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  環境立国と温暖化への対応 04.15.2007
      鉄鋼業界のポジションペーパー      



 安倍総理の施政方針演説に出てきた「環境立国」を具体化すべく、環境省は、3月に中央環境審議会の元に特別部会設置して4回に渡って開催した。本特別部会は、まだ継続中である。
 この部会の委員が誰であったか、また、どのような議論がなされたか、については、すでにHPに公開されている。
http://www.env.go.jp/guide/info/21c_ens/index.html
 現状、論点整理(案)が公表されており、
http://www.env.go.jp/council/32tokubetsu21c/y320-04/mat01.pdf
それに対するパブコメの締め切りが4月30日である。読者諸兄も是非ともパブコメへのご意見(1000字以内)を送付していただきたい。
 本日は、この環境立国論について、多少議論した後、3月29日に鉄鋼連盟が発表したポジションペーパーについても検討してみたい。


C先生:最初は、環境立国について、論じよう。まず、立国とは何かだが、環境立国という耳慣れない言葉を目の当たりにすると混乱するのだろうか、各委員が環境のあるべき姿について自らの立場からの意見を述べているが、それがほとんどすべてであって、立国については述べている委員は少ない。広辞苑には、立国とは、国を建てること、建国、とある。

A君:立国という言葉がどのように使われているか、ですが、
*観光立国
*電子立国
*芸術立国
*IT立国
*科学技術立国
*知財立国
*金融立国

などという言葉が一般にはあるようですね。

B君:観光立国とは、観光を産業にして、それで外貨を稼ぐ。一般には、別に外貨でなくても良いのだが、日本という国の特殊事情として、国内に金属資源もエネルギー資源も食糧もない国なもので、外貨を稼げないと、立国にはならない。

A君:その通りで、例えば、福祉立国ということはありえない。なぜならば、福祉で回るお金は、普通国内だけなので、外貨を稼ぐことにはならない。ところが、東京都知事選で落選した浅野史郎候補は、福祉立国という本を書いている

B君:内容はどうやら宮城県知事としての経験談のようだ。ある地域を福祉という面で日本一にするという話なのかもしれない。いずれにしても、本来の「立国」という意味で使われていないのは事実だろう。

A君:福祉技術立国を日本としてやろうということならば、それはそれで可能。福祉に使われる技術を最大限開発して、それを世界の先進国などに輸出して、それで外貨を稼ぐ。

B君:世界から良い福祉が欲しい金持ち達を日本に呼ぶ、のなら福祉立国にもなるかもしれない。

C先生:環境立国という言葉も、実は、その福祉立国に似ている。日本国内の環境をどのような方向に持っていくか、それが問題なのではなくて、本当は、環境でいかに立国するか(=外貨を稼ぐか)、ということが問題なのだ。となると、その内容は、環境観光立国、環境技術立国、環境金融立国、環境IT立国、環境知財立国などというものが内容になるはずのものだ。いくつも例を出したものの、日本の現状を考えると、環境技術立国がもっとも現実的だと思うが。

A君:欧州は、排出権取引による環境金融立国を狙っている。

B君:いやいや、それ以外にも欧州は、石炭燃焼からの二酸化炭素排出量を決定的に下げるCCS技術(http://www.yasuienv.net/CCS2007.htm)でも世界的なリーダーシップを取ろうとしている。すなわち、環境技術立国も狙っている。

C先生:日本という国で、本当に環境技術立国が可能なのか、不可能ではないとしたら、どのような政策を取ることが環境技術立国をより現実に近いものにすることができるか、といった検討が本来必要不可欠なのだ、と思う。

A君:ところが、この特別会議では、その冒頭で、安倍総理の施政方針演説の中身として、「国内外あげて取り組むべき環境政策の方向を明示し、今後の世界の枠組み作りへ我が国として貢献する上での指針として、『21世紀環境立国戦略』を6月までに策定」するという方針が打ち出されたというのが背景だと説明されている。この施政方針演説の文章をうかつに読むと、日本として、地球環境問題に対してどのようなスタンスを取るべきか、それを議論することが環境立国の論議だと読める。もっとも、それが決まらないと、環境立国も無理なのかもしれないが。

B君:さらにうっかり読むと、最初に「国内外あげて取り組むべき環境政策の方向を明示し」と書いてあるものだから、国内の環境の未来像を描くことも、環境立国論の一部だと読んでしまう人もでるだろう

C先生:すでに紹介した論点整理(案)を読むと、今回の特別部会を開催した趣旨が「何でもあり」のように読めて、実に分かりにくい。安倍総理の文章だって、立国という言葉を本来の意味(=外貨を稼ぐ)だと捉えれば、「今後の世界の枠組み作りへ我が国として貢献する上での指針」としては、「環境技術をとことん開発して、国際貢献を行い、かつ、日本が外貨を稼ぐ体制を確立すると同時に、その技術の移転をツールとして活用し、国際的な合意形成を推進する」、といったように読むべきだと思われる。

A君:行政がよくやる手ですが、国内のあらゆるステークホルダーを集めて、その思いを語って貰い、それを生かした形で報告書を作るけど、実際の方針は、行政だけで決める。すなわち、ガス抜きが主たる目的の特別部会だということも有りうる。

B君:環境省がリーダーシップを取っているが、各省からの参加者が居る。もしも環境技術立国だと言ってしまうと、経済産業省などがリーダーシップを取る可能性が強いので、それに対して牽制をするために、文脈をぼんやりさせて、「国内外あげて取り組むべき課題を広範に議論して貰った」。こんな解釈も有りうる。

C先生:今回の委員の選択を誰が行ったのかよく知らないが、B君の言う、「国内外あげて取り組むべき」を課題を集めようという意図もあったと見える。

A君:本来の立国論であれば、まずは、環境技術立国を中心に議論すべきで、環境技術開発戦略、環境技術普及戦略、環境技術評価戦略、などを課題にして、それぞれ、いかにして新規手法を開拓し、政策として実施していくか、すなわち、環境技術立国の具体策を議論すべきでしょうね。

B君:論点整理(案)のp16とp17に技術的な項目があるが、ここを徹底的にポリッシュアップしないと、環境技術立国を議論したことにならない。

C先生:経産省や農水省が環境立国ということに関して何を考えているのか、聞いてみたいね。そのうち、チャンスがあったら、聞いてみることにしたい。

A君:それでは、ここで対象を変えて、鉄鋼連盟のポジションペーパーの解析をやりますか。

B君:3月29日付けの文書で、タイトルは、「地球温暖化対策への取り組みに関する見解」 −ポスト京都に向けた提言 − という題名。
http://www.jisf.or.jp/business/ondanka/kenkai/docs/070329position_paper.pdf

A君:6ページの比較的短いもの。目次は無いが、
はじめに
1.議定書の問題点
2.将来枠組みに向けた提言
3.おわりに
(参考)

と簡単な構成になっている。

B君:「はじめに」は、現状認識が書かれている。事実の記述は間違いようも無いが、それ以外の記述も結構、面白い。例えば、ポスト京都の枠組みについて、EUはEU−ETS(Emission Trade Scheme=EU域内排出量取引制度)第二運用期間を控え、その維持・拡充を主張している。としている。まあ、事実だろう。英国は、環境金融立国を目指していると思える。

A君:もっとも面白いのが、米国の動きに関する記述。「米国では、一部の州でCap&Trade導入の動きが見られるとともに、大統領の一般教書演説での言及や連邦議会において排出削減を目標とする法案の提出がなされるなど、国内の動きが活発化している」

C先生:その通り。加えて、米国最高裁判決で、「二酸化炭素の排出は環境汚染である」ということになったので、今後、カリフォルニア州を先頭として、様々な州レベルでの動きが盛んになるだろう。

B君:しかし、米国の産業界は抵抗勢力のはずだ

C先生:ところが驚くべきことに、米国産業界は、すでに、Cap&Tradeの導入を容認したという情報がある。産業界としても、排出規制が厳しくならないと、そのための技術開発ができない。すなわち、このままでは技術開発でEUや日本に後れをとるし、どうせいつかは導入しなければならない制度であれば、Cap&Tradeを早めに採用し、技術開発を促進し、そして国際競争力を高めよう、ということらしい。

A君:どのような業界なんですか。

C先生:なんとなんと自動車業界を初めとする産業界

B君:まさか鉄鋼業はそうは言わないでしょう。

C先生:米国では、鉄鋼業はすでにマイナーな存在で、自動車業界がイエスと言えば、それで決まるのだそうだ。

A君:日本だと、自動車業界も鉄鋼業界に相当気を使っているのですが、米国だとそんなことは無い。もう、米国鉄鋼業界は影が極めて薄い存在になっている、ということですね。

C先生:電力業界も影が薄いらしい。確かに、長期的に見ると、電力業界は、温暖化対策が進行すれば、エネルギーの大部分は電力になるから、最終的には有利なはず。反対する可能性が高いのは、やはり石油業界

B君:石炭業界だって反対するでしょう。日本には、石炭業界は無いけれど。

C先生:それがそうでもないらしい。やはり、米国国内のエネルギー、すなわち、自前のエネルギーを重視しようという方向性をもったエネルギー戦略が出てくる可能性があって、石炭の復活には、気候変動がチャンスだという認識らしい。

A君:しかし、それには、クリーンコール作戦を実行する必要がある。

B君:米国の石炭の埋蔵量は、確かに相当なものだ。CCS技術を国の費用によって開発を推進させれば、石炭業界も日の目を見る可能性が高くなる。

A君:世界の石炭埋蔵量は34兆トンと推定されている。これまで調査された確認埋蔵量をみてみると
アメリカ 2500億トン、ロシヤ1570億トン、中国1145億トン、インド844億トン、豪洲821億トン。

C先生:アメリカは石炭確認埋蔵量ではトップなのだ。

A君:反対する最右翼になりそうな石油業界は、ブッシュファミリー。

B君:ブッシュ政権のうちには、何も起きないのでは。

C先生:これもそうでもないという見方があるらしい。ブッシュ大統領は、任期の最後の最後で、石油業界を切り捨てて、自分だけひとり良い子になるのでは、ということらしい。

A君:要するに、任期の最後の最後に、京都議定書の枠組みに戻る宣言をする、ということですか。

B君:なるほど。それを民主党の手柄にさせたくない、ということならば、充分に有りうることだ。

C先生:この米国産業界の態度が本当ならば、日本の産業界は、すぐにでも動かないと、ぶっ飛ばされる可能性が高くなる。

A君:そういう目で鉄鋼連盟のポジションペーパーを見ましょう。2ページで、中国、インド、韓国、米国は削減義務が無いために、温暖化対策のための様々な負担を免れている、とぼやいていますね。

B君:まあ事実だからな。

A君:EUの鉄鋼業は、EU−ETSの適用を受けてはいるが、実績より緩いキャップにより排出枠の余剰が生じている。としていますね。

B君:実際、EUの精錬業に対するキャップはかなり緩いものらしい。要するに、相当配慮が行き届いている。

A君:一方、日本鉄鋼業は自主行動計画の目標達成のため、中国、インド、韓国などからクレジットを購入せざるを得ない状況となっていて、2800万トン分を購入したが、それに600億円を払った、としていますね。

B君:自主行動計画を製造原単位で決めればよかったのだが、総排出量で決めてしまった。それは、自主行動計画を決めたときに、鉄鋼は減産傾向にあったので、その方が楽だと思ったからだろう。ところが、その後、中国の材料需要の出現によって、製造量が増えてしまった。まあ、自業自得で仕方が無い

A君:自主行動計画はあくまでも自主行動計画なので、それをどこまで守らなければならないのか。米国が京都の枠組みから抜けていくら文句を言われても平然としている態度に比べると、余りにも真面目すぎる。

C先生:自主行動計画を守らないと、環境省が環境税を作ると言った時に、抵抗ができないという強迫観念があるのだろうか。

A君:そして、もしも日本国内で鉄鋼生産ができなくなると、中国など排出原単位が劣る国での生産が増えて、地球全体での二酸化炭素排出量が増える現象、これを「炭素リーケージ」というようですが、これが起きると主張していますね。

B君:それはその通り。中国の高炉は、小さなものが多い。排出原単位はかなり落ちる。日本を100とすると、120ぐらいらしい。

C先生:この「炭素リーケージ」が起きると、これは地球全体のことを考慮すると大問題。これを防止するには、どういう主張をしたら良いか。

A君:それは簡単。日本の排出原単位は世界でもっとも低いのだから、世界中の鉄鋼を日本で作るといえば良い

B君:そして、世界の他の国で作る場合よりも温暖化ガスの発生量が、地球レベルで少なくなっているのだから、その分を、クレジットとして、受け取るべきだ。こんな主張になる。

A君:それに対する反論は、いくらなんでも、鉄鋼の生産を独占するのはオカシイ。中国、インドに、省エネ技術を移転すべきだ。

C先生:それに対して鉄鋼連盟は何を言っているか、といえば、ポジションペーパーでは「APPや日中交流などによる省エネ技術の移転を進める」、と真面目な回答。ところが、いくら省エネ技術を移転しようとしても、中国の鉄鋼業の排出原単位は良くならないのだ。議論されていない落とし穴があるのだ。

A君:さて??

B君:うーん!!

C先生:鍵は、日中印での電力の価格の差だ。日本では、高炉の高温の冷却水を利用して発電を行ったり、炉頂から出る高圧ガスの圧力を利用して発電を行ったりしている。それは、投資をしても、電力代が高いために、回収が可能なのだ。経済的に成り立つのだ。ところが、電力価格が安い国では、そんなところに投資はしない。損するだけだからだ。

A君:ということは、日本の電力価格がもっと高い方が、省エネ技術の開発が進む。

B君:それはその通り。米国産業界がCap&Tradeを求めて、それを梃子にして省エネ技術の開発が行われるということと同じこと。経済原則に基づく開発は自動的に進む。

A君:しかし、鉄鋼業界としては、日本の電力価格がもっと上がった方が良いとは、口が裂けても言えない

B君:なぜなら、コストは上がって、儲けはやはり減るだろうから。いくら、二酸化炭素の排出原単位が低くても、コストは低くは無い。

C先生:さてそろそろ終わりにするか。米国産業界がCap&Tradeを受け入れる覚悟を決めた、として、一方、日本の産業界がそれをあくまでも拒否すると、実は、日本の環境技術立国が不可能になることを意味するようだ。これが本日のポイント。

A君:そんな議論が環境立国特別委員会ではなされていない、ということですか。

B君:経団連も、Cap&Tradeには反対ばかり

C先生:先進国はCap&Tradeを導入して、それをバネにして技術開発を進める。そして、日本もあらゆる製品について、ライフサイクルでの世界最高の低い排出原単位で勝負に出る。中国、インドには、まだCap&Tradeは無理だけど、せめて、効率指標を目標値として掲げさせEU、米国、日本という市場への輸出品は、その効率目標を満たしたものに限定する、といった強攻策を主張するのが面白い。WTOがどのように反応するか、それは大問題だが。