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 電源ベストミックスの考え方ー若い人へ 
  04.11.2015
            リスクガバナンス手法を用いてみる




 さる雑誌から、「若い人と考える電源のベストミックス」という題名で依頼された原稿を書くために、まずは、長さを考えないで頭の中にあることすべてを書き下ろしてみました。文章は、なぜか、「ですます調」になっています。

 全体の目次は以下のようになっていますが、03.22.3015の記事で、もともとは第3章であった、2050年までのイノベーションを公開しました。

 今回は、その部分を除いた、残りの部分を公開します。リスクガバナンス的手法に基づいたエネルギーの議論は、ほとんど見たことがないのですが、この方法によれば、様々な要素が定量的に議論できると思うのです。その議論の過程では、様々なリスクをどのように定量的に評価したか、それはどのような根拠に基づくものなのか、といった議論が可能になります。この方法は、あらゆるリスクをかなり定量的に議論することが可能になります。

 若い人へというサブタイトルを付けた理由ですが、最近、自分のポジションを決めないと議論ができない、と思う若い人が増えたように思うのです。それは間違いです。まず、あらゆる情報をすべて手に入れ、それを元に、どのような解析方法がもっとも合理的であるかを考え、それに基いて、自らの考え方を決めるという方法論が、もっともオーソドックスなやり方ですし、人文科学・社会科学を含めて、科学的な方法論だと思います。

 各種のリスクについて、あらゆるリスクを定量的に、かつ、長期的視点から取り扱うという方法がリスクガバナンスと呼ばれる方法論で、丁寧なリスク・コミュニケーションの基礎となる方法論だと理解されています。

 皆様のご感想ならびに個人的な点数を伺いたいと思っています。

目次

1.はじめに
2.必要不可欠な知識
1)エネルギーとは何か、なぜエネルギーが必要か
2)エネルギーミックスを考える基本的な枠組み 3E+S
3)リスクという上位概念によって、複数の要素を一つの評価軸にまとめる
4)長期的な視点が必要であること
3.3種の一次エネルギーのリスク
1)化石燃料の長期リスク
2)原子力の長期リスク
3)自然エネルギーの長期リスク
4.リスクの点数化
5.まとめ




1.はじめに

 日本経済の将来に大きな影響を与えるかもしれない決定が行われようとしています。一つは、日本の電源構成を決める作業で、「電源のベストミックス」と言われます。もう一つは、今年の11月末からパリで行われる国連気候変動枠組条約、いわゆる温暖化防止条約の締約国会議COP21に提出する約束草案です。要するに、日本の将来のエネルギー供給のあり方を決めることになります。
 このように重大な課題なのですが、社会的関心はあまり盛り上がっているとは言えません。相当広範囲に、しかも、長期的に考えなければならない問題なので、考え方が相当に複雑であり、また、個々多数のデータにアクセスすることが必須であることを反映しているのかもれません。また、福島第一原発事故への不信が、エネルギー問題への基本的なスタンスに影響しているのかもしれません。
 ここでは、いくら単純化しても、このような複合的な考え方にならざるを得ない、ということを述べると同時に、どのように考えると、多少なりとも決定に至ることになるか、そのような情報を提供したいと思います。


2.必要不可欠な予備知識

1)エネルギーとは何か、なぜエネルギーが必要か

 エネルギーは、経済活動にとってもっとも重要な要素です。国の経済活動の指標となるGDPとエネルギー消費量とは、ほぼ比例関係にある仮定されることが多いぐらいです。
 そもそもエネルギーとはどのようなものなのでしょうか。まずは、皆さんの認識をチェックしてみたいと思います。次のa.からh.の記述は正しいでしょうか正しくないでしょうか。
a.太古からエネルギーは熱源としてのみ使われていましたが、動力として使える蒸気機関の発明によって、産業革命が起き、それを契機として冨の格差が生まれました。
b.エネルギーのお陰で、新しい化学反応を起こすことができるようになり、空気と水素からアンモニアを合成し、最終的には化学肥料が供給できて、食料の大増産が可能になりました。
c.人類が使えるエネルギーは化石燃料、原子力、自然エネルギーの3種類のみです。すべてが核反応に由来するものです。
d.化石燃料は、太陽エネルギーを植物が蓄積した結果、我々が使えるようになったものです。その蓄積には数億年かかりましたが、それを人類は300年で使い切ろうとしています。この時間の差が、地球温暖化を引き起こしている原因です。
e.原子力は、星が老化したときに起きる超新星爆発の際に作られた元素を使っています。
f.太陽のエネルギー源は水素で、その中心部で核融合を起こしてヘリウムに変えながらエネルギーを得ています。そのうち太陽は老化して赤色巨星になり、水星、金星は太陽に飲み込まれ、地球の気温は高温になり、生命はすべて絶滅します。
g.エネルギーは、運動エネルギー、位置エネルギー、化学エネルギー、電気エネルギー、熱エネルギーの5つの形態を取り、お互いに変換可能で、色々と使用されています。
h.エネルギーの挙動は、実用レベルでは熱力学によって規定されていると考えてよく、例外や不確実性はありません。

 詳しい解説をする文字数の余裕が無いので、何が言いたいのか分からないかもしれませんが、実は、いずれも正しい記述です。このところ、科学的事実には不確実性が伴うとよく言われるのですが、それは、非常にミクロな現象、生命現象、地球レベルの大規模科学に限られた話でして、エネルギーのような古典的な現象に、不確実性はほとんど無いのです。

2) エネルギーミックスを考える基本的な枠組み 3E+S
 
 上のc.に述べたように、3種類の一次エネルギーと呼ばれるものがあります。地球を利用して得られるエネルギーには、化に石燃料、核燃料、そして、自然エネルギーの3種類以外はない、ということを意味します。
 この3種類をどのような割合で利用すべきか、その答えをベストエネルギーミックスと言います。もしも発電用の最適解を考える場合には、電源のベストミックスといった名称になります。
 何かを選択する場合には、いくつかの要素を複合的に考える必要があります。例えば、スマホの選択を考えるときには、価格、性能、電波の状態といった複数の要素を考えて選ぶでしょう。電力の場合には、エネルギー安全保障(Energy Security)、環境影響(Environment)、経済性(Efficiency & Cost)の3つのE、それに安全性(Safty)のSを加えた3E+Sの四要素を考えることになっています。
 なぜこの4つの要素だけを考えれば良いのか、その完全性を証明することが不可能ですが、リスクを一つの専門分野としている筆者にとって、かなり妥当な4つの要素のように見えます。
 ちなみに、Sは前提であって、最優先すべきだという主張もありますが、次に述べるように、リスクという普遍化を行うことによって、平等かつ正当な評価が可能になると考えています。

3)リスクという上位概念によって、複数の要素を一つの評価軸にまとめる

 最近、世界が様々な要因で不安定化したため、ビジネスを行う人々にとってあらゆるリスクを考慮する必要があります。そのとき、脳の中でどのような作業が行われているでしょうか。ギリシャの財政健全化はEUと合意できるのだろうか、東南アジアの賃上げは海外進出企業にどのように影響するだろうか、イスラム国は原油タンカーの運行に影響を与えることがあるだろうか、COP21向けの約束草案を余りに低レベルにしたときの国際的な評価、などなど様々な事象を思考するとき、それらをリスクに変換して比較しているのではないでしょうか。
 リスクとは、ある事態が発生すると仮定したとき、その影響の大きさと起きる可能性の2軸で考える方法です。これは、異なった事象の影響を比較するとき、かなり有力だと考えられる方法です。
 問題はあります。この評価は、基本的に個人の意見を反映しているということです。しかし、異なった考え方をもった多くの人々が、このような共通の方法論を採用して議論をすることによって、よりもっともらしい結論がでることが多いと考えています。近年、この方法論を拡張したリスクガバナンスという概念が注目されています。理由は簡単でして、多軸でものを考える枠組みを採用することによって、一軸だけを再優先する偏った考え方は有効ではないことが、一瞬で明らかになるからです。
 例えば、原発は危険だから使うべきでない、という考え方がそ一軸的考え方の代表格です。現時点では石炭発電が最善であるという考え方もやはり一軸的な考え方でしょう。
 エネルギーのベストミックスとは、多軸で考えることによって、リスクを最小にするエネルギーの組み合わせである、と言うべきでしょう。
 
4)長期的な視点が必要であること

 エネルギー産業は、かなり気の長い産業です。技術の進化も遅く、携帯電話がスマホに短期間に変わったような急速な変化は考えられない産業です。例えば、発電設備を新たに建設するとき、想定される運転期間は大体40年です。この期間は、短期的に利益を出さなければ株主にそっぽを向かれるほど、余りにも長いのです。
 したがって、国民全体の意見、あるいは、その意見の代弁者である政府の方針によって、大きく影響を受けるのです。これもリスクの一つです。
 40年という長さを見極めるために、40年後を考える代わりに、40年前を考えてみましょう。1975年は第一次石油ショックで原油価格が跳ね上がり、日本経済に激震が走っていた時代です。この時代に、40年後の今を予測することは不可能だったでしょう。他の国でも同様です。英国のように、40年で経済構造を大幅に変えた国もあります。製鉄などが1967年に二度目の国有化が決まり、結果的に製造業が低迷して国際競争力を失い、「老大国」「イギリス病」と言われました。その結果、自動車産業はインドなどに買収され、今は、金融立国を主とし、製造業は、航空機のような高付加価値のものだけの国になりました。
 日本もGDPの内訳では、製造業はすでに20%程度に過ぎません。それでも素材産業はかなり維持されている状況です。今後40年間で、国の産業の構造がどう変わるのでしょうか。それによって、エネルギー需要が決まるのですが、予想が極めて難しい問題です。


3.3種の一次エネルギーのリスク

 電源のベストミックスをどのようにすべきでしょうか。ここでは、3E+Sで分類したリスクを中心に考えてみたいと思います。もっとも、最近のリスクの定義(ISO31000)では、リスクとは不確実性が与える影響であるとされており、プラスの影響も含むことになっています。すなわち、リスクとチャンスは似たものとして定義されています。
 ※の点数は、1点がもっとも危険、5点をもっとも危険でないとして、2030年時点を想定し、個人的な直感で採点したものです。残念ながら、ここに記述した項目リストが完全という訳ではありません。

1)化石燃料の長期リスク

E:Energy Securityのリスク 3点(5点満点)
 ◆産油国の意図的な価格操作により原油価格の変動が非常に大きい ※これは米国のシェールオイルの採掘費用が高いことに対する攻撃だと理解できます。実際、価格が低下したときには、開発が一次ストップしたようです。
 ◆国家間の問題によって、原油の輸送が止まる危機は増大しつづけている ※最近、ソマリアだけでなく、アラビア半島のイエメンが不安定化していて、ホルムズ海峡の閉鎖の可能性が高まっています。
E:Environmentのリスク  3点(5点満点)
 ◆どの化石燃料も、埋蔵量が尽きる前に、気候変動リスクが限界を超す ※もしも気温上昇を2℃※に抑えようとすると、石炭の81%、石油の42%、天然ガスの46%が未使用で残ると言われています。まあ、天然ガスの火力発電は、二酸化炭素発生量が石炭火力の半分ですから、許容範囲かもしれません。
 ◆価格が低下すると、大型の自動車が売れることでCO2発生増大
 ◆CCSなしの石炭は長期的には論外であるが、価格要因で建設数が増大 ※日本では現時点で、41件の計画があるようです。
http://sekitan.jp/wp-content/uploads/2015/03/150316coalpowerplant_plansbidsshutdown.pdf
 ◆もしもCCSを受け入れるのであれば、化石燃料の使用が許容され、結果的に長期間使われ、世界の安定度に貢献する ※これは、石油はCCSによって水素化して使用が可能になって、産油国の経済状況を急激な悪化から救う可能性があるからです。
 ◆石炭の単純火力がすべての対策を台無しにする。その上、石炭火力は環境税・排出権の出費が増えて、短命に終わるというビジネスリスクが非常に大きい ※通常40年の装置の寿命を考えますが、二酸化炭素排出量の制限のために、あるいは、環境税が掛かるために、2030年頃には成り立たなくなると考えられます。
E:Efficiency & Costのリスク 4点(5点満点)
 ◆価格低下で省エネマインドが消滅する → 枯渇が早まって最終的に高価になる 
S:Safetyのリスク  3点(5点満点)
 ◆化石燃料のSafetyの実態は、Environmentとほぼ同義。リスクはほぼ気候変動リスクと海面上昇による土地の喪失リスク、それに、淡水供給量の減少リスク

2)原子力の長期リスク 

E:Energy Securityのリスク 5点
 ■ウランの供給は比較的余裕があるが、世界の原子炉の数が1000基を超すあたりから、若干の供給不安が起きる ※米国はシェールガスによる発電が主力になって、石炭発電は廃止される方向ですが、産炭地域からの反対をどのように処理できるかが問題でしょう。
 ■ウランだけが核燃料ではない。トリウムへの移行がインドなどを中心に行われれば余力増大 ※2050年までには、トリウム溶融塩炉と言われる第四世代原子炉がインドでは稼働している可能性があります。
 ■したがって、Energy Securityが重大になる可能性はかなり低い ※もちろん、化石燃料に比べれば、重量が1万分の1程度なので、備蓄が非常に簡単であるという要素も大きいのです。
E:Environmentのリスク 4点
 ■放射性物質の異常放出のリスクは、いかなる設備においても、常にゼロではない ※再稼働を行う安全目標は、福島第一原発事故の1/100程度の量の放射性物質の放出事故が起きる確率を100万年に1回程度に抑えることです。
 ■他国で巨大事故が起きれば、国内でも停止の憂き目にあう可能性大。テロによる放出事故が心配 ※テロ攻撃の可能性は、今後原発を導入する国では日本よりも大きいと考えるべきでしょう。例えば、トルコ、UAEなどですが。
E:Efficiency & Costのリスク 3点
 ■原発の安全性を高める要請から、原発の発電コストは、安いとは言えないものになる可能性 ※これは、現在、コスト検証委員会で再検討中です。
S:Safetyのリスク 3点
 ■巨大な原発ほど採算性が高いために、制御不能ぎりぎりの大容量原発が開発される ※この傾向は否定できないようです。
 ■そのため、パッシブ・セーフティーが重要視されない場合が多発する  ※やはり小型の方が制御はしやすいことは事実です。
 ■使用済み核燃料の最終処分が最大の問題であり、当面は、貯蔵することになる。将来、国際的合意ができれば、長期に渡り安全に処分することは、技術的に不可能ではない。 ※最終的には海底の地球深部に埋めるしかないと考えています。

3)自然エネルギーの長期リスク 

E:Energy Securityのリスク 5点
 ●基本的に地域エネルギーなので、リスクは低い
E:Environmentのリスク  5点
 ●バードストライクなどは、対応が不可能ではない
 ※これは、海上風力が推奨される最大の理由のひとつです。
 ●低周波音は、住居との距離を取ること ※同上。
E:Efficiency & Costのリスク 2点
 ●最大のリスクは不安定さを補償しようとすると高くつくこと ※電池などの導入が必須となれば、価格はかなり高くなります。
 ●系統強化をしようとするとかなりのコスト ※この価格は余り明らかになっていません。しかし、ヨーロッパの電力網よりも日本の電力網は脆弱であることは確かです。それは、メッシュ状のヨーロッパ、魚の骨状の日本と構造が違うことも一因です。
 ●電池の大量導入は普通の方法では不可能。長期的解はあるかもしれない。 ※例えば、人口の半分程度の台数は存在するであろう電動系の自動車のバッテリーを使うということが最善の方法だと思われます。
 ●日本のような資源の無い国にとって、エネルギーの自給が可能になれば全く新しい国の成立ち方を考えることができるようになる ※これが個人的な願望です。是非とも実現してみたいと考ええています。
 ●それには、不安定さをそのまま受け入れるという認識の変化が不可欠だが、これはかなり価値観を変える必要がある ※これは相当抵抗勢力が存在していると思います。
S:Safetyのリスク 4点
 ●不安定性。最悪の状況では、エネルギー供給不足の事態が発生しかねない。病院などでそれが起きれば、命に関わるが、対応は不可能ではないが高価なため、リスクが残る。 ※結果的に、コストのリスクだと言うことができるでしょう。


4.リスクの点数化

 上記3種の一次エネルギーのリスク(5点満点)をまとめると、次のようになりました。

 ◆化石燃料の長期リスク    13点
 ■原子力の長期リスク     16点
 ●自然エネルギーの長期リスク 16点

 どの一次エネルギーもリスクがゼロ(20点満点)ではありません。しかし、どうやら化石燃料の長期リスクがもっとも大きいように思われます。





 こんな結果になりましたが、ご自分でも、同様の点数を付けてみてください。そして、すでにご紹介したCO2Calculatorを用いて、個人ベストミックス案をお作りいただきたいと思います。

 CO2Calculatorは、
http://www.yasuienv.net/からダウンロード可能です。

5.まとめ
 
 エネルギーのベストミックスを考えるということは、実に多種多様な要因をすべて網羅的に考えて、最善と思われる共存の姿を描くという知的作業です。この作業によって同じ結論が出るということは、参画するすべての人が同じ情報を持っていることが必須であることを意味します。まず、不可能です。しかし、このような文章を書いた理由は、すべての人が、これらの事柄について、どのような理解をしているか、それをまず明らかにし、そして、合意形成を図るのが、本来の道筋であることを示したかったからです。

 ベストミックスの議論の先に、約束草案の議論があります。約束草案は、国際交渉に耐えるかどうか、という重大な条件がありますので、各国のエネルギー供給の状況、各国の産業構造の変化、環境問題に対する基本的スタンス、などなどをすべて考慮して、短期的長期的なあらゆるリスクがもっとも少ない案を作り上げる必要があります。

 したがって、その議論は、さらに多数の要素を考える必要があって個々の条件を変化させたときにどのような数値になるかという感覚を身につけ、最後には、ある結論を採用したときの負の影響がどの部分にどのように起きるか、を一瞬にして想像できるようなモデルを脳内に構築するということになるのでしょう。とてもとても困難な知的作業だと思います。