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  反環境税主張その2 11.21.2004



 ウェッジ11月号に掲載された、日本鉄鋼連盟専務理事、市川祐三氏による反環境論について議論したい。


C先生:先日の意見広告にも見られるように、日本鉄鋼連盟は環境税反対の急先鋒である。その専務理事である市川氏がどのような論理で、環境税に反対しているのかを知ることは、恐らくすべての人々にとって有用であると思われる。

A君:それでは、早速論理の解析に行きます。
 まず、京都議定書に関する記述から始まっています。
 京都議定書に対しては、以下のような点を指摘。
(1)ブッシュ政権は、米国が世界全体の1/4の二酸化炭素を排出しているにもかかわらず、2001年3月に京都議定書の枠組みから離脱。
(2)ケリー候補が例え当選した場合でも、米国は目標を達成できる見通しが無いので、枠組みへの復帰は無い。
(3)中国などは、米国に次ぐ排出量であるにも関わらず、削減義務を負わない。
(4)上位5ヶ国(米、中、露、日、印)のうち、日本は世論の後押しを受け批准した。
(5)ロシアは、自国の利益につながると判断した。
(6)しかし、ロシアが批准した場合でも、削減義務を果たす国は、世界の排出量の1/3をカバーするに留まる。

B君:要するに、京都議定書なる枠組みは、効果が無い。しかも、日本が批准したのは、メディアが、あるいは市民が勝手にやったことで、産業界はそんなことは知らない。

A君:京都議定書がそのままでは効果が無いのは明らか。しかし、温暖化ガスの排出量を削減するのであれば、まず経済成長を達成した国から始め、徐々に、それ以外の国にも削減を求めていくことが必要。

B君:IPCCの温暖化ガスシナリオによれば、2050年ごろまでの排出の増加は仕方が無い。その間に途上国の貧困問題をできるだけ解決し、自然保護が可能になる程度まで、開発を進める。そして、パキスタン、バングラデシュ、カンボジア、ラオスといった国も、温暖化ガスの排出削減に参加できるようにする。

A君:これによって、2100年までの温度上昇を2℃未満に抑えることが可能になる。
B君:米国が枠組みから離脱したのは、米国の経済がまだまだ途上国型だからだ、と理解するしかない。どこが途上国型かと言われれば、それは、所得格差が大きいことによる社会の歪。例えば、乳児死亡率は、日本の倍以上だし、女性の寿命も80歳と、先進国のデータに及ばない。

A君:中国も同様に所得格差などを考えたら、全くの途上国。しばらくは、京都議定書の枠組みに入るのは無理でしょうね。

C先生:京都議定書の枠組みに入れるのは、完成した国だ、という主張をすべきだろう。米国は未完成だから入れない。日本は、完成した国により近いから、入れた。日本鉄鋼連盟は、日本を未完成な国に戻したいのだろう。

A君:しかし、なかなかそんな意識を持てないのが、企業というものの怖さ。本人は少々そんなように思っても、やはり組織として、そんな意見を述べることはできない場合もあるんですよ。

C先生:今は、京都議定書の話をしているが、実は、今後、石油資源の枯渇が予想される。となると、現時点の状況のように、世界各国でエネルギーを奪い合うのが良いのか。米国のイラクへの侵攻はどのぐらい石油狙いなのか分からないが、こんな力ずくの状況では、エネルギー枯渇は、大きな紛争の種だ。紛争を回避しないと、またまた貧困が増える。

A君:それには、やはり京都議定書の延長線上にある国際的な枠組みが必要になるでしょうね。

B君:2050年までに、そんな枠組みができないと、この地球は危ないかもしれない。
A君:だから、京都議定書そのものは無効だけれど、将来への第一歩として、この枠組みは重要だと考えるのが筋。しかし、日本鉄鋼連盟には、そのような長期的な責任などを考慮する余裕のある人が居ないのでしょうね。

B君:そろそろ、次のロジックを解析しよう。

A君:了解。次には、温暖化ガス排出の現状を分析しています。
(1)日本の排出量の約半分を占める産業部門は、日本経団連傘下の企業が自主行動計画に基づき着実な削減努力を続け、1990年比でマイナス1.7%の削減を達成している。
(2)しかし、排出量の残り半分を占める民生(業務・家庭)部門と運輸部門は、2〜3割増になっている。
(3)日本が目標を達成できるかどうか、それは、民生部門、運輸部門に掛かっている。
B君:これはまあ事実だから仕方が無い。しかし、マイナス1.7%と言っていた産業部門の削減も、2003年実績だと、マイナス0.02%とほとんどゼロ。そして、2004年実績はさらに悪いだろう。産業界も、これまでの不景気を追い風にして、なんとかマイナスにできたが、やはり旧態依然たる産業構造をもっているために、景気が良くなるとすぐに温暖化ガス排出が増えてしまう。

A君:それから、環境省による環境税の案についての記述になっています。
(1)化石燃料等に対し、炭素1トンあたり3400円程度を課税し、その価格上昇によって消費を抑制しようとしている。
(2)次に、約1兆円が見込まれる税収を財源として、省エネ設備・危機の普及や森林吸収源などの温暖化対策を充実させ、目標達成を図る。

B君:環境省案も次々と変わるもので、これがいつの段階だったのか。最近のものは、もっと低額になっているが。

A君:その効果に対して、以下のような疑問を出しています。
(1)新税導入による消費抑制効果だが、ガソリンに換算すれば、リッター2円程度。最近の原油高騰下の価格上昇にもかかわらず、おもったほど消費が冷え込んでいないことを見ても自明。
(2)導入の真意が温暖化対策の財源確保にあるとしても、その用途や効果は明らかにされていない。

B君:明らかに、環境税導入は、直接的な消費抑制を目指すものではない。国民各位に対して、二酸化炭素排出を削減することが、国民にとって義務であることを広く知ってもらうためのものだということが第一の意義。

A君:財源確保が第二の意義でしょうね。その財源確保については、以下のような意見です。
(1)財源なら通常の予算申請プロセスで確保すべし。
(2)森林吸収源対策としては、3兆円を超える農林予算や一般会計予算の優先配分で対応すべき問題。

B君:それでは、国民に対する情報伝達が全くできない。

A君:EUの環境税が引き合いに出されるが、それは全く違うという主張。
(1)EU諸国の場合、90年代の税制改革の一環として導入されており、その税収は一般財源として社会保険料の負担や法人税、所得税の軽減などに充当されている。

B君:EUの方式がお好みなら、すなわち、対象施設に対し排出量の上限、すなわち、CAPが設定され、それが達成できれば法人税が軽減され、達成できなければ14000円/トンといった罰金を払うシステムが良ければ、それを逆提案すればよい。

A君:環境税の経済合理性についての疑問が出されていますね。
(1)環境税は1兆円で排出総量約13億トンのうちの1億トンを削減しようとするもの。その政策コストは1トンあたり1万円。
(2)もしも、京都メカニズム、特に排出量取引を活用すれば、1トンあたり、数ドルから10ドル。
(3)この両者を比較しても、政策コストの差は歴然である。

B君:この議論は全くおかしい。排出量取引を活用すれば、2000億円程度かもしれないが、この金額はロシアに直接渡ってしまって、なんら国内に効果を出すようなものではない。
 しかし、環境税であれば、1兆円の使途は主として国内。となると、無駄がねの排出量取引と違って、国内産業としてもなんらかのメリットがある。それを無視して、全く違った金額を比較している。これは極めておかしなロジック。何を考えているのだろう。

A君:次に、中国との関係です。
(1)国内鉄鋼業の環境税の導入に伴う負担増は、1650億円と推計される。これは、数年前の鉄鋼業の年間経常利益に匹敵する。
(2)中国では、毎年3000万トンもの需要が増加している。これは新日鐵の現有設備能力に匹敵する。環境税の導入により、世界市場に占める日本の鉄鋼業の生産・輸出が減少した場合、エネルギー効率が悪い中国鉄鋼業の生産が増加し、そのため、地球レベルでの温暖化ガスは確実に増加する。

B君:この文章の真意は、日本語からはかなり不鮮明。言いたいことは、恐らく、中国の需要増というチャンスがあるが、環境税があると日本の鉄鋼業は、日本国内での生産量を下げるしかない。そして、中国鉄鋼業にその分取られる。まあ、仕方が無いのでは。米国の鉄鋼業が日本の鉄鋼業に潰され、日本の鉄鋼業は、韓国の浦項製鉄の設備に負けていたが、このところの中国の資源ブラックホール化によって、再びビジネスチャンスが巡ってきた。それが取られてしまう。

A君:確かに、これはおかしい。京都議定書という枠組み自体、すぐさま温暖化ガスの削減を実現するような枠組みではない。将来に渡って、その削減ができるような枠組みを設定するための準備的な枠組みなのだから。

C先生:産業が重工業から徐々にソフト化していくのは、時代の流れとして仕方の無いこと。鉄鋼でもどこでも作れるような低品位のものは中国などに移転していくのが、まあ当然のことだ。日本国内では、日本国内に存在する「うるさい顧客」のための高品位高付加価値製品を作る方向なのではないか。重工業に限らないが、工業というものも、徐々に役割を変えていくのが運命だ。

A君:次に行きます。「国内排出量取引制度」について。
(1)排出量の上限を設定することは、行政が企業活動水準について規制を及ぼすことになるが、これは、不必要かつ不適切である。(2)最大の問題である民生・運輸部門に対しては、そもそもこの制度は適用困難であり、問題解決の決め手にはならない。

B君:EUの環境税とは違うから反対と言いながら、結局のところは、環境税は全部反対なんだ。分かりきったことを言ってしまったが。

A君:民生部門は確かに有効な対策が難しい。それだけに、省エネ機器などの格段に進歩させるしかないのでしょう。それには、技術開発を強力にサポートする財源が必要不可欠なのではないでしょうか。

C先生:しかし、環境税が被害を与える業界として、鉄鋼業、電力、ガス、石油、セメントの5業界があることは、どうしようもない事実。これらの業界にも、排出量削減技術の開発への貢献があれば、それを積極的に評価して、財源の分配を考えるべきだろう。また、輸出産業に対する多少の対応も必要かもしれない。

A君:そして、最後の部分になります。
(1)環境税は、「強制」だからだめ。円滑な削減を促す「誘導」が本来の手法であり、そのための「環境」が必要。
(2)成功事例を示すことも一案。エネルギー消費の比較情報などを一般家庭やオフィスに提供して、その省エネ行動を促すといったことが必要。
(3)民生や運輸用の省エネ機器などに対して、大幅な減税を行うべし。
(4)京都メカニズムの活用が不可欠。
(5)安易に新税や規制措置の導入に依存することなく、わが国の実情に応じた対策を京都メカニズムも活用しつつ柔軟かつ創造的に作る上げることが国益につながる王道。

B君:(1)に関しては、これは、行政がある程度、判断の自由度を持っていること。(2)成功事例を示すだけでは、苦しい状況になっても努力するかどうか。(3)の財源がない。そもそもそれを助成するのは反対。技術開発に使うべきだ。(4)ODAとの関連で京都メカニズムを使うのは良い方法だと思われる。

C先生:(5)の国益というものだが、「やはり鉄は国家なり」なんだろう。鉄鋼業界が益を得なければならない、という主張のように思える。まあ、鉄鋼業界が抵抗を始めたということは、いよいよ環境税の導入が本格的に開始され、2007年には始まるのだろう。

A君:しかし、まだまだ二転三転するような。

B君:用途などが未熟。

C先生:その点は、十分に配慮すべきだ。一般市民の省エネ機器の導入の援助に使用するのは、余り賛成できない。なぜならば、エコプレミアム思想によれば、「高くても環境に良く、かつ、魅力的な商品は買う」のが本当のエコプレミアム人だからだ。金銭的な誘導で買うのでは、これまでの経済のシステムや価値観からの離脱が不可能だ。

A君:しかし、実現は難しい。

C先生:本日、東北大学で、環境科学研究科の同窓会が主催するシンポジウムがあった。そこで、エコプレミアムの話をしてきたが、そこで、元INAX研究所長、現環境科学研究科教授の石田秀輝先生が良い話をされた。
 「これまで、人間は、2回の環境革命を成し遂げた。第一回目は、11000〜10000年前頃のヤンガードリアス寒冷期に農業を始めたこと。第二回目は、1620年ごろの寒冷期が産業革命の引き金を引いたこと。そして、第三回目は、これからである。そして、第一回目も第二回目も、人間の欲求にあわせた革命であったから成功したが、第三回目はむしろ人間の欲求を抑える方向。したがって、この第三回目は難しい」。
 実際その通りではある。しかし、まだ希望が無い訳ではない。まだ、人間には、これまでの革命で使っていない欲求があるからだ。それは、「社会貢献を行うことによって、世間から認められたい」という欲求。これが、旨く活用できれば、第三回目の革命も成功する可能性が無いとは言えない。