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    エリック・ランバン教授の功績   02.09.2020
       2019年のBlue Planet賞受賞者

               



 ベルギーの地理学者であるランバン教授は、森林保護について、多くの業績を残されています。研究手法は、衛星画像の利用と、現地に行くこと(フィールド・ワーク)を組み合わせることによって、地球上における土地利用の実態を把握することでした。結果として、高精度な解析法を世界で恐らく初めて実行し、成功した研究者です。一旦このような解析方法が確立されれば、その後の宇宙技術進歩によって、解像度が格段に上昇した衛星画像を処理することによって、各地の土地利用だけでなく、人間活動の生態系への影響の全体像、特に、森林の劣化や過放牧による草原の砂漠化などが細かく分かるようになり、必ずしも現地に行かなくても、地球環境の状況やその変化を詳細に把握するという進化が実現されましたが、ランバン教授は、このような進化の基礎を作るという大きな科学的貢献をした研究者だと思います。
 このところの地球の状況を見ますと、温暖化の影響と思われますが、オーストラリアやブラジルで大規模な森林火災が頻発しています。オーストラリアの最近の火災の規模はすざまじいもので、あるメディア(president/woman)によりますと、情報の信頼性は確認できませんが、「この火災はこれまで約1700万ヘクタール=日本の国土約半分を焼き尽くしたことになるが、これは昨年のカリフォルニア火災の256倍、アマゾン火災の1.5倍の消失面積。住宅は2900軒以上が被災し、これまでに33名が命を落とした。また、死傷した動物の数は推定12億匹を超えるともいわれている。この被害状況を見ただけでも、世界最大級の災害であり、環境汚染であることは間違いないだろう」としています。このような状況が今後とも頻発するであろうと考えられます。
 ところで、日本には、グリーン購入法という法律があることをご存じですか。環境負荷の低い製品を購入することを義務化する法律です。世界の先進国では、グリーン購入法に類する法律があることが普通になっています。 実のところ、日本のグリーン購入法の対象は、国、地方公共団体など公的な組織だけですが、本音を言えば、市民社会に同じ行動を推奨することが必要です。そのためには、ランバン教授が開発した土地利用の変化と、それにともなう生態系の変化の実態を十分に把握して、市民社会に情報提供をしていくことが、このような枠組みをより効果的に運用するためにも必要不可欠です。
 社会全体にグリーン購入を義務化することは、現時点でも難しいと考えられています。そのためには、なんらかのマークを付けることによって、地球生態系への影響に配慮した製品であることを示すことが行われています。日本でもエコマークなどの仕組みがありますが、事務用紙については、FSC森林認証などのロゴマークがついたものなどが販売されています。しかし、日本では、森林認証を得た事務用紙のシェアは、まだまだ少ないのが現状です。
 2050年を考えるまでもなく、消費者としても、食料や紙などの地球生態系のお蔭で製造することができる商品に対して、これまで以上に配慮をすることが求められる時代になるものと思います。ランバン教授の業績を理解することは、その第一歩になるかと思います(同じくブループラネット賞を授賞されたジャレド・ダイヤモンド氏を取り上げてから大分遅れてしまいました。すみません)。


C先生:ランバン教授も、実は、2019年12月11日にブループラネット賞を受賞された方なのだけれど、その後、個人的な問題意識が、日本社会をなんとかして変えないと、日本の未来が危ないという感覚に占拠されてしまって、なかなかランバン教授の業績やその意味などを考察する時間が無かった。

A君:まあお互い様ですね。次回の課題はこれだから、ということが決まってしまうと、それ以外の課題は、当然、置いてきぼり状態になるので。

B君:もう一つの要素として、2019年のブループラネット賞のもう一人の受賞者がジャレド・ダイアモンド教授だったことも大きい。人間とも思えないぐらいの能力がある万能の巨人に気を取られすぎたという感覚が今でも残っている。

A君:いうことになので、本日は、ランバン教授のご紹介から。それには、最終的な結論をどのような方向に持っていくのか。これを決めないと。

B君:このところの話題で、本記事で取り上げていないことを探しながら、関連を探るという方法論の方が現実的のような気がする。

A君:それでは、そんな方向性で。まずは、エリック・ランバン教授の略歴からご紹介。
 引用は、PNAS(Proceedings of the National Academy of Sciences

 of the United States of America)
のここから。
https://www.pnas.org/content/108/48/19127
相当長い英文ですが、若干、短縮しながら、日本語訳を作りました。

エリック・ランバン教授(Prof. Eric F. Lambin)
 1962年9月23日生まれ
 スタンフォード大学とルーバン大学(ベルギー)の教授を務めている。
 両親は、いずれも大学人で、父親はビジネススクールにおいて戦略的なマーケティングを教え、そして、母親は歴史学者だった。
 エリックがまだ若いときに、家族はベルギーの農業地帯に引越をした。エリックはそこで、サクソフォンを楽しみ、古典な本を読み、そして、外で遊んでいた。家には、馬が飼われていた。その後、大学では、地理学を専攻した。その理由は、「この専門であれば、世界を旅することができる」からであった。
 1985年に大学を卒業するとき、指導教官であったWilmet教授は、アフリカのサヘル地方で現地調査を指揮することを依頼した。丁度そのころ、多くの人工衛星が打ち上げれた。そして、教授は、その衛星写真からできるだけ多くの情報を得るようにと指示した。エリックは、アフリカのブルキナ・ファソに向かった。
 衛星写真を地図と重ね合わせてみると、情報が合致しないことがどうにも多かった。衛星写真と合致するのは、地図よりむしろ部族の持つ情報であった。しかも、すべての部族がそのような情報を持っていた。
 エリックは、地元の部族の頭と長いインタビューができる仲になり、お互いの信頼性がどんどんと高まった。家に戻るバイクには、いつでも贈られたチキンがぶら下がる関係にまでなった。
 そして、結論が得られた。部族の土地利用のパターンは、家畜と耕作のバランス、燃料の獲得法、そして、灌漑の手法によって、ほぼ決まることを発見した。これが、エリックのドクター論文となった。
 その後、エリックは、衛星を使ったいわゆるリモートセンシングの開拓者になった。なぜなら、衛星画像から、土地利用の実態が読める能力を獲得していたから。
 これを世界に拡張し、現時点における現象をより具体的に解決できるようになった。例えば、バイオ燃料を生産するために、農民がトウモロコシや大豆の生産を拡大すると、勿論、食料に対する需要は継続的にあるため、地球上のどこかで、農地が境界を越えて林地に入り込むことになり、森林が減る。ブラジルの現在の状況は、これが起きていると言える。
 ランバン教授、「地球から森林をすべて伐採してしまったら、それは、すべての生命の維持に対する重大なチャレンジになるだろう。森林は、生物多様性を保全し、気候に影響を与え、水の循環を制御している」。
 現時点で、ランバン教授は、スタンフォード大学の地球科学の教授であり、そして、米国National Academy of Sciencesのメンバーに最近選ばれた。増大しつつある世界人口を養うためには、年間270〜490万ヘクタールの農地を開拓する必要があるが、人間の居住地の拡大によって、農地になりうる土地の減少速度は、160〜330ヘクタール/年である。


B君:説明が長かったな。まとめてみると、以下のようになるようだ。
 森林の減少速度の解析については、大部分の学者や関係者は諦めているためか、正確に測定しようとされて来なかった。ランバン教授は、その減少速度は、測定できることを示した。人工衛星からの写真によって、地球の表面のイメージを正確に捉えることができるようになったからである。
 社会経済的なデータと、人工衛星が撮影した画像を重ね合わせることによって、これは、ヒト・画素法と呼ばれるようだけれど、それまで不可能とされていた土地利用の実態が解析できることを示した。すなわち、ランバン教授は、1980年代の中頃、まだ大学院の学生であるとき、アフリカのサブサハラ地域において、この方法を適応し、重要な成果を得た。


A君:ランバン教授の業績である研究の一つの結論の一つとして紹介したバイオ燃料を生産するために、農民がトウモロコシや大豆の生産を拡大すると、副作用として森林減少が起きることも、まあ、当然とも言えるが、こんな結論が衛星写真の解析によって、定量的に導かれるようになった。

C先生:最初、ランバン教授の業績を調べたとき、人工衛星データを詳細に解析すれば得られる結果によって、様々な業績を上げた学者、すなわち、画像解析マニア的な人かと思って、それならそれほどの価値は無いかもしれない、と思ったのが最初の印象だった。しかし、その後、色々と調べているうちに、確実に「現地主義者」と言える学者であることが判明した。環境学者は、その基本的スタンスは現地主義者であるべきで、現地をしっかり見ない限り、実は何も言えないと思う。もっとも、何かモデルを作るといった作業であれば、仮想空間でできる研究もあるとは思うけれど。

A君:特に、途上国の状況を先進国の学者が研究するには、現地主義者以外は信用できませんよね。しかも、ただ「見た」だけでは不十分で、その地に住む人々の生活感覚を共有するためには、お互いの信頼関係を構築することが必須で、それには、会話を交わす以外に方法は無いのが当然のことですね。

B君:この話の延長として、このところ世界各地で起きている森林火災が問題になっている。その典型がオーストラリア。これに関しては、アンソニー・ハーシーという人が作ったこの画像が色々と議論を呼んだようだ。画像の引用はしないので、各自是非ご覧いただきたい。
https://anthonyhearsey.com/australia-is-burning-a-3d-visualisation

A君:これは、ある種の合成写真のようで、ご本人も衛星写真ではないと言っていますよ。そこで、NASAが撮影した合成でない写真を探したけれど、どれも昼間のもので、夜の写真が見つからないのです。昼間だと煙しか見えないので、全く迫力がないですね。例えばこれです。こちらも画像は引用しません。
https://www.nasa.gov/image-feature/goddard/2019/ devastating-bushfires-in-australia

B君:これにも炎が見えるけど、それは手書きの絵みたいだ。

C先生:まあ、衛星画像の話は、そろそろ終わりにしよう。恐らく、衛星写真で炎が見えるとしたら、夜に撮影されたものということなのかもしれない。しかし、夜の衛星写真は余り意味がないということで、撮影しないのが普通なのかもしれなね。
 いずれにしても、ランバン教授の研究態度は、環境研究者として基本に忠実であり、見上げたものだと思う。

A君:ランバン教授のような研究成果が出てくると、森林などをどのような社会システムによって守るか、という問題に自然となりますね。となると、森林であれば、様々な社会的制度を創製することによって守るけれど、どのような方法論が良いのか。

B君:その一つがグリーン購入。日本でもグリーン購入法という法律があって、その順守義務があるのは、官庁だけなのだけれど、環境志向のある一般企業では、このグリーン購入準拠で様々な調達をしている。

A君:加えて、いくつかの国際的な認証スキームがあります。もっとも有名なのが、FSC認証。Forest Stewardship Councilの略で、森林から切り出された木材を原料として生産・加工されるプロセス全体を認証する仕組み。FSC認証が付けられている代表的な製品が紙です。

B君:Amazonで、コピー用紙として検索すると、製品が大量に出てくるけれど、FSC認証と書いてあるのは、コクヨ製だけのようだ。そのA4のコピー用紙500枚が633円。他の製品だと522円〜550円。この価格差がすべてではないだろうけれど、FSC認証は一つの要素。その意味が分かっている人にとっては、A4の紙5枚について1円の出資は意味があるけれど、そんなことを考えていない人にとっては、わずかでも安価な方が良いことになる

A君:環境配慮をしている企業は、グリーン購入をしているというスタンスを取るところが多い。FSC認証がグリーン購入適合商品であるということと直接の関係は無いが、認証紙を買うことでほぼグリーン購入ができることは事実。

B君:こんなこともランバン教授の研究によって、様々な資源消費の実態が分かってきて、先進国でのグリーン購入的な意識向上に貢献したと言える。しかし、日本という国は、やはり、絶海の孤島のような国なので、このようなインターナショナルは枠組みがほとんど普及しない。

A君:もしもグリーン購入に関心があれば、その1000社以上の企業が会員になっているGPN=グリーン購入ネットワークのサイトをチェックしてみて下さい。
https://www.gpn.jp/

B君:地方公共団体のグリーン購入取り組みランキングとか、面白い取り組みも行っているので。

A君:その最新ランキング(2019)によれば、満点の自治体が、北海道猿払村、横浜市、妙高市、大阪府、岡山県、高知県須崎市、長崎県、熊本県、熊本市。

B君:残念ながら、日本全体としての点数は、低下傾向にあるようだ。日本という国では、環境問題と言えば、その不幸な歴史から直接人体に影響のある環境汚染であって、その問題がほぼ片付いてしまったために、地球を守るという意識が不可欠なグリーン購入に関心を持つ人は減少している。最近の若者と議論をしても、極めて深刻な地球温暖化に対しても、ほとんど関心が無い人が多い。

C先生:高齢者になると、温暖化のように長期間を考えなければならない問題については、「自分は無関係」と言えるし、その発言を「見識が無い」と非難するのも難しい。しかし、若者は、例えば、自分が50歳になったときにどのような地球の姿になっているか日本にどのような気候災害が降りかかるかを想像しなければならないのだけれど、それができる人は極めて限られている。どうも、こんな感じらしい。「日本にも色々と問題はあるけれど、現時点がまあまあの国なので、地球レベルのことは考えないで、しばらくは楽しみたい。それには、地球の未来を考えたらそんなことはできないので、意図的に無視する」
 この若者の態度を日本の歴史レベルから見ると、ときどき、日本にも未来を見る集団ができるのだけれど、それは、どうも海外からの影響が直接作用した場合に多いような気がする。日本列島という地理的な状況が、他の国とは全く違う。特に、国境がすべて海という国は特異性が大きいのかもしれない。
 そこでチェックをすると、島国で先進国だと言える国はどうも少ないようだ。ちょっと考えても、イギリス、アイルランド、アイスランド、マルタ、キプロス、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールぐらいなのだが、どう思う。なんとなく特徴(個性)のある国で、しかも、なぜか英連邦が多い。それぞれに特異性があるのも歴史的に見れば必然の国々なのかもしれない