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 EUの約束草案は40%削減 
  03.15.2015
   日本版に向けた基本的な解析 




 これまで何回も述べておりますように、今年の11月末に始まるパリでのCOP21(気候変動枠組み条約締約国会議)で、2030年までの各国の気候変動への取り組みの枠組みが決まります。京都議定書とは違って、自らの考え方に基づいた気候変動防止への貢献を具体的に示すものです。しかし、その国の気候変動への考え方が露骨に出てしまうので、いかに自主的に提出する文書だとは言っても、極めて様々な危険性をはらんでいると考えざるをえないのです。

 国連の気候変動への取り組みは、もっとも大きな枠組は「先進国対途上国」という構図ですが、それだけではなくて、EU対日米、中国対米国、米国国内の民主党対共和党、といった対立関係を読みきって、日本という国が世界の中でどのような立ち位置を取るか、という非常に難しい問題を内包していると思っています。

 最初の、EU対日米ですが、これは、EU:米:日という3極構造に分かれつつあるようにも思えます。

 途上国:日本では、途上国の消費者としての経済的な実力が拡大しつつあることを考慮すると、日本経済の世界への進出が、この約束草案の書き方によっては、ある条件を満たす途上国から大反発を受けて失速するという危険性を考慮しないわけにはいかないでしょう。

 また、EUの中で、英国のように旧来の鉄鋼業などの基礎的な二次産業を放棄した国と、ドイツのように製造業を維持してきた国との違いをどうやって乗り越えようとしているのか、といった目で、じっくりと観察する必要があります。

 EU加盟国ではありませんが、現時点で、約束草案INDCを提出している国がスイスです。スイスの目標値も、2020〜2030年の平均で35%削減というものすごく「意欲的」ですが、国際的なカーボンクレジットの枠組みは一部利用するとしています。

 3月6日、EUの環境理事会は新しい地球気候変動に対するEUの約束草案(=INDC、Intended Nationally Determined Contribution)を承認しました。その内容は、極めて短いものですが、ご紹介すると同時に、日本の約束草案はどうすべきなのか、その考え方をまとめる前提となりそうな、その中味の解析を若干行ってみたいと思います。



C先生:EUは、3月6日に理事会の承認を得ると同時に、約束草案をラトビアの大統領府が代表して、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の事務局に提出をしたようだ。これは、11月末からパリで行われる同条約の締約国会議COP21において議論される予定の、地球温暖化対策に関する新しい枠組みでの要求事項であって、先進国は、できるだけ早期の提出を求められていたものだ。

A君:その内容は、ここに掲載されています。
http://ec.europa.eu/clima/news/docs/2015030601_eu_indc_en.pdf

B君:題名は、EUとメンバー国の約束草案。序文にはこんな風に書かれている。
 EUと28ヶ国のメンバーは、以下に示す見解をもって、UNFCCCの交渉のプロセスにフルに参画する。パリで開催されるCOP21で、2℃以下という目標値に沿って、すべての締約国に対して法的強制力をもった形で合意をすること。

1. The EU and its 28 Member States are fully committed to the UNFCCC negotiating process with a view to adopting a global legally binding agreement applicable to all Parties at the Paris Conference in December 2015 in line with the below 2°C objective.

A君:2℃以下の目標値ということがガッチリと決まっている。そして、すべての締約国は、どのような罰則規定になるか分からないものの、法的強制力を持っているものとして、自分が提出する目標値を遵守しなければならない。ということですね。

B君:2℃以下の目標値を達成することは、今回のように、最終的に法的な強制力をもっているものということになるかもしれないものの、もともと、各国が自らの意志で決めた約束事であって、その数値をあらかじめチェックして、これがそれぞれの国にとって最善の努力をしているかどうかを判定するという枠組みが消えた以上、法的強制力がどういう意味を持つのか、よく分からない。

A君:現時点の予想では、各国が持ち寄る約束草案の削減量をすべて足しあわせても、2℃目標には到達しないと言われています。いかに交渉事だから最終的にどうなるか分からないとは言うものの、今回の枠組みだと、それで決める以外にはないのですよね。

B君:その通りなのだ。しかし、「最善の努力を目指した約束草案かどうか」、については、「意欲的な約束草案かどうか」、とも言われるが、それぞれの国の面子、というよりも、むしろその国の交渉力というか、存在感というか、そんなものを掛けての、個別の取引になると思った方が良い。

A君:意欲的ではない約束草案を出すと、その国は幽霊のごとき存在に成り下がる、と言われていますね。

B君:そう。少なくとも温暖化交渉の現場では、すべての国によって無視される。しかし、それだけでないので怖いのだ。その国の海外での企業活動にもマイナスの効果がでてきて、例えば、世界的なマーケットを独占していると言われるOA用複合機のようなビジネスがやりにくくなる。これは、日本経済にとってもマイナス。また、温暖化による海面上昇で、国土が失われると考えられるバングラデシュなどの国民の日本への評判を最悪にし、適応策などへの巨額の出資を求められる可能性が大きくなる。

A君:日本国内の経済、すなわち、国内のみで経済活動については、例えば、電力がその典型例ですが、どんなに意欲的ではない約束草案を持って行っても、大きな負の影響はないのですが、それだけで決めることはできない。

B君:その通りで、日本のグローバル企業としては、是非とも、意欲的な約束草案を持っていくことが期待されている。

A君:日本全体の経済活動の今後、特に、約束草案が2030年までを縛るものなので、日本国内での経済活動だけでなく、海外のあらゆる国での日本企業の経済活動をしっかり予測した上で、何がもっとも重大なのかを判定する必要がありますね。すなわち、今回のCOP21では、各国の状況をそれぞれしっかりと理解すべきということも言えます。これは、後回しにしますが。

B君:それはその通り。話を戻してEUのINDCだけれど、そのタイトルは、詳しく書けば、次の通り。
Intended nationally determined contribution (INDC) of the EU and its Member States

A君:そして、次の文章が続きます。
2. The Lima Conference confirmed the Warsaw decision that all Parties ready to do so should communicate their INDC in the first quarter of 2015 in a manner that facilitates the clarity, transparency and understanding of the INDC.

B君:この文章は正式文書なので、ちょっと妙なのだけれど、多分、"ready to do so"は直前の"all Parties"を形容している。日本語にすればこんな感じか。
「リマでのCOP20で確認したワルシャワでの決定、すなわち、すべての締約国は、INDCを2015年の第一四半期、すなわち、3月末までに提出すべく準備をする。その文書は、明瞭で、透明性をもち、容易に理解できる形でなければならない。

A君:Parties should communicate・・・・なので、義務は義務なのですが、まあまあ。もし、should でなくてshallだと、現状の日本の対応のように、まだ数ヶ月先に提出するといった態度では、トンデモないのですが。

B君:それでは、次の文章。
3. The EU and its Member States wish to communicate the following INDC. The EU and its Member States are committed to a binding target of an at least 40% domestic reduction in greenhouse gas emissions by 2030 compared to 1990, to be fulfilled jointly, as set out in the conclusions by the European Council of October 2014. In line with the Lima Call for Climate Action, in particular its paragraph 14, the following quantifiable information is hereby submitted:

A君:訳すとこんな風ですか。
 EUと28ヶ国のメンバーは、以下のINDCを提出する。EUとそのメンバーは、1990年比で、2030年までに、温室効果ガスの少なくとも40%を削減するという目標を遵守することを表明する。この目標は、EU理事会が2014年の10月に決定したように、28ヶ国のメンバーが全体として達成する。リマでの"Call for Climate Action"、特に、その第14パラグラフに沿った形で、以下のような定量的な情報を提出する。

B君:この下には、定量的な情報が、表の形でまとめられている。

A君:リマのCall for Climate Actionというものが分からないと、次に行けませんね。これが最新のものか分かりませんが、少なくとも、
http://newsroom.unfccc.int/lima/lima-call-for-climate-action-puts-world-on-track-to-paris-2015/
からリンクされているものは、
http://newsroom.unfccc.int/media/167536/auv_cop20_lima_call_for_climate_action.pdf
これです。

B君:14.というものは、22.まである合意文書の14番目の文章。もっとも、この文書には、103.まである長い長い付属文書が付いているが。

14. Agrees that the information to be provided by Parties communicating their intended nationally determined contributions, in order to facilitate clarity, transparency and understanding, may include, as appropriate, inter alia, quantifiable information on the reference point (including, as appropriate, a base year), time frames and/or periods for
implementation, scope and coverage, planning processes, assumptions and methodological approaches including those for estimating and accounting for anthropogenic greenhouse gas emissions and, as appropriate, removals, and how the Party considers that its intended nationally determined contribution is fair and ambitious, in light of its national circumstances, and how it contributes towards achieving the objective of the Convention as set out in its Article 2;


A君:これも訳すとこんな風ですかね。
締約国が提出する約束草案で提供される情報は、明瞭で、透明性をもち、容易に理解できる形にするために、以下のような情報を必要に応じて含むことができる。必要なものを例示すれば、基準年、時間的枠組み、あるいは実装のための期間、考慮する範囲とそのカバー、計画策定のプロセス、人為起源の温室効果ガスの発生量と必要な場合にはその除去量を推定し定量化する際の仮定とアプローチの方法、そして、締約国が、自国の状況に照らして約束草案が公平で意欲的だと考えるか、そして、それが枠組条約の第二項の目的の達成にどのように貢献するかの記述。

B君:国際交渉文書だなあ。訳すのが難しい。そのうち、外務省から訳がでるだろうから、比較してみたい。

A君:その言葉への反応はしないことにして、EUのINDCに戻りますが、この文章の下に、テーブルが掲載されて、それで終わり。

B君:重要なのは、次の4つの項目。

図1 EUのINDCの重要項目

A君:これを見ると、EUは、2021年1月1日から2030年12月31日の10年間が期間ですが、2030年時点で、最低でも40%の削減を宣言したことになりますね。

B君:米国は2025年での削減量だったと思うけど、まだ正式なINDCは出していない(3月14日現在で提出した国はまだ2ヶ国。
http://unfccc.int/focus/indc_portal/items/8766.php
を見ると、スイスとEUのみで、米国のものは見つからない)ので、なんとも分からないが。

A君:スイスのINDCもすごい値で、2020〜2030年の平均で35%削減。ただし、国際的なカーボンクレジットの枠組みは一部利用すると書かれています。

B君:スイスは、1990年基準だけれど、2012年での状況はたったのマイナス3%程度で、EU諸国の状況とは随分と違う。1990年以来、GDPは35%以上増加しているけれど、GDP比の削減ではない。これが可能なのだろうか、というぐらい「意欲的」とは言える。

A君:削減レベルですが、EU版で重要なのは、domesticと書かれていることですね。日本は、二国間クレジットという枠組みで、諸外国でも二酸化炭素排出を支援していますが、もしも、その成果を多少でも削減レベルにカウントしたいと思ったら、ここをdomesticと書くことはできなくなります。さて、どう書くことになるか、これを真剣に考えなければならないことになります。

B君:書き込むことは本来は任意だと思う。しかし、正しくそれがFairかAmbitiousか、という質問を受けて、それに対して、どのように答えるかを問われる。

A君:スイスのように、「国際的なカーボンクレジット」を使うことは、多分Fair。しかし、JCMがどう支持されるか。それには、途上国を味方に付けることができるかどうかが鍵。

B君:その辺りの交渉力が問われるということか。

A君:しかし、「自国の状況に照らして」、という条件はあるので、東日本大震災と福島第一原発事故という状況を考えると、こんなもの、という言い方はあり得るかもしれないですが、こちらも相当な交渉力を必要としそうな気はしますね。

B君:2021年1月がスタートの時期になるだろうが、2030年12月末をピンポイントの目標にするという方法論が日本の場合には良いようにも思える。

A君:あれ、EUの文書をよくよく見たら、先ほど、これで終わりかと思ったら、まだまだ4.5.6.がありますね。

4. The EU and its Member States urge all other Parties, in particular major economies, to communicate their INDCs by the end of March 2015 in a manner that facilitates their clarity, transparency and understanding.

5. The EU and its Member States request the UNFCCC Secretariat to publish the INDC of the EU and its Member States on its website and to take it into
account when preparing the synthesis report on the aggregate effect of the INDCs communicated by Parties.

6. The EU and its Member States look forward to discussing with other Parties the fairness and ambition of INDCs in the context of the below 2°C objective, their aggregate contribution to that objective and on ways to collectively increase ambition further.

B君:簡単な英語なので、訳すのは不必要だろう。
 4は、日本に対する催促と読めるな。5は、INDCをUNFCCC事務局のWebに掲載せよと要求しているけど、これはすでにできている。6は各国のINDCがでたら、それが公平か、意欲的かを個別に議論したいと言う希望の表明だ。

A君:もはや国際交渉が始まっているという印象が非常に強いです。

C先生:さてさて、これで日本は検討を急いで、INDCを作ることになるけれど、相手の手の内を見ると、議論がどう影響するのやら。

A君:もっとも重要なポイントは、米国のINDCが正式に公表されたときにどのように理解をするか、ではないですか。

B君:京都議定書が決まったCOP3でのゴア大統領の発言とその後の米国の対応、すなわち、京都議定書を批准しなかったことを記憶から消せないというトラウマがあって、米国がまたまたあの対応をするのではないか、と不安になる。

C先生:それが最大の議論のタネになりそうだ。これについては、色々な見解があり得るのだけれど、少なくとも共和党は、オバマ政権のINDCに反対を唱えるのではないだろうか。しかし、シェールガスのお陰で、米国は、燃料費を下げながら、排出量の削減も同時に行うことができる状況になったものと思われるので、INDCに書かれるであろう2025年に26〜28%の削減までは行かないにしても、20%ぐらいは本当に削減してみせる可能性も強い。

A君:共和党の対応は、まあ、非常に読みにくいということですね。

B君:その通り。オバマ政権そのものは本気であると思った方が良いという見方もありうる。ということは、もしも日本のINDCが余り意欲的でなかったら、民主党政権の後押しをするのではなく、共和党の味方をするのか、という評価をオバマ政権によって下される可能性もあるので、かなり微妙な判断を迫られるのではないだろうか。

C先生:いずれにしても、残された期間は3ヶ月を切ったようだ。あらゆる可能性を考えた議論を、in a manner that facilitates the clarity, transparency and understandingでやって、fair and ambitious, in light of its national circumstances, and how it contributes towards achieving the objective of the Convention as set out in its Article 2という目標を達成しなければならない。これが義務であることは明らかなようだ。大変難しい状況になった。