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  反環境税意見広告に何を見るか 11.14.2004



 11月12日の主要紙に、次のような意見広告が掲載された。イヌ、サル、ブタ、ニワトリが誰なのか分からないが、「地球を守るために、私たちは行動します」、と言わせており、次に、「環境税」はいりません、と結んでいる。

図1:産業界からの意見広告

 また、これは次回以降の反論の対象にするが、先日取り上げたWedgeという雑誌の11月号のトップ記事に、日本鉄鋼連盟専務理事の市川祐三氏が、やはり「環境税反対論」を説いている。

 これまでダンマリを決め込んできた産業界が、一斉に「環境税」に反対し始めたということは、いよいよ2007年までには、環境税が実施されるという予兆である。さて、これらの反環境税意見広告などに、何を読むべきなのだろうか。


C先生:いよいよ始まった。何って、「環境税戦争」が。しかし、この戦争が始まったということは、実は、遅くとも2007年4月には、環境税は走るということを意味している。

A君:「反環境税」の主張の根拠がどこにあるのか、その解析が必要不可欠ですね。

B君:産業界は反対ですという表現があるが、本当に産業界は一枚岩なのか、というと、実はそんなことはない。

A君:まずは、全国紙に掲載された、上図の意見広告の解析をして見ましょうか。
 解析その(1):誰がスポンサーか:化学団体・地球温暖化対策協議会、石油連盟、セメント協会、電気事業連合会、電子情報技術産業協会、日本ガス協会、日本自動車工業会、日本製紙連合会、日本鉄鋼連盟、日本電機工業会。

B君:なるほど、確かに多数の工業会が名を連ねている。しかし、リーダーシップは誰が取っているのか。

A君:そこに出ている中央区日本橋茅場町3−2−10は、実は鉄鋼会館なるものの住所でして、やはりこの広告の主体は、日本鉄鋼連盟だということが分かります。反環境税の音頭をとっているのは、日本鉄鋼連盟

B君:それなら、解析その(2):意見広告の中身の解析しよう。

A君:まず、全文を掲載しますか。

今必要なのは一人一人の「参画」です。「環境税」を支払うことではありません。
○地球温暖化問題に、産業界は、自ら目標を定め自主的かつ積極的に取り組み成果を上げています。
○今後も目標達成のために全力をあげて取り組みます。
○産業界は、省エネ製品の開発や自動車燃費の向上などを通じて、国民生活にも貢献しています。
○使途も効果も不明確な環境税の創設は、産業の空洞化、地域経済・中小企業・雇用への悪影響が避けられません。
○産業界は、環境税や経済統制的な施策には、断固反対です。

B君:反論を個別にするのは容易だが。。。。

C先生:まあ、具体的なデータから見ていくべきではないだろうか。

A君:セクター別の二酸化炭素排出量の推移あたりから示しますか。

B君:それには、環境省関係のHPから図を探す。これが良さそう。無断使用で済みません。

図2:二酸化炭素の部門別排出量の推移

A君:このデータは2001年ですから、2003年の速報値を加えますか。

2003年排出量速報値
合計: 13億3600万トン 

前年比
全体    +0.4%
産業部門 +1.7%
業務部門 +0.1%
家庭部門 +0.1%
運輸部門 −0.8%

1990年比  
全体     +8.0%
産業部門  −0.02%
業務部門  +36.8%
家庭部門  +28.9%
運輸部門  +19.5%%

B君:なんだ。産業部門が前年比+1.7%で、1990年比でとうとう−0.02%になってしまったのだ。2001年までだと、優等生だったのは、やはり不景気の影響か。多少景気が回復すると、どうしても温暖化ガスを発生するという産業構造になっているのだ。

C先生:この意見広告が企画された段階だと、2003年の速報値はまだ公表されていなかった可能性が高い。発表されたのが11月9日だったので。まあ、2002年の値も余り自慢にならないものではあったのだが、まだ、産業部門はマイナスだと言えた。

B君:今回、産業部門にとって、産業構造の変更を求められていることが明らかになって、いよいよ環境税が来たら、ますますその動きに拍車が掛かるということで危機感を強めた可能性が高い。

A君:先ほどの意見広告を出している工業会ですが、実に、素材産業の代表たる鉄鋼業、セメント、基礎化学、石油、ガス、電力、ここまでは、今後の地球の限界との整合性を考えていかなければという状況下では、どうがんばっても厳しい状況でしょうね。

B君:環境税が掛かり、そして、その後の脱物質の動きが本格的になってくれば、どうしても取扱量が減らざるを得ない産業。地球の限界が明らかになれば、そうせざるを得ないのだと思うが。

C先生:そのあたり、経済学者に聞いてみたいところだが、経済学者は、地球の限界を認めないので、どうにもね。

A君:話を戻して、解析その(3):意見広告の内容を吟味しましょう。まず、一行目。

今必要なのは一人一人の「参画」です。「環境税」を支払うことではありません。

B君:これはあたり前。しかし、これまでの検討では、一般市民の約40%は、環境問題で自分の行動を変えることはない、という感じ。この40%が「参画」する必要があるのだが、この日本鉄鋼連盟は、どうやってこのような一般市民を参画させようとしているのだろうか。この部分になんら具体策がないので、環境税への反対が「自己都合」にしか見えないのだ。

C先生:家庭部門も問題だが、それ以外の部門の意識も非常に弱い。いわゆる業務部門が弱い。流通業界がある意味で最悪。工業会は、まあまあ良くやってきたとも言える。

A君:恐らく、「一人一人」といっても、日本鉄鋼連盟の関係者の一人一人であって、日本人全員が参画することが必要だと思っているとは言えないのでしょう。

C先生:いずれにしてもこの文章はおかしい。提案されている環境税は、余り経済的な負担が大きくないから、一般市民にとって、環境税を支払うという意識が大きくなるとは思えない程度の金額。むしろ「環境税」という言葉が重要なのだ。環境税の存在が明示的に見えることによって、若干でも、温暖化を意識する人が増えることが本当の狙いだと思う。

B君:どうも、環境税が企業つぶしだという先入観が強すぎる。

A君:次の行に行きます。

○地球温暖化問題に、産業界は、自ら目標を定め自主的かつ積極的に取り組み成果を上げています。

B君:これは、先ほどの検討でも分かるように、残念ながら、2003年で馬脚を出してしまった。成果は十分だとは言えない。いくら目標を定めても、罰則規定がないし、これまでは、不景気の追い風でなんとか成果が出ていただけ。

C先生:各工業会が、それぞれ本当に成果を出す自信があれば、環境税を積極的に導入すると同時に、後で出てくるEUのキャップ制をも導入して、目標が達成できたときには、法人税を減額してもらえるシステムの導入を提案すべきだろう。

A君:そうすれば、環境税を支払うのは、流通業界ぐらいになってくるのでは。

B君:次に行くか。

○今後も目標達成のために全力をあげて取り組みます。
○産業界は、省エネ製品の開発や自動車燃費の向上などを通じて、国民生活にも貢献しています。

A君:最初の文章は努力目標ですね。次の貢献ですが、一般市民が自動車の燃費の向上によって貢献されていると思うだろうか。疑問。

B君:燃費のデータはどこかにあるかな。

A君:どこかで見たような。見つけました。こんな文書があります。「平成 14 年度  民生部門等における地球温暖化対策検討委員会 報告」。経済産業省の文書のようですね。

また近年では、乗用車の燃費は改善傾向にあるものの ( 保有ベース : 1990 年度= 12.74km/ L 1995 年度=同 12.3 2000 年度=同 12.6 : (財)日本エネルギー経済研究所計量分析部推計データ)。。。。。

B君:よく見れば、1990年の方が2000年度よりも良いではないか。95年ぐらいに一時的に悪化して、それが多少改善されただけ。

A君:自動車メーカーに言わせれば、「これは10・15モード燃費。実際の燃費は改善された」、と言うでしょうね。

B君:日本の自動車も、他機関による実用燃費の認定が無いから駄目なんだ。米国だと、EPAが燃費を公表しているのだから、日本だって、環境省が公表すればよいのだ。

C先生:省エネ製品の方については、確かに、冷蔵庫、エアコンの2機種についてはかなりなものだ。それ以外だと、テレビ関係などは、大型化によって逆に悪くなっている。

A君:電機業界も、プラズマテレビに依存しているようでは、そんな経済活動は、余り長持ちしそうもない。次を探すべきでしょう。

B君:個人的には、再びプロジェクターをお奨めなんだが。省エネ型になりうるので。

C先生:自動車に戻るが、やはり台数の増加がすごいのだ。1990年を基準として、なんと60%も増えている。確かに軽自動車が増えたのは事実なのだが、同時に、2L以上の大型車も同時に増えていて、燃費の足を引っ張っている。

A君:燃費に関しては、国土交通省の燃費基準が余りにも緩いですからね。これは、まだ護送船団方式の古い考え方が残っているとしか評価のしようがないですね。先ほどの文書ですが、こんな記述があります。

人の移動における機関別分担率において自動車が増加傾向にあり、かつ乗用車の輸送量あたりエネルギー消費原単位が悪化 ( 1990 年= 488kcal /人 ・ km  → 2000年度=同 582 )していること、そして自家用乗用車の保有も増加傾向にある ( 2000 年度の保有台数は 7,227 万台。 1990 年度〜 2000 年度の年平均伸び率は 2.3 %)ことから、自家用乗用車によるエネルギー消費量の増加傾向が継続しているものと思われる。

C先生:最初の輸送量あたりのエネルギー消費原単位の悪化だが、その原因は、台数の増加にあるのだ。台数が増加したということは、自動車の一人一台傾向が強まったことを意味し、すなわち、これまで二名以上で乗っていた自動車に一人で乗るようになった。

B君:車に関しては、どうも、この意見広告のような貢献があるかどうか、かなり疑問。これが結論。

C先生:1990年から自動車の保有台数が60%も増加し、失われた10年と言われた2000年までの10年間は、自動車産業にとっては、かなりの膨張を実現した時期でもあった。その間、一般市民は、エネルギー消費の増大をほとんど意識することはなかった。やはり環境税なる言葉が必要不可欠であることを意味する

A君:残りの文章ですが、使途不明なら、その使途を提案すればよいのでは。

○使途も効果も不明確な環境税の創設は、産業の空洞化、地域経済・中小企業・雇用への悪影響が避けられません。
○産業界は、環境税や経済統制的な施策には、断固反対です。

B君:提案するということは環境税を肯定することになってしまうから、とりあえず現段階では全面否定をしておこうという戦略だろう。

C先生:その通りで、裏では、すでに環境税の導入は時間の問題になったので、条件闘争が行われているはず。

A君:しかし、環境省、経済産業省でどうして、こんなに考え方が違うのでしょうね。

B君:まあ、省庁が全体的な落としどころを最初から見て、提案したら、それこそ余り意味がない。

C先生:そう言えば、環境税に対する環境省と経済産業省の考え方の相違を示す図があった。

A君:これですか。


図3: 京都議定書への対応。環境省案と経済産業省案。

B君:まず、2008〜2012年の5年間までの増加量が環境省14.1%、経済産業省11.0%と違うのが面白い。

C先生:2003年までで+8.0%。となると、1990年比−6%に比べてすでに14%増。しかもまずいことには、2003年というのは、夏は冷夏だった。だから、家庭部門、業務部門ともに、+0.1%程度で収まっているのだ。ところが、2004年の夏はご存知の猛暑。しかも台風被害の災害復興のために相当量の資源・エネルギーの増大が予想されるのだ。となると、環境省の14.1%増でも甘いのではないだろうか

A君:となると、経済産業省の11.0%増に基づく対策は論拠を失いますね。

B君:経済産業省の対策に京都メカニズムがあって、環境省のものにないのも面白い。

A君:京都メカニズムは、ご存知の通りですが、3種類のものが認められています。
(1)排出量取引
(2)クリーン開発メカニズム:途上国における排出量削減を先進国が自国の削減分に算入。
(3)共同実施(Joint Implimentation):先進国(京都議定書のAnnexTに入っている国)が共同で排出量を削減し、それぞれの国が分け合う方法

B君:そのうち、排出量取引はどんな金額になるのだろうか。総額2000億といった話を聞いたことがあるのだが。

A君:5000万トン/年を排出量取引で買い込むとすると、価格が¥2000/トンとして、1000億円/年。

B君:それほどびっくりするような額ではないが、価格はそんなレベルで収まるのだろうか。

C先生:その議論は、次回に行う予定のEUの対応のところで考えようか。いずれにしても、この2つの省庁の考え方の違いが余りにも大きくて、非常に面白い。

A君:しかし、意見広告が出たということは、どうも事態は最終段階。

B君:解決の方向性は見えないが、まあ、2007年実施に向けて、動くのだろう。

C先生:政府税調の石会長の役割は重要なのだが、先日のテレビでの発言では、「環境税」という言葉に対する態度がちょっと変わったような気がした。恐らく、いずれかの時点での導入を決意したのだろう。
 いずれにしても、この話は続く。。。。。。。。。