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   エネルギー変換の時代(2) 
  04.23.2014
            (2)合成燃料へのエネルギー変換




 今週末は、またまた海外なので、ちょっと早いですが、アップしておきます。

 先週のエネルギー変換の時代(1)では、エネルギー保存則・エネルギー変換図を取り上げましたが、エネルギーの説明は、結構難しいですね。

 今回のターゲットは、合成燃料でして、記事のきっかけとなったNewsWeek Japanの記事
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2014/04/post-3242_1.php
がなぜ間違か一瞬で分かる、ということを説明することです。厳密な記述をしようとすると、これまた理解が難しいものなりがちです。

 本来の話題が、海水を原料にしてジェット燃料を合成するということでしたので、その枠組は堅持して、できるだけ不要部分を削って、単純に説明をしたいと思います。



C先生:エネルギー変換を理解するという難題の第二回目。今回のテーマは、ジェット合成燃料なので、そもそもジェット燃料とはどんなものなのか、から行こう。

A君:ジェット燃料ですが、なじみの深い製品としては、「灯油」がもっとも近いですね。原油を蒸留装置に通して、沸点が150〜280℃、炭素数が10〜15、比重が0.79〜0.83のものをケロシンと呼びますが、これから様々な添加剤を加えれば、「ケロシン系のジェット燃料」ができます。

B君:炭素数10〜15というが、これが沸点を決めるので、極めて重要なのだ。実際には、炭素以外の元素として、水素が入っていて、その数は、炭素の数の2倍+2だと考えれば、それほど間違っていない。それ以外の元素はほとんど含まれていないとしても良いのではないか。

A君:炭素数が10個なら水素は22個、炭素数が15なら水素は32個。

B君:海水が原料とのことだけど、海水は水だからHOなので、水素は含まれている。

A君:水素は、水を電気分解すれば良いので簡単。最近だと膜を使った電気分解が効率的のようだ。

B君:さてさて、海水に炭素は含まれているのだろうか

A君:藻類のようなものがあれば、有機物ですから、炭素は含まれています。しかし、例えば、水深4000mといったところで、藻類を十分な量確保するのは難しい。

B君:そこで、今回米国海軍が考えたのは、海水にわずかに溶け込んでいるCOだった。大気中にもCOは存在しているが、その濃度は、400ppm程度。これに対して、海水に溶け込んでいるCOの濃度は、360ppmぐらい。余り違わない。大気と水とでは、同じ重さで比較すると、大気の体積が24Lに対して、水だと18mLで、約1000倍以上違う。

A君:水中のCOを回収するには、どうやら膜技術が使えるらしい。勿論、純粋なCOにするには、様々な化学的処理が必要になるでしょうね。

B君:色々と困難はありそうだけれど、海水から分離し、それを高純度化したCOを使うことで、まあ、なんとかなりそうだ。

A君:次は、COと水素Hを反応させることになる。反応としては、次のようなものが知られています。

CO + 4H → CH + 2H
CO + 3H → CHOH + H
CO + H → CO + H

 この最後の反応でCOを作ることができれば、あとはFisher-Tropsch(FT)反応によって、炭素数の異なる炭化水素を含む、種々の含酸素炭化水素化合物を得ることができます。

B君:FT反応を式で書けば、
mCO + (m+n+1)H → CmH2n+2 + mH

A君:このFT反応は、1930年代にドイツで工業化されたのですが、その理由は、石油資源の無いドイツで、石炭から石油代替化合物を合成するため。すなわち、軍事用の液体燃料を得る技術であったわけです。

C先生:さて、このような反応を行うことによって、原理的には、COと水素からジェット燃料ができることは、昔から分かっている。触媒の改良などプロセスの最適化のために研究要素は残っているとは思うが、全く新しい発想が必要ということではない。
 最大の問題は、この反応を行うのに、どのぐらいのエネルギーが必要か、ということだ。

A君:液体燃料CmHn(m=10〜15、n=22〜32)が出来たとして、それを燃焼すると発熱するので、その熱でジェットエンジンが動く。排気ガスは、COとHOになる。今回の合成ジェット燃料の原料と同じもの。

B君:燃焼の逆を行うのが合成ジェット燃料の製造。燃焼は自然に起きる反応。しかし自然に起きる反応の逆向きの反応を起こすのは大変であることはよく知られていて、最低でもジェットエンジンを動かした熱の何倍かに相当するエネルギーを使わなければ、合成ジェット燃料は作れない。

A君:数倍で済むかどうか。数10倍といった莫大なエネルギーが必要になる可能性もあると思いますが。

B君:こんな絵を書いてみた。多少分かりやすくなるだろうか。



図 ジェット燃料を燃やした排ガスから合成ジェット燃料を作るのに必要なエネルギーは動力に使ったエネルギーの数倍以上

A君:エネルギーが数倍もしくはそれ以上必要になるのは、何をするにも効率というものがあって、それが常に1より低いから。何段階ものプロセスによってエネルギーを作ったり、物質を変化させてりするごとに、1より低い効率しか実現できない。多段階になれば、効率=(1以下)×(1以下)×(1以下)×(1以下)×(1以下)×(1以下)となって、あっという間に数分の1になってしまう。すなわち、数倍のエネルギーが必要になる。

B君:しかも、ジェット燃料を燃やした排ガスが残っていれば、まだ簡単。しかし、排ガスだけに大気中に拡散してしまうので、その変わりに、海水からCOを取り出す必要がある。わずかしかCOが存在しない海水からCOを回収しようとすれば、これまた多くのエネルギーが必要。

C先生:さて、NewsWeek Japanの記事では、どう書いてあったのかを復習してみようか。

A君:「海軍が所有する288の艦船は、核燃料で推進するいくつかの航空母艦と72の潜水艦を除き石油に頼っている。この石油依存を解消できれば、石油不足や価格の変動から軍は解放される。海水を船舶用の燃料に変えることによって、海上で燃料補給をする必要がなくなる」。これでした。

B君:艦船は石油から得た重油などの燃料で運行している。この重油を海水からの合成重油で賄おうとすれば、どうなるのか。数倍以上のエネルギー源が必要なので、そのために、艦船の運行に必要な重油量の数倍以上の重油が必要になるだろう。そのため、数倍大きな重油タンクが必要になる

A君:タンクのサイズは同じにして、補給船に頼るとしたら、数倍の回数が必要になる。すなわち、全く馬鹿げているという結論になる。

B君:いくらなんでも、とにもかくにも記者なのだから、これぐらいの理屈は分かって欲しい。

A君:これを全く別の方法で解決するとしたら、太陽光発電か太陽熱発電? いやいや、とても面積が足らない。エネルギーを原子力で供給する以外に方法はない。

B君:風力がなぜ駄目か。風力発電は、足が固定されているから発電できるのだ。それに、船に風力の風車が立つか?

A君:いずれにしても、この記者の書いた記事の最大の過ちは、2つあって、まずは、海水から合成するのが船舶用の燃料だと誤解したこと。実際には、海軍が合成したいのはジェット燃料だった。英文の記事には、ちゃんとそう書いてあるのに、なぜNewsWeek Japanの記者はそう読まなかったのでしょうか。

B君:本人が分かれば、インタビューをしてみたいぐらいか?

A君:常識が無いというのが、1つの可能性ですね。空母が搭載しているジェット燃料の量は、恐らくバカに出来ない量ですが、液体燃料は、スペース効率が非常に高い燃料なんです。だから何とか搭載できる。それでも、長期間、艦載機が発着するような戦闘モードになってしまえば、不足する可能性があって、そのために補給船を頻繁に通わせる必要があって、これが空母の戦闘力の限界になりかねない。一方、原子力空母であれば、原子力燃料の方は、めったに交換しない。そのぐらいの航続距離があるのが原子力艦船なので。これが海軍のニーズであることが読みきれなかった。

B君:戦争では兵站が非常に重要。原子力空母であれば、兵站の主な対象は、空母そのものの燃料ではなくて、艦載機のジェット燃料。原子力空母の核燃料は、長期間使えるので。ジェット燃料供給の問題を解決するには、どうすれば良いか。原子力空母のジェット燃料タンクのスペースに追加の原子炉と合成ジェット燃料用プロセスを搭載することができれば、兵員用の保存食料が続く限り、戦闘状態を継続することができるということになる。

A君:前回、ご紹介した2つの記事、
http://www.navytimes.com/article/20121013/NEWS/210130317/Navy-eyes-turning-sea-water-into-jet-fuel
http://science.dodlive.mil/2014/04/11/energy-independence-creating-fuel-from-sea-water/
には、上述のように読めることが書いてあったのです。

C先生:記者のもう1つの過ちは、当然ながら、エネルギー保存則を理解していなかったこと。「エネルギー保存の法則」、あるいは、「熱力学の第一法則」を理解していれば、NewsWeek Japanの記者のような誤解はしない。読んだとたんに、「これは駄目」と言えるのだ。なぜなら、常に、「この技術を実現するには、元となるエネルギーが必要。その元となるエネルギーをどこから得るのだろう」、ということを考えているのが、エネルギー学者であり、化学者であり、物理学者であり、環境学者だということなのだ。しかし、専門の異なる他の理系でも、エネルギーを理解できないと、理系の人間としては、失格だということになるのが普通だ。文系にとっても、これを常識化することによって、新しいレベルに到達することを意味するのではないか。
 最後に一言。「エネルギーは無からは生まれない」。これが正しい判断ができるかどうかの鍵となる言葉だ。