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   健康食品のリスク    01.24.2016
        自分がリスクを理解しているかが分かる 




 今回は、各国がCOP21のために提出したINDC(約束草案)の内容について検討する予定だったのですが、FaceBookの非公開グループ『環境学ガイド』で、食品のリスクに関わる話の議論が行われたため、次回以降にご紹介する予定であった次の書籍のご紹介をすることにしました。

 食品からなんらかの健康メリットを得ようと考える人であれば必読書、いや、多分、すべての人にとって必読書なのですが、残念ながら、健康に良い食品を選択したいという人が読もうとは思わないタイプの本だということでもあります(その理由は、「何が書いてあるか全く理解できない」?)。この本がベストセラーになるような国であれば、将来の日本におけるリスク理解の向上にも期待が持てるのですが。。。。

「健康食品」のことがよくわかる本
 畝山智香子著
 単行本: 232ページ
 出版社: 日本評論社 (2016/1/12)
 ISBN-10: 4535586802
 ISBN-13: 978-4535586802
 発売日: 2016/1/12 第1版、第1刷



C先生:いつでも畝山さんの努力には、いかにそれが仕事なのだからとはいっても、感心させられている。日本における食品のリスク、特に、健康影響からの観点での第一人者。松永和紀さんは、食物の農業系の話になったら並ぶ人なし、ということだろう。二人とも女性。これに中西準子先生を加えた三名が、リスクの三大女傑。そして畝山さんは、この三名の中では、女傑というイメージからは、もっとも遠い人。

A君:松永さんなら、
http://www.foocom.net/
の編集者ですから、ここをチェック。
畝山さんは、国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部に勤務されていて、”食品の安全性に関する情報”を担当。
http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/index.html

B君:これはまあプロ向きのサイトだ。

A君:そのプロ向きのサイトを作成している業務の中で、一般市民が絶対に知らなければならない安全情報をやや高度な単行書として書いている、というのが畝山さんの活動。食品の安全ということが何を意味するのか、それを知りたいと思えば、単行書を買うことをお奨め。しかし、一般の人々の怖いところは、そんな情報は、テレビや雑誌、あるいは、ネットなどで得られると誤解していることでしょう。

C先生:ネットもどこを見るかによるな。健康食品の安全性・有効性に関する情報であれば、国立健康・栄養研究所のこのサイトを読むことをお薦め。
https://hfnet.nih.go.jp/
1000件ぐらいの健康食品のデータ(ほぼすべてと言えそう)が入手可能なのだから、ネットならではとも言えるサイトだ。

B君:今回の記事の最大の目的は、テレビ、雑誌、ネットの情報がいかに間違っているかを示すこと。本当のことを知りたければ、やはり優れた単行書を読むことが必須になると言いたい。この二点。場合によっては、国立健康・栄養研究所のウェブを読むことでも良いのだが、そんな人はほとんどいない。だから、テレビ、雑誌、ブログに騙される。

A君:最近、本を買わないという人が増えたのが問題。C先生は、年間の書籍購入数に目標があるとか。

C先生:書籍を買う目標があるという訳ではなくて、時々本屋に行くというのが目標なんだ。買うのはアマゾンということも多いのだけれど、やはり、ときどき本屋を覘くことで、書籍の購入冊数が増える。しかも、実物を手にしないでアマゾンで買った本は、どうも『積ん読』(死後になりつつあるような)になってしまうことが多いのだけれど、手にして何か感じた本は、大体最後まで読む。新規に本を入手する冊数は、良く分からないけれど、小説などの娯楽用はほとんど買わないが、50冊ぐらいかも。多い方には属さないと思う。

B君:さて、本論に入って、この本の紹介は、先ほど言ったように、「メディア経由の情報がいかに怪しいか」を明らかにすることを第一目標。そして、「食品のリスクというものを考えるときのミニマムの原理として、何を準備しておくべきか」ということの解明が第二目標ぐらいか。

A君:ということで作業に入りましょう。目標が第一、第二と示されたのですが、全体構成の紹介は避けられないと思いますので、目次から。

目次
第一章 医薬品はどう安全なの
第二章 食品が安全とは?
第三章 食品と医薬品の間に何があるの?
第四章 食品の機能表示とはどういうもの?
終章  食品の機能とはそもそも何?

B君:第一目標が「メディア&ブログ経由の情報がいかに怪しいか」だとすると、第四章から行くのが良いような気がする。特に、『消費者を誤解させる事例』というものが5つ、コラムを加えて6つあるので、これから行こう。

A君:了解。事例紹介のような感じで行きます。
 まずは、事例4として紹介されているものです。
 2015年の春にあった事件。インターナショナル・アーカイブス・オブ・メディシンという雑誌に「チョコレートで痩せる」というタイトルの論文が発表され、世界中20ヶ国以上6言語以上で報道された。
 研究の内容は、低炭水化物ダイエットの際、毎日チョコバーを1つ食べることで、食べない場合よりも10%早く痩せるというものだった。ところが、5月になって、ジョン・ボノハン博士がこの論文を書いたのは自分で、ドイツのドキュメンタリー映画の製作者二人に依頼されて行った実験であったことを告白。
 ドイツのジャーナリスト、ピーター・オニーケンとダイアナ・ローブが「食の研究とメディアの腐った関係を暴露するための」ドキュメンタリー映画を考え、ボハノン博士に計画を持ちかけた。彼は、しばらく前にオープンアクセスジャーナルの危険性を暴露したことで有名になった人。
 オープンアクセスジャーナルというのは、学術雑誌の振りをした商売で、インターネット上のサイトに、掲載料を取って、論文を掲載するもの。内容の精査はまず行われないので、なんでもあり状態。本物の学術雑誌だって、程度は様々だけれど、その雑誌の格を示すものとして「内容の査読」があり、有名な雑誌ほど、査読は厳しい。

B君:情報を出すことがほとんど無料になってしまったことも、インターネット革命の重大なところ。以前であれば、自分の持っている情報を公表しようとすれば、自主出版を行うぐらいしか手が無かったのだけれど、最近は、インターネットの無料のブログで可能になった。だから、無料ブログの内容は、疑ってかかるのが常識なのだ。ツイッターという本来、自分の感覚を述べるメディアで、何本も連結して自分の意見を述べる人もいる。

A君:ちなみに、本サイト(http://www.yasuienv.net/)は、C先生が、年間若干の私費を投じて、ウェブサイトをAsahiネット上にスペースを確保し構築しているので、無料のブログとは違いますので、念のため。そのため、「本サイト」という表現にしていて、「本ブログ」という言葉を使いません

C先生:しかし、有料サイトを使っているからといって、すべて真実を書く人ばかりではない。こちらは、東日本大震災+福島原発事故以来の傾向だけれど、自分のポジションを先に決めて、そのポジションに都合のよいデータや事実だけを述べ、都合の悪いことは全面否定というネットでの記述が増えた。しかも、組織的にそれが行われていた。将来、人工知能が有能になったら、それぞれのブログの内容について、どういう傾向があるかを判定してくれる検索エンジンができるとよいのだが。

A君:さて、話を戻して、そのボハノン博士のニセ論文に、メディアは乗ってきた。彼は、その感想として、こう述べているとのこと。『栄養(食品と機能)に関しては、毎日がエイプリルフールである』

B君:ボハノン博士のプレス発表のときに、その論文の内容、すなわち、実験のやり方や解析の妥当性について、記者からの質問は全く無かったとのこと。

A君:このような話題になると、いつでもここで主張していることは、メディアの記者の真実とは、『誰かがこう言っている』というところまでの真実。そこまでで責任を果たしている、と主張する。

B君:誰かが何を言っているが、『その発言が真実かどうか』の判定は、メディアの記者の関与しないところだ、ということだ。

C先生:メディアの記者の中では、メジャー新聞の記者がもっとも高給取りなのだから、もっと内容にまで責任を取れ、と言いたい。しかし、新聞記者にとって、大きな関門は、自分の書いた記事の採択権を握っているデスクの存在。だから、デスクが『面白いね』と言うような記事であれば、中身は不問なのだ。中身が真実かどうかを問題にしていると、『お前の書く記事は、どれも面白くない』と言われて、左遷される。新聞社の体質が、このような状況を作り出している元凶だ。

A君:それでは、事例2に行きます。これは、医学雑誌BMJが行った調査の話。
 英国の主要研究機関20が行ったプレスリリースの内容をチェックしたもの。2011年の462件が対象でした。その結論は、全体として40%が、その機関が投稿したオリジナルの論文よりも、表現がセンセーショナルだった。

B君:プレスリリースをするとき、やはりインパクトの強さを第一優先する。これは、世界的にごく普通の傾向だ。大学などの研究機関が、研究費や優秀な学生を集めるための競争が激しくなったことが原因だ。

A君:日本では、以前は、その傾向が弱い国だったが、それも「国立大学」の時代までだ。具体的には、2004年に国立大学法人になってから、妙なことが起きるようになった、というか、「悪い世界標準」を採用した。

B君:この本で挙げられている例が、金沢大学が発表したプレスリリース、「毎日1杯でリスクが1/3に−緑茶を飲む習慣と認知機能低下」

A君:内容の詳細ですが、「462名を追跡調査。追跡期間4.9年で、26人が認知症発症、64人が軽度認知症に。週に1〜6日緑茶を飲むと、発生率が0.47に、毎日1杯以上緑茶を飲むと、0.32に低下する」との結果。一方、コーヒー・紅茶を飲むこととの関連はなかった」。

B君:緑茶が、すごく魅力的に聞こえる。

A君:ところが、論文本体を読むと、緑茶を飲むことと、趣味や身体活動との相関が高いということが記述されている。

B君:趣味や身体活動が多ければ、認知症予防効果があることは、すでに常識化している事実。

A君:プレスリリースには、その肝心なことが書かれていない。逆に、「緑茶に含まれている天然化合物が効いているという証拠を出すことが期待される」と書かれているけれど、論文には、それを推定させる、あるいは、サポートする事実は、何一つ書かれていない。

B君:最初から、無能なメディアを使って、自己宣伝をしようとしている。金沢大学でもこの始末。

C先生:このぐらいにして、健康食品というものをどう理解すべきか、そして、食品のリスクにどう対処すべきか、という第二のポイントに行こうか。

A君:この第二のポイントは、「食品のリスクというものを考えるときのミニマムの原理として、何を準備しておくべきかということの解明が第二目標」でした。これにも論点はいくつかあります。まず、最大の問題点は、国によって健康食品、より厳密に言えば、食品の機能表示への対処方針というものが全く違うということです。日本という国では、我々市民が得る情報そのものが怪しいということ。

B君:これは重要な問題。どのような理解が国民サイドに必要か、ということになると、日本の場合、真理探求の最初の一歩は、「企業・メディアの出す情報はすべて疑え」になってしまう。

A君:現実的にはそういうことでしょう。まずは、国による対処法の比較から行きますが、この本にも、EU、米国の記述があります。第4章が全体がそうです。
 まず欧州の場合から。
 ポジティブリスト制と呼ばれていて、事前に評価されて認められたものしか使えない。すなわち、企業がEFSA(European Food Safety Authority)に根拠となるデータを提出し、EFSAが評価を行って意見を出し、それを元に、EUがリストを作成するというやり方。

B君:例としてリストが示されているけれど、例えば、「低カロリー」とは何か、「低塩」と「超低塩」はどう違うか。「不飽和脂肪酸が多い」ということは、「製品に含まれる脂肪酸の70%以上が不飽和脂肪酸で、製品のカロリーの20%以上が不飽和脂肪酸であること」といった感じ。

A君:まあ、消費者にとって、なんのときめきを感じるような表現は無いのです。

B君:一般機能となると、多少の魅力があるかもしれない。しかし、夢を持つことは難しいだろう。例えば、「乾燥プルーン」だと、「1日100gの乾燥プルーンを提供する食品にのみ使用できる。表示するためには、”消費者がメリットを売るには、1日100g以上の乾燥プルーンを摂取する必要がある”と情報も合わせて提供しなければならないのだ。これを読めば、いきなり夢から現実に引き戻される。

A君:特に、疾患リスクの削減効果については、使える表現も限られていて、さて、いくつあるか? 以下のものだけだそうです。

表 疾患リスクの削減効果があるもののリスト

1.カルシウムとビタミンDの骨折や転倒リスク削減
2.不飽和脂肪酸の血中コレステロール濃度の抑制
3.妊婦の葉酸摂取による胎児の先天異常予防
4.大麦やオート麦のベータグルカンや植物ステロール類の血中コレステロール濃度の抑制
5.砂糖を含まないチューインガムを食後に噛むことによる虫歯予防


B君:5種類しかない。なんとなんと。

A君:ダノン、ネスレなどは、プロバイオティックス関連の食品に対して、認められなかったことに不満を述べたとのこと。しかし、EFSAは、「そもそも、ヨーグルトなどの食品の機能は、例えば、どの種類の乳酸菌を使っているかによって決まるだろう。だから、乳酸菌の種類を明確にしないで、効果を定義することは不可能」という見解らしいです。

B君:当たり前といえば当たり前。乳酸菌の種類などほぼ無限とも言えるので。

A君:極めて厳密で、EFSAは、使っている菌株をATCC(American Type Culture Collection)による細菌の番号を明らかにせよという要求を出していて、それが同定されていないものは、最初から却下だそうです。

B君:それは企業にとっては不満だろう。

A君:確かにそのようで、ダノンは、「オリゴ糖が免疫強化効果を持つことは、プロバイオティックス業界の権威のある科学雑誌に受理されていて、この分野の科学コミュニティーに認められている」と主張しているようですが、EFSAの見解は、「しかし、医薬品などのような評価の水準にはない」ということで却下です。
 それどころか、プロバイオティックス商品を未熟児に利用したことで、プロバイティックス菌に感染したことなどが報告されて、健康状態の悪いヒトへのプロバイオティックスの使用は薦められないということが合意されつつあるとのことです。

B君:EUはすごく厳しいことが分かった。
 さて、米国の場合は、こんな様子。食品については、FDAが評価して認めている限定的健康強調表示(Qualified Health Claim)がある。企業からの申請をFDAが評価して、表示できる文言を提示する。FDAが拒否した例が、p138の表8にあり、FDAが評価済みのものが表9にある。表9は省略。

表8 FDAが拒否したもの

・リコペンと各種がん
・リコペンと前立腺がん
・カルシウムと乳がんおよび前立腺がん
・緑茶と各種がん
・繊維と結腸直腸がん
・緑茶と心血管系疾患リスクの削減
・オメガ3脂肪酸含有を増やした卵と心血管系疾患リスク削減
・ビタミンEと心疾患
・ピコリン酸クロムと高血糖関連疾患リスク削減
・ルテインやゼアキサンチンと加齢性黄斑変性や白内障リスク削減
・乳児用ミルクの100%加水分解乳清タンパク質と乳児の食物アレルギーリスク削減
・カルシウムと腎臓結石
・カルシウムと月経困難症
・グルコサミンとコンドロイチン硫酸と関節痛や関節炎
・結晶性グルコサミン硫酸と骨関節炎リスク削減

A君:EUや米国では、「膝が痛いときにはXXX」といった栄養食品は認められないようですね。ところで、カルシウムの摂取が腎臓結石を減らすという主張は、逆のような気がするのですが。

B君:普通ならそう思う。カルシウム過剰摂取は、腎臓結石とか尿管結石の原因になるという方が常識だと思う。
 FDAは、この要請について、このサイトで、大々的な反論をやっている。
http://www.fda.gov/Food/IngredientsPackagingLabeling/LabelingNutrition/ucm073348.htm

A君:なんと長い反論。

B君:表9は省略してしまったので、畝山さんの著書を読んで欲しいのだけれど、結局、認められた件数は、かなり限られている。しかも、トマトの摂取が卵巣がんに有効かもしれないという主張をするとき、認められる表現は、次のようなものに限定される。
 「週に2回トマトソースを摂取することが卵巣がんのリスクを下げるかもしれない一つの研究があるが、同じ研究でトマトまたはトマトジュースは卵巣がんリスクに何の影響も無かったとされている。FDAはトマトソースが卵巣がんのリスクを下げることは極めて不確実と結論している」。

A君:え? これをそのまま全部書くしかない? これが使える文章? 書かない方がましではないですか。

B君:もう一つ例を。抗酸化ビタミン(ビタミンCやE)とがんについては、「抗酸化ビタミンがある種のがんのリスクを下げるかもしれないことを示唆する幾分かの科学的根拠がある。しかしながら、FDAはこの根拠は限定的で決定的ではないため、この主張を支持しない」

A君:表示するとどう考えても逆効果ですね。

B君:EUと米国の基本的な考え方は、消費者は情報面において、企業よりも圧倒的に不利な立場にある。したがって、情報面での公平性が確保されないかぎり、真に平等な関係は成立しない。

A君:消費者保護というものの本来のあるべき『正義』を実現するのが、政府の役割である、と続くのでしょうね。

B君:日本の場合には、「食品と健康」の関係にウソがあっても、それによって、企業活力が向上すれば安倍政権としては良いと考える。

A君:なるほど。それでは、最後に日本の場合に行きます。日本にはいわゆる「トクホ」=「特定保健用食品」と「栄養機能食品」、そして、「機能性表示食品」があります。これらの3種を合わせて「保健機能食品」と呼ばれています。これらの中で、「栄養機能食品」については、所要量などの若干の違いあっても、海外とそれほど違わない。要するに、栄養学的な同意がなされているのです。しかし、特定保健用食品と機能性表示食品は問題。それは、基準の違い。特に、機能性表示食品は、なぜできたのか、個人的には理解できない。

B君:当然、日本の基準は緩い。しかも、メチャクチャ緩い。日本でトクホとして許可されているものでEFSAの評価では科学的根拠が無いとして却下されたものが複数存在しているとのこと。

A君:その理由は、有効性を主張する際に必要とされる科学的根拠のレベルが相当に違うから。日本だと、科学的に分かっていないけれど、科学には不確実性がある。だから、何か効果はあるかもしれない。ということで、健康食品関係のテレビコマーシャルで、「個人的な感想です」というものを流すことが許されている。ギャラが払われているのだという理解がないのかなあ。

B君:さらに、2015年4月に始まった機能性表示食品については、最初の数ヶ月で提出された文書を見る限り、ガイドラインで提示された条件を満たしていないものがあるとのことだ。すなわち、機能性表示食品のガイドラインでは、その意図するところを忠実に読む限り、それなりにしっかりした根拠が必要であることが建前。

A君:トクホの場合だとその根拠となる文献は基本的に非公開なのですが、機能性表示食品では原則公開。しかも、臨床試験なども「統合基準」というものを満たさなければならないようになっている。ところが、「食品表示基準の施行後1年を超えない日までに開始された研究については、必須としない」なんと緩和措置を作って、完全な骨抜き状態になった。

B君:しかも、消費者の弱点を企業が利用することが公平かどうか、という議論が弱い。根拠というものを理解することができるのは、本物の研究者のみ、という状況は、日本、EU、米国でそれほど変わらない。どの国でも、そもそも科学的根拠とは何かを知る消費者は本当に少数。

A君:米国の場合、多数売られているサプリメントはどうなんだという話になるかもしれませんが、「サプリメントは食品ではない」。これが決定的な違い。「食品とみなされるようなものに、サプリメントとラベル表示ができない」。

B君:だから、日本の現状だと、科学的根拠のないと判断されるような食品が多く販売されている状況をつくってしまった。しかも、日本の消費者は、なぜか、「食品にはなんらかの機能性があると信じたい」という傾向を持っている。特に、緑茶とか、納豆とか、日本固有の食品にそういった思い込みを持っている。あるいは、そんな感触を持ちたいと願っている。

A君:それに関係するのですが、最後に追加で韓国の場合。韓国の健康食品の基準は、朝鮮人参が有効であることが大前提になっている。ところが、韓国以外では朝鮮人参は必ず効くという理解ではないとのこと。要するに、プラセボ効果が大きいというのが韓国の実状らしいですよ。

B君:何か似ている。やはり東アジアの共通点だということか。

C先生:相当に長くなったので、そろそろ終わろう。最後の韓国の例でも分かるように、プラセボ効果が大きいのが機能性食品の世界だと言えるだろう。欧州と米国が認めている機能性表示は、それ以外の例で、そこに科学的実証という方法を持ち込んだということになるだろう。ということは、日本の消費者としては、欧州と米国が、食品の機能性表示として、何を認めているか、それを判断基準にして、購買活動を行うのが正しいということになる。そうすると、「買うものがない」、というのが結論になりそうだ。
 欧米の評価結果を見ると、科学的な見地からは、ある食品を摂取すれば、ある特定の健康上の機能があると考えるのは、余りにも甘い考え方だということを示しているのだ。ところが、日本の表示制度は、この甘い考え方を「経済のため(正確には企業のため)」という理由で、無批判に受け入れてしまっている。どう考えても、途上国なみの表示制度なのだ。
 しかも、社会では、何の根拠もないことが、あたかも真実であるように、大学などからのプレスリリースがメディアによって拡散されてしまうという事態が起きる。もっとひどいのがテレビで「健康食品」を扱うと、その食品がスーパーの棚から消え失せるということが、未だに起きている(そんな番組は見ないので、『多分』としか言えない)。
 この対局にありながら「同根」なことのが、福島産の食品の風評被害だ。全く反対の反応なのだが、実は、根っ子は同じ。要するに、科学的な評価ができない国民性が、その原因だ。これをなんとかしなければならない。福島第一原発事故以前には、「そのうちなんとかなる」か、と少しは思っていたが、2011年以降、もう無理かという感じを持っている。それは、政府の対応、特に、民主党政権が決めた「食品中の放射線の安全基準」と「除染の基準」が決定的だったと思う。