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    エネルギー変換の時代 
   04.20.2014
       最低限必要な知識は何か  (1)エネルギー保存則・エネルギー変換図   




 Facebookの「環境学ガイド」で、NewsWeek Japan の記事が話題になっている。是非、議論に参加していただきたいと思います。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2014/04/post-3242_1.php

 「米海軍の科学者たちは数十年の歳月を経て、ついに世界で最も難解な挑戦の1つを解決したかもしれない。それは、海水を燃料に変えることだ」、で始まる記事で、「そうなれば、軍艦は自ら燃料を作りだし、海上で燃料補給する必要がなくなり、常に100%の状態で任務に当たることが可能になる」。

 これが実現すれば超々画期的。しかし、NewsWeek Japanのこの記事は、全くの嘘であって、実現する可能性は皆無である。小保方さんどころの話ではないのである。いやいや最初から余りにもバカバカしい嘘なので、小保方さん的な問題も起きない

 記事は続く。「海軍が所有する288の艦船は、核燃料で推進するいくつかの航空母艦と72の潜水艦を除き石油に頼っている。この石油依存を解消できれば、石油不足や価格の変動から軍は解放される。海水を船舶用の燃料に変えることによって、海上で燃料補給をする必要がなくなる」

 この記述が嘘の核心で、いわば「ゼロから有を生むこと」で理論的に全く有り得ないのである。強烈な誤解をした記者が勝手に作った文章である。

 嘘を証明するキーワードは「エネルギー変換」である。「エネルギー変換」という言葉の正確な意味を知っていて、かつ、「熱力学第一法則」、別名「エネルギー保存則」を知っていれば、日本語版NewsWeekの記事が有り得ないことは、一瞬にして分かるのである。

 科学には不確実性がある、という言葉が最近流行っているが、「実用的なプロセスでのエネルギー変換」を支配している「熱力学第一法則」は、地球誕生から現時点まで、例外は観測されたことがない。それぐらい確実な古典的法則である。

 科学の不確実性が確実に存在するのは、20世紀になってできた量子力学、相対性理論のようなミクロな世界と、地球科学や生命現象のような巨大システムが関わる場合のみである。

 多分、この日本語版の記事を書いた記者は、19世紀にできた古典的な大原則である「熱力学第一法則」、別名「エネルギー保存則」を知らないのだろう。

 さて、NewsWeekなのだから、どこかに英文のオリジナルなニュースソースがあるはず。それは、Facebookの読者から教えてもらった。

 この記事の元となっているものは、2つあって、
http://www.navytimes.com/article/20121013/NEWS/210130317/Navy-eyes-turning-sea-water-into-jet-fuel
http://science.dodlive.mil/2014/04/11/energy-independence-creating-fuel-from-sea-water/
であり、それを読んだところ、実現しようとしているものは、船舶用の重油ではなくて、艦載機用の合成ジェット燃料であることが分かった。

 これを実現する必須の条件が「エネルギー源」が利用できることであるが、原子力発電からの電気がエネルギー源として使えるのであれば、「合成ジェット燃料」は実現可能であり、原子力であれば、核燃料の補給はほとんど不要だから、兵站を考えることが不必要になる。これが、本来、NewsWeek Japanに書かれるべきことだったのである。

 NewsWeek Japanの記者は、文系出身であると思うが、メディアの記者を志望するのであれば、19世紀までの物理学の法則ぐらいは知るべきである。それは、「エネルギー保存則」、「質量保存の法則」である。20世紀になって、それらが破られるようになるまで、絶対的な真理であり、現時点でも、ミクロの世界を除けば、ほぼ100%正しい。

 20世紀になって、なぜ破られたのか。 「エネルギー保存則」、「質量保存の法則」を破るには、「アインシュタインの式 E=mc」を導入することが必要だった。質量がエネルギーに変わることを意味するが、地球上でこれをエネルギー源として実現できる技術は、現時点で核分裂のみであるが、未来的には核融合もありうるかもしれない。

 話変わって、本Webサイトは、今年の6月で18年目に突入するのだが、その最初の年の12月に、初代プリウスが発売された。「エネルギー効率」、要するに「省エネ」については、本ページの主たる話題ではあったものの、「エネルギー変換」を真正面から本気で取り上げることは無かった。

 20世紀の最後になって、日本では「環境汚染」の時代が終焉した。「エネルギー効率」も、かなり高くなり、その改善はほぼ限界に近く、普通の方法では成果が出にくい。そんな現時点での最大の課題は何か、と言えば、福島第一の事故をきっかけにして、「エネルギー変換」になったと言えるだろう。さらに言えば、「エネルギー変換とそれに伴うリスク」の時代になったのかもしれない。

 「エネルギー変換」を語る場合に必要な知識のレベルをチェックしてみたいと思えば、このNewsWeek Japanの記事は、「本当らしさのある完全な嘘の記述」で最適と思える。この記事を基本にしていくつかの質問を作り、すべてのメディア関係者にアンケート調査をしたいぐらいである。

 ということで、「エネルギー変換」を取り上げることにした。複数回に及ぶことが確実であるが。



C先生:導入部分が長かった。「エネルギー変換」という言葉は、余り一般的ではないのかもしれない。これを一通り述べるのが今回の記事の目的なのだが、やってみなければ分からないが、一回ではとても終わらないだろう。
 最初の取り組み方だが、「エネルギー変換」という言葉がどのぐらい一般的かを調べること。そして、何を説明すれば、「実用的なエネルギー変換」に関して、一通りの理解が得られるのかを判断すること。

A君:エネルギー変換、という見出しは、日本語版Wikipediaにないのですね。「エネルギー効率」という項目の中で「エネルギー変換効率」の説明がされているだけです。

B君:英語にすると、一般的にはEnergy Conversionだろうが、英語版のWikiでは、Energy Transformationの項目があって、Energy Conversionと同じとなっている。
 その定義は、"the process of changing one form of energy to another. "

A君:エネルギーのform(=形)とは何かを理解する必要があることになりますが、英語のWikiだと、「エネルギーとはエントロピーの制約を超して変化を起こすために必要なもの」、という定義にしていて、これは物理的にはかなり厳密ですが、ますます一般的な理解を遠ざけているように思います。この記述に続けて、「質量とエネルギーのアインシュタインの式による同等性」が述べられていて、非常に難解な説明になっています。

B君:”エネルギーって何?”という質問にどう答えるのかか。これも記者の科学リテラシーを評価するのに良い問題かもしれない。

A君:宮城県企業局の”エネルギーってなに?”というキッズページによれば、

エネルギーという言葉は、科学の世界では、「ものがもっている仕事をする力」という意味で使つかわれるんだ。わかりやすくいうと、動いているものや、これから動ごこうとするものには、みんなエネルギーがあるということなんだ。電気も光や音や熱なんかもエネルギーの仲間なんだ。
 宇宙や地球も大きなエネルギーによって動いているんだ。つまり、エネルギーと無関係のものは、ほとんどないんだよ。
  身のまわりのものは全のエネルギーがいろんな形で存在しているんだ。いちばん身近なものは、私たち自身。人間のからだも、エネルギーによって動いているんだ。じっとしていても、心臓がうごいたり血が流れたりしているよね。食物の中にふくまれる栄養分が、体の中なかでエネルギーに変わり、筋肉をうごかしているんだよ。


B君:うーーーん。これで分かるのだろうか。

A君:関西電力のページだと「物を動かしたり、モーターを回したり、光を出したり、音を出したり。そんな風にいろいろなことを起こすことができるはたらきを『エネルギー』といいます」。
 高いところにあるものは、落ちる勢いで物をこわしたり、動かしたりできます。つまり、高いところにある物は、エネルギーを持っているといえます。これを「位置エネルギー」といいます。
 これに対して、動いている物は、何かにぶつかることでその物をこわしたり、動かすことができます。このように、動いているものが持っているエネルギーを「運動エネルギー」といいます。」

B君:そして水力発電の説明に行くのか。さすがに商売だ。

A君:しかし、この説明だと、位置エネルギーというものの本質をどうやって説明するのか、という難題を乗り越える必要がありますね。

B君:エネルギーというものは、もともと抽象的な概念だから、直感的に理解しようとすれば、何か測定できる量に置き換えて表現する以外に無い。置き換えるものとして、重力が存在している地球上のような場であれば、高さの変化として表現すると約束したものを位置エネルギー、あるいは、ポテンシャルエネルギーと呼ぶ。

A君:そんなやり方がエネルギーを理解する方法かもしれないですね。すなわち、約束事だと説明する。運動エネルギーは、物体が動いているときの速度とその物体の重さで表現出来る量だと約束する。物体の速度も重さもも測定可能なので、エネルギーの量が測定できる。

B君:しかし厳密に言えば、物体の速度というものは、ある固定した場というものを決めないと、定義できない。太陽の位置を中心だと定義して固定した場を決めたら、地球そのものが動いているので、物体の動く速度は通常の方法では測定できない。

A君:ということは、やはり場を定義しないと運動エネルギーの定義は不可能だということを言わないと駄目だということになる。

B君:そんなものだろう。次に、あるエネルギーが熱に変換されたとすれば、そのエネルギーを受け取った物体あるいは物質の温度の変化で表現する量を熱エネルギーという。温度の場合には、絶対温度という原点が決まっているので、場という考え方は必要としない。

A君:ここが一つのハードルですかね。物理現象を感覚的に理解するとき、力が働く場というものをなんとなく感じることができるかどうか。

B君:場という考え方が不必要なものの例は、光のエネルギーか。光をすべて吸収するような表面処理をしてある物体の温度がどのぐらい上昇したかで測定できると約束する。

A君:核エネルギーも、まあ、場無しの分類で良いでしょう。

B君:核エネルギーであれば、その物質が、別の核種に変化したときに、どのぐらいの熱を出したかを測定して表現すると約束する。それには、やはり温度の変化を測れば良い。しかし、どの核種に変わるかによって、本当は核エネルギーの量が変わる。実用的にも、原子炉を用いて熱を取り出すのが当り前ではある。

A君:電気エネルギーであれば、これは、様々な定義が可能なので、ある意味でもっとも複雑かもしれません。その量をもっとも簡単に測るのであれば、ニクロム線のようなヒーターを加熱し、それで水を沸かして、その温度変化で量を測ると約束する。

B君:しかし、電気エネルギーの特殊性として、熱エネルギーにも、運動エネルギーにも、光エネルギーにも、色々な割合で変換が可能だから、水中に置いたニクロム線に通電するような方法を用いて、ほとんどすべてを熱エネルギーに変えてエネルギーの総量を測定する必要がある。この方法は、運動エネルギー変化がゼロ、ポテンシャルエネルギーの変化もゼロ、光エネルギーへの変化もゼロと近似できる方法だと言える。

A君:電気エネルギーを用いて、何かが運動しているような状況を作った場合には、運動エネルギーの変化を別途測定して、また、位置エネルギーの変化も測定をして、電気エネルギーの変化の総量=運動エネルギーの変化量+位置エネルギーの変化量+熱エネルギーへの変化量という式に入れて判断をすることになりますね。

B君:電気エネルギーは、場合によっては、電荷と電場ということを考えて、ある種のポテンシャルエネルギーにも変換が可能なのだ。しかし、電場を用いて、エネルギーを蓄えるのは、コンデンサーぐらいなものなので、無視する。なぜなら、この場合でも、測定に関する約束は同じなので。

A君:化学エネルギーであれば、その物質が別の物質に変化したときに、どのぐらいの熱が出入りしたかで表現すると約束する。それは温度変化で測定が可能。通常は、燃焼という現象でエネルギーを取り出すので、大気環境の中で、もっとも安定な物質への変化を考えれば良いのですが、本当は結構複雑で、どのような物質に変化するかで、化学エネルギーの量が変わってしまう。例えば、不完全燃焼をする場合もあるので。

B君:特に、生命体が化学エネルギーを運動エネルギーに変える場合、要するに筋肉などを動かすことだが、この場合は複雑怪奇。

A君:生命体に関わるエネルギーは除外することにしても良いのでは。

C先生:これらのエネルギーを述べた順の逆で記述すれば、化学エネルギー、電気エネルギー、核エネルギー、光エネルギー、運動エネルギーの5種類があって、運動エネルギーは位置エネルギーとの変換が重要。測定についての約束はすでに記述したが、さらに、もう一つ事実がある。ある変化があったときに、ある測定値が出たとすると、その逆向きの変化についての測定値は、もとの測定値の符号を変えた値になるということ。

A君:可逆性の変化であれば、そうなります。

B君:以上のような約束を色々と積み上げて測定をした結果、分かったことが、約束通りの方法でエネルギーというものを表現すると、どうも、エネルギーというものが、ある物質の集合体について保存されるということ。物質の集合体を「系」と呼ぶが、エネルギーの総量が系に着目すれば保存されている。これが「エネルギー保存則」、「熱力学の第一法則」である。

A君:系に着目したとき、エネルギーがその境界を越して入ってれば、系のエネルギーは増加し、エネルギーが境界を超えて外に出れば、系のエネルギーは減少する。

B君:系の内部で、エネルギーの形が色々と変わっても、総量は変わらない。これは、物質の状態が変化することなどが起きても成立する。

A君:歴史的には、1600年代にルネ・デカルトなどが同じようなことを考えていたと言われます。しかし、実際には、測定手段がないと、法則が正しいかどうかが分からない。例えば、温度といっても、17世紀当時、精密な温度計があった訳ではない。

B君:物の移動速度を測ることも容易ではない。秒針などというものがなかったら、どうやって時間を測るのか。

A君:やっと19世紀の中頃になって、様々な測定手段が整備されるようになって、「力学的、熱、化学、電気、光などのエネルギーは、それぞれの形態に移り変わるが、エネルギーの総和は変化しない(保存される)」という主張が増えてきた。

B君:結局、これが分かりにくさの原因の一つなのだけれど、「エネルギー保存の法則」とは、なぜエネルギーは保存されるのか、という原理的な説明がない法則。それを理由に疑うのも可能だけれど、様々な測定によって裏付けられているとも言えるので、日常的に測定ができるような量が関わっている場合には、実質上、あるいは、実用上成立していると表現する。これも約束ごとだとも言える。不確実性という概念とは飛び離れた存在の法則だとも言えるのだ。

C先生:要するに、エネルギーというものは変換が可能で、その総量は保存されるという結論になったのだな。
しかし、変換といっても、どの形態と形態の間でも起きるというものではない。これを図にして表現してくれ。

A君:エネルギー間の相互変換の図ですが、様々なものが存在しています。一例を示します。



図1 一般的なエネルギー変換の図の一例 Googleで検索した結果より

A君:熱エネルギーが直接電気エネルギーに変わるのは、熱電変換素子ぐらいなものなので間違っている図が多いです。加えて、運動エネルギーと位置エネルギーが力学的エネルギーになっているのは、水力発電を表現する場合には、記述がなんとなく不足気味なので、関西電力の説明をフォローするためにも、変えたい。今回は、発電用に限って作りました。次のような図になりました。



図2 発電のためのエネルギー変換の図

A君:じっと見て、何かを分かっていただきたいと思います。この図が発電用エネルギー変換の表現です。

B君:この図の下の方に、太陽=核融合、地熱=不安定核の崩壊、などとあるけれど、この説明は不可欠だ。
 まあ、太陽のエネルギー源が核融合であることは衆知のこと。化石燃料は、太陽光のエネルギーを植物が、億年レベルの時間を掛けて有機物として溜め込んだものが、長い間に今の形に変化した。太陽光、太陽熱以外にも、風力も水力も、究極的に言えば、太陽の光・熱が駆動力となっている地球の気象現象が根源なので、太陽の核融合がほぼすべての地球上のエネルギーの源だと言える。これがエネルギー保存の法則から言えること。それ以外には、原子力で核分裂がエネルギー源。そして、地熱。

A君:矢印の色のことを。淡青色等で示したのが自然エネルギーですが、核融合・核分裂に由来しない熱源である地熱は、地球ができたときに存在していた不安定核の崩壊熱が半分以上だと考えられていて、それ以外にも、地球ができたときの熱や重い金属が地球の内部に沈むときの摩擦熱、さらに、地球の磁気が作る電磁気的効果によるジュール熱などがある。地球46億年の歴史の中で、半減期の短い不安定核種はすでに消滅していて、現時点での不安定核種としては、弱い自然放射線を出しているウラン235(半減期7.07億年)、ウラン238(44.7億年)、トリウム232(140億年)、カリウム40(12.8億年)などです。
 これらの記述は、次から引用。
http://www.asahi-net.or.jp/~pu4i-aok/core/memodata/1300/m1378.htm

B君:核融合・核分裂・核崩壊と全く関係が無いエネルギー源が、月の重力による海面の高さの変化を利用する潮汐発電ぐらいか。それに地熱の一部である地球重力による地球内部での物質の動き。

C先生:まあ、こんなところで止めよう。今回の記述は、どうみても難しい。いや難しすぎる。次回以降の内容だが、ひと通りエネルギー変換について記述してみて、それから、今回のような説明では、理解が難しいと思うので、どう工夫を凝らべきかを考える。要するに、今回のものは、不十分なのだ。どんな記述をどう追加すべきかをじっくりと考えよう。

A君:今回は、発電によって実用的な量の電気をどうやって作るかという変換プロセスでしたが、次回は、とりあえずですが、合成燃料を作る際に、どのようなエネルギー変換が必要か、という話を正確に記述してみようかと思います。

B君:化学熱力学をどのぐらい使うのか、それが重大なチャレンジだと思う。

A君:できるだけ分かり易くが課題ですが、化学熱力学は大変ですね。

B君:しかし、次回で、NewsWeekの記事のインチキの見分け方までは行かないと。

A君:それは当然目指すのですが、一応、ということで、本当に分かりやすい説明になるかどうか、それはやってみないと。

C先生:分かりやすい表現を見つけるのが、最終的な目標であることは再確認しよう。しかし、まずは、正確さをできるだけ追求した記述をして、それから、どうすれば、分かりやすくなるのか、を考えよう。ということで。