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  日本の製造業の原油高騰への対応戦略 その1 01.13.2007
     



この話は、1月17日に国連大学で行われるエネルギー関係の国際シンポジウムでの発表の一部、あるいは、そのベースをなすものである。

原油価格が高騰し、場合によっては、急落して落ち着きの無い相場になっている。

日本の製造業は、原油価格の変動をどのように理解し、どのような戦略を考えているのだろうか。


C先生:昨年の秋から、何社からの技術系役員もしくは、担当部長クラスの方々にご協力をいただき、このところ変動が激しい原油価格に対して、そのような対策を考えておられるのか、その戦略について伺ってみた。

B君:一応、ヒアリングの場に同席した。まあ、企業秘密があるから、細かい数字は分からない。例えば、原油価格が10ドル上がると、製品コストがいくら高くなるか、など、興味津々だけれど、流石にデータの公表は行えない。そのためヒアリングでも質問していない。

A君:今回のこの研究プロジェクトには、全く参画していないのですが、企業秘密に関することでは、そんな感じで当然ですよね。いずれにしても、この手のヒアリングをどのようにまとめるのか、その方法論に興味ありですね。

C先生:といわれるとツライ。方法論と呼べるようなものは、無い。統計的な方法論が採れるというものでもない。それに、ヒアリングのときには、その企業を代表した発言以外に、その業界の常識あるいは共通意識という観点からの回答も期待している。統計的に、いよいよ分からない聞き方だったのだ。

A君:それほど多数のヒアリングをやる訳にも行かないでしょうから、当然でしょう。

B君:ということで、本HPでは、特に雑駁な報告にならざるを得ない。

C先生:まずは、いくつかの業界についての概要を雑談的に述べてみよう。どこから行くか。

A君:このところ本HPで話題の自動車では。

B君:そうしよう。まず、自動車業界にとって、原油価格が上昇するということの影響は、あたり前だけど、まずガソリン・軽油代の高騰という形を取る。過去の例からみて、ガソリン・軽油が高騰しても、車の販売台数には大きな影響は無いことが知られているので、それ自身が大きな妨害要因になるという理解は無さそうだった。

C先生:多少、燃費の良い車へのシフトというものは起きるのだが、車そのものの購入する側にとって、例えガソリンがリットルあたり150円になっても、ガソリン代以外の車の維持費、購入費用に比べれば、それほど大きな問題ではない。

A君:年間1万キロ乗ったとして、リットルあたり10kmの燃費で1000リットルを消費と仮定すると、15万円必要になりますね。月1万円強ということだと、まあまあなんですかね。リットル300円になると違うでしょうが。

B君:10km/Lという車は、まあ大食いだ。その車は車両価格がかなり高いことになる。相対的に燃料代はそれほど財布には響かない。

A君:維持費として、車検費用だって、保険だって、税金だってバカにならないですからね。もっとも、ガソリン代だと1円でも安い店を探したりしますが。

C先生:ということで、自動車産業としては、原油高騰で自動車の販売台数そのものが大幅に減少するという想定はしていない。となると、むしろ、対応は別のところで行われることになる。

B君:車の製造コストへの影響はどうだ、という話になる。1トンの車で100万円だとして、もっとも影響を受けやすい材料価格がそのうちのいくらぐらいになっているか。

A君:車に使う材料だともっとも多いのが鉄とアルミ、それにプラスチックと板ガラス。金属の価格は、原油価格以前から上昇していますよね。大体2003年ぐらいから、中国の資源ブラックホール現象のために。

C先生:その通り。どうも、エネルギー価格で材料の価格が大幅に動く可能性があるのは、非常に安価な材料であるセメントぐらいなもの。鉄ぐらいの価格の材料であっても、エネルギー価格というよりは、やはり材料そのものの需給バランスで価格が決まると言えるだろう。

A君:市場の価格を多少調べてみましたが、鉄ぐらいの価格とは、普通の鋼板で、2000年で1kgあたり45円ぐらい。それが、2002年までは、逆に少々下がり、2003年から多少あがりはじめ、その後かなり急騰して、2005年が83円ぐらい。2006年はまた少々下がっている。この上昇は率にすればかなりの割合。

B君:念のため、ガソリン価格は、2000年から2003年までが97円。2004年から2006年まで、それぞれ、103円、113円、122円となっている。

C先生:鉄の価格の上昇は、やはり鉄の需給が締まったためだと言えるだろう。

A君:板ガラスの価格などを調べてみると、エネルギーを大量に消費する素材なのに、2000年から2006年まで、逆に価格は下がっていますね。

C先生:さきほど、セメントの価格はエネルギー価格が上がると上がるはず、と述べたが、実は、セメントの価格も2000年から2006年までで多少下がり気味なのだ。板ガラスと同様の傾向だ。

B君:セメント、板ガラスは、エネルギー価格の製品価格への転嫁ができなかったということになる。

C先生:いずれにしても、車のコストに占めるエネルギー価格変動の割合は、大きくなかった、と言えるのではないか。

A君:車が全部鉄でできていたとしたら、1トンの車でも3万円程度の上昇。これは、値引きを多少止めればなんとかなる、といったところでしょうか。

B君:部品の製造コスト削減などでカバーしたのではないだろうか。

C先生:車業界だけではなくて、家電製品なども似たようなところがあって、いつでも部品価格には、厳しい値下げ要求が行っている。それでもなんとか対応できてしまうのが、逆に不思議なぐらいだ。

A君:いずれにしても、車の価格は、エネルギーよりも、鉄なら鉄の需給で決まる。だから、コストもエネルギー価格の変動を直接受ける訳ではなくて、なにか別の要因があれば、問題になる。

C先生:その通り。車の場合、それは何か?

A君:それは、このところの動向だとバイオエタノールでしょう。日本だとバイオディーゼル燃料は、余り考えられていないので。

B君:日本は軽油が余るような製品バランスをもった石油精製工程になっている。だから、軽油の価格を下げて対応するので、バイオディーゼルの競争力があるか、と問われるとつらいところだろう。

C先生:バイオエタノール対応という答えは、正解だろう。となると、ブラジルのように100%エタノールから、日本がまもなく対応するような3%だけエタノールを含むガソリンまで、幅広いガソリンに対応しなければならない。

A君:ブラジルでは、どんな配合のガソリンにも対応できる車ばかりになっているようですね。

C先生:そうなのだが、ブラジル人に聞いてみたら、力が必要な状況になると、やはりガソリン分が多い燃料を買って、ゆったりと走るときには、エタノールを買うとのこと。だから、発熱量が違うと性能が違うという本来的な限界を乗り越えている訳ではないようだ。

A君:それは、ブラジルの技術が悪いのでは。

B君:そうも言えるが、それだけではないということのようだ。

C先生:いずれにしても、燃料の相違は多きい。特に、エタノール100%の燃料だと、低温時でのエンジンの始動性が悪い。日本で、これに対応しようとすると、かなり大変なことになる。

A君:米国はもっと寒いですね。

B君:だから、米国では、エタノールの最大のもので85%。いわゆるE85だ。ここまでだと、ガソリンが若干でも入っているので、低温時でもエンジンがちゃんと掛かるようだ。

A君:米国の冬にエンジンが掛からないと、それは命にかかわりますからね。

C先生:ということで、自動車業界としては、輸出用の車を対象として考えると、様々な燃料に対応をする必要が出てくる。これがコスト要因になっているようだ。すなわち、エンジンの調整がかなり難しい。手間が掛かる。

A君:なるほど。最近、メルセデスが日本にもディーゼル車を導入しましたが、日本企業はやらないのでしょうか。

B君:バイオディーゼルということではなくて、通常の軽油用でも、超高圧の燃料噴射装置をもったエンジンを作る必要がある。これが結構高いらしいのだ。

C先生:現状では高いということだろう。機械なので、大量生産すれば、なんとかコストは下がるのだが、今の日本の状況でディーゼルを作っても売れないし、製造コストを下げるだけの生産量にならない。

A君:ヨーロッパでは、日本の各自動車会社はディーゼルなので、逆輸入をすれば良いことになるのでは。

B君:将来そうなるのではないか。それには、ディーゼルの排気規制がどうなるか、それが鍵か。

C先生:現在の新長期規制の次の規制で、恐らく世界統一的な数値になるのではないか。現時点だと、日本の規制の方がヨーロッパよりも厳しいが。

A君:自動車会社にとっては、やはり国際的な標準が決まった方がやりやすい。現時点だと、中国の規制はすべてヨーロッパの方向を向いている。

C先生:そこが少々心配なところだ。さて、こんな状況が現時点。しかし、プリウスの販売台数が10月で全車ランキングの5位になったというような話題もあって、燃費の良い車へのシフトも大変だ。

A君:しかし、プリウスは、製造コストを考えると、安すぎる。本来、もっと高く売るべき車でしょう。いや、他の車が高すぎるのかもしれない。

B君:トヨタとしては、苦しいのではないか。現時点でも損はしていないのだろうが、すべての車がプリウスになるのは困るだろう。

C先生:それでも、売れ筋を抑えておく必要はあるので、ハイブリッド車、特に、専用のボディーをもったハイブリッド車は重要な鍵になる。

A君:ハイブリッドも現在のプリウスで2代目のシステム。これが1年後には、3代目のハイブリッドシステムになって、さらに燃費が良くなるのでしょうね。

B君:もうそろそろ究極に近いとも思うが。

C先生:今のプリウスへの不満といえば、それは冬寒いこと。プリウスの場合には、シートに電気ヒーターを仕込むといった方法論が良いのかもしれない、などと思うのだ。

A君:一般的な常識としては、電気でヒーターを動かすのは、エネルギー的に大損のはず。

B君:しかし、プリウスの場合だと、エンジンの余熱で暖房をしようとすると、暖房のためにエンジンを動かすことになるが、排気などに逃げていく熱量がばかにならないはずだ。電気ヒーターの方がまだマシという計算にはならないだろうか。

C先生:誰か専門家のご意見を伺いたいところだ。

A君:結論的には、原油価格高騰では、ハイブリッドが売れる。だから、それへのシフトは加速。

B君:旧来のシナリオだと、水素燃料電池車ということになっていたが、大分状況が変わってしまった。

A君:しかし、一部のメーカーでは、相変わらず水素燃料電池車本命説で動いているように思いますが。

B君:ハイブリッドの開発に投資をして来なかったところは、そう言わざるを得ないのではないか、と推測している次第。

C先生:まさにその通りではないだろうか。このあたり、本HPではすでに結論を出しているが、
HydrogenTerminated.htm
今回は詳しい議論はできない。結論は保留ということにしておこう。

A君:結局のところ、当面、自動車は、燃料の多様化への対応を進め、燃費の改善でがんばるということが、原油高騰への対応ということになりますか。しかし、日本では、ディーゼル乗用車は作らない。売るとしたら、欧州からの逆輸入。

B君:まあ、そんなところだ。将来の話は色々だし、アルミを多用した軽量化もすぐには実行不能。やはり、市場の好みというものに合わせた製品作りが優先されるので。

A君:消費者のコスト意識は上がっていますからね。

C先生:さて、最後に、エネルギー価格の高騰が、自動車産業にとってマイナス要因か、という質問に対しては、必ずしもそうではない、という回答だった。未来技術への投資が速くなって、ある意味での競争が厳しくなり、勝つメーカー、負けるメーカーが出てくる。これは、強いメーカーにとっては、有利な状況でもある。ただし、弱いメーカーは、別の生存策を講じる必要があることになる。

A君:中国などとの関係もあるのでしょうか。

B君:中国での車作りは進めるが、エネルギー価格の高騰と関連して、何か大幅な戦略の変更が必要ということではないだろう。

C先生:以上で自動車産業は終わりにして、若干、似た要素のある産業として電機を取り上げるか。

A君:電機産業の製造コストも、原油価格の高騰によってそれほど上がるというわけではない

B君:ガソリン代と違って、電気代はそれほど変わらないのだが、それでも省エネ的な意識は高くなるので、電気製品も省エネに向かう

C先生:ただ、日本の電気製品ほど世界的にみて精緻に作られたものはない。米国などでエアコンを動かしてみれば直ぐ分かる。韓国でもそんな感じだ。だから、日本で省エネに向かったとしても、他の国だと、それほどの方向性にはならないのではないかと思う。

A君:ヒートポンプが付いた洗濯乾燥機などというものは、日本以外には無いですからね。

B君:この業界も、消費者のコスト意識を相手にしているので、この業界に部品などを提供している中間メーカーは、毎年、何%かのコストカットを実施する必要がある。

C先生:しかし、一方で、この業界は、三菱電機のグラファイト製の釜を使った電気釜のような高付加価値品が売れるというところでもある。洗濯乾燥機が20万円もするのは、信じられないが、そこそこ売れている。

A君:しかし、コストダウンばかりでは、機器の信頼性が揺らぎかねない。そろそろソニーのリチウム電池のような事態が、色々な状況で出てくるのでは。

B君:コスト競争は、必ずしも儲かるばかりではない。トラブルになれば、社の名前に傷を付けかねない。

C先生:ここで前半の部は終わりにする。ここまでの結論では、原油価格の上昇は、すべての企業にとって必ずしも悪いものではない。自動車産業、電機産業いずれも、コストアップには、むしろ素材のアップが利いて、エネルギー価格のアップによる間接的効果はそれほどでもない。むしろ、省エネマインドによって、新しい製品の開発が可能になる。強者は開発費を掛けるのでより強くなり、弱者は、そのまま取り残される。原油価格は、企業の格差を生む要因にはなっている。社会全体としてみれば、当然、省エネには向かう。といったところだろう。