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  食糧不足 それが地球破綻の形か?
  09.09.2012



 食糧不足が今後起きるのか。未来のことは誰も正確には分からない。しかし、最近までのトレンドを追いかけ、それを未来に外挿するという方法論で推論を行うと、「食糧不足は起きない。しかし、ある食糧(今回述べないが、マグロ、ウナギ、マイワシ。魚ばかりだ!)は食べられなくなる可能性が高い」。という結論になる。

 現時点で、食糧供給の未来像を語る人には、何種類か居るように見える。その一つの流儀は、上に述べたような過去のトレンドを解析し、それを未来に外挿するというやり方である。日本では、川島博之氏がその例である。

 それ以外の人の主張を見ると、結局、未来は分からない。何か突発的な事態が起きるかもしれない、ということ以外に根拠が無さそうである。しかし、この突発的な事態というものが否定できるか?

 例えば、地球環境問題で、気候が変動する。特に、降水が増加したり、減少したりして、大変なことになる。ヨーロッパは、ほぼ確実に渇水状態になるように思えるので、フランスは気候変動で困るかもしれない。米国中西部も、恐らく乾燥地帯になって、農業が地下水への依存を高める。オガララ帯水層の地下水は枯渇する。しかし、大規模農業は、カナダに移るだけだろう。

 アジアの小規模農業を行なっている農家は、降水が減少すれば、多分困るだろう。いや、逆に多雨になって、洪水の連発で困るかもしれない。場合によっては、どこかに移住しなければならないが、米国の農家がカナダに移住するほど、簡単に話が進むとは思えない。なんといっても、アジアは人口密度が大きいからである。しかし、世界的には、そのうち問題解決が行われるだろう。

 土地が化学肥料を大量施肥することを継続していると、そのうち、土地がダメになるという人がいる。しかし、現実は、過去に、実例が起きたことはない。だが、未来は分からない。

 穀物の受粉に貢献してくれている昆虫が居なくなるかもしれない。こういう主張もある。確かにそうかもしれないが、狭い地域でのミツバチの減少といった例はあるようだが、大規模に起きたことはない。しかし、未来は分からない。

 単収が10倍にもなったのは、ハーバーボッシュ法によって、空中窒素固定ができるようになったからであるが、窒素肥料の過剰施肥によって、将来、地下水が硝酸イオンにやられて、井戸水が飲めなくなる。そうかもしれないが、なると限っている訳でもない。しかし、未来は分からない

 ハーバーボッシュ法にしても、耕作機械にしても、化石燃料は必須である。化石燃料は枯渇するから、農業もできなくなる、という主張もある。ところが、このところ傾向だと化石燃料は、そう簡単には無くならない。むしろ、エネルギー価格が上昇すれば、その分、新たな資源が開発され、現状の単純延長だと、人類は二酸化炭素を無制限に排出して、そのために、気温が上昇し、植物の光合成が阻害される方が怖そうにも思える。しかし、未来は分からない。

 中国などが肉食になると、世界中がいくら穀物を作っても、飼料に化けて、牛肉、豚肉が世界中で大量消費されるので、穀物価格は今後共上昇し続ける。こういう説も言われている。しかし、牛肉は、ヒンズー教徒は食べない。豚肉は、最近、かなり柔らかになった国のイスラム教徒でも、さすがに食べない。となると、肉の消費は、多くのものがブロイラーになるのではないか。牛は10倍量の穀物が必要というが、ブロイラーであれば、まあ、2倍程度の穀物で足りる。

 最近、食肉が安価にできるようになったのは、ブロイラーと大豆がキーワードで、やはり大豆の生産が非常に簡単になったからである。大豆は、食用油を絞り、残ったカスが良い飼料になる。生産が簡単になったのは、もっぱら、遺伝子組み換え大豆のお陰である。日本では、遺伝子組み換え大豆は使われていないので、将来、もしも食糧危機になっても、味噌汁が飲めない。大豆は、輸入すれば良いと思う。しかし、お金を日本は稼げるのか。やはり、未来は分からない。

 最後に、なぜ、穀物価格が上がるのか。価格が上昇する理由は、1.1京円とも言われる過剰流動性の資金が、何かのキッカケをまって、穀物市場に流れ込むからである。

 ゴールドマン・サックスは、毎年、4月5月に穀物の先物を大量に買い込む。そして、待つ。もしも世界に干魃の傾向が見えたら、それ仲間の報道機関に大々的に報道させる。そして、穀物の不足感を煽って、結果的に大儲けになる。大儲けにならない年は、若干損をするが、何年かに一回、大儲けになれば良いのだ。


 ということで、川島博之氏流の、トレンドだけを提示して、皆様に議論をして貰いましょうか。図も川島氏のものを使わせて貰います。



トレンドその1 単収

 単収、すなわち1ヘクタールあたりの穀物生産量は、窒素肥料などを充分に与えることによって、1800年代の10倍程度になっている。



図 単収と窒素投入量の関係 強い相関がある

 1800年代には飢餓は普通のことだった。それなら窒素肥料をもっと多く使えば良かったのではないか、と思われるかもしれない。ところがそうは行かない。なぜならば、しばらく前まで、窒素肥料を入手することはそれほど簡単なことでは無かったのである。

 人類が自由に窒素肥料を作れるようになったのは、ハーバー・ボッシュ法という方法が完成してからである。この方法は別名を空中窒素固定法と呼ばれている。

 ドイツ人の化学者であったフリッツ・ハーバーは、1908年頃、窒素と水素を高圧下で反応させることによって、アンモニアを合成する実験に成功していた。アンモニアは酸化することによって硝酸に変えられ、各種原料として使われた。勿論、肥料製造の原料になった。

 カール・ボッシュは、ハーバーの高圧法による合成法を工業化した。そして、1916年頃には、ドイツが必要とする窒素化合物を生産できるようになっていた。

 窒素肥料の製造用原料は、歴史的にアンモニアだったのか、というと、実はそうではない。硝石が使われていた。

 硝石とは、カリウムと硝酸との化合物であるが、この硝酸分を窒素肥料として使うことも可能であったが、実は、かなり高価なものであった。そのため、第一次大戦以前では、硝石の主要な用途は、火薬用の酸化剤であった。

 硝石は微生物の働きによって天然にも産出する。これを真似て、硝石丘という方法が作られた。排泄物や枯れ草などを積み上げて、微生物発酵によって硝石を作る方法などがあった。

 日本でも、岐阜県の白川郷では、この方法で硝石を作って、軍事用資材として加賀藩に収めていた。そのため、白川郷は農業に適さないあのような地にありながら、所得が高く、硝石の原料になるカイコの糞を得るために、あのような特殊な形態の住居になっていた。

 また、チリにチリ硝石と呼ばれるナトリウムを含む鉱石が発見されて、これが、火薬の原料として使われていた。

 1914年に第一次世界大戦が始まると、連合国は、海上封鎖を行なって、チリからの硝石類がドイツに輸送されることを妨害した。

 もくろみとしては、ドイツは硝石不足によって火薬が作れなくなり、第一次世界大戦は早く終わるだろうと予測したが、それに反して、上述のように、ドイツ国内では、ハーバー・ボッシュ法を使って、火薬用の硝石が合成されるようになっていた。この人工硝石の製造法とも言える画期的な発明が、第一次世界大戦が長期に渡って継続した原因の一つではないか、と言われている。

 さて、肥料の話に戻る。ハーバー・ボッシュ法によって合成されたアンモニアが肥料に転換されるようになったのはいつからなのだろうか。

 次の図は、人工的な窒素の固定量の推移を示す。


図 窒素の人工的な固定量の推移

 どうみても、1940年ごろまでは、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニアを肥料として使うことは不可能であったと思われる。恐らく、経済的な理由である。

 フランスの小麦の単収が、1950年から増加していることは、窒素肥料がこの時期から大量に使われて始めたのではないか、と推測される。

 窒素は、植物の生育にとって必須の元素である。しかし、窒素肥料の施肥量がゼロであっても、穀物を収穫することができるのはなぜか。それは、微生物が空中の窒素を固定しているからであり、また、雷や日光などによって、空中で多少の硝酸分が生成しているからである。

 地球全体での空中窒素固定量は、微生物、特に、豆類に寄生する根粒バクテリアなどによる量が年間1.8億トン、その他0.4億トン程度と言われている。

 先ほどの固定量のグラフから見ると、現時点では、人工的な固定量が、天然の固定量に匹敵する量になっているものと推測できる。作物の生育環境は、まさに、人工環境になったのである。

 ハーバー・ボッシュ法による化学肥料によって、一定の穀物を生産するのに必要な農地の広さは、1800年台の1/10になっている。狭い土地を耕作することは、広い土地を耕作するよりも合理化がしやすい。農業機械を導入する場合でも、平坦な農地だけを選択することが可能になって、労働生産性の向上に繋がる。



トレンド2 肉食をどう支えるのか

 人口が増加の要因としては、勿論、出生率の影響が大きい。しかし、長寿命化も非常に大きな要素である。第二次世界大戦以後、なぜ、しかも、かなり急に、ヒトは長寿命化したのか。

 医療の発達などを要因として挙げる人が多いが、一般的には、充分なタンパク質の摂取が可能になったこと、要するに、食生活の改善が本当の要因のようである。

 タンパク質には、肉、魚、植物性のものがあるが、特に、肉類の消費が増えたことが長寿命化につながった。

 牧畜用飼料としては、牛の場合には牧草がいまだに重要ではあるが、他の最近特に生産量が増えている鶏肉の飼料としては、大豆の搾りかすが有効に使用されている。日本産の牛肉が美味しい理由も、大豆由来の飼料なのかもしれない。

 大豆生産の主目的は、勿論、大豆油の提供にあり、これは多くの国で、食生活の多様化を可能にした一つの要素になっている。

 次の図に、大豆生産量の推移を示す。



図 大豆生産量の推移。


 生産面積の増大に比べれば、生産量の拡大が急ピッチで行われたことが分かる。このように、大豆の生産が格段に拡大した理由は、遺伝子組み換え技術にある。

 遺伝子組み換えの目的は様々なものがあるが、大豆の場合は、除草剤耐性を与える目的で組換が行われている。グリホサートと呼ばれる物質を有効成分とする農薬は、植物に必須であるアミノ酸の合成を阻害することによって、植物を枯死させる。

 遺伝子組み換え作物は、グリホサートのの分解能を組み込むなどいくつかの方法によって、グリホサートに耐性を持たせる改変した遺伝子を組み込んだ植物である。

 豆類は、根粒バクテリアによって空中窒素を固定しており、そのため、その周囲の土壌は窒素分に富んでいる。そのため、雑草が生えやすく、頻繁に雑草を除去する必要がある。もしも雑草が増えると、雑草の量に反比例して収穫が減るのが大豆である。

 「あの人はまめな人だ」という表現がある。その「まめ」の語源は豆だという説がある。豆類を育てるには、雑草を抜く作業が大変で、豆を育てることが出来る人は、労働力を惜しまない人だという訳である。

 現時点で、大豆生産は、ブラジルが世界No.1になった。そのほとんどすべてが遺伝子組み換え作物であり、除草作業が非常に簡略化したため、従来の大豆であれば、70人程度の農夫が除草のために必要であったが、現在ではそれが1人でできてしまうという。ブラジルは、広大な耕地があることもあり、世界No.1の大豆生産国になった。

http://www.indexmundi.com/agriculture/?commodity=soybean-oilseed&graph=production

 大豆の価格は、2007年までは若干のフラつきはあっても、ほぼ一定であった。しかし、2007年以降、食糧一般の価格がそうであるように、上昇基調にある。

 しかし、これが食糧不足といった状況を反映したものだと言えるのか、あるいは、干魃のような天災の発生を織り込んだものだと言えるのか、となるとかなり疑問である。

 リーマン・ショックによってその一部が蒸発したが、現時点でも1.1京円相当あると言われている流動性の高い投機マネーが食糧市場に集まっていると理解すべきかもしれない。

 その一つの理由は、エネルギー価格がやや低迷しているからである。シェールガスなどの新しいエネルギー源の発見が相次いでおり、資源の枯渇が遠のいているという解釈が一般的になっているからではないだろうか。

 要するに、投機マネー側からみれば、エネルギーは供給不安が無くなって、うま味が少ない商品になってしまったのかもしれない。

 ここまで、農業の生産量、特に、基本となる穀物の生産量が不足することは、かなり考えにくいことである、と述べてきた。2007年以降の価格の上昇はいささか気になるところではあるが、単収の向上によって、農地は余っていること、農民一人あたりの食糧生産量が、過去最高になっており、現時点で1人の農夫によって100人分の食糧を生産することが可能になっている。米国の一部のように大規模化した農業を行えば、1人で1000人分の生産も可能かもしれない。加えて、大豆に見られるように、遺伝子組み換え大豆の導入によって、農夫が失業している現実もある。

 このような状態で、もしも農作物の価格が上昇に転じれば、農業は儲かる商売になって、世界の穀物の生産量は一気に増大し、再び、過去の安価であった時代に戻ると考えるのが妥当ではないだろうか。

 となれば、穀物生産量が「地球の破綻」を引き起こすということは、起こりそうもない。勿論、世界人口が120億人になるような事態になれば、話は別である。



トレンド その3 世界人口


図 世界人口の推移の予測 筆者の予想は赤線


図 アジア、アフリカなどの地域の人口


 やはり未来は分からない。さて、食糧不足をどこまで心配するのが妥当なのでしょうか。

 実は、ここまで書いてきて、「未来は分からない」という理由は、本当は理由にならないのではないか、と思うようになった。

 厳密に言えば、未来は絶対に分からない。そもそも生命体であるヒトにとって、翌日の朝、自分が目覚めるかどうかなど、誰も知り得ないことだからである。しかし、このような意味での「未来は分からない」と、「何が妥当な方向性であるかをできるだけ理性的に探る行為」を諦めさせるために言う「未来は分からない」とは違うように思える。

 探る側にも努力が必要である。やはり、起きる確率をなんとか予測する。そうすれば、起きない確率も予測することになる。そして、これに対する反論も、「未来は分からない」を禁句にして、確率で議論をする。このようなルールを決めない限り、ある事象が地球の破綻の原因になるか、それともならないか、といった重大なことが検討できなくなる。単に、「未来はわからない」という言葉で検討対象から外されて可能性を否定できないように思う。

 「未来は分からない」とばかり述べる人々は、「単なるウケ狙い」、あるいは、「背後霊として利益団体をもっている」、あるいは、単なる「口癖」などであるように思えてきたのである。


最後に、農業と環境に関する現時点でのまとめです。

農業と環境の関係は、次のように整理すべきかと思います。

(1) 農業は、基本的に単一生態系を目指す行為である。
(2) 生産性が低いため、大きな面積を必要とする。
(3) そのため、地球を改変している最大の人間活動である。
(4) しかし、人類の生存を優先すれば、仕方がない。
(5) 農薬、化学肥料の不使用は、生産性を低下させない限り正しい。生産性が下がり、耕地面積を増やせば、無意味。
(5’) 将来、リン、カリウムが資源的に不足すれば、有機併用農業にならざるをえないが、まだ、それほど深刻ではない。
(6) 農業の多面的機能としては、景観維持が最重要。他の機能は、手付かずの生態系に劣る。
(7) 遺伝子組み換え作物は、雇用を無くすこと、種子の選択肢を失うことが問題。その他のリスクはかなり小さいことが証明されつつある。