-------

   EVドミノ、とうとうインドへ?
     2030年でEVだけは本当か? 08.12.2017

               



  これまで、英国、フランス、ボルボなど、欧州の国あるいはメーカーが、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの車は禁止もしくは製造しないとし、基本的に電気自動車のみとする、との方針を表明してきた。これは、様々な政治的な状況を考えると、ある意味で当然とも思える。すでに2ヶ月以上前のことになるが、インドも2030年には、EVだけにするという決定をしたというニュースが流れた。

 例えば、次のようなものである。
https://www.cnn.co.jp/business/35102214.html
2017.06.04 Sun posted at 15:07 JST

http://money.cnn.com/2017/06/03/technology/future/india-electric-cars/index.html
India to sell only electric cars by 2030

https://www.weforum.org/agenda/2017/05/india-electric-car-sales-only-2030/
India will sell only electric cars within the next 13 years

 これまでチェックするヒマが無かったこともあって、このようなニュースを本物だと受け止めていた。しかし、やはり疑問が沸いてきて、当然、インド政府からの公式なメッセージがあるだろうと思って探したのだけれど、見つからない。見つかるのは、いわゆるFAMEに関するもので、これは、2020年が目標年になっている。

 FAMEとは、インド工業省の管轄下にあるプロジェクトで、その正式名前をフルスペルすると、以下のようなもの。
Faster Adoption and Manufacturing of (Hybrid &) Electric Vehicles india
http://www.dhi.nic.in/UserView?mid=2418

 なんと( )入りながら、”Hybrid &”という言葉が入っている。勿論、Hybridといって多種多様で、ほとんど燃費にも排ガス削減にもほとんど貢献できないものまであるので、まあ、2020年が目標年でも、まあ行けるかも、という程度のもので、極めて現実的。しかし、その後10年でのAll EV化は、主として社会インフラ面で、かなり難しい。

 インドと言えば、スズキ自動車がマーケットシェアをしっかりと押さえ込んでいることで有名な国だけれど、そのスズキも、”ハイブリッド”と呼ぶ車を出している。しかし、モーター:正確には、モーター機能付き発電機をISG(Integrated Starter Generator)という名称で搭載しているだけ。もともとは三菱電機の技術らしい。日産も同様のセレナを販売しているけれど、スズキの電池はリチウム、日産の電池は鉛蓄電池。

 スズキのISGは、スタートのとき、最長30秒間だけエンジンをアシストすることができる。その出力は、3.1ps/1000rpm。エンジンが91ps/6000rpmなので、約30分の1のモーター出力である。この程度の出力でも、モーターの最大トルクは0回転時(=回っていないとき)なので、発進時には多少利くかもしれない。燃費向上は微々たるものだろうけれど。

 2020年が目標のFAMEには、あらゆる形式のハイブリッドを含むとあるので、このISG方式は、インドでは正式にハイブリッドと認定されるのだろうと思う。(恐らく、ハイブリッドシステム専用のバッテリーを搭載しているかどうかが判定基準になるのでは)。

 それにしても、このISG形式とPureEVとのギャップは相当に大きい。エンジンやオートマなどの複雑な機械部分が無いので、EVは、自動車としては技術的には全く難しいことはないのだけれど、唯一電池関係、その制御が難しいだけでなく、電池の調達あたりも問題になるとされてはいる。

 以上のような状況で、インドが2030年に、All EV化するというニュースは本当なのだろうか。これが今回の話題。

  
C先生:インドが2030年にはすべての自動車をEVにするというCNNなどのニュースを見たとき、「本当かっ??」というのが最初の印象だった。しかし、「まあ、言葉だけだろう」、と流していた。先日、日経が「EV大転換(上下)」なる記事を一面に書いた。そこで、また、ちょっと考えた。まだ、充電インフラなどの準備が何一つできていないあのインドという国が、あと10年ちょっとでそこまで行けるのか。これが正直な感想。それに、インドで電力供給は充分に行けるのか。あるいは、行けるとしたら、石炭を燃やすことになりはしないか。というような疑問が大量に湧いてきた。ということで、今回は、インドが出発点。

A君:インドがCOP21に提出したINDC(削減目標)は、2005年レベルに対して、2030年でGDPあたり33〜35%を削減するというもの。先進国のような絶対値による削減ではなくて、大幅なGDPの向上を目指すものの、エネルギーの大量消費による手段は採用しないという宣言のようなものです。これは、中国も同様。 それで、問題は、2030年にインドがEVだけにするというCNNのニュースだけれど、ちょっと調べた限りでは、裏が取れない。読者のどなたか、ご存知でしたら、そのソースを教えてください。

B君:ひょっとすると、トランプ大統領が言うように、CNNはフェイクニュースを出すのかもしれない。

C先生:まずは、話をインド以外にも広げて、国やメーカーが、今、何を考えているのか、を推測してみたい。それを元にして、最後にインドの状況を考えよう。

A君:了解。まずは、英国から。この国には、すでに自動車産業は無いに等しい。そのため、自国に輸入される自動車をEVだけにすることに、何の抵抗もないでしょう。むしろ、EU離脱を受けて、ドイツのディーゼルを推進してきた車産業に対して批判勢力になりたい国民性だとも解釈できると思う。昔は、ロールスロイスだけでなく、大衆車でもオースチンなどがあったのに、という恨みを晴らしているという訳です。All EVはかなり信憑性が高いと判断

B君:なぜ電気自動車にするのか。その理由は、勿論、CO削減が可能ということではあるのだけれど、これまでガソリンや軽油がエネルギー備蓄の役割を果たしてきた。そこで、貯めることが難しい電力を自分の自動車のバッテリーにある程度貯めるということで、電力供給網の安定性を高めるという効果を考えるという発想だという考え方もありうる。なぜならば、英国は、自然エネルギーの導入に非常に熱心な国だから。原子力も1基新設する計画を進めていて、発電コストが高いので、政府が高く買い上げる値段まで決めたのに、建設コストがさらに高くなっていて、その値段ではペイしない可能性がある状態になってしまっていることも背景にはあるかも。

A君:不安定な自然エネルギー対策としての具体策は、車to家庭(Vehicle to Home:V2H)という枠組みで、自家用の太陽電池パネルの電力を車に貯めて、電力代が非常に高くなると考えられる夕刻から夜までの電力は、EVの電池に溜めた電力を使うという方法によって、EVの普及を図ろうという考え方は、比較的妥当性が高い。都会は、もともと太陽電池を設置しにくい。特に、超高層ビルは絶望的です。しかも、都会は車が不要な社会。しかし、戸建て住宅の割合が高い地域では、V2Hは、面白い考え方だと思います。

B君:その説明は、実は日本の場合であって、英国では、自然エネルギーは洋上風力や海洋エネルギーなどが主役になりそう。となると、車の電池は余り重要ではない可能性も高いと思われる。しかも、将来は、アイスランドとノルウェーの水力発電の電力を海底電線を通して直流送電で受けることまで真剣に実行するつもりのようで、パリ協定は、それこそ、正義のために実行するという思いのある国。となると、電気自動車は、電化100%のために、必須の対応ということになるという側面が強いのだろう。

A君:それではフランス。この国の国民は、なぜかZEH、ZEB(Zero Emission House, Building)が大好きで、電池は、そのための必須部品なので、それを自分で持つことに、喜びを感じる国民が多いのかもしれません。ビルにしても、今後建設される5〜6階建てぐらいのビルだと、ZEBを目指すという国民性のようです。

B君:自動車としては、シトロエン・プジョーと、ルノー・日産があるけど、これまでのところ、電動技術はほとんど何もやってきていないのが現実。日産のフーガにハイブリッドが、セレナにスズキより保守的なマイルドハイブリッドがあるぐらい。

A君:ハイブリッドは別として、純粋の電気自動車であれば、電池は余り大きな問題ではないので、技術競走は苦手だけど、企業競走に勝てると思っているのでしょう。電池は買えば良いので。しかし、パリのタクシーはかなりプリウスが走っているのですが。

B君:実際問題、プリウスより電気自動車の方が、100倍ぐらい簡単。プリウスの最大の問題は、余りにも複雑なシステム=「モーター(発電機)2台とエンジン1台のパワーを遊星ギヤを使って任意の割合で混ぜることができる制御が無限大に難しいシステム」であることで、誰も真似ができない。そのために、世界の自動車メーカーは同じようなものが作れない。そのため、普及しない。

A君:まさに、すり合わせ技術の極限のようなシステムで、このような技術は東アジア向きで、世界的に普及しないのです。ホンダのハイブリッドぐらい単純なシステムにしておけば、まあまあ普及はするのですが、やはりモーターだけで発進して、エンジンが後から動く経験をしてしまうと、ホンダのモーター直結型は、本物だとは思えないのです。そこで、欧州勢は、EVまで一気に行きたい

B君:欧州のメーカー、例えば、BMWやメルセデスは、ハイブリッド車を出しているが、情報開示が不十分で、技術的な内容の詳細はさっぱり分からない。ポルシェは、一気に、電気自動車で行くようだけど、フォルクスワーゲングループだから当然と言える。

A君:「EVだけで行く宣言」をした車メーカーとしては、ボルボの名前が上がっています。しかし、このメーカーは、現時点でなんらかの電動技術を持っているとは思えないので、恐らく、そのために、もっとも単純な純粋EVを売るつもりなのでしょう。

C先生:このような状況なので、EVドミノという報道は、技術的にハイブリッドなどの制御の難しい技術を持っていないボルボのようなメーカーにとって、有利だということが根拠なのだ。日経新聞あたりは、EVの方が自動車として高級だと言った記事を書くが、駆動技術という観点から見れば、原理は、遊園地のミニカーなので、なにも高級な部分はなくて、究極の自動車は、ゼロカーボンの人工燃料を燃やすエンジンを搭載したプリウス型の超軽量化したプラグインハイブリッド車だ。なぜならば、地球環境への対応を基準とした究極の高性能とは、走行時のエネルギー効率がもっとも高い車だということが明らかなのだ。世界の自動車企業も、最終的には、多分2050年頃には、それがターゲットになることを知っている。しかし、一般社会も、メディアや自動車企業の自己都合による宣伝に惑わされているので、最終的には「エネルギー効率」で競走することになるのだ、という理解になるのは、まだまだ20年ぐらいかかるかもしれない。

A君:似たようなことなのですが、水素燃料電池車はどうなるのでしょうか。メディアの中には、パリ協定も2050年も、また、非ガソリン車も、何も分かっていない記者が多いのです。こんな反応、すなわち、「諸外国がすべてEVなのになぜ日本だけが水素燃料電池?」がその典型でしょう。恐らく、自分で、EVを買ってみて、はじめて様々な状況が分かるでしょう。
https://thepage.jp/detail/20170803-00000009-wordleaf

B君:これは、毎回書いていることだけれど、水素燃料電池車の最大の利点は、ガソリン車と同様に、3分間で満タンが実現できること。電気自動車でも、バッテリーを交換する方式か、あるいは、超高圧の配電網が使えれば、かなり充電時間は短くはなるけれど、それでもやはり3分では無理。

A君:ポルシェは、家庭にも800Vの配電をすることを提案しているようです。

B君:ノルウェーなどには、すでに400Vの配電網がある。テスラの米国では、これも何回も書いているけれど、240Vまで。そのため、充電口を2つ用意して半分の時間での充電を可能にしている。

A君:テスラに限れば、実は、余り大きな問題はないのです。なぜならば、あの車を買うのは、3台目としてだからです。1台目が、普通のガソリン車でロングツアラー、2台目が奥さんの買い物グルマ。そして、3台目がテスラでして、これは、ご主人の見栄車です。見せびらかすために買う車です。最近のテスラの電池は、なんと100kWhまで増やすことができるようですが、これを日本の200V15A=3kWで充電すると、33時間かかるという計算になります。これは、かなり前に
http://www.yasuienv.net/NewPriusPHV.htm
ですでに述べた話です。

B君:しかし、米国国内なら、テスラであっても、2本ケーブルで充電すれば、容量が20kWのようなので、5時間で満タンという計算にはなる。

A君:繰り返しですが、水素燃料電池車の最大の特徴は、3分満タン。これはEVではまず難しい。慣れの問題とも言えますが、将来、充電器に車が何台並んでいるかは、IoTが普及しているでしょうから、EVの車内で、事前に分かるでしょう。十二分な台数の充電器が整備されれば、電気自動車も自分の充電時間だけの時間を考えれば良くなるかもしれません。

B君:実は、水素燃料電池車も同じ問題がある。それは、水素ステーションの数。東京オリンピックでかなり水素燃料電池車を普及させるつもりのようだけど。

A君:比較的小型の太陽電池で水素を作る装置をホンダは開発しています。もっとも圧力が水素燃料自動車のタンクの半分なので、本当に実用になるかどうか、やや疑問ですが。
 太陽光発電などが発電の主力になれば、電力が余る時間帯があることが予想されますので、通常なら電池に貯め、場合によっては、水の電気分解で水素として貯めるという方法も採用されることでしょう。

B君:水素ステーションがどのぐらい普及すれば良いのか。それは、水素燃料電池車の航続距離に依存するが、ミライの場合であれば、都市内に一定数と、旅行者用を考えて100kmごとに水素ステーションがあれば、普及の最初の段階としては、まずは充分のような気がする。

A君:それに最近の状況ですが、水素燃料電池車の本体である燃料電池の価格は、意外と安くなるのではないか、という推定も出始めています。当然、白金などの金属を触媒には使うのですが、その回収率は100%ですから、余り大きな問題にはなりません。何が高いのか、と言えば、当初は、水素タンクが高かったのですが、現時点では、特殊な補機類。例えば、水素を送るパイプの接合部の部品のようなものが、一品生産だから、非常に高いようです。このような部品は、いよいよ韓国のHyundaiが水素燃料電池車の生産を始めるようですので、標準化による世界共通化をすることで、かなり安価にできるのでは、と思います。

C先生:2050年を考えると、長距離トラックが依然として必要不可欠であるのなら、そのエネルギー源を何にするのか、ディーゼルを本気でダメだというのなら、大問題だ。電気だとすると、色々と工夫が必要で多少の電池を搭載したトロリートラックを個人的にはお奨め、という記事を何回か書いてきた。しかし、それには、高速道路に架線を張らなければならない。無線給電だという人も居るけど、エネルギー効率が悪いので懐疑的。勿論、水素燃料電池トラックという手も無い訳ではない。高速道路などに水素ステーションを作れば良いだけだから、比較的簡単だし。

A君:となると、むしろ、長距離トラックが、水素自動車普及の先兵になるのかもしれません。となると、2040年ぐらいから、水素燃料自動車が急速に普及するというシナリオもありのような気がします。

B君:まあ、自動車の電動化は全体的な傾向であることは事実。しかし、それが最終型だと決まった訳ではない。これが、世界的にみて現実だろう。

C先生:そろそろ、結論に行くか。EVドミノを、メディアが煽るインドも2030年にはAll EV!。しかし、これは、現実をしっかり見極めると、かなり怪しい。なぜか。それは、メディアが見ているのは、そのときのスターだけだからだ。EVなら圧倒的にテスラのトップ、イーロン・マスク。確かにカッコ良いと思う。しかし、記者達は、EVを所有したことが無いもので、電欠になったときの悲惨さとか、その怖さとかを経験していないし、考えようともしていないのだろう。このような煽り記事がでても、余り信頼しないようにすることが、現時点では無難に思える。
 最後にもう一度お願い。インドが2030年で”ALL EV!”の公式文書がどこかにあれば、お教えいただきたい。