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  「エネルギーに関する予備知識」 10.02.2005
          文系学生がLCAを分かるために
    



 なんと10月3日月曜日から、上智大学の地球環境大学院でLCAについて14回(×1.5時間)の講義を行うことになっている。 ところが、この大学院の院生は、専門まちまち。理科系はむしろ少数派。となると、どうやってLCAなるものを教えればよいのか、大変に迷うところ。

 そこで、その講義内容を考えるべく、本HPを作成することにした。今回は、エネルギーの予備知識。


C先生:困ったのだ。基本的な知識がバラバラ。そのような知識の上にLCAをどのように構築すべきなのか。

A君:やはり、最小限の必要知識というものを提示すべきではないですか。

B君:そうだろう。先ほど、「物理学に基づく環境の基礎理論」という本(勝木 渥著、海鳴社、ISBN4-87525-190-4、2400円、1999年5月)を見ていたのだが、この本は物理学を基本としている。これに類似した化学と化学熱力学の知識は絶対に必要であることを提示すべきではないのか。

A君:LCAを実感をもって感じるためには、やはり、材料というものの合成プロセス、石油からの様々なプロセス、そもそも化学反応とは何かという理解、などの知識はあるべきではないか、と思いますね。

C先生:となると、まずは、エネルギーを中心として、ざっくりした化学熱力学の概念。それに材料などの合成プロセスの概要だろうか。

A君:そんなところでしょう。エントロピーなる概念をどこまで扱うのが良いのか。LCAにはほとんど出てこないですが。

B君:まあ、無しで済ませるのがベスト。

C先生:化学熱力学の根幹は、ギブスエネルギー、別名、自由エネルギーなる概念にあると思うのだが、LCAにはまず不要だろう。その代わりに、エントロピーなるものが変化の方向を決めているのだ、という熱力学第三法則の説明ぐらいは必要かもしれない。

A君:エントロピーを語ることには反対。使える知識が一番。まず、絶対に必要なことが、エネルギーの換算ですかね。

B君:ガソリン1リットルを燃やしたときの発熱と1kWの電気ストーブを1時間つけたときの発熱量といった比較か。

C先生:エントロピーは止めるか。なしでもなんとかなるから。実用的であることは重要だ。消費電力の表示であるWやkWと、電力量の単位であるkWhがどこが違うのか、そのあたりからやらないと駄目だろうか。

A君:仕事とエネルギーが同じであるということや、運動エネルギーと熱エネルギーとの関係とか、その気になれば、いくらでも話すことが有りそうですね。

B君:それに、これは本日の話題ではないが、どうやってLCAを算出するか、という技術的な問題がある。Excelをどれほど使いこなすか、ということに尽きるが。

C先生:パソコンとインターネットが使えないと、確かにLCAは出来ないな。

A君:それはそれとして、本日は、エネルギーに関する予備知識の方に注力して、以下のような目次ではいかが。


目次:
◎LCA実践のために必要なエネルギーの予備知識

(1)エネルギーへの最低限の理解
(1−1)様々なエネルギーの形態
(1−2)エネルギーの相互変換
(1−3)物質エネルギー
(1−4)エネルギーの移動方向
(1−5)熱とエネルギーの関係
(1−6)エネルギーの貯蔵

(2)エネルギー間の変換と貯蔵
(2−1)位置エネルギー
(2−2)運動エネルギー
(2−3)化学エネルギー
(2−4)熱の移動
(2−5)エネルギーの貯蔵

(3)人間社会が使っているエネルギー
(3−1)石油、石炭、天然ガス、バイオマス
(3−2)再生可能エネルギー
(3−3)電力
(3−4)ガス

A君:ここからは、会話方式を止めましょう。では、スタート。

◎LCA実践のために必要な予備知識

(1)エネルギーへの最低限の理解
 LCAでは、様々なエネルギーの使用量と、エネルギーを得る際に付随して排出される二酸化炭素、そして、同じく付随して放出される酸化窒素、酸化イオウなどが問題になる。
 まず、エネルギーとは何か、その基本的な理解が必要である。
 加えて、エネルギー保存の法則の理解が必要。この法則は、エネルギーとは、どこから沸いて出るようなものではなくて、われわれがエネルギーを使うということは、それはどこかからエネルギーを貰わなければならない、ということ。しかも、そのエネルギーは物質に付属している場合が多いので、物質が枯渇すると、エネルギーを貰うのが難しくなる。

B君:ここまでは、まあ、分かってもらえるのではないか。LCAは、何かモノの評価をすることが多いのだが、そのモノを作るためには、様々なエネルギーが使用される。そして、エネルギーを得ようとしたら、もっとも簡単ことは、化石燃料を燃やすことである。これは枯渇する可能性がある。

A君:しかし、現在われわれ人類が使用している全エネルギーの1万倍もの光エネルギーを太陽から受けている。しかし、これを有効活用するのは、非常に難しい。

(1−1)様々なエネルギーの形態
 エネルギーは、様々な形態を取りうる。熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギー、磁気エネルギー、電子状態(物質)エネルギー、位置エネルギー、変形エネルギー、容積エネルギーなどなどである。
 エネルギーを貯めるには、普通は何か実体があって、その状態が変わることが必要である。要するに、何も無いところにエネルギーを蓄えることは難しい。敢えて言えば、磁場、電場を除けば、不可能である。
 例えば、熱エネルギーは、あるモノを加熱すれば、そこに熱を貯めることは可能である。熱はエネルギーの一つの形である。
 石を高いところに運ぶことによって、その石にエネルギーを貯めることも可能である。それを位置エネルギーと呼ぶ。その石を落として人の頭にでも衝突すれば、人の頭を破壊しかねない。位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、そして、運動エネルギーが頭蓋骨を破壊するエネルギーに変換されるからである。水の高低差を利用して発電する水力発電は、位置エネルギーを活用した形である。
 バネを伸ばしたり縮めたりことによってもエネルギーを蓄えることができる。

(1−2)エネルギーの相互変換という考え方
 エネルギー保存の法則があるから、どこかであるエネルギーが減れば、別の形のエネルギーが出現することになる。それならエネルギーは不足することは無いではないか、と思われる。しかし、エネルギーは枯渇する。それは何故か。
 ここでもっとも重要なことは、エネルギーにはランキングがあるということ。基本的に多くのエネルギーは相互変換が可能である。例えば、電気エネルギーを運動エネルギーに変えることが可能だし、運動エネルギーを電気エネルギーに変えることが可能である。しかし、必ずしも双方向に同じように変換できるとは限らない。そして、熱エネルギーというものが、あらゆるエネルギーの中で最低のランキングにあって、多くのエネルギーは簡単に熱エネルギーに変換可能であるが、熱エネルギーを他のエネルギーに変換することは難しい。
 すなわち、エネルギーには質がある。熱エネルギーが質的には最下位。熱エネルギーを使うには、熱だけあっても駄目で、熱を流すことが必要である。熱を流すのは、温度差である。高温の熱源と低温の冷却源の両方が存在し、そこに温度差があることが必要不可欠である。
 他のエネルギーへの変換が最も容易なものが電気エネルギーである。すなわち、電気エネルギーは、質が最良・最善である。運動エネルギーへの変換が比較的複雑であるが、モータという製品によって、比較的効率良く変換がなされる。
 このようなことを考えただけでも、電気エネルギーを直接熱エネルギーに変換することが、無駄が多そうだということが分かる。

(1−3)物質エネルギー
 化学変化によってエネルギーを取り出すことが可能である。例えば、水素を燃やせば水ができて、熱が出る。この熱を運動エネルギーに変換するのが、熱機関というもの。エンジンはその一種。
 水素と酸素の反応を白金などの電極を貼り付けた水素を通す膜を使って反応させると、燃料電池になる。すなわち、物質変化によって電気を直接取り出すことも不可能ではない。まだまだ実用的とも言えないが、そのうち、可能になる可能性が多少残っている。
 さて、物質の変化と言えば、何だか分かったような気になるが、次の質問に答えて欲しい。「そもそも物質がもっているエネルギーの源は何か」。「それがどう変化すれば、どのようなエネルギーをどれだけ取り出すことが可能なのか」。
 答えは、電子のエネルギーである。水素分子は、水素と水素を電子が結びつけて分子にしている。酸素分子も同様。反応後は、水素原子2個と酸素原子1個が電子によって結び付けられて水分子になる。そのとき、電子はより強固な結合を作ることができる。より強固とは、エネルギー的に低い状態になることと同義であって、そのために、余ったエネルギーを熱として、あるいは、電気の形で放出できる。

B君:この最後のところは、理解するのが難しいのではないか。化学反応とは何かという問題だもんな。

A君:最近の中学・高校の化学の教科書を知らないのですが、少なくとも、化学反応によってなぜ熱が出るか、といった理由について説明が行われているとは思えない。

B君:要するに、エネルギーというものは、物質や空間のどこかに蓄えられているもので、多くの場合には、エネルギーを蓄えている実体が何か無ければならない。その実体中の何が実際にエネルギーを蓄えているか、それが常識的に分かることが望ましいだろう。

A君:例えば、ある気体を圧縮して、エネルギーを蓄えることも可能ですが、この際、その気体の何がエネルギーを蓄えているのか。

B君:それは、文系の学生諸君では想像もできないかもしれないな。それは分子間力という力だ。この分子間力というものを実際に作り出しているのはまたもや電子。ある分子に含まれる電子と別の分子に含まれる電子が反発する。その反発力は、電子と電子の距離に反比例する。

A君:少々マニアックですね。とにかく、水素が燃えるとどうして熱が出るか、これをなんとか分かって欲しい。どう理解しても良いのだけど。

B君:それに、「何も無いところにエネルギーを蓄えることは不可能である」ということだが、反論としては、真空を作るということでエネルギーを貯めることは不可能ではない、といったものがあるだろう。

A君:真空を真空中に作っても、例えば、宇宙に真空を作っても、何もエネルギーは溜まらない。しかし、大気中に真空を作ってエネルギーをためることは可能。それは、大気の分子を動かしたからであって、ある意味、大気の形を変えたからそこにエネルギーが溜まった。電場、磁場という場とは話が違うのですが、多少難しい。

B君:場の話をするのは困難だ。これは止めよう。

(1−4)エネルギーの移動方向
 温度とエネルギーとの違いは何か。力とエネルギーとはどこが違うのか。速度とエネルギーはどうなんだ。このあたりの話は、結構難しい。
 いささか唐突であるが、次の式を出したい。

 エネルギー=強度因子×容量因子

 強度因子は、示強(性)因子と呼ばれることもある。同じく、
 容量因子は、示容(性)因子と呼ばれることもある。
 なぜ、こんな面倒な言葉を導入するのか。できれば、導入したくないのだが、エネルギーというものが、どちらからどちらに移動する(流れる)か、を判定するには、強度因子というものの存在が不可欠だからである。
 例えば、温度50℃の水が1Lあったとする。0℃を基準に考えたとすると、ここまで温度を上昇させるためには、比熱を1とすれば、50kcalの熱量が必要である。80℃の水が500mLあったとすると、0℃の状態からこの状態を作るには、40kcalの熱量が必要である。この両者の水を接触させたとき、エネルギーはどちらに移動するか。
 それは、熱量の大小で決まるのではなく、温度で決まる。すなわち、高温である80℃側から低温の50℃側にエネルギーが移動する。
 力学(機械)的なエネルギーの場合であれば、力が物体の移動の方向を決める。そして、力に移動距離を掛けたものが、仕事になって、これがエネルギーの一つの表現になる。
 このように、エネルギーの種類によって、強度因子も違う。表の形で表現すれば、次のようになる。
 容積のエネルギーというものもある。エアカーというものがあって、300Lぐらいのタンクに空気を300気圧ぐらいの高圧でため、このエネルギーで自動車を走らせる。この場合、強度因子は、圧力である。

 表 いくつかのエネルギーの強度因子
  エネルギー種   強度因子
  機械的エネルギー   力
  熱エネルギー     温度
  容積エネルギー    圧力

 実用上重要なことは、ある物体に熱を与えると、その物体の温度が上昇するということ。熱量をQ、T1からT2まで温度が変化したとして、上昇した温度をΔTとすると、次の関係がある。Cpを熱容量と呼ぶ。

 Q=Cp・ΔT=Cp・(T2−T1)

A君:この話も結構マニアックに思えるかもしれない。エネルギーをこのように考えることによって、化学エネルギーの場合には、ケミカルポテンシャルなる概念が導かれたりしているのですが。

B君:温度と熱、力と仕事、圧力と仕事といったものの区別ができることが重要。

(1−5)熱というエネルギー
 すでに述べたように、熱は、エネルギーの中でも特異な位置を占めている。あらゆるエネルギーの中で、最下位に位置する。すなわち、ほぼすべてのエネルギーが熱エネルギーへ簡単に変換できるのに対して、熱エネルギーを他のエネルギーに変換することは難しい。なんらかの機械的な仕組み、もしくは、熱電素子のような特殊な材料が必要である。
 古くは、蒸気機関、もっとも普通の内燃機関、あるいは、タービンといった仕組みを用いて、熱をまず、運動エネルギーに変え、そのエネルギーで直接機械類を動かすか、発電機を動かす。
 熱機関の効率は、古典的にはカルノーサイクルというものを考えて計算される。高温の作用気体というものを用いて運転するのが普通であるが、単に、高温があればよいというものではなくて、低温源がないと熱機関は動かない。高温と低温との差が効率を決める大きな要素である。低温側は、多くの場合、気温が最低温度になる。となると、できるだけ高温の気体を得ることが望ましい。


(2)エネルギー間の変換と貯蔵

(2−1)位置エネルギー
 エネルギーにもっとも関連する位置エネルギーが、水力発電に使用される水である。水を高いところから落として、その運動エネルギーで水車を回して発電機の動力とする。
 ダムを用いた水力発電所のほか、水路式といって、小さなダムのようなもので水を水路に導き、下流で急激に落下させて発電するものもある。
 電気エネルギーを貯蔵することはかなり難しいが、現時点でもっとも効率の高い貯蔵法が、電池と揚水発電である。電池は、後述するように、電気を物質に変換しなおして貯めるのであるが、揚水発電は、電気で発電機をモーターとして動かし、水をくみ上げて貯蔵する。電気エネルギーを位置エネルギーに変換して貯蔵する。
 ただし、この方式による発電コストはかなり高い。

(2−2)運動エネルギー
 ガスタービンは、高温高圧のガスの膨張力を用いて羽を駆動し、運動エネルギーに変える。熱を運動エネルギーに変えると言ってもよい。
 内燃機関、蒸気機関は、気体を膨張させてピストンを上下させ、その往復運動を回転運動に変える。

(2−3)化学エネルギー
 物質を燃焼させること、すなわち酸化反応によって得られる熱エネルギーが、化学エネルギーのもっとも効率の高い使用方法である。なぜ燃焼なのか。それ以外の反応ではエネルギーを得ることはできないのか。別にそんなことは無いのだけど、酸素という元素のもつ反応性の高さを利用することが、この地球上では効率的であることに過ぎない。もしも、地球上に酸素が無かったら、燃焼以外の方法でエネルギーを得ることになっていただろう。
 もっとも一般的な燃料になる物質は、化石燃料である。これらの主成分は炭素と水素である。もしも物質に酸素が含まれていたら、すなわち、アルコールのような物質の発熱量は少ない。それは部分的にすでに酸化しているからである。
 可燃性の物質を燃焼という方法を用いないで酸化させて電気エネルギーを得る方法論が燃料電池である。 電気エネルギーを化学エネルギーの形で貯めるものが二次電池である。

(2−4)熱の移動
 最近、注目されている技術にヒートポンプ技術がある。古くから冷凍機、冷蔵庫、エアコンなどに使用されてきたものであるが、技術的な進歩によって、熱源としても、この方法の効率の高さが話題になっている。
 特に、電気から熱への転換は、ニクロム線などを使えば非常に簡単ではあるのだが、その効率はそれほど高い訳ではない。特に、数10℃止まりの高温を得たい場合には、ニクロム線を使うよりは、ヒートポンプの効率が高い。最近では、ヒートポンプを使った乾燥機まで登場している。
 ヒートポンプの効率が高い理由は、大気の熱を熱源として利用しているからである。0℃といっても、絶対温度は273Kなのだから、すでにある温度があるわけで、ここから熱を取り出して、高温へと移動させることになる。まさに、熱のポンプである。

(2−5)エネルギーの貯蔵
 いったん化石燃料などの物質からエネルギーを取り出してしまったら、どんな形のエネルギーでも貯めることはかなり難しい。もっとも簡単なことが、物質のまま保存することである。化石燃料であれば、化石燃料のまま保存することが最善の方法である。
 熱エネルギーの貯蔵はかなり難しい。お湯にして魔法瓶に入れるといった原始的な方法が未だに用いられていることからも分かる。
 氷を作って、冷熱としてエネルギーを貯めるという方法もある。それは、物質は、気体、液体、固体などといった存在の形態、一般には相と呼ばれるが、その相を変えるには、エネルギーを必要とする。例えば、固体が液体になるときに必要なエネルギーを溶解熱、液体が気体になるときに必要なエネルギーを蒸発熱と呼ぶ。逆に、液体が固体になるときには、凝固熱という熱を出し、気体が液体になるときには、凝縮熱という熱を出す。
 これらの熱は、「相転移に必要な潜熱」と総称されるが、水の場合でもそうであるように、単なる温度変化に要する熱量に比べると、多量の熱量の出入りを伴う。
 運動エネルギーの保存は相当に難しい。一般的に言えば、電気エネルギーに変えてから、なんとかするということになるだろう。逆に、運動エネルギーを保存用に用いる方法もある。それは、はずみ車である。フライホイールとも呼ばれる。
 位置エネルギーを保存に使うのは、すでに述べた揚水発電がその例である。
 電池とは、電気エネルギーを物質に変換して貯蔵する方法であるが、通常、二次電池と呼ばれるものがそれである。歴史が古い技術なので、進歩の速度はそれほど速くは無い。しかし、比較的最近開発された二次電池として、リチウム電池、ニッケル水素電池はまだ着実に進歩を続けている。
 現在話題になっている水素エネルギーは、水を電気分解して水素を取り出すものとされている。実際には、この方法をエネルギー貯蔵に使うことは無いのではないか、と思われる。それは、水の電気分解には、使用する電極の種類にもよるのだが、電解過電圧と称する余分な電圧が必要で、そのため、エネルギー効率が50%程度しかないためである。さらに、得られた水素を貯めることも非常に難しい。
 これらの他に、超伝導を使ったコイルにエネルギーを貯める方法など、いくつもの方法が提案されているが、実際には、なかなか実現されない。それは、もっぱらコストの問題であって、いくら高価になったとは言っても化石燃料が未だに安すぎるからである。


(3)人間社会が使っているエネルギー

(3−1)石油、石炭、天然ガス、バイオマス
 化石燃料は、石油、石炭、天然ガスなどがある。天然物だけに、ほとんどすべての元素を含んでいるが、主成分は、炭素と水素である。
 石油の平均的な組成は、CH2である。石炭の平均的な組成は、CHである。天然ガスは、CH4成分が多い。燃焼させれば、炭素も水素も燃えて発熱する。水素分の多い天然ガスの方が、二酸化炭素の発生量は相対的に少ないことになる。石炭が二酸化炭素発生量という観点から見れば、もっとも不利である。
 バイオマスとは、地球上に存在する植物などの生物資源を言う。多くの植物の構成要素であるセルロースの組成は、荒っぽく言えばCH2Oである。すなわち、酸素を含んでいる。この組成をC−H2Oと見れば、すでに、水素は燃えていて水に変わっていることになる。すなわち、発熱量は、炭素が燃える分でしかない。そのため、発熱量あたりの二酸化炭素の発生量は、バイオマスの方が却って多いのであるが、もともと植物に含まれている炭素は、空気中の二酸化炭素を固定したものであると考えられているために、正味の二酸化炭素発生量はゼロであると考えることになっている。
 バイオマスは、多くの場合に固体なので、輸送には面倒が多い。そのため、アルコールなどの液体燃料にして使う場合も多い。ただし、一般的には、アルコールになるのは、糖分やでんぷん分であって、セルロース分はアルコールにならない。しかし、セルロースとは、糖分が多数結合したものに過ぎない。しかも、牛や羊などは、反芻しつつ胃の中の微生物によって、セルロースを分解して栄養源にしている。そのような微生物を利用すれば、セルロースからエネルギーを得たり、あるいは糖類に変換して、アルコールなどを得ることが可能になる。
 バイオマスの特殊なものとして、油を産する植物から得た油を使用するというものもある。いったん調理用などに利用した廃油をディーゼルエンジン用の燃料に変換することも行われている。

(3−2)再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーとは、太陽が地上に与えてくれているエネルギーを直接間接に使用する方法を言う。利用するエネルギーの形態としては、直接的には、電気、熱のいずれかである。
 太陽光電池は、直接的に電気を得ることが可能であり、日本の太陽電池設置量は世界最大である。しかし、コストが高いことと、装置製造のためのエネルギーの使用量が多いこと、お天気任せ、が欠点だろう。
 風力発電は、大型の1MW級の風車であれば、かなり早く建設コストの回収が可能である。しかし、それこそ風任せであるために、安定したエネルギー源にするのは難しい。なんらかのエネルギー貯蔵法の開発が非常に重要である。
 すでに述べた水力発電にも、最近、マイクロ水力と呼ばれる小さな水車が注目されている。発展途上国などで、このような水車を利用し、1軒の家に、電灯1個とラジオだけでも供給することが可能になれば、文明を共有できる最低限の条件を満たすことになる。このような進歩によって、出生率も低下する可能性が高い。
 太陽熱の利用には、低温のお湯を得る方法と、高温の蒸気を得て、発電などに使用する方法があるが、日本においては、あまり検討されていない。やはり、雨が多い土地柄だからだろうか。
 バイオマスも、再生可能エネルギーに分類される。 今後、開発すべき再生可能エネルギーは、日本の場合には、海洋エネルギーである。海洋エネルギーのうち、一つは潮流発電で、漁業権などの問題が片付けば、相当の発電量を稼ぐことが可能なのではないかと思われる。もう一つは、海洋温度差発電である。佐賀大学が研究をしているが、実現性は未知数。

(3−3)電力
 日本では、電力は、水力発電、火力発電、原子力発電の混合。
 水力発電は、揚水発電と通常の発電。
 火力発電は使用燃料によって分類されており様々なものがある。天然ガス、石油、原油、石炭、などなど。廃棄物発電なるものもある。しかし、あまり効率は高くない。それは、火力発電の場合も熱機関であるために、どれほど高温の水蒸気を使っているかによって効率が決まるが、高温の水蒸気は同時に高圧であり、それを発生させるようなボイラーの管には耐久性が必要になる。廃棄物を燃やすと、主として塩素分と鉛やアルカリ金属がボイラー管の金属を腐食させるため、あまり厳しい条件で運転ができないからである。
 原子力発電といっても、特別なことをしている訳ではない。原子炉が熱を出し、その熱によって水蒸気を作ってタービンを回して発電している。要するに火力発電と同様である。一般に、原子力発電の方が水蒸気の条件などは、火力よりも厳しくない条件で運転されている。
 電力消費の単位はWである。実際には、消費する率を示す。100Wの電球(実際にはやや低いが)を10時間点灯すると、1000Whという電力を消費したことになる。

(3−4)ガス
 家庭用に配給されているガスは、かつては石炭ガスであった。石炭ガスは、一酸化炭素を含んでいたために、致死性があった。しかし、最近のガスは天然ガスである。天然ガスは、アラスカなどで採掘されたものが、冷却され液化天然ガスとして日本まで運ばれ、海水を使って気化してガスとして配給されている。主成分はメタンである。
 このメタンを使って、家庭に電気とともに熱も同時供給するシステムが注目を集めている。コジェネレーション、省略すればコジェネであるが、どうやってガスから発電をするか、様々な方法がありうる。現時点では、ガスエンジンを用いる方法がもっとも妥当な方法である。ガスエンジンは、通常の内燃機関であって、単にガソリンの代わりにガスを使うだけである。大型のものでは、すでに発電効率も高くなっている。
 一方、燃料電池を使う方法は、燃料電池のコストと技術的な未熟さが解決できそうもないので、向こう10年以上、あまり多くを期待することはできないだろう。未来技術だと思えばよいだろう。

(4)単位の換算など、実用のための知識
 エネルギーに関して、いくつかの計算ができることが望ましい。
 その一つが単位の換算である。エネルギーの単位は、J(ジュール)である。熱の単位は伝統的にはcal(カロリー)であった。もちろん、熱もエネルギーの一種であるから、変換が可能。

1cal=4.184J

 J(ジュール)という単位は、仕事の単位でもある。力の単位はN(ニュートン)だが、1Nの力を常に加えて、ある物体を1m移動させるのに必要なエネルギーが1Jである。力を加えると、物体は移動を始めてしまうので、常に1Nという一定の力を加えることは大変に困難ではあるが。
 物理量には、次元と呼ばれるものが付いている。1mのm(メートル)は距離の次元であり、1秒のsecは時間の次元である。1kgのkgは質量の次元である。力というものの次元は、1Nの定義が、1kgのものを押したとき、1m/sec^2の加速度が生ずるような力であるので、Nの次元は、kg・m/sec^2となる。これに距離をかければJの次元になる。すなわち、Jの次元は、kg・m^2/sec^2である。

 W(ワット)という単位は、1Jの仕事を1秒で行う仕事率と呼ばれるものを示す単位である。すなわち、
 1W=1J/sec である。

 熱機関の効率とは、使用した燃料の発熱量で、実際に運動に使用されたエネルギーを割ったものである。%で表現することが普通である。ガソリンエンジンだと、15%程度だと思えばよい。走行に使用されたエネルギーも、最終的には、ブレーキによって熱に変換されるため、車は、すべてのエネルギーを最終的には熱に変換している。


(5)練習問題

問題1: 大人は、1日に2400kcalの食事をすると仮定する。さて、体温を一定に保つためには、1秒間に何Jの放熱をする必要があるか。

問題2:ヒトは暑くなると汗をかくことで体温を調整している。1日に2Lの水を飲むが、そのすべてが汗になるとしたら、汗によって1秒間に何Jの熱を放熱することになるか。ただし、水の37℃での蒸発熱を580cal/gと仮定する。

問題3:ヒトの体温を37℃とすると、室温が25度のときに、1秒間に120Jの熱量を放出しているという。問題1の答えと比較し、考察せよ。

問題4:エネルギー保存の法則、質量保存の法則が成立するのは、実は見かけ上のことである。相対性理論により、質量とエネルギーとは、次の式にしたがって、相互変換が起きている。
  E=mc^2
 石油1kgが燃焼するとき、どのぐらいの質量が減ると考えられるか。

問題5:体重60kgの人が、800m(10分間)歩行すると、60kcalのエネルギーを消費するという。人を60kgの箱だと仮定し、それを800m押して移動するのに必要なエネルギーが60kcalだとして、箱と道路との動摩擦係数μを概算してみよ。
摩擦力はF=μNと考えよ。ただし、Nは重さの60kgを力に変換したもの。重力加速度は9.8m/sec^2とすると、N=60×9.8である。

問題6:エアカーというものがある。圧縮空気を動力としている300Lのガスタンクに300気圧の空気をためると、そのエネルギーは50MJに相当するという。このエアカーの効率を70%と仮定し、ガソリン車の効率を15%と仮定したとして、50MJ分のガソリンタンクの大きさは何Lになるか算出せよ。