レイヤー)

A君:そして、この図の左上の温暖化分野だけを示したものが図2。



図2:温暖化技術分野。トップ層(第1レイヤー)の拡大図。

B君:本日は、その中の自然エネルギーを拡大するか。



図3:自然エネルギーのポートフォリオ。第2レイヤー。

C先生:これが自然エネルギーのすべてという訳でもないかもしれない。ここにはない技術で、有望なものが出てくることを期待したい。途上国の話になると、そこでのエネルギー価格と太陽や風などがどのぐらい使い物になるかで、その技術が採用されるかどうかが決まる。

A君:こうしてみると、自然エネルギーそのものは、環境科学でもなんでもない。

B君:その話は、次でもっと鮮明になる。次は、自然エネルギーの中から太陽光発電を選択してみる。



図4:太陽光発電のポートフォリオ。第3レイヤー。ここになると、それぞれは、完全に材料科学の分野であって、環境科学ではない。

C先生:環境科学ではない、などとキャプションに書いてあるが、実際のところ、個々の技術開発は、環境科学では全くない。ただし、このポートフォリオの構成要素のうちどれが環境対策、この場合には、温暖化抑制だが、そのために有効か、といった判定を行うのは、環境科学の一部。

A君:ということは、環境科学として技術開発の研究を行うということは、まずは、漏れ落ちのないポートフォリオを作ること。その次が、最適の評価尺度を決めること。

B君:環境技術の場合には、個人の趣味のようなニーズで市場が形成される訳ではないので、市場がどのレベルに到達しているか、を判断する必要がある。それも環境科学の一部。

C先生:そして、個別の部分は、材料科学なりシステム科学なり化学などであって、別の学問分野だ。環境という多重ポートフォリオとでもいうべき水平の広がりと、個々の科学技術開発という垂直の深さが直角に交わったところが、環境対策技術の開発の最前線になる。そして、環境人材とは、実は何種類かあるのだが、環境リーダーと呼ばれる人は、その両方が理解できる人である。これで最初に戻った。