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  エネルギー安全保障と科学 
  08.17.2014
       この問題での科学的なスタンスとは?




 これまでエネルギー関係の記事を集中して書いてきましたが、まだ、一度も取り上げたことが無い題材があります。それが、『エネルギー安全保障』という考え方です。この話は、極めて重要なのですが、「ナショナルセキュリティーをどう把握するかという政治的なスタンスによって、全く論調が変わってしまうという」、という特性があり、それを回避することが極めて難しいために、積極的に取り上げることはありませんでした。

 先日、エコプレミアムシンポジウムで「大局観」という短い講演をしたときにも、エネルギー安全保障の話題は組み込みませんでした。

 なぜ難しいのか。その理由は、この問題はヒトのもつ「邪悪な部分」によって決まるものであり、太陽とか地球とかいった自然の要素で決まるものではないからなのです。当然、地球上でのヒト側の状況がどうなっているかによって、安全保障をどう考えるかを変えなければならないからです。

 しかし、極めて重要な話ですので、なんとか整理しておきたいと思い、何かを書こうと思いますが、副題のように、この問題を「科学的スタンスから見る(含む、歴史的に見る)」とは何かを考えながら記述します。



C先生:安全保障という言葉の内容は、それぞれの人のスタンスによって、考え方が変わる。渡部昇一氏の著書、「国家とエネルギーと戦争」祥伝社新書361を読んでみて、参考になった部分は、第三章までで、特に、第四章から第六章に関しては、かなり事実誤認の部分があった。いずれにしても、このような内容の本を、事実誤認を極力ゼロにしつつ書くことが極めて難しいということが良く分かった。

A君:渡部昇一氏の著書「国家とエネルギーと戦争」の目次ですが、
第一章 石油の時代を見抜いていた秋山真之の眼力
第二章 太平洋戦争は、なぜ日本が敗れたのか
第三章 戦後の日本はエネルギーに味方された
第四章 原子力発電を怖れることの愚かさ
第五章 激変した、世界のエネルギー事情
第六章 エネルギーを輸入してはいけない


B君:特に、第四章に、細かい点とも言えるが、多くの事実誤認があるので、この本を読んで、「そうだそうだ」という気には全くならない。なぜなら、同じような事実誤認が、他の章の記述にもあるに違いないと判定せざるを得ないから。まあ、一つの考え方だけれど、客観性には欠けると評価せざるを得ない。

A君:書籍というものは、やはりそんなもので、事実誤認を許容して、ある部分だけの有用性を評価するという訳に行かないものだと思います。

B君:そこで、今回は事実関係を整理しておこうということ。

A君:まずは、エネルギー安全保障という言葉の定義ぐらいはしないと。まずは、IEAの定義。

IEA defines energy security as the uninterrupted availability of energy sources at an affordable price.

IEAは、エネルギー安全保障を「エネルギー資源が適正な価格で、切れ目なく使えること」と定義する。

B君:「適正な価格」で、となると主観が入る。

A君:そうですね。しかし、今のエネルギー価格というものは、高いようで高くないと思うのです。生活にとって、絶対的に必要なものということをしっかりと認識できれば。ガソリンスタンドに行けば、必ずガソリンがある。スイッチを入れたら、かならず電気は来る。こんな状況に慣れすぎているだけで、途上国のように、10回に1回ぐらいは電気が来ないとなると、もっとエネルギーの重要性は理解されると思いますね。

B君:定義には、まだ続きがある。

Energy security has many aspects: long-term energy security mainly deals with timely investments to supply energy in line with economic developments and environmental needs. On the other hand, short-term energy security focuses on the ability of the energy system to react promptly to sudden changes in the supply-demand balance.

 エネルギー安全保障という言葉は、多くの観点を含む。
 長期的なエネルギー安全保障は、主として、適切なタイミングで適切な投資が行われるかどうかに関係する。それは、経済的な発展と環境面でのニーズにあったエネルギー供給が実現するような投資を意味する。
 短期的なエネルギー安全保障とは、需要・供給バランスが急激に崩れたときにも、対応が可能なエネルギーシステムが存在し、それが機能することを意味する。

A君:この定義も、どちらかと言うと先進国向けの定義で、途上国のように、エネルギーが依然として薪に依存しているところでの「エネルギー安全保障」の定義は違うと思います。

B君:他に適切な定義はないのだろうか。

A君:英文のWikiのEnergy Securityの記事は、余り良くないですね。WikiのEditorもそう述べているように。

B君:IEAの定義は、確かに先進国向けの定義のように思う。しかし、日本のエネルギー安全保障を考えるのだから、先進国向けの定義で良い。こう割り切れば、かなり客観性が高いと思うので、これで行こう。

A君:了解。IEA版で行く以外に無さそうです。IEAは、エネルギー安全保障を考える視点として、(1)エネルギー源、(2)二次エネルギーと精製、(3)輸送・運搬方法、の三点について分析をすべきだとしています。それは、定義の続きの部分で記述されているように、需要・供給のバランスが急激に崩れることが、安全保障リスクが発現した状態であって、これが起きる理由として、(1)〜(3)の状況の変化が関係しているということなのでしょう。

B君:(1)エネルギー源としては、石炭、石油、ガス、核燃料、再生可能エネルギー(2)二次エネルギーと精製は文字通りで、電力と精製(3)輸送・運搬は、電力系統、パイプライン、港湾、船舶を意味する。
 実は、IEAにとって核燃料は守備範囲ではないので、記述されていない。しかし、ここでは、追加した。

A君:日本のようにエネルギー自給率が4.4%(2010年)しかない国では、エネルギー安全保障という考え方が極めて重要なのだけれど、エネルギーは有って当たり前の日本では、簡単に忘れられてしまいますね。しかし、1960年には、エネルギー自給率はなんと58%もあったのです。国産の石炭と水力がその供給源でした。

B君:簡単に忘れられる原因だが、エネルギー供給がある種の環境になったこと以外にもある。それは日本人がリスクというものに対して、真剣に、言い換えれば、統合的に考えることはないという特性を持っているためだ。そのような特性を言い換えれば、単一事象ですべてを判断してしまう。なぜこのような特性を持っているかを説明するのは難しいのだけれども、歴史上、「あきらめる」という単一の方法論以外で、リスクに対処したことが無いからではないか、と思っている。

A君:要するに、一般論として、リスクを統治し、被害を最小限にするという試みが成功したことが無い。実際には、リスクを最小化する努力が行われていて、エネルギーの供給リスクへの様々な対策をしているのですが、それが非常に有効であったと報告された事例が、極めて少ないのかもしれないですね。

B君:例えば、石油備蓄はその例。現時点における石油備蓄の状況は、ここに丁寧に記述されている。
http://www.jogmec.go.jp/library/stockpiling_oil_003.html

 日本の石油備蓄事業は、国の直轄事業として実施している国家備蓄と、民間石油会社等が法律により義務付けられて実施している民間備蓄の2本立てで進められています。
 国家備蓄は、全国10カ所の国家石油備蓄基地と民間石油会社等から借上げたタンクに約4,796万klの原油および石油製品が貯蔵されており、民間備蓄は、備蓄義務のある民間石油会社等により、約3,610万klの原油および石油製品が備蓄されています。
 国家備蓄、民間備蓄を合わせた約8,406万klの石油が、私達国民の共通財産であり、その量を備蓄日数に換算すると約193日分(2014(平成26)年3月末現在)となり、万一石油の輸入が途絶えた場合でも現在とほぼ同様の生活を維持できます。


A君:193日分あれば、多少なら何かあっても、しばらくは大丈夫でしょう。しかし、最近のイスラム圏の政情不安が、かなり気になりますね。ペルシャ湾全体が大戦争になるといった事態が起きれば、半年で終わっても、すぐに供給が元に戻るとは思えない。備蓄事業の第一号が、青森県六ケ所村のもので、1983年に完成しているのですが、そのころは、まだ冷戦時代だったのですが、ロシアの石油や天然ガスの存在感がそれほど大きい訳ではなかったですね。イスラム圏は、独裁政治とも言える国が多かったものの、それなりに安定していた。ということで、この時代の備蓄は、むしろ、第一次石油ショック1973年と第二次石油ショック1979年で経験していたような、価格の大変動対応をむしろ考えていたのかもしれない。

B君:確かに第一次、第二次石油ショックは、価格が数倍になったのが大きい。しかし、不思議なことに、現時点での石油価格は、第二次石油ショック当時よりも遥かに高いのだけれど、なんとかなっている。それは、値上がりの倍率で見れば、大したことではないからかもしれない。

A君:もう一つの要素は、省エネと電化でしょうね。それに、そのころは、暖房と言えば、石油ストーブか石炭ストーブ。しかし、現時点だとエアコン。この違いですが、電気で効率の高い暖房が可能ということは、エネルギー源の多様化が可能ということを意味します。石油が来なければ、他のエネルギーでしのげるので、すぐ命にかかわるという訳ではなくなりました。

B君:省エネの重要性は非常に大きい。しかし、最近は、誤解もある。日本のエネルギー消費は、2008年のリーマン・ショックの影響で、2009年にはかなり大きく低下したのだけれど、その後、急速に消費量が回復している。最近の建設ブームなどを考えれば、そんなことが分かると思うのだけれど、未だに、今後、日本の省エネはさらに進むからエネルギー供給の今後は大丈夫といったことを平気で話す人がいる。

A君:話を本論に戻して、エネルギー安全保障を考えるのであれば、IEAによるエネルギー安全保障の視点の一番目である、日本の一次エネルギー構成の推移を理解しておくべきでしょう。
http://www.rist.or.jp/atomica/ から、いくつかの図を。


図1 一次エネルギーの構成の推移

B君:石炭は、以前は国産エネルギーだった。すでに述べたように、1960年のエネルギー自給率は、58%もあった。それが2010年で4.4%に落ちた。しかし、昔から石油はほぼ完全に輸入品。そして、第一次石油ショックを迎えた。このとき、日本国内の慌てようといったら無かった。それも当然で、石油依存率が80%ぐらいだった。その後、これではいけない、ということで、天然ガスと原子力に、そして天然ガスに転換しながら、徐々に石油への依存率を下げてきた。それでも、まだ50%ぐらいは石油を使っていますが。石炭は、国産ではなくなったものの、大体同じぐらいの依存度で推移しています。

A君:国産の石炭の産出量が最大になったのが1961年で、5540万トン。このグラフ以前。
http://www.biwako.shiga-u.ac.jp/eml/Ronso/367/odano.pdf
しかし、その後、減少を続け、石油危機直前の1973年度を見ると,一次エネルギーに占める国内炭の割合はわずか4%になりました。

B君:国内に大規模な炭鉱はすでに無いものの、実は、まだ、操業をしている炭鉱がある。例えば、北菱美唄炭鉱などが、露天掘りで年間100万トンを生産している。これは国内需要の1%に相当する。

A君:石油への依存は減ったとは言っても、このデータは2005年までしかないのですが、福島第一の事故で原発が止まったため、古い石油を燃料にする火力発電所が復活している。自動車は、最近、ハイブリッド車によって燃費が向上したため、ガソリンの消費量は頭打ちだけれど、それでも、日本の一次エネルギーとしては、石油依存度がかなり高すぎる

B君:天然ガスが徐々に増えているけれど、日本が契約していた天然ガスは、原油価格と連動するという価格設定のものが多い。しかも、東日本大震災後、カタールなどから高価なスポットの天然ガスを大量に輸入した。日本のような島国では、パイプラインでの輸送は無理なので、液化天然ガスにしなければならない。そのための液化コストが馬鹿にならない。

A君:シェール革命などという言葉を使って、日本への天然ガスの供給が増えると主張する人も居ますが、それは半分以上は嘘。なぜならば、天然ガスはパイプラインで供給されているから、ヨーロッパは、ロシアの天然ガスを安価に入手できていた。日本に海外からの天然ガスパイプラインは無い
 ここまでは科学的記述ですが、政治的な事件が起きると、途端に状況が変わる。サハリンから天然ガスパイプラインを作るべきなのか?

B君:ウクライナは、ロシアからの天然ガスパイプラインが通過している国だった。ところが、ロシアとの関係が悪くなって、直接の供給量が削減された。そのため、一旦、EUに入れて、逆流させてウクライナが使うという方式を使っている。

A君:ポーランドも、旧共産圏ではあるけれど、ロシアからの天然ガスの供給が継続できるかどうか、かなり危ない状況になっている。そのため、原発の建設をする方向ではないですか。

B君:どんな状況になっても、科学的事実である「一次エネルギーが三種類しかない」、ということが大きい。

C先生:大勢を見るのも重要だということは良く分かる。しかし同時に、もっとミクロに見ることも、重要だ。すでにパイプラインの件で議論が始まっているように、エネルギーの輸出入とその輸送方法に注目して、議論をすることが有用だろう。いくつか、分析に使えるデータを探して欲しい。

A君:いくつか見つかりました。
まずは、財務省の「全国貿易統計」
http://www.customs.go.jp/toukei/info/
 これを調べれば、地域あるいは国別に、主要商品の輸入額が分かります。
http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time.htm
 ただし、生の数値データなんですね。それをまとめたものがpdfファイルではありますが、表だけ。
http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2013/2013_117.pdf

B君:これは使えないよ。図になっていないので。これをエクセルに取り込んで、長期トレンドが見られる図にするのは、作業量としてなかなか厳しい。

A君:仕方がないので、若干データは古いですが、すでに図になっているものを中心に探してみました。残念ながら、最近の状況は、図書として販売されていて、ネットからの入手は難しいのですが。まずは、日本への原油の供給国の推移。

図2 我が国の原油の輸入量相手国構成比2007年版

A君:石油ショックの経験から、原油依存、特に、中東依存を避けることにした割には、こうしてみると、今や却って、中東ばかりですね。東南アジアとその他がちょっとしかない。最近のデータによれば、東南アジアはインドネシアやベトナム、その他は、ロシア、アフリカのガボン、など。石油統計速報というものが毎月発表されています。http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sekiyuso/result.html
 では、次の図へ。


図3 石炭国別輸入量推移
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/01/01030101/03.gif

A君:これは石炭です。石炭は、オーストラリアが大部分です。最近は、中国も石炭が不足気味なのか、日本に対する輸出は激減。変わって、インドネシアが若干という状況です。
 次に、天然ガスについて。


図4 天然ガス国別輸入状況の推移

A君:天然ガスは面白くて、需要が増えると、次の供給国を探すということを、延々と続けています。これは、天然ガスというものと特性とも関係しているのでしょう。今は、米国からの輸入を増やす方向。

B君:一つは、かなり長期的な契約が主であること。石炭ほど、「掘ればいくらでも出てくる」という訳でもなく、新たなガス田を開発しないと生産量を増やせないこと。

C先生:ここまでの議論で、かなり有用な情報が得られている。IEAのいうエネルギー安全保障を考える視点として、(1)エネルギー源、(2)二次エネルギーと精製、(3)輸送・運搬方法、の三点について分析をすべきだ、ということだが、実は、(1)のエネルギー源はの意味は、「できるだけ多様にせよ」、ということだ。三種類しかない一次エネルギーの間での多様性、化石燃料のジャンルの中での多様性を確保せよ。(2)の二次エネルギーは、これまで電気で固定されていた。今後、水素になる可能性も全く無いとは言えないが、相当時間が掛かる。精製は、石油の最終使用形態が若干変化する要素はあるが、それ以外はほとんど固定。そして、(3)輸送・運送方法がかなり重要だということになる。これは、(1)のエネルギー源の多様化で言えば、輸送・運送方法を多様化するために、その調達先をできるだけ多様化せよということにもなる。この(3)の輸送・運送について、しばらく検討しよう。

A君:ここで問題にしているような輸出入は、一般には、バルク貨物と呼ばれるようで、輸送手段は、船舶しかない。となると、船舶輸送についての情報が必要。例えば、これは良さそうです。国交省関係の委員会ですが。
http://www.mlit.go.jp/common/000115554.pdf

B君:ちょっと確認してみた。確かに有用な情報はあるが、この報告書の問題意識は、鉄鉱石の運搬船が最近大型化して、喫水下が23mにもなっている。このような船が入港できるだけの水深がある港は、日本では大分港だけ。これをさらに整備しなくて良いのか、というもののようだった。最終的にいささかローカル。

A君:なるほど。輸送・運送方法の多様化は必要ですが、それはそれとして、日本という国がいかにエネルギー安全保障上危ないか、という図5、図6も必要ではないですか。


図5 主要国の石油のエネルギー多様化指数(少ない方が多様化が進んでいる)

A君:こうしてみると、日本の輸入元に関する多様化指数は、世界でも最悪の部類でしょうね。先ほどの結論の繰り返しですが、ほとんどを中東に依存している。最近では、多少、アジアからの輸入が増えているのが若干の救いですが、もっと、それを推進しないと。

B君:しかし、それが難しい。例えば、2012年末現在で、自動車は世界全体で11億台程度だそうだけど、
http://www.jama.or.jp/world/world/world_2t1.html
例えば、石油輸相手国のインドネシアにしても、自動車が激増中。そして、2050年の世界の台数は、2010年の2倍以上と言われているので、20数億台。

A君:ということは、インドネシアなどから石油の輸入量を格段に増加することは極めて難しいということを意味するのでしょうね。

B君:ということもあって、日本国内の自動車は、燃費を良くすることは当たり前として、やはり電気化をすすめなければならない。当面は、プラグイン・ハイブリッドあるいはEV+レンジ・エクステンダーを本命として進めれば良いのだと思うが。

A君:電気をどうやって作るか。これがエネルギー安全保障の視点その(2)でした。そして、これがやや古いデータですが、主要国の発電用エネルギー構成。


図6 主要国の発電用エネルギー構成

A君:2003年のデータで古いのですが、この時点で、イタリアが唯一、原発がゼロの国です。現在でも、イタリアは原発ゼロ。その発電容量のグラフが次のものです。


図7 イタリアの発電容量
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/14/14051403/07.gif

B君:イタリアは、慢性的電力不足で、2003年9月28日には、イタリア全土19州、最長18時間、約5700万人に影響が及ぶ広域大規模停電が発生した。原因は、スイスから供給されていた電力用の電線が樹木に接触してスイスからの給電が停止したため。

A君:イタリアは水力が結構あるので、揚水発電を急遽運転しようとしたのに、間に合わなかったようですね。

B君:日本の今年の夏の状況は、イタリアの状況と余り変わらない。発電所がどこか故障しても1箇所ならなんとかなるだろうけれど、2箇所目が故障したら、緊急事態発生。多分大規模停電になる。

A君:それにしても、イタリアは電力価格の高い国です。産業用の電力を民生と同程度の価格にすることによって、民生の電力を安く維持している。日本でこれをやったら、製造業が海外に出てしまう。産業構造の違いは大きい。

B君:この図7のイタリアの風力・太陽光発電の容量が急激に増えていることが分かるけれど、この手のグラフを見たときに、最初に読まなければならないのが、縦軸が設備容量(あるいは発電容量)なのか、それとも、発電量なのか、ということ。太陽光の場合には、その国の日照時間にもよるのだけれど、日本のケースだと、発電量=設備容量/8ぐらい。風力では、発電量=設備容量/4ぐらい。まだまだこの程度では頼りにならない。

C先生:大体これで、準備はできたようだ。エネルギー安全保障の議論の順番だけれど、一次エネルギーのどれがリスクが高いか。そのリスクが発現するケースとは、どのようなものか。歴史的にみて、現時点で、リスクはどのような状況にあるのか。リスクへの対応には、どのような方法があるのか。短期的、長期的な動向はどう予想されるか。

A君:現状、化石燃料以外を考慮する必要はなさそうです。しかも、石油を見るだけで大体のことは良さそうです。ウランも勿論枯渇もするし、価格変動もするのですが、資源的にもかなり余裕があることに加え、同じエネルギーを発生するのに必要な重量が違います。1軒の家庭の年間電力使用量3600kWhとすると、これだけの電力を発生させるのに、天然ガスでも石炭でも、大体500kgが必要。もしも原子力であれば、これに必要な核燃料はわずかに約10g。この差は大きいです。重さが5万倍も違いますから、輸送のリスクが格段に低いです。

B君:こうしてみると、車のエネルギー消費量が非常に大きいことが分かる。大きな車だとガソリンを50kg(比重を0.75とすれば、75L)も入るタンクを持っている。10回満タンにすれば、家庭の1年分に相当するということだから。

A君:化石燃料がらみの安全保障という意味では、もっともリスクの高いは、すでに述べたようにどう考えても石油で、その理由は、油田の分布が、次の図のように、余りにもペルシャ湾に偏在していること。すなわち、この地域が戦闘地域になってしまったら、世界の石油供給は大ピンチ。


図8 アラビア半島の油田とパイプライン
http://www.japt.org/abc/a/gijutu/maizou.html#yuden

B君:UAE(アラブ首長国連邦)に尖ったところがあって、その海峡がホルムズ海峡。この海峡を封鎖されただけでも、ほぼアウト。機雷でも撒かれたら、それこそ大変。

A君:この図には無いのですが、パイプラインは、紅海にも引かれていて、そこからスエズ運河を通ってヨーロッパに石油が運ばれています。ちなみに、紅海側での石油の産出は極めてわずかのようです。

B君:機雷の除去だけなら、長期間を必要とはしないけれど、掃海艇を狙ってミサイルが飛んでくるような状況だと、相当な長期間を要する。

A君:米国は、国内のシェール革命で、そのうち、世界最大のエネルギー産出国になることを目指しています。そうなると、米国にとって、中東の石油は余り魅力的なものではなくなります。そのため、徐々に、中東地域への関与を下げようとしているように思います。

B君:日本を含め、どの国も、できるだけ脱石油を早めた方が、エネルギー安全保障上は良いことになる。これは確実に言える。しかし、実際には、自動車の電動化がなかなか進まない。水素燃料電池車が、本年中に発売されるというニュースもあるが、水素ステーションの整備は遅れている。そもそも、水素をどのようにして作るのか、その方法も不確実性の闇の中。それもこれもある意味で当然である。ガソリンという液体燃料が余りにも都合良くできているから。

A君:いよいよ具体策を検討する段階のようですね。
 そもそも3E+S、このサイトでは、S+3Eと書くべきだったのですね。その3EのEconomy、Environment、Energy Securityの三者に対して、若干の操作を行って、優先順位を変化させることによって、もう少々Energy Security上の問題に配慮したエネルギー供給構造にしなければならない。

B君:それは、例えば、Environmentをもっと重視させるために、環境税を発明したのと同様に、Energy Securityをもっと重視させるために、エネルギー安全保障税を掛ける。これは、大変に面白い発想だ。

A君:そんなことは考えていないですよ。エネルギー安全保障税を掛ける。これは、B君の発明ですよ。

B君:そうか。それにしても、まだ、誰も考えていないことかもしれない。例えば、次の図だけれど、これは、資源・エネルギーの輸入量に関する相手国の構成比。これを見て、どれが一番、リスクが高いと思う?


図9 様々な資源の輸入先

A君:それは当然中国からのレアアースメタルの輸入ですね。中国がすでにやったように、独占国は、勝手に輸出制限などをすることが可能ですから。となると、中国からのレアアースの輸入には、資源安全保障税を掛けて、他の国から買うことを誘導する。しかし、これは無いですね。まず、WTOに叱られる。そして、もともと、レアアース、特に、重希土類の産地は、ほぼ中国だけ。吸着鉱と呼ばれる極めて特異的な鉱脈をもっているために、中国産だけは、重希土類なのに、放射性を持つトリウムを含まないから。同じような吸着鉱は、ベトナムあたりにはあってもおかしくは無いのですが、まだ見つかっていませんから。

B君:そうか。税でコントロールできるためには、その事象に関して、他を選択するフレキシビリティがないとダメだということか。

A君:ということです。
 ところで、現時点で、自然エネルギーには、FIT(固定価格買取制)が適用される場合が多いけれど、本来、あるリスクを回避するために、この制度が使われていると考えれば、この財源には、あらゆるリスクを高める選択肢には、税金を課して、その費用を他に回すべきだということになります。その意味では、化石燃料には、炭素税と安全保障税を、原子力には危険税を、自然エネルギーには自然・景観迷惑税(鳥などの生態系や景観を破壊するので)を課し、その税収で自然エネルギーのFITは当然としても、原子力にも、また、化石燃料にもFITと同様の価格調整制度を適用するという手もあります。

B君:実際、英国は、原子力による電力にFIT類似の制度を作ってしまった。FIT-CFDと呼ばれている。これは極めて画期的な発想だったと思ったのだけれど、ここでの議論を考えれば、ある程度当たり前のことをしているのかもしれない。

A君:FIT-CFDの詳細は、そのうちまた。

C先生:なんだか長いだけでなく、かなり話が飛び跳ねているので、そろそろヤメにしよう。
 今回の検討によって、何が分かったのだろうか。まず、IEAの定義に基づいて、エネルギー安全保障というものが何かが定義できた。それによれば、価格と供給の継続性が重要ということだった。リスクが実際に発現してしまう、ということとしては、あるエネルギー源が、主として供給面とその後の輸送面で、なんらかのトラブルに陥るということだ、ということが分かった。
 一次エネルギーのどれがもっともリスクが大きいかと言えば、それは、石油であろう。その理由は、もっぱら、ペルシャ湾に相当量が集中しているから。しかも、石油の場合には、車などの輸送用にも使われており、この用途が、二次エネルギーである電力や水素に転換されるには、まだまだかなりの時間が掛かるから。
 今回、このような問題意識で、主として、歴史的なトレンドを追いかけてみたが、これで将来起きるであろう安全保障リスクが読めるだろうか。さて、どう思う?

A君:感じとしては、多分、分からない。なぜならば、安全保障リスクは、イントロの文章にあるように、ヒトの邪悪な部分が引き起こすから。イスラエルとガザとの戦闘行為、ウクライナでのマレーシア航空機撃墜、イラクでの過激による少数民族・キリスト教徒などの迫害、などなどが拡大したときに、安全保障リスクが現実のものになる。

B君:歴史的なトレンドとして、化石燃料などの流れを追いかけるのは、エネルギーに関する基礎知識として重要だと思うけれど、安全保障リスクを理解するには、むしろ、世界全体の不協和音の分布とその強さを歴史的に追いかけることによって、ある程度、予測すべきように思える。

C先生:このところ、地球環境問題に対する関心が薄れていると思っている。よく知られているように、地球環境問題が爆発的に関心を持たれたのは、1992年に行われたリオの地球サミットがきっかけだった。しかし、本当のところは、そのしばらく前に、冷戦が終結したこと、ベルリンの壁が崩壊したこと、ソ連邦が解体されたこと、などなどが起きていて、世界全体が「世界的戦争の危機は去った」、しかし、「地球環境が危ない」という意識をもったからだと思うのだ。言い換えれば、「戦争の可能性、特に、核戦争によって地球上の人類が滅亡に近い危機的状況になる可能性は遠のいた」という理解が共有され、落ち着いて地球レベルの状況を眺める余裕ができたからではないだろうか。

A君:しかし、日本という国では、地政学的なリスクというものを議論するのが、一時、タブーだった。未だにそのような意識が残っている。そんな国は、日本ぐらいなもの。

B君:それに、日本人のような自然宗教的多神教民族にとって、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ゾロアスター教といった一神教を理解することが非常に難しい

A君:昨日は8月15日だった。NHKテレビを見ていたら、若者に、「今日は何の日ですか」と質問しても、答えられない人が相当いた。しばらく前のビデオだと思うが、靖国神社の「みたままつり」に来ている若者に、この神社は何を祀っているのか知っていますか、と質問。これにも答えられない。今の若者は、こんなものなのだろうか。地政学的な感覚が無いのも当然かもしれない。

B君:そんなことを言うと、相当の右よりだと思われるよ。それ自体が不思議なことだけれど。

A君:イスラエルとガザで何が起きているか、イラクのクルド地域で何が起きているか、これらが、日本にどのように影響するか。こんなことを若者に聴く方が非常識かもしれない。

B君:テレビのニュース番組を見て、かつ、新聞を読まないと、世の中の動きをバランスよく把握することが大変に難しい。できれば、新聞も複数読みたい。しかし、新聞の存在意義もこのところ怪しくなっている。最初から結論が決まっているメディアなどは、本来、存在意義はないに等しい。

A君:インターネットで情報を集めることは可能なのですが、ネットでバランスよく情報を集めるということは不可能になりつつあります。新聞社のサイトが有料になった現在、新聞社は除外すべき。個人的なお薦めというか、ましなものは、Yahooの時事通信かな。
http://headlines.yahoo.co.jp/list/?m=jij
すべて時間の新しい順にならんでいるという無秩序性が良いと思うので。

B君:もっと日本の若者にも、国際的な情勢を見て欲しい。最近、海外に行く若者、行かない若者がくっきり分かれすぎているように思う。

C先生:ますます、議論が発散している。今日の結論として、エネルギー安全保障を理解するということが、エネルギー自給率が4.4%しかない国の国民にとって、必要不可欠な知性の一つであるということは了解して貰えるだろうか。この議論も、極めて広範囲での統合解を求めなければならないという意味で、かなり高度な知性が要求されるようだ。