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  21世紀環境立国戦略 06.02.2007
     



 安倍首相の施政方針演説がきっかけではじめられたこと。「21世紀環境立国」の諮問に対する、環境省中央環境審議会の特別部会の答申書(提言)がでて、「21世紀環境立国戦略」が6月1日に閣議決定された。
http://www.env.go.jp/guide/info/21c_ens/21c_strategy_070601.pdf


C先生:パブリックコメントを募集していた4月時点、議事録を読むとあまりにもなんでもありの焦点の定まらない議論をやっているようなので、業を煮やして、パブコメに書き込みをしてしまった。

A君:こんななんでもありの提言を出すことになると、「自らの関係するキーワードが削られると大変だ」、「是非この機会に、自分に関わる表現を入れさせよう」、ということで、皆さん努力しますからね。

B君:したがって、一度なんでもありのスタンスを取ったら、最終的に目鼻立ちの全く無いノッペラボウな提言になる。

C先生:毎回言っていることだが、「立国」とは、「何で生きるか」、「何をやって経済的に自立をするか」、というのが本来の意味。今回の環境立国戦略は、「拡張立国」の議論をしていて、本来の使命がずれているような気がする。

A君:「拡張」の意味するところとは、「どんな環境を日本に実現するか」、というビジョンみたいなもので、この種の議論は本来、経済的に自立できることが確立した後にその収益をどう使用するか、という議論。立国にも多層構造があるのも事実ですが、そのもっとも基盤となる本来の「立国」の議論が甘い、という意味ですね。

B君:最近のように、地域格差が目立ってくると、自分の地域をどうしてくれるんだ、という選挙民が増えている。誰かが稼いでくれれば、それを自分の地域の「自立」のために使いたい。これが立国だという身勝手な議論があるからだろう。

C先生:確かに。委員の多くが、「環境立国」とは、日本の「環境ビジョン」を書くことだと誤解しているのだろう。

A君:最近、教育再生会議の評判が芳しくないですよね。6月2日の朝日の社説の表現によれば、「それにしても、名だたる有識者がそろいながら中身が薄っぺらになってしまったのはなぜだろう。会議の進め方とメンバー構成に問題がありはしないか」。

B君:「有識者」といっても、「教育とは関係の無いところでの知的成功者という程度の意味」。最近、審議会のメンバーを決める官僚だけでなく、政治家も同様の考え方を持っているようなのだ。「有識者という名前の素人」を集めれば何か新しい提案が出のではないか。これは「幻想」だ。

C先生:「環境」と「教育」の共通点は何だ? それは、「誰でも何か語れる」、しかし、「その提案の真価はプロにしか評価できない」。私自身、初等中等教育について有効な進言ができる自信は無い。しかし、一方で、素人は素人としての突飛な発想があるのも事実。「素人だから黙れ」というのは、間違った発想だ。何かの分野でのエクスパートは、別の分野でも何か提案が出来る可能性がある。しかし、提案は妥当だとは限らない。教育再生会議に「教育研究のプロ」を入れて、それぞれの委員の発言が本当に妥当なのか、チェックをして貰うのが重要。

A君:「素人」の意見を聞こうという発想の根底には、「現場は信用できない」という深層心理があるのでは。「教員は当事者だから、自らの利益の誘導のために、歪曲した意見を述べる可能性が強い」、という感触。

B君:それは政府不信と同じ心理だな。日本人の政府不信はどこに原因があるのか。しばしばメディアの報道のためだとされるが、それだけなのだろうか。

C先生:先日、東大の住明正先生と話をしていたら、そんな話題になった。住先生によれば、「西欧諸国では、市民は政府を「自ら選挙した政府」だと思っている。日本では、内閣ですら、自ら選択した内閣だ、と思っている人はいない。霞ヶ関はさらに論外。その根底には、『為政者は、市民を搾取する壮大な仕掛けだという思想』があるが、これがアジア諸国の特徴だという」。

A君:中国国民に遵法精神が無いのは、そのためということですか。

B君:「政府とは、国民を搾取するためにある」、メディアは、この国民感情を旨く使って、売れる記事を書こうと思っているから、いつでも大体そんな論調になる。

A君:やはり日本も大統領制にして直接選挙でしょうか。

B君:加えて、中選挙区制の復活が必要。現在の小選挙区だと、良心的な政治家が当選し難い。利益誘導型政治家だけが勝ってしまう

C先生:例によって雑談でスタート。もっとも今回の環境立国戦略は、中間取りまとめとそれほど変わってはいない。最大の違いが、8ページに、安倍首相が演説で述べた「美しい星50」という”世界レベルでの取り組み”が加わったこと。それだけでも十分意味はあるのだが、実際のところ、世界レベルの取り組みだけでは無意味。日本が何をどこまでやるのかどこにも書いていない。

A君:東京都は、「排出量にキャップを掛けて、排出量取引というものを行う」という方針が発表されました。

B君:ニューヨークのタクシーハイブリッド化に対抗してきちんとフォローを出してきた。

C先生:まあ、何はともあれ一つ一つ行こう。戦略が全部で8つある。
 戦略1:気候変動問題での国際的リーダーシップ。「美しい星50」が謳い文句。それは、
(1)世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減、
(2)革新的技術の開発
(3)低炭素社会づくり
(4)日本モデルとして世界に向け発信

の四項目。中身が書かれているのは、まあ、革新的技術で、CCSをつけた石炭火力発電、安全で平和的な原子力、高効率低コストな太陽光発電・燃料電池、次世代自動車、水素による製鉄プロセスが例示されている。

A君:現有の技術をいかに社会システムに組み込むかが書かれていない。

B君:それを書くと、各社の利害が衝突するのでね。タクシーを全部ハイブリッドに、となれば、プリウスだけになってしまう。トヨタ以外が怒る。

C先生:「中期戦略とその実現」が提案2。 2013年以降の国際的枠組みを次の3原則で、という提案。
原則1:主要排出国がすべて参加。
原則2:各国の事情に配慮した枠組み
原則3:技術をいかし、環境保全と経済発展の両立

A君:C先生の主張、トップランナー方式を世界へ、のような具体的な提案は無い。

B君:世界的に技術開発競争が起きることが解決の道だと思うのだが。

C先生:「マイナス6%の実現するための国民運動」が提案3。
 具体的目標は、「1人1日1kg」だが、具体策がいささか。サマータイムの提案など、効果は見えない。

A君:環境税をやはり書けない

B君:97年の京都議定書以来、ほぼ10年間無策だった。いきなり何かやろうというところにもともと無理がある。

C先生:その後、戦略2として、「生物多様性の保全」があるのだが、これは、拡張立国の議論。

A君:その次の戦略3の3Rの方が戦略性が必要。アジアでの循環

B君:戦略4として公害克服の経験を生かした国際協力

A君:ダイオキシン対策の焼却炉も確かに世界に誇る技術ではあるが、途上国にとっては余りにも操業コストが高い技術。

B君:戦略5が本当の立国の議論である、「環境・エネルギー技術を中核とした経済成長」。しかし、いささか深みが足らない。再生可能エネルギーの飛躍的な普及といったって、電力会社のメンタリティーを逆撫ぜするだけ。燃料用バイオエタノールも、農業対策的色彩が強い。

C先生:戦略6の地域づくりも、本来の立国論ではない。省エネ都市などを増やすといった方向性が少なすぎる。

A君:戦略7の「環境を感じ、考え、行動する人づくり」だが、これも立国論ではなく、環境ビジョン。

B君:戦略8の「環境立国を支える仕組みづくり」は、かなり本来の立国論に関係する議論なのだが、まだ生煮え。

C先生:この座長を務めた鈴木基之先生の見解というものが出ている。「社会経済システムを持続可能なものに変革していくためには、公的部門自らが変革を進めるとともに、市場を始めとする私的部門に変革のためのシグナルを送る必要がある。このために、様々な政策手法を組み合わせた効果的かつ効率的な環境政策のあり方を検討するとともにすべての公的部門の政策に環境配慮が織り込まれる手法について早急に検討され、実施に移されることを期待したい」、というもので、やはり相当な苛立ちを感じさせるものだ。現実重視の綱引きに嫌気をさしたのだろう。「変革」という言葉の多様にそれを見ることができる。
http://www.env.go.jp/guide/info/21c_ens/comment_suzuki.pdf

A君:どうも中身の議論にならなかったですね。

B君:東京都ぐらいの「CAP&取引」といった提案が入ると多少インパクトがあった。まあ、今の委員構成では、保守を至上命令としている委員もいるので、無理。

A君:現状重視という姿勢は、例えば、バイオエタノールの項(p19)に、「エタノール直接混合のE3やETBE混合ガソリンの普及」といった言葉に端的に現れているように、ETBEを切れなかった姿勢に端的に現れている。

C先生:具体的なキーワードを拾い上げると、面白いということかもしれない。

A君: この「戦略」にキーワードを載せることに、環境関係の官庁は相当に気を使ったはず。だから、現在進行中、もしくは今後1〜2年の動向を明確に示している。

B君:なにか予算が付いている、あるいは、予算が増えるという判断ができる。

C先生:まあ、余り本質的だとは思わないが、関心のある方々も多いだろう。なぜ本質的だと思わないか、といえば、それは、立国戦略の基盤的情報ではないからだ。その稼ぎを何に使うかという二次的な議論に過ぎないからだ。逆に言えば、ここに出ているような項目は、本当の意味での長期的立国戦略では無いのだ。本当の期待は、ここに上がっていない技術の創生にある

A君:それでは、まあ行きます。しかし、どうします。予算が関係する分野、研究などを推進する分野と分けますか。

B君:まあ、分かりやすく。

A君:分類は適当にやりますが、国の方針ということで、担当省庁別の考え方を優先させて分類します。

A君:まずは、

革新的技術:これらはエネルギー特別会計から予算がでるかもしれない。

CCSをつけた石炭火力発電、
安全で平和的な原子力、
高速増殖炉
高効率低コストな太陽光発電・燃料電池、
次世代自動車、
水素による製鉄プロセス
超燃焼システム技術
新たな省エネトップランナー基準
次世代環境航空機

B君:これは、ここ1,2年で重点的に着手すべきという注が付いているだけに、余り革新的な技術の記述は無い。まあ、方向性だけということだろうか。

A君:となると予算がでるのは、CCS、原子力とこの2点でしょうか。
 次ですが、既存技術の普及が中心。

低炭素化技術の普及促進:同じく、エネ特から多少の補助金がでるかもしれない。

エネルギー管理の促進、
省エネ機器の普及促進
中小企業の排出削減
バイオマス熱利用拡大
太陽光発電普及
ノンフロン製品の普及促進
廃棄物発電の強化
中低温排熱活用
省エネ型住宅
地中熱利用


B君:これらはコストが問題とも言える。いまさらといいながら、なんらかの補助金を出すために、環境税が欲しいところ。なににつけても税金の流れを多少変える必要があるが、これがこの現代日本でもっとも難しいことかもしれない。

A君:循環型社会は、武田先生のリサイクルしてはいけないというメッセージンにも関わらず、世界でもっとも豊富な技術と社会的枠組みを持っている。重要な商売のネタになりうる。

循環型社会:環境省・経産省の支援あり?

3R技術の海外普及
アジア工科大学を拠点校
廃棄物系バイオマス活用
隙間の無い化学物質管理

B君:余り金にはなりそうもないが。アジア工科大学を拠点校にするというのは、面白い考え方だ。

A君:化学物質管理も、リサイクルがらみで進めるという方向性ですかね。
 次ですが、環境保全。


環境保全:環境省の予算配分が期待できるか

森林・自然との共生
環境配慮型農業
微小粒子状物質対策
ヒートアイランド対策
森林吸収目標の1300万炭素トンの達成


B君:森林吸収の推進は、重要項目なので、予算をなんとかしないと。

A君:これ以下は、余り大きな予算は流れないでしょうね。地域開発を環境立国の枠組みでやるのも、もともと変なので。


生物多様性・地域社会:環境省と一部農水省か多少補助するか

satoyamaイニシャティブ
国際ネットワーク
いつものにぎわいプロジェクト
野生復帰
外来生物対策
エコツーリズム
グリーンツーリズム
森林セラピー
藻場・干場、サンゴ礁
遊べる水辺
国産材の使用拡大
緑の雇用推進


B君:本来の「立国」からはかなり外れるものが多いので当然だろう。日本のエコツーリズムねえ。

A君:都市・交通問題は、むしろ自治体がガンバルべき。しかし、予算が無い。国土交通省どうする??

都市・交通問題:自治体? 国土交通省?

公共交通の活用
効率的な移動システム
コンパクトな都市・まちづくり
総合静脈物流拠点
雨水・下水再生水活用
雨水浸透施設
都市河川の復活

B君:確かに、一部国は土交通省といった感触だ。

A君:海外案件。まあアジア。しかし、ODAの予算は、毎年4%削減が決まっているので、ODA枠の有効活用とともに、ODA枠外での援助という形を取ろうとしているのでしょう。


アジアの環境・公害対応:予算はODA外。

環境モニタリング
環境汚染防止技術
持続可能な交通
酸性雨・黄砂、大気汚染対策
海洋汚染対策
水資源の汚染対策
飲料水
合併浄化槽
膜処理技術
漏水率の低い水道技術
アジアの環境リーダーの養成
日本環境技術の学習機会提供

ODAは

環境重視のODAに変質
ODA以外の枠による協力へ

B君:アジアの環境リーダーの養成をアジア工科大学と日本でやるといった枠組みは有り得る。

A君:以下はメッセージのみでしょうか。


国民生活:ここは協力依頼だけか

クールビスの定着
温度管理の徹底
ゴミの減量による廃プラスチック削減
電球型蛍光灯
ESCO事業
サマータイム
サービサイジング
環境負荷の見える化
エコドライブ
マイバック利用
カーボンオフセット


資本市場向け:メッセージのみ

自主参加型国内排出量取引
金融機関の環境面のガバナンス
SRIの拡大
金融のグリーン化
エコアクション21の活用


研究コミュニティー向け:メッセージ

温暖化の影響評価と適応策
途上国における能力向上支援
地球観測継続
マテリアルフロー会計
LCAの普及
資源生産性


教育コミュニティー向け:メッセージ

いつでも、どこでも、誰でも


B君:まあ、そんな感じだろう。それでも、この文書にキーワードとして載らないよりは載った方が良い、と担当者が考えるのも納得できる部分でもある。

C先生:ご苦労。まあ、「なんでもありの戦略」であることが良くお分かりだと思う。なんでもありの戦略は、実は戦略ではない。選択と集中こそが戦略なのだけど。