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     民族の世界地図言語編 その1 05.31.2020
       やや古い新書のご紹介



 先週の記事では、コロナ感染に対して、どうやら欧州のベルギーやイタリアなどと日本とでは、死亡に到る割合が、欧州は日本の100倍程度も高いことを示すデータをご紹介しました。また、その前の週まで3回連続で、川島先生の著書をご紹介しましたが、今後、日本がパートナーとして考える東南アジアと日本との関係をどのように見るべきかが示された優れた書籍でした。やはり、過去の歴史が非常に重要であり、これは、ある意味で、民族間の歴史的な関係が、現時点でのお互いの理解に強く影響を与えているということを示す指摘であったとも言うことができます。
 
日本のような、ほぼ単一民族の国に棲んでいると、民族というものを余り考えないで済むのですが、これは、かなり希な国情です。お隣の韓国ですら、百済、新羅、高句麗による三国が鼎立した時代の影響は、未だに、どこかに残っていると言えるのではないかと思います。韓国でのかなりベテラン教授である数名のかつての弟子がいるもので、日韓関係が現時点のようにひどい状態になる前には、しばしば韓国に行っておりました。その時、夜、酒場に連れていかれると、そこのマダムが、私に向かって、「日本人?。あそう。でも、貴方は新羅人ね」と言われたりしたのですが、未だに、その意味・理由は全く理解できていません。
 だからという訳ではないのですが、
日本に棲んでいると、世界の民族のことなどほとんど考えることがない状況で、国名で世界を記述できてしまうと思うのが普通だと思いますが、実際、様々な国に行って、我々が日本から来たと言うと、話をする相手によっては、それなりの反応をする人達に出会うことがあります。
 今回のコロナという
ウィルスは、どうやら、我々に人種というものを再度意識させる結果にもなりそうな気もしますので、読者の皆様には復習だと言われるかもしれませんが、一応、民族とその特性の再整理をしたいと思います。
 なお、今回、参考にした図書は、次のものです。
  新・民族の世界地図
   21世紀研究会編
    文春新書 530
 本日は、その第1回目で
「民族と言語」が主題です。

C先生:前回の記事では、どうも、
コロナに対する耐性が、日本人はなぜか強いという特性を持っているような気がするという話だった。勿論、日本人以外にも、疫病の発信地である中国の近傍の国の住民は、すべてコロナに対するなんらかの耐性を持っているような印象だ。となると、そもそも、民族というものの歴史をチェックしなければならないことになる。
 しかし、それは、膨大は作業になるに違いない。そのスタートとして、まずは、この新書の紹介から始めよう。
ちょっと古いので、いささか問題だ。新しく類書を探したのだけれど、見つからないので、止むを得ず、これを元に民族を若干記述することになってしまった。残念なところだ。

A君:そうなんです。実は、
初版が2006年10月と相当古いのです。著者は、21世紀研究会なるものなのですが、どうやら9名の研究者が集まって、何冊かの新書を書いています。その活動の一つとして、出版されたのは確実なのですが、そもそも、その9名が誰なのか、いくら調べても出てきません

B君:21世紀研究会は、非常に多くの新書を出版していた。しかし、現時点でも生き残っているものはかなり少ないようだ。この
「民族の世界地図」は他の「世界地図」シリーズと比べると、かなり売れたようで、そのためもあって、2006年に、新版として「新・民族の世界地図」が出版され、それも2018年には第7刷がでるという売れ行きを示した。

A君:確かに、読んで見ると、中身はなかなか濃いし、面白いもので、このぐらいの知識を持っているかどうか、それによって、
その人が国際人を目指したかどうかが分かるような感じがしますね。勿論、我々は未熟ですが。

C先生:私自身、世界の60ヶ国以上に行ったことは行った。行く前に、その国に関するなんらかの本を買うことはしたのだけれど、しかし、行く前に読むことはしなかった。むしろ、先入観なしにその国に行って、日本に戻ってきて、あの国について、もっと知りたいと思うと、その本をひっくり返すというやり方だった。

B君:それで、
どの国を再度チェックしたいと思ったんですか。

C先生:なかなか難しいところだが、すべての国についてそう思った訳ではないのは事実。しかも、有用と思える書籍が必ず存在している訳ではない。それに、その国に行くときには、それなりの目的を設定していくが、それは、必ずしも歴史的な理解が必要という訳でもない。
旅の印象が強烈であった場合には、やはり、なんらかのチェックをしたくなる。例えば、アイルランドの社会の自由さと柔軟性には大変驚いたので、国土を一回りして、ダブリンに戻ったとき、その歴史を再チェックした。そして、余りにも悲劇的な歴史が多い国だということを認識して、やはり、アイルランド人が母国を出て、世界各地に難民として移住するようになった状況、そして、その地で大活躍をしたことに、強いインパクトを受けた。最終的には、ダブリンにある難民博物館なるところに行って、その実態をさら明確に知ることができたのだ。アイルランドに行くこともお奨めだし、ダブリンの難民博物館もお奨めだ。

A君:C先生は現場主義者なので、それがベストのやり方であることは良く分かるのですが、誰にでもできるという方法でもない。アイルランドはまだ左側通行だから、自分で車を運転することも不可能とは言えないけれど、ヨーロッパの大陸国の多くは、右側通行でしょ。

B君:右側通行の国にかなり慣れた後でも、一人でカーナビを見ながら、知らない道を運転するのは極めて難しい。助手席にナビゲータが必要なのでは。

C先生:確かにそのような要素は無いとは言わないが、
最近だとカーナビとGoogle Mapを倍率を変えて見れるようにしておくと、かなり安心できる。以前よりは、確実に楽になっている。カーナビだけだと、最近できた道路は入っていない可能性がかなり高いので、確かに、かなり危険だ。勿論、ナビゲータとまで言えなくても、ヘルプしてくれる人がいれば、それに越したことはない。それはそれとして、そろそろ本題に入ろう。

A君:了解です。この本の目次のご紹介から。以下のような構成です。
第1章 民族と言語
第2章 民族と宗教
第3章 民族の移動
第4章 先住民族・少数民族
第5章 民族対立・紛争
第6章 中東・アラブとユダヤ

第7章 エネルギー争奪戦

B君:最後第7章に妙な章が有りますね。

A君:ちょっと読んで見ましたが、やはり、
2006年に書かれた本だけのことはあって、第7章のエネルギーについては、現時点では無用の記述が多いと思いました。第7章に対する基本的に解釈は、やはりパリ協定でガラッと変わったはず。日本はそれほどでもないですが。

B君:加えて、
今回のコロナ騒ぎで、石油の価格が大暴落。具体的には考えられないことが起きた。原油の先物市場での価格が史上初のマイナス価格になった。

A君:要するに、タダでも石油は欲しくないという人ばかりだった。固形物ならば置いて置けばよいけれど、固形物と違って、
液体である石油を貯蔵するにはタンクが不可欠なので、大変なのだ。そして、具体的価格は、4月20日に5月先物が1バレル=マイナス37.63ドルだった。

B君:石油を引き取ってくれれば、逆にお金を払うということ。いずれにしても、液体は厄介だ。このところの
コロナの影響で、車も動かないので、石油タンクはほぼ満タン状態。そして、どうみても、4月20日のコロナの状況は、石油需要国であるヨーロッパ各国は多少、増加傾向が低下しつつあったものの、米国の状況は正に悲惨だった。丁度、4月20日ぐらいから、ちょっとだけ増加率が下がる気配が見え出したばかり。だから、5月にガソリンを入れるという人が、ほとんどいないのは明らか。食糧輸送用の貨物車がディーゼル油を入れるぐらい。

C先生:そろそろ本文に行こう。
第1章の前に、「はじめに」がある。

A君:ここでは、
まあ当然ながら、2001年9月11日の同時多発テロから始まります。実は、米国を標的としたイスラム過激派によるテロは、1990年代から顕在化しているのですが。

B君:それまでの世界各地での
紛争のキーワードは、「イデオロギー」だったが、その後、このキーワードも変化して「民族対立」になったとされている。もっとも、「民族」という言葉が何を意味するのか、極めてあいまいだ。そもそも、何を分類の根拠としているのか、良く分からない。

A君:確かに、民族というものが何を意味するのか、よく分からない。しかし、このところの
日本に対する韓国の動きを見ても、「民族」が対立の根源にあるという感覚は正しいように思う。しかし、「『民族』が違うから対立する」、と簡単に結論することはできそうもない

B君:「人種」ならまだ分かるとこの著者も言う。人種の三大分類が、ネグロイド(黒人)、モンゴロイド(黄色人)、コーカソイド(白人)の三大分類か、これに、オーストラロイド(モンゴロイドから分岐し、オーストラリアなどに居住)を加えて、四大分類。

A君:白人種優位論は、歴史的には植民地制度を正当化するために作られたと言える。この例のように、人種という言葉には、常に、「見下し」の視線が存在している。

B君:そして、
人種という言葉は、民族とは何かを適切に解釈するためには有効ではないと著者は主張する。そして、民族を考える基準として人種よりずっとふさわしいのは「言語」であるとしているが、その一方で、「言語」による分類が、「民族」と重なる訳ではないと断定している。

A君:歴史を見ると、しばしば宗教戦争が起きていますし、北アイルランドの問題だって、実は、英国国教会系とアイルランドのカトリック系との勢力争いだと言えます。
宗教は重要な要素です。

B君:そして、「はじめに」の結論が、日本人は、「民族」に関して特殊な環境にあるということ。

A君:それは当然でしょう。言わば、島国の特典ですね。
エトノスとネーションがほぼ重なっている珍しい国。ちなみに、エトノスとは、同一の文化的伝統を共有するとともに、我々は○○人であるという共属意識をもつ集団のことを言います。

B君:確かに、
世界的に見ると、日本はかなり特殊な国。対馬海峡と宗谷海峡などの海峡の存在に感謝かな。

C先生:そろそろ本文に行こう。まずは、
第1章 民族と言語

A君:言語はある意味もっとも重要です。

B君:この
第1章の記述は、中国から始まる。確かに、このところのコロナ対応にしても、中国の独自性と言うべきか、自己意識というか、自己優位性の意識はどうしても鼻につく。「トランプ大統領の方が、正当な主張をしているのではないか」、という錯覚?!になぜか陥るぐらいだ。

A君:どう見ても、
このところの香港や台湾に対する態度が余りにも酷い。これらはちょっと前まで良い国、いや、良い地域だった。しかも、後進国であった大陸の中国に比べても、知性的な地域だったと思う。他人を思う心が感じられるのが、中国本土との最大の違い。

B君:もっとも、この新書は、「エスノセントリズム(自民族中心主義)は、どの民族にも共通するものだ」、と言い放っている。

A君:そして、それぞれの語族の説明になります。最初に取り上げられるのが、
「インド・ヨーロッパ語族とアーリア神話」

B君:
インドとヨーロッパがなぜ一組なのか。これを知っている人は恐らくかなり少ない。個人的にも初めて知った。

A君:この話、本当ですね。歴史は18世紀後期まで戻りますが、英国人ウィリアム・ジョーンズという法学者が、インドに滞在していたとき、
古来のサンスクリット語が、語彙も構造も、ギリシャ語・ラテン語とよく似ているばかりか、その文法は、ギリシャ語より複雑かつ精緻であることを発表した。そして、彼は、ゴート語、ケルト語、古代ペルシャ語も同じ系統であることを確信していた、とのこと。

B君:このジョーンズの発表があるまで、比較言語学という学問は無かったらしい。

A君:しかし、この発表は、インド社会に大きな悪影響を与えた。なぜなら、ドイツの東洋学者マックス・ミュラーが、インド・ヨーロッパ祖語を話すアーリア人が、東はインド、西はヨーロッパまで広がったという仮説を立てた。
アーリアとは、サンスクリット語で、「高貴」を意味する言葉だった。そして、アーリア人こそ、ヨーロッパ人、ペルシャ人、そして、高階層のインド人の共通の祖先であるとした。

B君:これを
利用したのが、インドを支配下におく英国だった。アーリア人という色白の人種が、インド土着の民を征服し、インドに四階級制度を作ったと英国は主張したが、これがヒンドゥー教徒に混乱をもたらした。特に、北インドに多くすむ上層階級はアーリア人で、南インドに多い下層階級とは容姿が異なるのだ、という説が、インド社会に分裂をもたらした。しかも、この「アーリア人神話」は、最終的に、ナチスの世界観にも影響を与えたそうだ。

A君:この話を読むと、「
そもそもヒトという生物は根本的に愚かなのではないか」、ということを結論にしたくなりますね。

B君:こんな解析が行われたのだけれど、結局のところ、日本語はいまだに系統不明なのだそうだ。しかし、新しい結論は不要で、今のままでよいような気がする。

A君:そうですね。日本に生まれれば日本語を母語とし、日本語を国語として習う。他の国に比べれば、非常に単純化されている。

B君:日本人は、その「単純」が好きなのではないだろうか。なぜなら、「
日本語をペラペラ話す人は、例え、人種的にピュアーな日本人でなくても、極普通に日本人として扱われる」。こんな、極めて単純な国は、日本ぐらいのものなのだと思う。日本語のマイナーさをうまく活用している。

A君:しかし、個人的には多言語国家がうらやましい。例えば、スイス。ドイツ語、フランス語、イタリア語の三ヶ国語を公用語としているのは当然として、それに加えて、ロマンシュ語を第四の公用語にしている。
スイス人は、したがって、世界のどこに行っても、ほぼ完ぺきにコミュニケーションが取れる

C先生:まだ高校生時代の話だが、高度な録音で有名だったLondonレコードには、エルネスト・アンセルメという人が指揮をするスイス・ロマンドというオーケストラのものがあることに気が付いて、これはなんだろうと思ったのだ。調べてみたら、ロマンドとは、ロマンシュ語を話すスイスの地域の名前だった。ご存じのように、スイスは、ベルン付近ではドイツ語が、西に行ってレマン湖周辺になるとフランス語が、そして、南部にいくと、イタリア語とロマンシュ語が使われている。もっとも、フランスとの国境にあるジュネーブのような国連系の国際都市では、英語が標準語かもしれない。
 それはそれとして、そろそろまとめに入らないと。

A君:国語とは何か、という話になります。
世界を調べてみると、国語を定めていない国も珍しくないらしいです。

B君:インドのように、
多数の民族からなっている国は、当然、民族の定義の一部が言語で成り立っている以上、一つの言語を国語だと言う訳にもいかない

A君:やはり、国土の大きさというものは言語に対する影響が大きい。日本だって、小さな国だから、すべてのテレビ放送が日本語、しかも標準語で行われている。これは、なかなか難しいことだ。

C先生:確かにそうだが、なぜか、全く進まないね。しかし、第1章のまとめをやって終わろう。

A君:実は、まだ、第1章の半分しか終わっていないのです。せめて、非常に簡単で良いので、第1章は終わりたい。

B君:よし。分かった。
多数言語を持つ国がどうなったか。まずは、ロシア。言語が150種類もあった。ソビエト連邦も、最初は、それぞれの民族が教育を受けられる権利を保障して、様々な言語での教育が認められた。しかし、長く続かないで、ロシア語教育が強制された。

A君:以後、似たような記述が、かなり続く。言語を強制的に変えることによって、支配していることを示すといった政策が各地で行われた。その結果として、現時点でも、まだ、様々な例が残っているという記述になる。

B君:例えば、
ニュージーランドのマオリ語。スペインのカタルーニャとバスク地方。英国とアイルランドの間にあるマン島の話。

A君:ヨーロッパ大陸の言語として普及している言語は、大部分がインド・ヨーロッパ系言語であるけれど、
バスク地方は、「言語の孤島」と呼ばれて、言語が系統不明の地域。となると、独立を目指す方向性が強まる。

B君:日本でおなじみのフランシスコ・ザビエルは、バスク人だったとのこと。

A君:そんな話が、延々と続くので、ちょっとスキップして、最後に、
ハンガリー語はアジア系、という話。ハンガリー人は自らをマジャール人というけれど、もともと、マジャール人はヴォルガ川中流域からウラル山脈に住んでいた。名前も、姓が先で、名が後にくるアジア風。

C先生:実は、ルーマニアのトランスシルバニア地域にいくつもある
「要塞聖堂=武装化した教会」という世界遺産のいくつかを訪問していたときに、ルーマニアのほぼ中央にあるビスクリ(Viscri)という名称の村で、牧師さんとその奥さんのお二人に説明をいただいた。奥さんは、自分はハンガリー人だから、日本人と同じく、アジア民族だ、と語ってくれて、我々に対して、なんとなく親近感を示してくれた。牧師さんは、ルーマニア人のようだったけれど、なんと教会堂のオルガンを演奏してくれるという大サービスを受けた。中国とか韓国への旅だと、こんな感覚になることはないけれどね。

A君:そのときの会話の言語は?

C先生:
当然、英語。充分に通じるレベル。ルーマニアのブカレスト空港でレンタカーを借りたときにも、英語の上手さに感心した。ヨーロッパでの一般論として、余り有力でない国の国民ほど、英語が上手。エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国の英語は、特に、エストニアは完璧だった

A君:ということで、次回に続きます。