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  レスターブラウン氏のフードセキュリティー 05.28.2005



 先日、レスターブラウン氏と同席する機会があり、そこで、この本をプレゼントされた。
 「フードセキュリティー だれが世界を養うのか」 ISBN4−948754−22−6、ワールドウォッチジャパン \2500
 ブラウン氏の食糧危機に対する態度には同感しつつも、これまでの予測では、超悲観主義派ではないか、と思って来た。ところが、今回のフードセキュリティーを読んだ印象は、かなり違う。何か、解決の糸口を提案しているような雰囲気の本になっている。むしろ、エネルギー供給限界を考えると、もっと悲観的なシナリオが実際に起きてしまう可能性があるのではないか、という印象だった。


C先生:温暖化によっていかなる危機が来るのか。海流の大循環が変わって、北大西洋を冷たい淡水が多い、ヨーロッパが寒冷化するのだろうか。それとも、降水の分布が変化し、穀倉地帯が穀倉地帯で無くなることによる食糧危機なのか。それともやはり、ツバルという国においてすでに起きたと言われる海面上昇が全世界で起きることなのか。

A君:総合的には、食糧危機がやはり可能性が強いと思います。それも、やはり水が鍵。

B君:それは、誰もが同意していることなのではないか。

C先生:二酸化炭素が増えることによって、これは植物にとっては栄養源なので、かえって光合成速度が速まるという要素もあるとされている。寒冷化が食糧危機と直結していることも事実。だから、温暖化は、水の問題を除けば、食糧生産にはプラスという考え方もありうる。
 いずれにしても、ブラウン氏の主張をまとめてみよう。

A君:次のような構成です。
第1章 「地球の限界」に突き進んだ「膨張の半世紀」
第2章 地球号の定員は70億人か
第3章 途上国のホットコール、「もっと肉を」
第4章 地球の食糧生産力を診断する
第5章 砂漠化と駐車場が農地を脅かす
第6章 いよいよ深刻になる「水不足の世紀」
第7章 地球温暖化は食糧生産にダメージ
第8章 中国が食糧を買い占める日
第9章 ブラジル農業への期待と環境不安
第10章 グローバルセキュリティーを目指して

B君:まだ読んだ訳ではないので、推測だ。地球環境問題を考えるときに、特に食糧問題のような問題では、人口の見通しが重要。地球の定員は70億だとしているが、これがまず問題。もっと肉をの話は深刻だ。次の食糧生産力の話は、面積当たりの収量の話だろう。駐車場が農地を脅かすという発想は面白い。水不足が、こんなに後の方で出てくるので良いのだろうか。温暖化は食糧生産にダメージという章があるから、そこで、温度上昇が食糧生産にとって悪か善かという問題も述べられるのだろう。中国、ブラジルの問題は、極めて重要。

C先生:どこから議論をするか。実は、第1章に、以下の章のほとんどすべての話題が濃縮されているのだ。むしろ、第1章を飛ばすべきか。

A君:ではそうします。「地球の定員は70億か」

B君:70億だと主張している根拠は何だ。作付面積が低下し、単位面積あたりの収量(反収)は増加するとして、食糧供給量からの限界か。

A君:実に奇妙なことなのですが、実は、70億という数字の根拠は全く示されること無く、いきなり出てくるのです。多分、以前のブラウン氏の著作などでは解説されていると思うのですが。

C先生:ブラウン氏の以前の議論は、土壌劣化などによって、思ったように作付面積は延びず、また、反収も化学肥料などを使っても限界があるから、ということで、食糧生産の予測値から支えることができる人口を70億人前後と推測していたように思う。

A君:しかし、肉をどのぐらい食べるか、によって穀物の使用効率が全く違うので、もしも、牛肉をほとんど食べず、豚肉はちょっと食べる、肉の大部分はトリということであれば、現在の食糧生産の延長線上にある技術のみでも、120億人を養うことができるという話もありますが。

B君:食糧生産量の統計値、すなわち、一人あたりの穀物摂取量からの推測だろう。現在、穀物の生産量は、20億トン。ブラウン氏は、1984年に食糧生産がピークになるという説を唱えていたが、実際には、2005年まで揺らぎながらも直線的に延びてきた。20億トンを64億人で分配すると、一人あたりの摂取可能カロリーが3400kcalぐらいになる。カロリー源として、芋や果物・野菜、魚、さらに、草で育てた肉などはこれ以外に摂取できるから、120億人になっても、穀物を餌にして肉さえ生産しなければ、生存可能という理屈だった。

C先生:食糧限界については、様々な見解があって、FAOのような国際機関の予測値に比べると、ブラウン氏の予測は、食糧生産ピーク説のこともあって、悲観的過ぎると言われていた。ところが、この70億人という地球号の定員の話だが、何年後のことを考えてのことなのだろうか。

A君:どうも、2050年ごろの話ではないでしょうか。放置すれば90億人になるとしていますが、国連の人口予測は、そんなものですから。

C先生:地球号の定員という表現が適当かどうか、それがまず問題。現在の人間活動というものは、化石燃料を大量に使用できるという前提で行われていてるのだが、化石燃料は使い方にもよるが、数100年の寿命しかないものだ。地球号の歴史、46億年のうち、化石燃料が使えるのが数100年だとしたら、この数100年の定員をもって地球号の定員だとするのは正しくない。

B君:もしも化石燃料が枯渇したら、すべて太陽エネルギーと地熱、すなわち、持続可能なエネルギーでまかなわなければならない。となると、地面をどのように使うかが問題。頼りになるのは、結局のところ植物だから、バイオマス(大量の植物)の奪い合い状態になる。バイオマスを食糧として使うのか、それともエネルギー源として使うのか。

A君:もっとも人間の食糧になる部分というのは、バイオマスのうちの僅かな部分ですから、バイオマス系廃棄物をエネルギー源に使うという考え方が妥当ではありますが。

C先生:バイオマスでまかなえるエネルギーの総量が、現在、我々が使っている全エネルギー量の6割ぐらいではないか。となると、基本的には、地球上の人口限界は、エネルギー限界で決まることになって、大体30億人か。

A君:風力発電などがどこまで拡大できるか、これが大きな問題。

B君:さらに、そうなったら、原子力の出番だろうから、核融合を開発すれば、なんとかなる。

C先生:それはそうだ。原子力を導入して、地球の究極の能力を拡大するという方向性は、確かにありうる。そうなれば、人口100億人でも養える可能性が皆無ではない。

A君:となると、エネルギーシナリオが大きな要素で、化石燃料が無くなったら、30億人が地球の能力だと見るのか、それとも100億人と見るのか、これが問題。

C先生:100億人のつもりで人口を増やしていったら、急に駄目になったと言われても、それは困る。だから、とりあえずは30億人のつもりで政策決定を行って、100億養えるということが確実になったら、人口増加をすれば良い。

B君:そんなに旨くはいかんでしょう。

C先生:その通りだ。しかし、レスターブラウン氏も述べているように、われわれ国連の目標は、人口を減らすこと。それも、無理やりではなくて、初等教育を充実させ、女性の地位を向上させ、乳児死亡率を低下させると、自然に人口増加率は低下する。すでに、タイ、イランなどでもそんな傾向になっている。これをすべての途上国に広げることによって、世界の人口を化石燃料がある間に30億人に下げる。具体的には、2300年の人口が30億人以下になるように、地球全体をマネージすることが重要だと考えている。

A君:もしそうなれば、それから先の生活は結構優雅なのでは。拡大政策は駄目なのですから、過度な競争社会にはならず、持続的な思想で生活を設計することができるようになって。

B君:若い諸君が未来に対して悲観的なシナリオしかもてないという話を良く聞く。これは、現在の、初等中等教育で、地球限界やダイオキシン・環境ホルモンなどの悲観的な話ばかり教えられているからではないか。

A君:ダイオキシンは「サリンの数倍」。環境ホルモンでメス化。地球温暖化で海面上昇。こんな話ばかりでは、確かに暗くなる。

B君:それに、子供を育てるときに、できるだけ子供に自由にさせるということが良い子を作ることだ、という教育態度が間違っている。子供には、できるだけ多くの選択肢を与えるのが良くて、選択肢なしに全く自由に行動を選択できるという能力は、まだ子供には無いことを理解しないと。

A君:確かに、こんな多くの選択肢があるよ、という提示をすることが重要。しかし、君たちは、この選択肢の中から選ぶ必要があって、それ以外がどうしてもやりたかったら、それをやる前に大人と相談しなさい、というのが正しい教育ですよね。

C先生:何かやりたい、という発想を持つには、やはりかなり成熟した知性を持つことが必要で、子供の時代に、単純に本能的な欲望だけで動くことを推奨することは、何のプラスにもならないだろう。環境の場合でも、暗い話をするのではなくて、もっと、人間とは何か、それが限界ある地球の上で生きていくとき、自分達だけではなくて、未来の世代に対しても、どんな生活をするのが良いか、そのためには、どんな情報を知識・知恵として備えるべきなのか、といったよりポジティブな対応で環境教育がなされることが絶対的に必要。

A君:環境教育、特に、初等中等教育での環境教育は難しい。くれぐれも、ダイオキシン・環境ホルモンは危ないということが環境教育だと思わないで欲しい。

B君:実際、ダイオキシンはかなり微量で危険性はあるものではあるが、実際に摂取する量から考えたら、危険な物質だとはとても言えない。

C先生:先日、大阪大学名誉教授の野村大成先生にお目にかかった。日本におけるダイオキシン毒性研究の先駆者だ。ダイオキシンについて、最近の見解はいかがですか、と聞いたところ、「ダイオキシンか、あんなに危険でないものは他に無い」、という返答だった。これは、B君の言ったことと同じで、現在の摂取量を考えたら、とても危険だとは言えないという見解だ。

A君:大分話がずれました。地球号の定員は、2050年には70億で良いが、それ以後、どんどんと定員は減って、2300年には30億人。

C先生:250年間で、人口を半分に減らすのは、極めて自然に行うことが可能。途上国の経済発展が実現できれば、あとは教育のみ。

A君:実に、ブラウン氏のこの本にもそんな記述はあって、イラン、タイでどのようにして出生率が低下したか、その実例が説明されています。皆さんにもご一読をお奨め。

C先生:第3章の「もっと肉を」は飛ばそう。

A君:第4章に行きます。食糧生産能を検証。

B君:ちょっと見たら、この章には面白い実例が出ているようだ。しかし、結論が、余り大きな期待はできないが、まだ可能性がある、というように読める。以前の悲観的な見通しと若干違うのではないか。

C先生:最後の結論が、農村コミュニティーが鍵。これは、環境問題の一般的最終結論。ここに結論が来たのは面白い。具体的には、多毛作を推奨するインセンティブ。水利用効率の拡大。例えば、植物の周りだけに灌漑を行うマイクロ灌漑。さらには、食糧にならないバイオマスを用いた酪農による牛乳の生産。どうもブラウン氏も、なんらかの可能性を見出したのではないだろうか

A君:第5章は、「砂漠化と駐車場と農地」。駐車場が農地と競合するという話は、非常に面白いですね。果たしてそこまで自動車産業が拡大するかどうか、いささか疑問ではありますが。

C先生:実は、駐車場だけではなくて、道路の面積も農地と競合するという説明だった。

A君:しかし、この章にも、悲観的なシナリオだけでなく、不耕起栽培を推奨しています。旧来の方法は、畑を掘り返して平らにすると同時に雑草を除去し、そこに種をまいて農業を行うといったやり方。そうではなく、必要最小限の溝を掘って、そこに種をまき、雑草は除草剤で除去するという栽培法が、土壌の風食を防止するだけでなく、耕起に必要な石油使用量も減らすから、という新しい提案がなされています。実際、かなり普及をしていいて、効果がでているようです。

B君:除草剤(=農薬)嫌いの日本人にとっては、目玉が飛び出る栽培方法なのではないか。

A君:有機栽培は、所詮、贅沢品ですから。環境問題と有機栽培は余り関係ない話。

C先生;ここでもまたまた、ブラウン氏は新しい可能性を見つけたのではないだろうか。

B君:第6章が「水不足の世紀」。ちらちら見てみたら、ここにも様々な面白い事実が列挙されている。

C先生:しかし、ここは本当に心配なところだ。特に、米国中西部の再生されない地下水、いわゆる化石水を使っての農業が、いつまで継続できるか。これが最大の鍵であるにも関わらず、ブラウン氏にも予測不能のようだ。これが起きたら、米国の食糧自給は不可能になって、人口を減少させなければならない状況になるだろう。現在の米国は2.8億人だが、2100年には4億人を超すだろうという予測。しかし、これが不可能になるだろう。それ自身、地球にとっては良いことかもしれないが。

B君:いよいよ「地球温暖化は食糧生産にダメージ」

A君:この章は、他の章に比べると、悲観的な印象。これまで、温度の上昇と二酸化炭素の濃度増大は、結果的に食糧増産に有利と考えている人が多かった。

B君:元となるデータは、フィリピンのIRRIという研究所が出したもので、1℃の気温上昇で、小麦、コメ、トウモロコシの収量が10%も減るという結論みたいだな。

A君:それは確かに大きな影響ですね。

B君:そのようだ。受粉が旨くできなくなるかららしい。34℃だと100%モミができるが、40℃だと、ほとんどモミにならない。

A君:開花時の温度が34℃までは大丈夫なんだ。ということは、開花時をずらすことができればなんとかなるのでは。

B君:日本のようなところでは、影響はでないかもしれない。以前にも同じような話があって、37℃になると、光合成が起きなくなるというのがあったが、その話は出てきていないようだ。

C先生:ところで、温度が上昇すれば、栽培北限が北上することによって、耕地面積が増えるということはどこまで計算に入っているのだろうか。

A君:考えられていないようですね。

B君:検証が必要なことは事実だろう。

A君:海面上昇のデータが悪くなっていることも指摘されていますね。海面上昇が起きれば、バングラデシュなどで農地がなくなる。アラスカ・カナダ西部の氷河の溶解で毎年0.14ミリ上昇するという予測値が、実際には速く溶解しつつあり、海面上昇への寄与が毎年0.32ミリになっているということです。

B君:やけに少ない上昇だな。10年間で1.4ミリが3.2ミリ。100年間で1.4センチが3.2センチ。まあ、氷河は、グリーンランドにも大きいものがある。しかし、こちらは一気には溶けないとされている。

A君:海面上昇は、IPCCの報告書が2100年までに最大1メートルといっていたものが、最近の他の予測では、多少下がったのでは。

B君:少なくとも、ツバルの水没は、温暖化による海面上昇のためではないと思っている。生活排水や廃棄物投棄によるサンゴ礁の劣化によって、これまでサンゴ礁の外側で砕けていた波が海岸まで押し寄せるようになって、島の侵食が進んだためではないだろうか。

A君:他の国の状況を見ても、サンゴ礁があれば、波は浜辺まで来ませんね。

B君:以前の状況を知らないし、余り無責任な推測はしたくないのだが、ツバルの水没が海面上昇によるものだ、という結論はどうも怪しいのだ。

C先生:そんなところで次ぎへ。

A君:残りの2章が
第8章 中国が食糧を買い占める
第9章 ブラジル農業への期待と環境不安

B君:中国は、やはり米国的な発想で国を運営する可能性が非常に高い国の一つ。あるいは、米国の忠実な後継者になるかもしれない。

A君:ブラジル農業は、唯一今後期待できるところとされているのですが、熱帯林保全との関係をどこまで満足させつつ食糧の供給を目指すのか。大問題だと思います。

B君:そして、結論が、
第10章 グローバルセキュリティーを目指して

A君:食糧は、たしかに温暖化の影響をもっと受ける問題のように思います。食糧生産は気候に依存しています。特に、降水量の変化には極めて敏感ですから。

B君:それにしても、レスター・ブラウン氏の食糧本は何冊もあるが、これまでの悲観論一辺倒から、どうも、なんらかの光を見出したのではないだろうか。

C先生:「人口の制御が不可能ではない」、と思う。教育などによって、余り人口が増えないという状況を作り出すことができる。これは大きい。レスター・ブラウン氏の言うように、70億人が地球の定員だとはとても思わないが、人口が制御可能であれば、後は、水利用効率の徹底的な上昇、さらには、土壌劣化を招かない農業、などなどを実施することによって、超悲観シナリオからの離脱が可能だと考えているのではないだろうか。

A君:日本人は、超悲観シナリオが好きなんですが。それでブラウン氏は日本で人気がある。

B君:悲観論を考えてしまいそうな状況もまだまだ多いのも事実。この本にある情報を整理して、食糧供給危機が実際どのような形で来るのか、どんな解決法があるのか、その議論を行う場合の基礎的な情報集でも作ると良さそうだ。

C先生:今回、少々表面を舐めただけ、という感じなので、何か事件でも起きない限り、次回にでももう一回、この本を中心にして、食糧問題を議論してみたい。