-------


   食品の「安心」に関する報告書
   09.14.2013  
        (社)品質と安全文化フォーラムの報告書に基づく



 今回の話題は、「食品とリスクと安心」。これがもっとも問題になるのが、風評被害が起きるときである。個人的な見解だが、風評被害が起きること自体が、ある意味で「その国の未熟さの尺度」であって、消費者個人の見識が問われることである。なぜなら、リスクの大小を判断できず、かつ、食料供給者の立場を全く考えない消費者が多ければ、風評被害が頻繁に発生するし、食品にはもともとリスクがあることを理解し、合理的な水準以下のリスクは、生産者への感謝の念をもって受容するといった消費者が大部分であれば、風評被害は発生しないからである。

 それは日本に限ったことではない。韓国では、福島、青森、岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉の8県からの魚介類の輸入を禁止したが、これは(1)政治的な嫌がらせかであるか、あるいは、(2)韓国政府のリスク音痴か、あるいは、(3)韓国消費者のリスク音痴を最大限考慮し、風評被害から韓国漁業を守るための政策的決定か、のいずれかだと思う。見方によっては、国が風評被害を起こす消費者の態度を支援している状況である。

 さて、風評被害がでるかでないか、それは消費者の意識に依存する。「安心」という日本独特の感情が重要なキーワードで、「安心」を消費者がどう考えているかが重要なポイントである。これまで、「安心」を真正面から取り扱うアンケートの存在を知らなかった。そもそも消費者の安全意識のアンケートも多くはない。一般に、膨大な作業が必要なアンケートは、簡単にやれることではないのである。ところが、そのようなアンケートが存在していたのである。

 先日、(社)品質と安全文化フォーラム
http://rrqc-forum.or.jp/index.php/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0%E7%B4%B9%E4%BB%8B/
という団体の会合で、「リスクと安心」という講演をさせていただいた。食品関係など消費者向け製品の製造・販売を行なっている企業からの参加者の大多数を占めているという印象の団体であったが、2013年7月付の興味深い研究報告書(内部向け)を発行している。題して、「食品の安心に関する研究報告書」である。

 本日は、勝手にこの団体の宣伝役を買って出て、この研究プロジェクトの中で行われた「安心」に関する消費者対象のアンケートの一部分だけをご紹介させていただきたいと思う。

 勿論、この一般社団法人の活動の邪魔になることを恐れて、情報はできるだけ部分的な開示に留めるので、もし原本を入手されたいと思われるのであれば、(社)品質と安全文化フォーラム(代表理事:中嶋洋介氏)と直接交渉されれることを御願いしたい。

 念のため再度記述すれば、『下記の内容は、(一般社団法人)品質と安全文化フォーラムが発行した「食品の安心と安全に関する調査報告書」をベースにして、分かり易くするために単純化を行ったものである』。

 さらにもう一つ情報を追加すれば、このアンケートの実施は2013年5月以前であり、このところ衆目を集めている福島原発サイトでの汚染水漏れに関する事件が発生した2013年8月12日以前の消費者からの考え方であるということである。


アンケートと回答

■1.食品全般について

Q1:あなたは現在、日常生活の食品全般について、どの程度「安心」ですか。

4つの選択肢と回答:
少数意見:安心である
過半数:まあ安心である
少数とも言えない意見:やや安心できない
少数意見:安心できない

C先生:やや安心できないという人が、具体的対策として何をやっているのか、そこに興味があるが、安心できないという人の数としては、こんなものではないだろうか。

A君:やや安心できないのが2割を超すのは、多すぎるのではないでしょうか。アンケート結果の報告日が2013年5月27日なので、福島の汚染水タンクからの水漏れは8月19日だったので、その影響は無い時期なので。

B君:ということは、今、アンケートを取ったら、「安心できない」がもっと多くなっているということかもしれない。

C先生:汚染水の問題は、なかなか全貌が明らかにならないので、そのうちじっくり調査して記事にしよう。


Q2:Q1がYesのあなたが食品全般について「安心」と感じている理由は何ですか。該当するものをすべてお選び下さい。

選択肢:(一部のみ開示)
過半数以下:生産・流通が高度にシステム化され、安全が充分保証されているから
ほぼ半数:食品の加工や保存の技術が発達し、安全が保証されているから
過半数以下:おおかたの生産・流通企業が信頼できるから


A君:「安心」を感じている人は、「保証」とか「信頼」といった言葉を理由にしているようですね。

B君:取り敢えずコメントなし。


Q3:Q1がNoのあなたが食品に「安心できない」と感じる理由は何ですか。該当するものを全て(いくつでも)選択して下さい。

選択肢:(一部のみ開示)
かなり多数意見:輸入食品、輸入原材料が多くなり、安全が確保されているかどうか分からないから
多数意見:食品事故や偽装表示が多く見られるから
その他(自由記述)
 放射能汚染の過小評価、原発事故はまだ終息していない、中国・韓国からの輸入、添加物・加工品への不信、産地表示の不徹底。


A君:最大の不信の原因が輸入食品と輸入原材料。この内容とはなんでしょう。

B君:依然として中国餃子事件が頭から抜けないのではないだろうか。あれは、犯罪行為だったが、犯罪行為の防止はどんな場合でも不可能。しかし、それがあることを前提として心理的な不安感を得てしまうと、自給自足以外に方法はないので、得策ではないが。

A君:「食品事故・偽装表示が多く見られるから」という現在形の表現なので、このところ、何かあったっけ、という感じなのですが、恐らく回答者にとっては、2007年暮れに起きた中国餃子事件が現在形なのかもしれません。

B君:現在形だということに関しては、このところの中国・韓国に対する不信感が、食品にも影響している可能性が否定できない。


■2.食品の「安全」と「安心」の意味について

Q4:食品について「安全」と「安心」という言葉がよく使われていますが、あなたは、「安全」と「安心」の意味について、どう考えますか。

3つの選択肢と回答率
少数意見:食品の「安全」と「安心」は結局同じ意味である。
多数意見:食品の「安全」と「安心」は違う意味である。
さらに少数意見:よくわからない。

A君:「安全」と「安心」の区別はできている人が多いのはまあ、当然とはいえ、ホッした。

B君:区別が出来ないという人は、きちんと日本語の意味を考えたことがないのだろうか。

A君:という訳で、次の問が来るのです。


Q5:前問で、違う意味だとお答えの方のみに伺います。どう意味が違うのか、自由記述で回答を。

A君:この報告書では、自由記述が羅列されていて、その評価が次のようにまとめられれて居ます。ここではさらに大幅に簡略化しました。

評価(大幅に簡略化)
 安全は事業者と行政、安心は消費者側の心の問題、と主体が違う。


B君:まあ、正しい理解で良いのでは。

C先生:安心の詳しい議論は、本当は、もっと奥が深いと思うが、それはそれとして、良いのでは。


Q6:近年、食品の「安全・安心」というように並列して用いられることが多いようです。どう思われますか。

選択肢:(一部のみ開示)
1.少数意見:食品の「安全・安心」と並列で用いるのは適切でない。
2.半数程度:食品の「安全・安心」と並列で用いるのも構わない。
3.少数意見:どちらとも言えない。


A君:まあ、言葉は、聴き慣れているか、耳慣れているか、という慣れの問題がもっとも大きいので、こんな結果になるでしょう。報告書による評価は次の通り。

評価(大幅に簡略化)
 併用して使われていても、安全と安心を混同はしていない。


B君:まあ、妥当なところなのでは。事業者側、あるいは、行政側が、安易に「安心」を提供できると思ってはいけない。なんといっても、「安心」の主体は、あくまでも消費者なので。


■3.食品の「安心」の意義についてお伺いします。

Q8:食品の「安心」の意義についてあなたはどう思いますか。もっとも該当するものを一つお選び下さい。

選択肢:(一部のみ開示)
極少数意見:食品の「安心」は全く重要ではなく、消費者にとって必要ないと思う。
少数意見:食品の「安心」はあまり重要ではないが、消費者にとってあっても構わないと思う。
大多数の意見:食品の「安心」は重要であり、消費者にとって必要と思う。
少数意見:よくわからない。

A君:この問いにどういう心理で答えを選択したか、自分に置き換えてみると、なかなか微妙ですね。

B君:われわれ3名は、かなり特殊な人間だよな。3人とも、食品がすべて安全だとは思っていない。むしろ、あらゆる食品には、なんらかのリスクがうっすらと存在していると思っている。その最大のものは、やはり微生物などの天然毒による食中毒だろうと思っている。
 さらに、われわれ3名は幸いにしてアレルギー体質ではないが、食品とアレルギーは、食品がヒトにとって異物である以上、本質的に解決のできない問題なので、アレルギー体質の人にとって、大きなリスクだ。しかも、食品は他の生命体なので、常に一定である訳は無く、むしろ常に変動している。トマトの新種が出たら、それはアレルギー症状を出す可能性のある新種の食品が新たに出てきたと思わなければならないものだ。
 だからといって、我々は、食品に不安をもっている訳でもなく、ある種の「悟り」という安心感をもって平然と食べている。食品を食べる人を消費者と定義するのだろうから、我々にとっても、「安心」は重要なのだ。

A君:「安心」は全く重要でない、という考え方が、どうして出てくるのか、よく分からないですね。常にある種の心配をしながら食べているということでしょうか。

B君:この回答に対する報告書の考察は無いが、確かに、なんとかして確認を取って欲しかったと思う。

A君:少数が分からないと答えていますが、よくわからないとしていますが、確かにそうかもしれない。

B君:極少数ながら安心は不要という答えを書いた人は、食品の提供者側だったということはないだろうか。

A君:多分、回答者に提供者側は含めていないと思うのですよ。


■4 食品の「安心」のゼロリスクについてお伺いします。

Q9:食品の「安心」とは危険性(リスク)が無いこと(ゼロ)であるという意見があります。あなたは、このことについてどう思われますか。

選択肢:(一部のみ開示)
少数意見:食品の「安心」は、危険性(リスク)が全く無いということ(ゼロ)でなければ達成できないと思う
半数以下:食品の「安心」は、危険性(リスク)がゼロでなくても達成できると思う。


A君:ゼロリスク可能論者が約25%。これは通常の想定範囲内ですね。この人々を論理的に説得することは、試みることが可能なだけで、結果は出ない。ある種の信仰なので。

B君:「悟りを開くことができる人」だけが、「ゼロリスクは不可能だけど安心できると言い切ることができる人」だ、というのが、我々3人の共通認識。

A君:その理由は、悟りを開くには、仮説レベルではあるのですが、そもそも生命とは何か、とか、食品とヒトとの関係はどのようなものか、例えば、食品が体内でどのように消化され栄養分がどのように代謝されるのか、といったかなりの生化学的知識を持つことが必要だと思っているので。

B君:それにしても、半数は下回るものの多くの人が、「安心」は、リスクがゼロでなくても達成できると答えていることは、期待が持てる結果だ。「悟り」の状況に近い人は思ったよりも多いかもしれない。


■5 食品の「安全」と「安心」の確保:責任の所在についてお伺いします。

Q10:食品の「安全」確保(安心ではありませ)について、責任の所在はどこにあると思ってますか(複数選択)。

選択肢:(一部のみ開示)
かなり多数意見:行政(政府、都道府県、市町村)
ほとんどの意見:企業(食品事業者:生産、食品加工、流通)
やや少数意見:研究者など


A君:行政に責任があるというけれど、食品の安全性を確保しているのは、農水省系の組織が、残留農薬やアフラトキシンなどをちょっとサンプリングして分析しているだけなので、どうやって責任を果たせと言うのでしょう。

B君:食品は、基本的にノーチェック。問題が起きてからの対応になる。

A君:実は、企業も同様で、すべて組成などを分析してから出荷している訳ではない。経験的な勘に基づく管理が行われているので、その枠を遥かに超すような犯罪とかテロが行われると、食品の安全性の壁は破れてしまう。

B君:流通段階でいくらチェックしても、販売店で縫い針を仕込んだりするいたずらが行われると、安全も破れる。要するに、基本的に脆弱なもの。

A君:行政だけでなく、研究者がどうして責任があるのでしょうか。

B君:これは、安全性チェックに関わるような話ではないと思う。恐らく、BSEのメカニズムを解明して、もう大丈夫だと宣言せよ、といったことが言われているのではないか。あるいは、遺伝子組み換え食品を解明して、あれは危険だから禁止せよ、と言うことが期待されているとか。

A君:話を化学物質のリスクにすれば、この分野では、かなり大きな安全係数をかけた被害の出現を守っているから、余程想定外のことをする事業者でも出ない限り、安全は守られている。しかし、食品は、安全係数を100倍も取ったら、何も食べられなくなってしまうのだ、というところが分かっていないのかもしれない。例えば、食塩だって通常量の100倍を摂取したら命に関わるが、ヒトには味覚というものがあるから、安全が守られている。食塩の摂取量を2倍以下程度にすると、おいしいと感じる人がいるもので、食塩をどうしても過剰に加えがちになって、高血圧と胃がんにとって相当なリスクファクターになる。食品のリスクはそんなもの。

B君:もし、遺伝子組換え食品は危険だという宣言をしろということが研究者に対する期待だとしたら、研究者がこれに応えることは無いと思う。研究をすればするほど、遺伝子組換え食品は、こと安全性に関する限り、普通の食品よりも配慮が行き届いているので。


Q11:食品の「安心」確保(安全ではありません)について、責任の所在はどこにあると思いますか(複数選択)。

選択肢:(一部のみ開示)
少数意見:マスコミ
上よりは多い:消費者(一般市民)


A君:Q10の「安全」よりも割合が増えているのは、マスコミ、消費者(一般市民)の二項目。

B君:消費者(一般市民)が増えているのは、消費者の心の問題なので、自分自身に責任があると思っている人が若干名いるということだとすれば、極めて正常。
 しかし、マスコミは問題だ。恐らく、マスコミが正しい情報を出せば、「安心できる」と思っているからではないか。

A君:マスコミが「安心していいですよ」という情報を出すでしょうか。マスコミが絶対に流さない情報が、この「安心していいですよ」なのだと思います。
 なぜか、と言えば、この安全ですというメッセージ自体、メディアにとって非常に危険性の高いものだからです。世の中には、「安心」してもらっては困るという人が、必ずや存在していて、メディアにとっては、その人々からの反論が怖い、というよりも面倒だからなのです。

B君:食品に関しては、例えば、農薬を使っていないと思わせている有機農業を推進している組織がある。実際には、有機農業による作物が、安心してよいものだという根拠はどこにもない。農薬が怖いから買うという消費者もいるので、商売になる以上、通常の農産物に「安心」してもらっては困る人達が存在しているのだ。

A君:そもそも、野菜というものは、ヒトに対する毒性の低い希な植物を意味する言葉なのですが、基本的に、植物は食用に適さないものが多いのだから、という理解をしている人は、余りにも少ないですね。

C先生:本日9月14日、新潮社から久松達央氏著の「キレイゴト抜きの農業論」なる本が発売された。まだ読み始めていないが、思い込みのかなりの部分が打ち破られるのではないか、と期待している。


Q12:前問で、食品の「安心」確保(安全ではありません)について、責任があるとされた理由について、以下にご記入下さい(政治家は○○だから食品の安全に責任あり」など)。

 これは自由記述で様々な記述があるが、気になるものだけを少々選択してみる。
*政府や行政は消費者が安心して食品を購入できるかどうかチェックしなければならないと思う
*ほとんどの食材を輸入によって賄われているのだから、政治家、行政、企業は食品の安心に責任がある
*その食品が「安全」なので「安心」できますよ、というのが行政、研究者の仕事
*行政が消費者保護の立場から法律などを完備し、それを企業が守り、広報し、消費者がそれを受け入れる


A君:政府や行政は、消費者を安心させなければならない、と言うのですが、食品自体をチェックをすることによって、それを実施することは不可能です。そもそも、チェックは、サンプリングによる以外にない。すなわち、もとも全数検査は不可能な商品であることが認識されていない。

B君:ある地域生産品に限った放射線検査であれば、基本的に非破壊測定なので、実施可能だけど、それ以外になると、破壊検査が必要で、食品とは絶対的な安全の確保は不可能。いくら法律を完備しても、いくら厳しい罰則規定を課しても、それで安心が得られるのかと言えば、やはり不可能なものは不可能。

A君:この報告書の評価は、次の通りです。

評価(大幅削減)
 安心は事業者の責任が強調されている。行政の責任も強調。情報を流す者にも責任があるとする意見も多い。一方で、安心は消費者が判断するものであるという意見もある。


A君:ということで、もっとも一般的な解釈は、結局のところ、安心はすべての関係者に責任があるという解釈かと思います。

B君:何かを起こしてしまって安心を奪うことは、誰にでも余りにも簡単なことなので、そのような状況を作らない、という意味で確かにすべての人々に責任はあるのだけど、だからといって、特に問題のない中立的な状況でも、常に安心を与える責任があると言われてもね。

A君:本Webサイトの安心というものの議論は、安心とは、何かが起きたときの補償とか、処罰とかを決めるということで、安心感を補強することは不可能ではない。しかし、同時に、食品とは何か、そして何が起きうることのか、それにどう対応すべきなのか、などの知識を得る努力をしてくれないと、安心を得ることは容易ではない。その知識のかなりの部分は科学的な知見なのですが、もともと生命現象というものは、科学の対象としては、現状、もっとも不確実なシステムなので、常に、100%確定的なことが言えないものです。となると、100%確定的なことが言えないという限界をどのように理解するか、という訓練からはじめないと難しいのかもしれない。

B君:安心は、かくも難しいもの。暫定的な結論としては、少なくとも、安心できないことのすべての責任は他人にある、というスタンスだけは変えてもらわないと、何も改善されないということだけは確実。

C先生:まあ、そんな結論になるだろう。これで報告書のまだ前半が終わったところ。後半の予告をすれば、個別の話題についての食品の「安心」について、意見を聞いている。その話題とは、
1.食品の放射性セシウム汚染
2.食品添加物
3.食品の残留農薬
4.輸入食品
5.食中毒
6.遺伝子組み換え食品
7.BSE
8.食品の重金属汚染

 さて、どのような意見が集まったのだろうか。