________________

  新コタツ文明の拡張領域   02.22.2009
     



 このところ、さまざまな人々にこの新コタツ文明に関する意見を伺っている状況。大部分の方々は、まずまず正しい方向性ではないか、という好意的な反応である。

 ただし、この新コタツ文明は、そのコアとなる部分、すなわち、セントラルヒーティングに対抗する概念そのものは、これまでの西欧文明の修正路線であって、さらに本質に迫るにはより広範な拡張が行われる必要がある。

 しばらく前、1月27日のことになるが、東京大学安田講堂にて、元素戦略のシンポジウムがあった。そこでも、元素戦略も、実は、新コタツ文明の拡張系と見ることができるという話をした。

 実は、他にも様々な拡張すべき方向性がある。ということで、石田秀輝先生のネイチャー・テクノロジーへと拡張も考えたい。



C先生:まずは、1月27日の元素戦略シンポジウムでの話。元素戦略というものの本質は、日本の製造業の調味料みたいな重要性をもつレアメタルは、日本産がほとんどない。中国がほぼ100%算出しているような元素もある。

A君:電気自動車のモーターに使われる永久磁石があるが、その磁石の主要成分になるジスプロシウムなる元素。

B君:ネオジムに混ぜて使われるのだが、現在の技術だとまだ必須。

C先生:そんな元素をなるべく使わないで済むような技術を開発することは、日本の製造業の価値を高めるために必須なのだ。他にもそんな例が多数ある。

A君:詳細は、当日のプログラムをご覧いただきたい、ということで。

C先生:レアメタルをなるべく長い間使うということが重要。それには、いくつかの対策を考える必要がある。

B君:ひとつは、代替。その元素を使わないで、別の元素でもその特性を実現すること。もうひとつは、使用量をできるだけ削減する。さらに、回収と再生。要するにリサイクル。最終的には、全く別の方法で、その製品のもつ本来の機能を発現させること。

C先生:製品を買うことが目的ではなくて、その製品が提供する機能をわれわれは買っている。ところが、製品そのものを買うことが目的であると誤解しがちな場合もある。たしかに、趣味や嗜好の世界では、その製品でなければ駄目だというケースもあって、そんな製品を日本という国は作りだしてきた。その一例だが、世界中で使われている一眼デジカメのすべては日本製だ。
 これはこれで大切にすべきなのだが、機能を満足させればよいという製品のカテゴリーは実は多い。車は趣味と実益とそして、ステータスシンボルといった三者の中間みたない存在だったが、最近の若者には、車は趣味の対象ではないと考えている人が増えてきた。ステータスシンボルは、これほど多くのメルセデスが日本で走っている今日、すでに死語だ。

A君:元素戦略も、結局のところ、機能とかサービスとかを提供することを本質的なことだと考えれば、さまざまな方法がある。

B君:ただし、代替はやはり重要で、例えば、現時点で白金にしか満足することができない機能があって、それが鉄で実現できるのであれば、それはその技術が世界全体に普及することを意味する。

A君:固体高分子型の燃料電池の触媒などがそれかもしれない。もしも白金を使用しない固体高分子型の燃料電池ができれば、それはそれで意味がある。

C先生:その実現が難しいのが現実だ。酸化や還元と司る触媒は、化学工業が大袈裟に言えば100年間探し続けてきたともいえる。そう簡単なことではない。
 固体高分子型燃料電池の触媒は、最低でも3つの条件を満たす必要がある。(1)非白金族、(2)COで被毒されない、(3)寿命が1万時間以上。まだ、完全なものは無いのではないか。

A君:それに、元素というものは、その電子配置というものがあって、それがその元素の性質を決めている以上、別の元素で代替できるとしたら、似た電子構造をもったもの、という絶対的な縛りがある。

B君:しかし、必ずそうだとは言えないところがあって、その隙間を研究しているのが現状ではないか。この洒落はお分かりだろうか。ニッチという本来の意味の他に、ナノ構造という隙間を作ることによって、機能を出せるはずという信念に基づく研究がある。

C先生:高温超伝導のように、すべての化合物の物性が測定されている訳ではないという分野では、新しい物質が見つかっている。細野先生の鉄系などがその例だ。しかも、高温超伝導体は、ホウ化物は例外的だったが、一般に他成分系なので、まだまだ未開の地ではある。

A君:触媒も、金属元素3種+酸素のような組み合わせですが。かなり歴史が長いので、見つかる可能性が下がっているのでしょうね。金属元素4種+酸素という組み合わせでも、すべてが研究された訳ではない。

B君:液晶などの透明電極になるITO、インジウムとスズの酸化物は、インジウムがレアメタル。スズももちろん限界はあるのだが、透明電極用ぐらいならなんとかなる。

C先生:透明電極の場合には、光を吸収しないのに動きやすい電子という2つの矛盾した条件を満たす必要があるが、その電子は、余りにも専門的かもしれないが、s電子、すなわちs軌道に入っている電子でなければ駄目だということになってはいる。しかし、最近、d電子でも良いのではないか、ということが言われ始めている。だから、全く可能性が無いというものは無い。ただ、昔からやっている技術だと、考えられるほとんどすべての新規と思われるアイディアがすでに試みられている。

A君:先人の失敗の歴史が長い分野では、新しい発見が難しいということは、絶対的な真理なのでしょうね。

B君:やはり学者は領域を積極的に変えろということか。

C先生:その通りなのだが、実験系の人間にとっては、それが難しいのだ。装置を全部新しく揃えなおすと、それだけで数1000万円かかるのが一般的。

A君:しかもその新しい領域で、予算が取れるまで有名になるのも大変。

B君:学会賞などの賞、ノーベル賞を含めてそうかもしれないが、賞を狙うなら、研究領域を変えないで、そこから動かないのが正解。しかし、学会賞が人生の目的というのもさびしい話ではある。

C先生:かなり話がずれてきたので、もとに戻すが、新コタツ文明の本質的な目的のひとつとして、レアメタルのような資源もできるだけ使わないで必要な機能を満足させるという目的がある。

A君:エネルギーの有効利用だけが新コタツ文明の目的ではない。

B君:新コタツ文明とは、「必要なとき、必要なところ、必要なことを必要な量だけ」。

C先生:手段は問わないので、できるだけ、地球への負荷を下げる方法論を発明するということも新コタツ文明の拡張系である。

A君:例えば、化石燃料を安価な材料として使っているのが現代文明の特徴の一つですが、それを天然材料に切り替えるというのも重要な要素。

B君:そう言えば、最近、石田秀輝先生がネイチャー・テクノロジーの本を書いたとか。
A君:そうですね。調べてみたら、「自然に学ぶ粋なテクノロジー」、なぜカタツムリの殻はよごれないのか、化学同人、ISBN978-4-7598-1322-7、\1700、2009年1月25日、ということのようですね。

C先生:この本か?

A君:なんだ。すでにあるじゃないですか。
C先生:寄贈していただいた。石田先生は、アプローチは多少違うが、基本的な方向性はほぼ同じ。説明方法は多少違うが、哲学的な類似性は高いという、いわば同志の一人。

B君:ちらちらと見せて下さい。

A君:今回のコアコンセプトは、どうも粋ということのようですね。スマートとか、インテリジェントでなくて、「粋」というのが良いですね。

C先生:スマート、インテリジェントは、大先輩の故柳田博之先生のキーワードだった。その時代は、まだまだ現在のように文明がターンを始めるといった時期ではなかったので、より付加価値を高めるために、というマインドで取り組みがされている。

A君:江戸時代の「粋」にテクノロジーの原点を求める。この時代の粋の特徴は、西欧文明のように、自然を奴隷にして搾取をした文明ではなくて、自然との和合によって共生をしたということ。

B君:まあ、「人間など、どんな人間でも、そんなに偉くはないよ」、ということが江戸時代のマインドなのかもしれない。その先に、所詮、いくら偉くても人は死ぬ。自然は、個々の生命は死ぬのだが、それでも全体としてはちゃんと持続的に維持されていく。人の欲望が関与すると、自然が破壊されるが、そうでなければ、ちゃんと持続される。

A君:そんなメンタリティーは、セントラルヒーティングみたいな100%の満足を目指さなくても、それなりの満足はあるという新コタツ文明と通じる。

C先生:本の内容の説明をしてくれ。

A君:そうですね。第一章にシロアリのエアコン、カタツムリの殻の話があって、それ以外には、そのような自然の材料などの話が、コラムとして7話が各章にちりばめられ、そして、最後の第九章に、かなり大量にそのような話が出てくる。

B君:第二章から第八章までは、現代文明の危機から説き起こして、どんな方向性が必要か、という主として地球環境の現実と哲学的な話。

C先生:第二章から第八章は、恐らく、かなり似たような記述をした本が見つかるだろう。しかし、多くの本の場合、現在の文明は駄目だ、というところで止まっていて、それを解決する方法論は、主として精神論に留まっている場合が多い。

A君:このHPの主な主張の一つが、もちろん精神論も必要。しかし、それだけでは社会が受け入れることはない。われわれのスタンスとしては、まずは、気付かないうちにいつの間にか、なんらかの技術的な進歩によって良いと思われる方向への変化が社会に仕込まれる。そして、それを加速するために、社会システムがその方向に変化し、そして、最後には、マインドセットも変わって行く、というもの。

B君:この説明をすると、技術至上主義だという批判が来ることもある。しかし、それは間違いだ。
 技術の発展なしに解決は不可能ということを認めるのかどうか。もしも認めるのならば、もっとも効率の高い方法を採用するのが当然で、われわれの判断は、「それがこの順番だ」ということ。もしも、人々のマインドセットが最初に変えることが効率的だというのなら、それがやってみてくれ。邪魔はしないから。ということに過ぎない。

C先生:マインドセットが、実はもっとも変わらないものだということを皆さん知らない。大体、マインドセットが変わるには、35年掛かる。35歳ぐらいで自分の考え方が固まると、それ以後、残念ながら70歳ぐらいなって、自分の考え方が多少間違っていたな、ということを認めても問題がない年齢になって、はじめて考え方が変わる。

A君:もっと変わらないものもありますがね。社会インフラ。橋とか高速道路とか、こんなものは、100年間ぐらい使うことを前提として作られていますね。

B君:だから困るのだ。第二東名を140km/hで設計するときには、もしも開通後2100年ぐらいまでは使われるとしたら、2100年でどんな自動車が高速道路を走っているのか、その想像力が必要不可欠。しかし、設計するとき、誰も、そんなことを考えていない。

C先生:道路は結果だ。固定されているのは、人々のマインドセット。その結果なのだ。

A君:石田先生の本の話に戻りますが、今後の材料開発をどんな方向性で考えるべきか、ということに興味があれば、この本の第一章と第九章は必読ですね。

B君:その通り。材料系の研究者は、すべて、この本のその部分を精読して、自分の研究の方向性を見直すべきだ。

C先生:その通り。ネイチャー・テクノロジーと言えば、その最たるものが、実は遺伝子組み換え技術であるべきなのだが、どうも、人工的な技術として排除される傾向が強い。

A君:やはり自然の知恵に学ぶというスタンスの方が、一般的に受け入れられるのでは。

B君:日本のように、リスクゼロを目指すというメンタリティーには、自然を改変することは駄目だというメンタリティーと繋がるところがある。

A君:現実には、通常の農業が、最大の自然改変の犯人だということには気づかない。遺伝子改変技術を上手に使えば、自然への影響も避けられる可能性があるのですが、そこは無視される。

B君:バイオテクノロジーは、確かに使い方次第ではある。

C先生:昨年、金沢で、レスター・ブラウン氏と公開で議論をしたとき、ブラウン氏に遺伝子組み換えは、環境上どのような問題を引き起こすか、と問うた。答えは、意外なもので、今のやりかたなら問題はないことがすでに実証されている、ということだった。

A君:レスター・ブラウン氏もアメリカ人。

B君:本HPのスタンスは、確かに、食べられる食糧を生産することが目的であるのなら、それほど深刻な危機的状況を引き起こす可能性は低いだろう。しかし、商業的に見て、米国の種子産業に支配されるのは、別の問題がある。

C先生:食べ物以外を作り出すと、それは危ない。たとえば、ある種の植物毒であるアルカロイドが薬用物質に有用だから大量生産ということで、それを産出する植物を大量に育成したとき、交雑によって妙なことが起きないとは限らない。

A君:薬用ということは、毒物だということですからね。食べられる植物が食べられなくなる可能性がある。

B君:食べられる植物というものは、結構貴重品、というよりは希少だ。葉っぱはもともと食べられないものを、品種改良で食べられるようにしているが、穀物と果物は、植物の本性として、誰かに食べてもらった方が、繁殖という意味で有利だから、無害なものを作られる。その植物の本性まで、遺伝子組み換えによって変わるか、ということなのではないか。

A君:それはそうだ。植物で毒性がある部分は、葉っぱ、根、傷を付けて出てくる樹液など。この部分が毒性を帯びる可能性は否定できない。

B君:毒ニンジンができるということか。まあ、可能性はある。

C先生:かなり雑談的だったが、新コタツ文明の方向性を考え、実践している仲間が徐々に増えることを願っている。

A君:そうこうしているうちに、企業もさまざまなことを始めてくれている。
 SONYは、液晶テレビに人の存在を検知するセンサーを組み込んだ。2月20日発売のV5モデル。

B君:三菱電機は、エアコンにリアルタイム消費電力表示機能を付けた。これも、本HPで主張していることが実現された。

C先生:ソニーの人間センサーは、新コタツ文明としては、もっとも簡単なところ。さらなる課題としては、(1)視野角可変液晶テレビ、(2)視線検知テレビ、という大きなターゲットがある。三菱電機のエアコンは、これで良いので、他メーカーも、冷蔵庫、テレビにも拡張を進めて欲しい。