________________


  フードセキュリティー関連の事実データ 06.05.2005



 レスター・ブラウン氏のフードセキュリティーなる本について、前回議論してみた。食糧供給の状況が人類の未来に大きな影響を与えることは、まぎれもない事実である。

 今回は、食糧供給という問題が、どのような枠組みで議論され、それぞれの要因について、どのような事実や知識があるのか、という観点で議論を進める。というよりは、どんな関連する要素についてどんなデータがあるかを列挙することが主たる目的。


C先生:食糧供給という問題は、非常に大きな問題だ。すでに生物としての特性を失いつつある人類であっても、「何も食べないで生きる」ということは実現できそうもない

A君:過去、人類は寒冷期に食糧危機を迎え、そして、様々な工夫をして生き残ったと考えられています。安田先生の本などに詳しいのですが、今から1万年前のヤンガードリアス期は、氷河期が終わった急速な温暖化の期間内に見られた揺り戻しによる寒冷化の時期だとされていますが、この時期に、それまでの採取型・狩猟型の文明では生存が不可能になって、定住型農耕文明が始まったとされているようです。

B君:寒いと農耕文明だって困るのだ。過去、飢饉は必ずといってよいほど、寒冷期に起きている。

A君:それはそれとして、中世の小氷期と呼ばれている期間、恐らく1450年から1700年ぐらいの間なのでしょうが、1600年代から欧州では石炭をかなり使い始めた。勿論、もっと前から石炭などは知られていたようですが、燃やすと有毒ガスが出るもので、木材を燃やすことが普通だった。農地の開発と産業の発展によって森林は枯渇した。しかも、寒冷期になって、木材がますます過伐採されて枯渇し、工夫して石炭を使うようになった。そして、産業革命に繋がる。しかし、それでも、ロンドンのスモッグのような事態が起きて死者多数。

C先生:そのあたりの話は、年代を整理しなおさないと。

A君:了解。。。。少々お待ちを。
まず、
○石炭と大気汚染:12世紀から石炭は使われていた。しかし、煤煙と悪臭による大気汚染。1273年、エドワード1世は、煤煙規制法で石炭の使用を禁止。
○小氷期:1300年から1850年ぐらいを小氷期というようですが、その中でもかなり寒かったマウンダー極小期1660年〜1715年を言う場合もある。
○石炭の使用:レンガを焼く炉の燃料が、まず、木材から石炭に変わったのが15世紀から16世紀。イギリスでの16世紀の石炭使用量は22万トンぐらいか。
○コークス製鉄法の発明:ダービーが1735年。
○産業革命:広辞苑だと1760年代のイギリスに始まり、1830年代以降、欧州諸国に波及。


B君:いずれにしても、寒いと困るのが人間の本性なのだが、エネルギーが必要になるし、食糧も不足する。

C先生:現時点では、温暖化傾向なので、食糧は大丈夫か、と言うと、どうも安心できる状況ではないというブラウン氏の主張を前回紹介している。となると、今後、30年ぐらい以内に、食糧の供給不足が起きて、人類の文明が変わるということが起きるかもしれない。

A君:しかも悪いことには、丁度そのころに、安価な化石燃料の時代は終わりになる可能性もある。

B君:現在の稲作など、太陽エネルギーで育ったコメを食べているのか、石油で育ったコメを食べているのか、良く分からない状態だから、化石燃料の枯渇は、農業にとって一大危機だ。

C先生:そろそろ本題だ。食糧供給の限界は、どのような観点から議論されているのか、その枠組みを示して、いくつかの要因に分ける。そして、それらの要因について、どのような情報があるのか、どのような知識があるのか、レスター・ブラウン氏の本を中心に羅列しようというのが、本日の課題。

A君:食糧供給状況に影響を与える要因のリストを作りますが、消費側の要因もあるのですが、まずは、生産側の要因から。

生産側の要因:
(1)耕作面積
(1−1)穀物価格
(1−2)労働力
(1−3)社会的要因
(1−4)エネルギー価格上昇

(2)単位収量
(2−1)日照量
(2−2)水の利用可能量、旱魃
(2−3)化学肥料の使用量
(2−4)土壌の状況
(2−5)品種改良、遺伝子操作
(2−6)気温、加温
(2−7)多毛作
(2−8)自然災害、例えば、洪水、風害


B君:消費側の要因は、どう書くか問題だが、大体のところは、

消費側の要因:
(3)食物指向
(3−1)肉食指向、トリ、豚、牛
(3−2)果物・野菜指向

C先生:生産側の要因がこんなことで書けるのは、あたり前のことだが、

収穫量=耕作面積×単位収量(反収)

だからだ。

A君:耕作面積は、様々な要因で変わります。例えば灌漑の可否。この項目は、耕作面積として考慮することも可能ですが、単位収量の要因と考えることも可能。旱魃のような災害を反収への影響として捕らえる方が簡単。水は環境要因の一つなので。

B君:エネルギー価格が上昇すると、あらゆるところに影響がでる。その影響は一方向ではないが。例えば、自動車用のエタノール生産が増えれば、トウモロコシの生産量は増えるが、食糧量としては減ることになる。

A君:耕作面積が一定なら、単位収量が問題になります。これは、物理的に決まる量である日照量とか水の利用可能量、あるいは、気温とかいった要因と、化学肥料・農薬使用量といった人為的なものがあります。

B君:「反収」という単語と「単収」という単語があるようなんだが。

A君:広辞苑には反収しかない。もともと1反(ほぼ10アール)あたりの収量という意味なんでしょう。

B君:水が反収に影響するのは、当然のことながら植物が育つのは光合成。
 その反応式を簡単に書くと、光によって次の変化が起きる。

 CO+H0 −> CHO + O

 このCHOがデンプンやセルロースなどになる部分。

A君:だから、水が無いと、植物は育たない。勿論、光が当たらないとこの反応は進まない。

B君:これ以外に、窒素分、リン分、カリなどの肥料成分が土壌から供給されることが必要。なぜならば、すべての細胞には、これらの成分が含まれているので。

C先生:それぞれの項目について、フードセキュリティーにとってプラス、マイナスがあるはず。そんな分類で、事実を羅列してみよう。


生産側の要因:
(1)耕作面積
結果と事実:
*中国で1998年から2003年までで、穀物作付け面積が16%低下
*耕地面積の拡大が可能な国は、ほぼブラジルのみ
*アメリカでは休耕地が、林地に転換されつつある。
*ヨーロッパの休耕地は少ない。300万ha程度

(1−1)穀物価格
マイナス要因:
*野菜、果物への作物転換

(1−2)労働力
マイナス要因:
*アフリカでは、エイズによって労働力が急減。

(1−3)社会的要因
マイナス要因:
*工業化による農地の転換
*自動車の増加による道路の増加、
*駐車場への農地の転換

(1−4)エネルギー価格上昇
結果と事実:
*アメリカでは、3000万トンのトウモロコシを自動車用エタノールの生産に使用
*石油価格の$50突破
*インドの自動車台数は800万台
*  100万台増加するごとに2万haの道路が必要
*アメリカでは、1台あたり0.07haの舗装が必要
*アルコールの自動車燃料化による食糧の減少

(2)単位収量
結果と事実:
*1950年から90年、年2%の増加。
*1990〜2000年、年1%の増加。
*日本のコメの収量は、このところ飽和状態で、4.5トン/ha
*中国では、1960年に1.3トン/ha
*  2004年には4.3トン/haに増加したが、ほぼ飽和状態
*インドでは、1960年に1トン/ha
*  2004年には2トン/haでほぼ飽和状態

(2−1)日照量
結果と事実:
*赤道直下では、夏季の日照時間が短いので、収量は少ない。
*もっとも効率が高いのは、欧州の小麦

(2−2)水の利用可能量、旱魃
結果と事実:
*灌漑面積は20世紀後半に3倍近い増
*  1950年の100万ha弱
*  2002年には275万ha
*世界の灌漑面積の半分以上がアジア
*そのほとんどは、中国とインド
*カザフスタンは降水量が少ないために、小麦の収量は、1.1トン/ha
*  フランスは、6.8トン/ha

マイナス要因:
*中国における地下水位の低下
*中国北半分は、ほとんど水無し
*アメリカにおける地下水位の低下
*インドにおける地下水位の低下
*サウジアラビアで地下水層が涸れた
*温暖化による降雪量の減少で夏季灌漑用水不足。
*都市の水需要増加による農業用水減
*猛暑と旱魃で、フランスからウクライナの広い範囲で穀物がダメージ
*インドによる水をめぐる暴動
*アメリカの化石水と呼ばれる地下水層。灌漑面積は1980年から24%減少
*インドのグジャラート州北部の地下水位は、毎年6メートル低下
*メキシコでは、発電量の6%強が地下水汲みあげ用。
*大河川の断流。ガンジス川、インダス川、黄河など。ナイル川も厳しい状況。
*黄河の取水量は、2000年で550億トン
*  ところが持続可能な量は340億トン
*アマゾンが開発されて大豆・トウモロコシが栽培されることによる雨量減少の恐れ

プラス要因:
*水の生産性を増大するマイクロ灌漑
*キプロスでは、点滴灌漑が90%
*  イスラエルでも66%

(2−3)化学肥料・農薬の使用量
結果と事実:
*化学肥料使用量は1950年に1400万トン
*1989年には1億4600万トン

マイナス要因:
*肥料使用量は減少傾向
*旧ソ連の化学肥料使用量は、88年から95年で1/5に減少
*化学肥料消費量、中国は4000万トン
*  アメリカは2000万トン
*  インドは1800万トン
*ブラジルの大豆にアジア大豆サビ病
*  殺菌剤は大豆平均価格の8%にも

(2−4)土壌の状況
結果と事実:
*カザフスタンでは、穀物作付面積が1980年前後に2500万ha
*  ところが現在、1300万ha
*アフリカの砂嵐で、飛砂量が13億トン
*  これは、1947年の観測開始時から10倍
*ナイジェリアの砂漠化は35万1000ha

マイナス要因:
*アフリカでは、土壌養分の低下が著しい。
*過耕起による土壌浸食
*乾燥地の土壌劣化は深刻で、6億7000万ha

プラス要因:
*不耕起農法の開発

(2−5)品種改良、遺伝子操作
結果と事実:
*1880年代、日本でコメの品質改良=矮性化
*収穫指数が野生種の20%から50%に
  注:収穫指数:種子に回る光合成物の割合
*トウモロコシも矮性化し、かつ、葉を上向きにして日陰を減らした。

マイナス要因:
*しかし、収穫指数の理論値は60%ぐらい、もはや改善の余地はない
*土壌塩分などに対する耐性ぐらいが可能か
*収量増加のために品種改良がなされた例がない

(2−6)気温上昇
マイナス要因:
*気温1℃上昇で、小麦、コメ、トウモロコシの収量は10%減

(2−7)多毛作
マイナス要因
*中国で多毛作が労働力不足で減少

プラス要因
*アメリカでは多毛作が可能

(2−8)自然災害、例えば、洪水、風害
マイナス要因:
*温暖化による降雪量の減少で、洪水の増加
*カザフスタンで耕地の半分が風害


消費側の要因:
(3)食物指向

結果と事実:
*1950年の食肉生産量は4400万トン
*2003年の食肉生産量は2億5300万トン
*世界平均一人あたりだと、1950年で17.2kg
*  2003年には41kg
*インドでは、食肉を換算した穀物消費量が年間200kg
*  アメリカでは、年間800kg
*  イタリアでは、年間400kg
*中国での豚肉生産量は、1978年で900万トン
*  2003年には4600万トン
*世界の豚肉の半分は中国で消費されている
*中国の水産養殖は、2800万トン
*ベトナムでは、2005年までに170万トンの魚とエビを養殖
*飼料に使用される穀物の割合は、ここ20年間ほぼ横ばいで37%(大豆ミートのお陰)
*漁獲量は、1950年には1900万トン
*  1990年には8600万トン
*一人あたりの魚介消費量は、1950年に7.5kg
*  1990年には18.8kg
*漁場は世界中で崩壊しつつある
*放牧で生計を立てている人口は1億8000万
*牛肉生産量は、1950年に2000万トン
*  2003年には6000万トン
*  しかし、1990年以降は年率1%増
*大豆が肉食を支えている
*大豆の生産量は、1950年には、1300万トン
*  2004年で2億2300万トン
*大豆の食品としての消費は、1500万トン
*  残りの2億800万トンは大豆油用
*  搾りかすの大豆ミールが1億4300万トン
*米国における大豆作付け面積は、1978年に小麦を上回った
*米国におけるもっとも広く栽培される作物
*米国では、トウモロコシとの輪作
*インドの牛乳生産は、1970年の2100万トン
*  2003年の8700万トンで世界最大

(3−1)肉食指向、トリ、豚、牛
結果と事実:
*魚介養殖は、エネルギー効率が高い

マイナス要因
*所得増加による食肉指向
*過放牧による土地の劣化
*砂漠化による人口増加と紛争拡大
*所得増加による食肉需要拡大
*ブラジルの牛肉輸出量が、アメリカ・オーストラリアを上回った
*ブラジルでは、2/3の穀物が飼料用
*しかも、牛肉の自国消費量が増えている

プラス要因
*大豆ミートが飼料中のタンパク質を増加
*インドの酪農は、麦わら、トウモロコシの茎、道端の雑草によってなされ、世界最大の牛乳生産国
*中国の水産養殖は、ハクレン、コクレン、ソウギョ、アオウオを一緒に養殖。これは生態系を形成していおり、2002年にコイを1300万トン生産
*中国の養殖魚介生産量は、2800万トンで、鶏肉の2倍
*アメリカの健康志向で牛肉消費減少傾向

(3−2)果物・野菜指向
結果と事実:
*中国の穀物から果物への作物転換


C先生:以上のような検討から、フードセキュリティーのもっとも効果的な解決法はなんだと思う?

A君:やはり、米国が牛肉から豆腐料理に切り替えること。一人あたりの穀物消費量が800kgから300kgになれば、1億トン以上の穀物消費が減る。

B君:なんといっても、人口の制御。それ以外になさそう。

A君:それはそうだが、米国や日本が廃棄している食糧は、なんとそれぞれ5割と4割。これをゼロにするだけで、かなりの食糧問題が解決する。

C先生:先日、某君からレスター・ブラウンは、米国穀物のセールスマンで、悲観シナリオを書くことで、穀物価格の維持に役に立っているという意見がメールで届いた。確かに、そうも言える部分がある。アメリカの一人あたりの穀物消費を400kg以下に減らすことが、世界のフードセキュリティー上も重要だし、第一、アメリカ人が健康になる。

A君:大分前の本HPの結果では、世界的には、カロリー不足による低体重で20年以上の寿命短縮があるのに対して、北米では、体重オーバーで、7年近い寿命短縮。

B君:食べすぎで体重オーバーだけでなく、肉食は寿命を縮める。

A君:それ以外にも、3000万トンの穀物を使った自動車用エタノールが米国で行われているとのこと。余っているうちは良いのですが、そのうち、食料不足がおきると、どうなるんでしょうね。

B君:カーギル・ダウなる米国の企業が主張している生分解性プラにしても同様。結局のところ、米国の余剰農産物対策としての色彩が強く、とても環境対策とは言えない。毎回、言うようにセルロースから作られるプラスチックができて、はじめて意義がある。

C先生:地球環境問題にとって、米国という国がもっとも問題ある国であることは、ここでもやはり事実のようだ。最後にその某君からのメールを掲載する。

某君からのメール:

5月2日付けの読売新聞朝刊1面のブラウン氏のコラムは読まれましたでしょうか。私はこれに非常に違和感を覚えました。というのも、このコラムの論調を一言で言えば「中国は米国のように資源消費するな」だったからです。

 経済力に自信をつけつつある中国は、食糧やエネルギーの消費において「アメリカン・ドリーム」を追いかけ始めています。それが地球規模での資源危機につながりかねないという指摘は以前からあり、ブラウン氏もそう述べています。しかし、米国は過去現在そして、未来も確実である資源の浪費について反省・改善すべき点はないのでしょうか。

 驚くべきことに(驚くには当たらないかもしれませんが)、ブラウン氏のコラムには「米国社会に問題がある」という認識がまったくありません。つまり、自国の状況に触れずに、豊かになりつつある中国、そしてインドなどについて、資源をムダにしない新しい経済モデルが必要だと主張しているのです。

 自国のわがままぶりは見ないフリをして、他国にのみ自制と改善を求める姿勢は公正な言論人のものではないと思います。彼は早くから地球環境問題でさまざまな分析や提言をしているはずですが、米国内で実現しているものはどれほどあるのでしょうか(あまりなさそうな気がします)。

 ご紹介された書物はまだ読んでいませんが、その中に「米国は食糧を摂取しすぎ、廃棄しすぎ」という観点がどれほど盛り込まれているのかに興味があります。読売コラムと同様に、「米国のマネはするな」という一方的なメッセージならば、氏に幻滅してしまいます。

 …というややひねくれた視点ですが、彼を米国の国益の擁護者と見なすこともできるわけです。「日本人は超悲観シナリオが好きなので、ブラウン氏は日本で人気」とありがたがるのはおめでたいと思うのですが。