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   環境リスクとは何か
      08.04.2013 
        ISO31000準拠の議論




 今年の夏は、「総論」的な講演を依頼されている傾向。その一つが、「環境リスク」とは何か。講演の対象は、主として文系の学者なので、リスクの定義をISO準拠にして、「環境リスク」の特徴と対応方法を述べることにしてみた。

 今回は、その準備のための作業メモである。できれば、ISO31000を若干チェックしていただいてから、お読みいただくと、理解が進むものと思われる。


1.そもそもリスクとは何か

C先生:今回は、「環境リスク」に対する政策的な決定をどのようにすべきかを考えているものと思われる学者集団を相手にして、講演をするので、その内容の検討をしたい。

A君:文系の先生方が主な対象ということなので、概念の提示は、ISO準拠が分かりやすいのではないですか。

B君:ISOは確かに良く考えて作られているので、議論の欠落を防止するにも良い戦略だ。

A君:ということで、まずは、リスク管理の国際規格であるISO31000から。これは、ISO9000やISO14000と違って、認証規格ではないことが最大の特徴。

B君:2009年11月に発行されているけど、組織のリスク管理に関して、経営層や管理職、さらには、リスク管理者が考えておかなければならないことを記述している。

A君:リスクの定義は「不確実性が目的に与える影響」となっているなどのことは、すでに、本Webサイトの記事でも記述済みなので、ご参照を。
http://www.yasuienv.net/ISO31000.htm

B君:このリスクの定義が、ISO12100の「機械の安全性」的な定義と異なるところが、最初に乗り越えなければならないハードル。

A君:簡単に結論を述べれば、組織管理における活用がISO31000の目的なので、何かが起きて、それがプラス面があるということも無いとは言えない。これだけ。環境リスクのように、結末がプラスになるケースはほとんど考えられないというのであれば、昔ながらの定義である「事象の発生確率×事象の悪い効果」で良いとなります。


2.環境リスクの特徴と他のリスクとの相違

B君:このリスクの定義でもっとも重要なことは、発生確率が含まれていること。

A君:環境リスクを文章で記述せよ、と言われると、「人間活動が増大し、それが地球(地域)の維持能力を超したときに発現するHazardと、その発現確率を乗ずることで算出されるリスク」となります。

B君:ところが問題は、環境リスクに確率的要素が含まれているという意識は一般的に非常に希薄ではないか。

A君:現実はむしろ、ある環境リスクに関する「悪い影響の事象」が発現、これをHazardが発現と記述しますが、この確率が、環境問題については常に1で、必ず発現すると考える。しかし、それが何年後なのか、という時間の問題だと把握される場合が多いのでは。

B君:だから、現代人には余り悪い影響はないと思われていて、環境問題とは、未来世代との調停の問題だと言われる。

A君:ところがそんな意識を持っている人は、極めて少数。

B君:発現確率が1以外の値を取るのは?

A君:ある時点で見れば、発現しないすなわち、発現確率を0と判定するケースが多いのでは。

B君:それはなぜか。

A君:それは、地球には復元力があるから。
人間活動>地球の復元力  確率=1
人間活動≒地球の復元力  確率=様々な値
人間活動<地球の復元力  確率=0

B君:様々な値を取るのは、かなり特異なケースだと言えるが、地球の気候変動の場合には、Hazardが発現するまでに非常に長い時間がかかるので、様々な値だと考えた方が良いかもしれない。それは、取り扱いの問題だと言えるかもしれない。


3.環境リスクへの対応

A君:さて、ISO31000だと、Risk Management Policyという大方針を組織が決めるべきだということになっていますが、環境リスクの場合にも同様ですよね。

B君:まあそうなのだろう。環境リスクに関わるHazardの発現は、防止すべきなのだろう。

A君:環境リスクに対するPolicyは(大方針は)、と言われれば、『人間活動が原因、しかも、Hazardの生起確率が1であるから、環境対策によって、その発現を遅らせ、実質上生起確率を0にすること』

B君:発現を遅らせる、と言うが、もしも最初から1000年後だと分かっていたら、それを考えるのか考えないのか。

A君:グリーンランドの陸氷の融解による海水面の上昇は5mぐらいと推定されていますが、それが起きるのは徐々に徐々に上昇して、1000年後に5mになる程度。100年間で50cm、10年間だと5cm。まあ、30年後ぐらいであれば、余り問題にはならない。

B君:すなわち、Policyの合意が困難というのが現状だということだ。

A君:Policyの合意が困難ということは、当然対策であるPlanの合意が困難だということになる。

B君:将来というか時間の要素をどのぐらい考えるかについて、様々な意見がある。環境楽観論と環境悲観論とでも言うべきか。楽観論の典型がビョルン・ロンボルグで、著書「環境危機をあおってはいけない」で、「人類は、これまでもあらゆる危機を、様々な知恵で乗り越えてきた。今後の技術開発などによって、再度、必ず乗り越えられる」というスタンスを表明している。

A君:ロンボルグも地球温暖化懐疑論者の一人という分類でもあるのですが、彼は、環境リスクというものの成り立ちを充分に理解しているようです。

B君:それに対して、大部分の温暖化懐疑論者は、さしたる哲学があるわけでもなく、あれは環境省の陰謀だといった煽りで受けを狙った。しかも、全く反省していない。

A君:本が売れればそれで良いのだから、程度が悪い。

C先生:そろそろ、環境リスクにどう対応すべきかという議論に移行しよう。Risk Management Process Policyの議論から始めよう。

A君:これもISO31000での話の進め方ですが、Policyが最上位ですがこれが終わった。となると、その次には、対策プロセスに関するPolicyの話をしろということ。

B君:まあ、人間活動が原因であること、過去の公害の歴史や、ナウルのような資源枯渇の現状が地球レベルになる可能性があること、さらには、パーム畑の適地ではないところでの開発などを考えるのだろうか。

A君:そうだとすれば、次の図になります。

図 3点に絞った環境リスク対応Process Policy

B君:まあそれで進めてみよう。

A君:Policyそのものも複数あっても良い。上記3点とすれば、それぞれについて、Proceduresを考えなければならないことになります。その考え方の基本は、Identify、Analyze、Evaluate、Treat、Monitor、Reviewのサイクルを回すこと。いつでも「PDCAサイクルを回せ」と発言する人が余りにも多いのですが、リスク対応だと、このぐらい細かく作業を進めることになる。

B君:人間活動の対象としては、全活動ということで進めよう。

A君:となると、論理の組立としては、環境リスクがHazardになるのはどのようなものがあるか、を先に考える。なぜなら、すでに人類は経験を積んでいるから。結論的には、次の図になります。


図 人間活動によって起きる現象と、その結果生じるHazard


B君:便宜上、グローバルレベルの現象とローカルレベルの現象を分ける方が、これまでの環境問題の経験知を活かすことができる。

A君:ローカルが重要である理由は、経済発展段階によって、対策が違うこと。日本の発展段階で言えば、1970年頃まで、一人あたりのGDPで言えば、$5000までの国では、対応が遅れ、被害が出てしまう傾向にある。

B君:中国では、今でも、大気汚染の解消は難問題。東京の空気は、世界で一番キレイ。

C先生:具体的なイメージを持つために、グローバルレベル・ローカルレベルのハザードのリスト作成から行って欲しい。

A君:次の図になります。

図 グローバル・レベルのHazardの例


図 ローカル・レベルのHazardの例


4.悪い影響をどう評価するか

C先生:さて、それで良いとして、これらのHazardの影響を評価して次に進むことになるが、どうやって評価をするか。それで、対策にとりかかる優先順位を決めることにるだろう。

A君:一般的には、まずは、Hazardの影響の行き着く先をEnd Pointとして設定するのですが、中間的なEnd Pointと究極のEnd Pointを考える方法が普通ではないですか。

B君:まあ、そうしよう。ということで、次の図。


図 評価のための中間End Point


図 最終・究極のEnd Point


A君:一つコメントをしたいことは、中間End Pointレベルですと、いくつかのものは、エネルギー消費を増大させることで代替が可能だということです。エネルギー消費を化石燃料に依存していたら、温室効果ガスの排出という意味にもなるので、代替というよりも、End Pointのすり替えにしかならないのですが、もしも純粋に再生可能エネルギーに代替できれば、それは問題の解決に近いとも評価できます。

C先生:それでは、Risk Managementを行うProcessとして、どのPrceduresを採用すべきか、どうやってEvaluateするのか。

A君:様々な方法がありうるのですが、もっとも考えやすいのは、現在の地球の状況や地域の状況が、定常状態(Steady State)からどのぐらいずれているか、というもので定量的に判定することではないでしょうか。

B君:定常状態とは、物質的には閉じていて、元素類は外界と出入りが無い。しかし、エネルギーについては、出入りがあっても良いが、出と入のバランスが取れていることがまず最大の条件。

A君:次の図になります。


図 Evaluateの条件

A君:現時点での地球について述べれば、若干の水素とヘリウムは、大気圏の上端から宇宙に向かって離脱しているけれど、まあまあ無視できる程度。
 次にエネルギーの「出」と「入」について。まず、化石燃料の燃焼などによるエネルギー増はどうか、と言えば、太陽エネルギーの「入」に比べてまだ1万分の1ぐらいなので、無視できる。太陽エネルギーによる「入」の一部が、温室効果ガスで邪魔をされて、結果的に「出」が少なくなっているのが現状。

B君:さて、このような定常状態の世界の評価の重要な要素がエントロピーで、エントロピーが増大していなければ、環境負荷も増大していないと考えられる。

A君:エントロピーは、例えば、あるモノを使って廃棄物にし、どこかに捨てると増大する。したがって、この廃棄物になる速度と同じ速度で、リサイクルをやれば、しかも、再生可能エネルギーだけを使ってもとの状態に戻る。

B君:これがHerman DalyのSteady State Economicsの条件で、熱力学的に正しいと言える。



図 Herman Daly によるSteady State Economicsの条件


5.環境リスクへの対処のPolicy

C先生:さあ、大体枠組みは分かってきた。それなら、これに対処する方針はどうする。

A君:ISO31000では、Treatということになって、なにやら根本的な解決では無いような語感なのですが、それはそれとして、環境リスクのTreatは、以下の図のような方法になります。


図 環境リスクのTreatのPolicy

A君:方法1−2の実態は公害対策で、北京の大気汚染で言えば、汚染物質の排出を公害対策技術によって抑えこむことを意味で、地球の復元力を強化することはなかなか難しい。まあ、できても、復元のお手伝いをする程度。

B君:EM菌論者は、復元能力のお手伝いだと言うかもしれないが、あれはまやかし。

A君:あのぐらいで自然の復元能力が少しでも増加すれば、それは恐るべきことで、それこそ、EM菌が人間に有害なぐらいのなんらかの猛烈な放射線でも出していないと効果はないでしょう。

B君:冗談は止めて、今後50年程度でどのぐらいのRenewable Energyを導入できるか、これが気候変動だけでなく、あらゆる環境リスクに関して、かなり重要な位置を占めている。これは、再認識していただきたいと思う。


6.Tipping Elementsの重要性

C先生:現在、気候変動関係で問題になっているのが、いわゆるTipping Elementsの話だ。これは、一度でもスイッチが入ってしまったら、いくらスイッチをオフにしようとしてももうオフにはできないタイプの環境影響。これが対応ができないということで、大変大きな問題になっている。

A君:米国などは、シェールガスで行けるという雰囲気になっている。

B君:資源が豊富になってしまうと、我慢するということがますます難しい。

A君:しかし、ナウルのグアノの枯渇のように、一旦、手を付けたら、最後まで行ってしまうのが「人間の欲」というもの。

B君:Tipping Elementsは、したがって、気候変動で最重要課題ではあるが、あらゆる環境問題の本質でもある。

A君:しかも、ロンボルグの環境楽観論では対処不能な問題でもある。

B君:ロンボルグによる反論が余りにも痛烈だったもので、それに対抗する論理として考えられたのがTipping Elementsだったとも言えるかもしれない。

A君:Tipping Elementsの生起確率の確実性がどのぐらいあるのか、真剣に検討することが必要ですが、現時点で、その方向への研究が進展している。

C先生:その結果にも寄るが、Tipping Elementsに真剣に対応しようとすれば、人間活動の総量を減らすといった、究極の対応も、考えておく必要はある。ここまでは、概ね誰でもが合意するのだが、具体的にどう取り組むかとなると、既得権を離せない人々が大挙して出現することが、現時点での最大の環境リスクになっている。