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   エネルギー変換の時代(4) 
  05.10.2014
            (4)金属:エネルギーキャリア



 その当時、エネルギーキャリアという言葉ではなかったが、歴史的に見れば、エネルギー蓄積材料としての金属は、かなり広く検討されてきた。水素吸蔵合金は、立派なエネルギーキャリアであったし、ニッケル水素電池に使われ、実用材料に出世した。

 電力を用いて、酸化亜鉛を亜鉛に還元し、空気亜鉛燃料電池用に使うという古典的な方法における亜鉛の存在も、ある意味でエネルギーキャリアである。

 最近になって、マグネシウムナトリウムなどを亜鉛の変わりに使うという提案がなされている。どの金属を使う方法がもっとも実現の可能性が高いのか。

 亜鉛系は、技術的にはすでに完成に近いのがメリット。マグネシウム、ナトリウムは、遠洋での風力発電サイトを考えたとき、原料のマグネシウムやナトリウムを海水から調達できることが、最大の利点かもしれない。しかし、単なる”新しモノ好き”の可能性も高い。なぜなら、発火性の強い固体であるマグネシウム、ナトリウムを大量に取り扱うことには、万全な安全対策を行う必要があるからである。

 という訳で、今回は、金属を用いたエネルギーキャリア、すなわち、金属でエネルギーを運ぶ可能性を検討してみたい。



C先生:エネルギーキャリアの続きだ。ここでは、金属をエネルギーキャリアとして使ういくつかのアイディアを比較してみたい。取り上げる項目としては、水素吸蔵合金、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、その他、という順番で行こう。
 まずは水素吸蔵合金から。

水素吸蔵合金

A君:水素吸蔵合金、亜鉛。この2つはかなり熟成しています。水素吸蔵合金は、最初は、自動車用の水素タンクなどとして考えられていて、これがうまく行けば、水素吸蔵合金をエネルギーキャリアとして使うという可能性があったのですが、今は、ほぼ可能性無しという結論で良いのでは。

B君:色々と検討されたのだけれど、種々の特性から言って、水素のエネルギーキャリアとしては欠点が多かった。

A君:特性としては、水素の出し入れの速度、重量、発熱特性などが水素燃料電池車用としては不十分であり、また寿命の問題も解決が困難だったのです。

B君:それで、水素吸蔵合金という言葉は余り重要視されなくなって、ニッケル水素二次電池用の電極材料になった。

A君:トヨタとホンダがハイブリッド車用にニッケル水素二次電池を用いることになった1997年以降、かなり大量に使われています。さらに、自己放電するという欠点もあったのですが、かなり改善されました。ニッケル水素電池は優秀な工業製品になったと言えるのではないでしょうか。

C先生:ハイブリッド車用の電池としては、実は、余り高性能なものが必要という訳ではないのだ。ハイブリッド車の本当の良さは、停止状態からスタートするときに、トルクの大きなモーターを使うために、エンジンの低速トルク特性を無視して、燃費だけを考えたエンジン設計ができることなのだ。電池の役割としては、発進時に使えれば良いので、停止時の回生電力と、巡航時のエンジン出力の一部で発電した電力が、次の発進時に使えれば、それでOKなのだ。長時間電力を保持する必要性は必ずしもない。

A君:勿論、これはトヨタ型のハイブリッドの場合で、ホンダ・アコード方式であれば、モーターが走行用、エンジンはほぼ発電用という分業になっているので、電池の役割、特に、出力特性や自己放電が重要になるため、また、重量をも考慮すれば、リチウム電池の方が良いでしょう。

C先生:トヨタ型のハイブリッドでも、プラグインモデルはニッケル水素電池ではなくて、リチウム電池を搭載しているが、それによる性能向上と燃費改善は多少あることはあるという程度で、それほど大きなものではない。

A君:話を戻して、ニッケル水素電池の原理。

B君:ニッケル水素二次電池の動作を式の形で示すと次のようになる。
正極には水酸化ニッケル(NiOOH)、負極には水素吸蔵合金(MH)が使われている。
負極(-): MH+OH ⇔ M+HO+e
正極(+): NiOOH+HO+e ⇔ Ni(OH)+OH

A君:エネルギー源は、水素吸蔵合金(ここではMで表記)に貯められていた水素です。それが出てきて、電解液であるKOH(水酸化カリウム)の濃厚水溶液中のOHと反応して、水になり、その時電子e−を出す。その電子は、外部回路を伝わって正極に移動し、そこで3価のNiの価数を一つ減らして2価にすると同時に、OHを電解液に供給。これで電池反応が一回り完成。

B君:そんな反応をするのだけれど、水素原子一つを反応させるために、NiOOH、H2O、MH、OHといったものが関与する。水素原子の重さはH=1だけれど、Ni=58.7、MはLaだとすれば、139、酸素が3つで16×3。水素は無視しても、246ぐらい。大体250とすれば、たった重さ1の水素を吸蔵するために、250倍もの重さが必要になっている。これがニッケル水素の最大の難点。すなわち、容量の割に重い。

A君:ということは、エネルギーキャリアーとしては、最悪だということになる。1の重さのエネルギーを運ぶのに、250倍も重い容器を使うことと同じだから。もっとも水素を高圧にした場合も余り良いとは言えないですが。

B君:やはり、ニッケル水素二次電池として使うのが良さそうだ。ハイブリッド車のように、若干自己放電してしまっても構わない用途であれば、安全性・安定性・寿命などでメリットは多い。しかし、純粋の電気自動車用としては、やはり自己放電がちょっとでもあると長期間の電力の保持ができないと思われてしまって難しい。ということは、エネルギーキャリア用としてニッケル水素二次電池を使うという可能性はなさそうだ。

C先生:次に電池に関連する古典的な金属とも言える亜鉛を考えてみよう。

亜鉛

A君:亜鉛は、普通の乾電池用の金属としては有名です。しかし、その化学反応がどのように行われているのか、というのは、意外と知られていないことかもしれないですね。

B君:通常乾電池と呼ばれる電池の正式名称は「マンガン乾電池」。あるいは、発明者の名前をとってルクランシェ電池。

A君:SONYの電池まめ知識によれば、ルクランシェ電池の欠陥である液体を使うという難点を解消したのが、屋井先蔵という日本人で「乾電池」の命名者らしいです。ところが、資金がなかった先蔵は特許を出願することができず、世界初の乾電池の発明者という名誉を得ることができなかったとのこと。乾電池の普及は、自転車灯火用の砲弾型ランプを開発し松下幸之助が同時に乾電池も開発し、1923年に発売したことで始まったと記述されています。

B君:反応式は、相当複雑なのが実態で、啓林館の教科書でも、かなり複雑な説明がなされている。
http://www.keirinkan.com/kori/kori_chemistry/kori_chemistry_n1_kaitei/contents/ch-n1/2-bu/2-3-D.htm

A君:しかし、省略して簡単に記述すれば、
負(-)極:Zn → Zn2+ + 2e-
正(+)極:NH4+ + MnO2 + e- → MnO(OH) + NH3
で良いのでは。ZnはNH3と錯体を作って、電解質として使われているNH4Clを含むペーストの水分に溶け込む。

B君:亜鉛と二酸化マンガンが活物質、そして、ペースト状の塩化アンモニウムが電解質、炭素棒が集電極に使われている。最近では、乾電池も頑丈になって、壊すのが難しいが、昔の乾電池は、外の缶が亜鉛そのものだったので、壊すのも簡単だった。それだけに、しばしば液漏れをして困ったことも多かった。

A君:さて、乾電池の話をしても仕方がなくて、亜鉛をエネルギーキャリアとして使用することができるかどうか。

B君:それはできる。金属亜鉛を使った電池が補聴器用に売られている。空気亜鉛電池(zinc-air battery)と呼ばれている。

A君:2000年以前のことですが、米国のベンチャーなどが自動車用空気亜鉛燃料電池を開発して、結構有望なレベルまでいったのですが、最近はどうなったのでしょうか。最近の傾向としては、空気亜鉛二次電池を実現しようという動きはあるのですが、空気亜鉛燃料電池の開発は、どうも余り進んでいないようです。
http://www.marklines.com/ja/report/rep145_200302

B君:亜鉛をエネルギーキャリアとして使うという発想が、無くなってしまったからではないか。

A君:それとも、亜鉛の資源的な限界を気にしている可能性はどうでしょう。亜鉛の最大の用途は防錆ですが、これは原理的にリサイクルが利かないので。

B君:鉄板の防錆剤としての亜鉛メッキは雨によって、亜鉛が徐々に融けだして、電気化学的に鉄が錆びるのを防いでいる。

A君:溶けた亜鉛はドブを通って下水へ。そして海へ。

C先生:鉄板の亜鉛メッキをアルミメッキに置き換えて、亜鉛の浪費を止めるということが必要になるのかもしれない。亜鉛という古典的な金属を失いことは、人類にとって結構重大なことだ。
 亜鉛はエネルギーキャリアとして一見有望なのだが、検討が不足しているかもしれない。場合によっては、亜鉛という名前が古式ゆかしき名称なことが、不利に作用している可能性すらあるように思える。

マグネシウム

A君:次に行きます。マグネシウム。これは、最近、かなり流行っている話です。すっかりマスコミ受けしている。すなわち、まずはマユツバものだと思った方が良い。

B君:まあ、そんな感じ。「マグネシウムが変えるか、日本のエネルギー問題」などという記事が専門誌ではなく、一般メディアに出はじめたら、ツバの準備をした方が良い。

A君:この話、矢部孝東工大教授が言い出したのだろうと思いますが。『マグネシウム文明論』(PHP新書)という本を2009年に出したときには、余り注目されなかった。

B君:このWebサイトでは、この本を「ふざけるな」という評価をしている。
http://www.yasuienv.net/Dream2010.htm
なぜかと言えば、コンビニでマグネシウムの粒を買い込んでそれで走る自動車、マグネシウムは、使い終わったら太陽炉でリサイクル、という実現しそうもない極めて危うい方法を提案していたから。

A君:どうしてマグネシウムが粒なのか、と言えば、板状のものを使用したら、どうやって発電を止めるか、が問題になる。電解液を抜かない限り、一晩運転を止めて翌日の朝になってみたら、恐らく自己放電をしていて、全部マグネシウムが溶けてしまっているだろう、という想像をしたのでしたね。

B君:このところ、矢部教授はこんなことでニュースになっている。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1404O20140205

A君:藤倉ゴムの株価がストップ高になったというのだから、これは、広報活動の勝利でおめでとう!。さてさて、本当に実用になるのかどうか。誰かが騙されたということではないのか?

B君:マグネシウムの粒をコンビニで買うのはさすがに駄目だったようで、マグネシウムのフィルム状薄膜を少しづつ酸素と反応させるという方式になった。これなら、翌朝になったら、マグネシウムの板がすべて溶けていたという悲劇は起きない。

A君:太陽炉でのリサイクルもやはり非現実的であることを理解したのでしょうね。今では半導体レーザーでリサイクルになっている。そのかわり電気が必要になる。

B君:最近、東北大学の小浜泰昭特任教授、古河電池、産総研というチームがマグネシウム燃料電池で3輪スクータをいわきから仙台まで走らせて、なんとテレビがそれを報道した。

A君:こちらも広報活動が勝負という感じ。

B君:いずれもメディア色が過剰だ。ちょっとhotになりすぎているので、もう少し冷静に見たい。

ナトリウム

C先生:それでは最後に、ナトリウムに行くか。

A君:ナトリウムはもともと余り筋が良くないのですが。唯一の利点は、洋上風力が、非常に遠いところになったときにも、ナトリウムであれば、海水が使えるので原料切れにはならないこと。

B君:要するに、海水中のNaClを精製して純NaClを作り、それを溶融塩電解して、ナトリウム金属を作る。ある程度製造ができたところで、油の中にナトリウム金属を沈めて、陸まで運ぶ。運ばれたナトリウムは、水と反応させることによって、水素を発生させて、この水素を何かに使う。

A君:この最後に水素に戻すというところが、どうにもなのです。

B君:海水を普通に電解すれば、塩素以外の量は方法によって異なるが、水素、苛性ソーダNaOHができる。この水素は運ばないのかな。酸素は捨てるのだろうか。

A君:陸上で水素を得るために、NaOHをわざわざナトリウムにする理由が良く分からない。

B君:しかし、水素を貯めて陸まで運ぶのは難しいことは事実。

A君:全く不可能という訳でもないです。エネルギーがかなり使えるのであれば、液体水素運搬船を作って、そのボイルオフ分は燃料電池にでも食わせて発電し、駆動用に使うという方法で、なんとかなる。ナトリウムにして運ぶことが、水素を運ぶよりも有利かどうか、この検証が無いかぎり、マユツバもの。

B君:ナトリウムで運べば、水と反応させて、工業用の水酸化ナトリウムが副生物として出来るので、多少商売の足しにはなる。

A君:まあ、そうなのですが、そのあたりの評価までしっかりやっているのかどうか、それが問題。

C先生:これで予定していた内容はすべてカバーした。マグネシウムがメディア的にはホットだけれど、それは、Reuterあたりが取り上げたからかもしれない。しかし、Reuterの記者が日経の記者より科学的、化学的、エネルギー的リテラシーが高いと断言できるほどのものではない。皆さまには、「また、メディアが騒いでいる」、といった余裕のある対応をしていただきたい」。
 ある技術がメディア的にホットになって、そして実際に成功したという例を、エネルギー分野で見た記憶がない。エネルギー分野は、かなり古くから色々なことが行われている分野なので、過去を蒸し返している例が多いことにも注意が必要。エネルギー分野がメディアの注目を集めるようになったのは、福島事故以降で、エネルギー関連技術が、素人の投資の対象になったのも、史上初だろうか。
 投資家の知識も色々な意味で足らないし、投資用の情報を出すメディアの記者の訓練も足らないのだろう。かなりインチキ臭い分野になってしまっている感じがするのが、残念なところだ。