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   エネルギー変換の時代(3) 
   05.04.2014 
             (3)水素:エネルギーキャリア




 かなり長く海外(トルコとギリシャ)でした。純粋に観光旅行だったため、昼間は常時歩いていて、その距離が長いためと、往復が夜行のエコノミークラスだったため、かなり疲れましたが、充実した旅でした。旅行記はそのうちに書きますが、その前に必要な写真の整理だけでも大変そうです。

 さて、過去2回の話題は、「エネルギー変換の時代」でした。2050年を見据えると、再生可能エネルギーをいかに使いやすい形で使うかがもっとも重要なチャレンジすべき課題で、それに必要な技術体系の一つが「エネルギー変換」です。

 しかし、産業界には、単純な発想しかありません。「化石燃料へ回帰すれば良いではないか」、「シェール革命があるから大丈夫」、などが主流ですが、この「化石燃料回帰」シナリオは2つの点で、リスクが高いと考えています。
 その1:気候変動限界が厳しいため、固定サイトでCCSなしで使えるのは天然ガスでも2030〜40年ぐらいまでなので、その後のコストはかなり高くなる。しかも、CCSの貯留場所が国内に少ない日本は相当に不利である。
 その2:貿易赤字が化石燃料輸入のために増加している。赤字自体は為替レートを考えるとそれほど大きな問題ではないが、燃やせば終わりの化石燃料の輸入よりは、将来ニーズを見越した送電インフラ用や省エネ機器用などに再利用が可能な資源の輸入をする戦略が正しい。

 今回は、エネルギーキャリアとしての水素の話をまとめたいと思います。



C先生:エネルギーキャリアという概念は、本Webサイトでは、これまで余り議論されていない。だからといって、新しいものではない。1990年代に、こんな考え方が真剣に検討された。

A君:あれですか。日本で化石燃料を燃やした排ガスからCO2を分離・冷却し、液体炭酸にして、タンカーに乗せてアラビア半島などに運ぶ。そこに設置した太陽電池のエネルギーで作った水素と反応させてメタノールにして、タンカーに乗せて日本に運ぶ。

B君:先週の合成燃料とほぼ同じような発想になるのは、原料がCO2と水素で同じだからだ。

A君:違うのは、エネルギー源。米海軍は原子炉。日本の発想では砂漠地帯に設置した太陽電池であること。というのは、1990年代には、風力発電のタービンが今ほど大型ではなかった。今なら洋上風力。

B君:ちょっと調べてみると、デンマークのVestas社の8MWが最大で、このモデルは2015年から生産開始らしい。

A君:ここに三菱重工の記事があります。
http://www.mhi.co.jp/products/pdf/wind_sonota_0603_01.pdf
それによれば、1984年に沖永良部島に納入された風車の出力は300kWだった。それが今や27倍にもなった。

B君:三菱重工の資料によれば、平成20年度で日本最大の2400kWの風車では、年間600万kWhの電力が供給されたとのこと。ちなみにそのサイズは、ロータ直径が92m。

A君:確かにすごいのですが、100万kWの火力とか原発だと、わずか6時間の運転で同じ電力を発電してしまう。やはり、再生可能エネルギーは、規模という点では、ツライものがある。大型洋上風力でなんとかしないと。

B君:しかも不安定。この不安定さを解決するためには、エネルギーを蓄積する必要がある。しかも、日本の風力は、陸地では風況が複雑で、最終的には洋上に設置せざるをえない。洋上といっても近ければ海底電力線を設置すれば良いが、遠くなると、なんらかの輸送方法を工夫して、陸上に運ぶ必要がある。

A君:電力を、輸送船に搭載可能なモノに変えて陸上に運ぶ。そのモノをエネルギーキャリアと呼びます。

B君:エネルギーキャリアの本来の定義はもう少々広くて、電力を変換して得た化学的エネルギー、といったところか。

A君:電力があれば、水の膜電解などの最新の技術を使えば、比較的高い変換効率を実現しつつ、水素を製造することができます。

B君:もう一方の電極ででる酸素は、海上から運ぶには適さない。余り用途が無いからだ。捨てるのが一般的だろうが、その場で、なんらかの利用法を考えるべきかもしれない。

A君:一般論をすれば、化学的エネルギーは基本的に物質なので、まとめて運ぶことができて有利です。しかも、多くのものは、エネルギー密度が高いので、運びやすい。しかし、今回の話題である水素については、例外的です。水素は余り有利とは言えません

B君:水素は余りにも軽い。体積あたりの発熱量をガソリンと比較すると、次のようになる。
ガソリン  47 kJ/g→35000kJ/L
水素   141 kJ/g →11.7kJ/L

ガソリンの体積の3000倍以上が必要。

A君:高圧にした水素をカーボンファイバー強化のプラスチック製タンクに入れるのですが、現状だと700気圧までが限界。それでもガソリンの体積の5倍ぐらいの体積になってしまうのです。それは、水素タンクは円筒状だから。ガソリンは、どんな形のタンクにも入るので、狭い場所に入れるには、極めて有利。

B君:だからといって液体水素にするのもうまくない。液体水素の沸点は-252℃なので、どうしても気化してしまう。そのため、若干ずつ気化するボイル・オフ分というものを排出する必要がある。

A君:それにもまして、やはり体積が大きい。ガソリンの体積の3.5倍ぐらいはあるし、断熱をしなければならないので、高圧水素より有利とも言えない。

B君:という訳で、水素をスペースが限られている自動車に搭載するのも難しい。輸送船に搭載するのも難しい。

A君:その解決法として、水素を液体の有機物と反応させて、化合物とするという方法も考えられています。その代表例が、トルエンを水素化して得られるメチルシクロヘキサンをエネルギーキャリアにするという方法。

B君:この物質の採用されるかどうか、その可能性は、水素化と脱水素化の反応がいかにエネルギー消費量がゼロに近い形で行うことができるかに掛かっている。

A君:有機物ではなくて、アンモニアを合成してエネルギーキャリアにしようという方法も提案されています。アンモニアであれば、10気圧程度に加圧すれば液化しますので、大量運搬も容易。また、アンモニアを直接燃焼することによって、エネルギーを得ることも不可能ではないですし、その場合に、若干の窒素酸化物処理を行えば、排気はクリーンな窒素だけ。温室効果ガスを排出することはないので、有利です。

B君:ただし難点もあって、それはアンモニアそのものに有毒性があること。漏れるとまずい。また、臭いもすごい。

A君:海上風力などで水素を作って、それをなんらかのキャリアーに変換して陸上まで持ち込むとしたら、大体のところ、以上のような方法論が考えられています。

C先生:大体、海上風力の活用のための水素とエネルギーキャリアなどの関連技術の話はカバーできたようだ。
 陸上にも風力は作られるだろうし、太陽電池からの電力も条件が良いと余ることもあるかもしれない。さて、陸上でエネルギーキャリアーもしくは化学エネルギーによるエネルギーの蓄積、という考え方は成立するのだろうか。

A君:陸上風力の場合であれば、電力がもともと作られているので、電力で使えるものがあれば、それはその方が有利。わざわざ効率を落としてまで、水素などに変える必要はないですね。

B君:それには、電気自動車用だろうか。余った電力は、ほぼダダに近い値段で電気自動車の充電用に使う。それには、電力のダイナミックプライシングを徹底させることが重要で、電力需給がタイトなときには、電力価格がかなり高いという状況にならないと、現実にならないだろう。

A君:再生可能エネルギーが過半といった電力供給事情になれば、各家庭に若干の蓄電池ぐらいはあるでしょうから、ダイナミックプライシングは当然のことになっているでしょう。

B君:となると、日経などが言う「水素社会」というものは、どのようなシナリオなのだろうか。

A君:支持するという訳ではないですが。まあ、その一つは、CCSがらみです。海外で褐炭のような品位の低い石炭を水素と二酸化炭素に分離して、二酸化炭素は現地でCCSして、水素だけを日本に運ぶという考え方なのです。

B君:すると、運搬には適さない水素をどうするか、というまたまた問題がでてくる。

A君:褐炭がいかに安いからといって、水素を分離する費用、CCS費用、それに運搬費用を考えたら、果たして見合うのでしょうかね。

B君:実に怪しいのだが、なぜか水素社会という言葉が頻繁に使われる。そもそも、水素はエネルギー源ではない。何かエネルギー源があって、初めて水素が作られる。

A君:むしろ夢としてのサハラ砂漠の太陽光発電と世界超電導送電網の方が、まだ分かりやすい。

B君:水素の重さ当たりの発熱量や、作りやすさは極めて高く評価できるとしても、余り性格が良くないゆえに、実用的ではないエネルギーキャリアに過ぎない。

A君:余程の技術進化があって、超高性能な水素燃料電池が極めて安価に作られるということにでもなれば、水素社会の話も現実に近くなるかもしれませんが、かなり難しいのでは。特に、白金に変わる触媒の開発が。

C先生:まあ、こんなところか。エネルギー変換をすると、どうしてもエネルギーロスがでる。そのため、そのまま使うのがもっとも賢い使用法である。化石燃料を直接燃焼することがもっとも賢い使い方で、そのために、現代文明は成立したとも言える。
 しかし、化石燃料をそのまま使うと、二酸化炭素の環境限界がそれほど遠くないこともあって、賢い使用法とは言えなくなりつつある。
 再生可能エネルギーは、多くの場合、発電用途。すなわち電力線が必要であり、余剰電力を貯めておくのが難しい。この2つの難点をなんとかしてして克服しようとすると、エネルギー変換という考え方が重要になり、同時に、エネルギーキャリアという概念が必須になるのだ。
 しかし、どの技術が主流になるのか、と言われれば、まだまだ分からない。電池だって、現在のリチウム電池の時代が続く訳ではないだろう。2050年には、もう何種類か電池もしくは電池的なデバイスが実現されていることだろう。エネルギーキャリアの立場も、電池の進化によって、大きな影響を受けることだろう。