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  ホルムアルデヒドの水道水基準
    06.02.2012




 本記事は、ホルムアルデヒドという物質が水道水のリスクにどのように関係しているかを知ることが目的である。

 そのための参考書は、
 詳細リスク評価書シリーズ17 「ホルムアルデヒド」
 中西準子、鈴木一寿著 丸善 平成21年
 加えて、今回のホルムアルデヒドの場合のように、実害が発生しないことがほぼ明らかな程度であっても、基準基準値を僅かに超したら水道水の供給がストップする。このようなリスク管理、自らが直接的に関係する事項のみの安全最優先の考え方だが、それで良いのか、といったことも若干議論してみたい。

 例えば、現在の法律では、許容されにくい考え方であるが、供給を絶対に停止する汚染レベルの下に、何段階かのレベルを設けて、それぞれのリスクに応じて、対応を規定するといった考え方があるのではないか。

 そして、最後に、このような事故の再発を防止するにはどうすれば良いかも考察してみたい。



C先生:この問題をどう解決するか。というのが、この記事の最終の目的なのだが、それには、ホルムアルデヒドという物質の水道水におけるリスクを理解しなければならない。

A君:そうですね。まず、そもそもホルムアルデヒドなどという名前を聞いても、余りイメージが湧かないと思うので、若干の説明をしますか。
 まずは、どうやってできるのかです。
 

ホルムアルデヒドの生成

 HCHOという分子式で書ける極めて簡単な有機化合物である。そのため、自然に生成するので、地球上のありとあらゆるところに存在している。

 自然発生量がもっとも多いのが、天然由来の炭化水素、例えば、水田や昆虫、反芻動物からのメタンや、樹木などの植物から放出される天然有機物の微粒子などが、大気の中で酸化分解されて、生成するもの。

 ほぼ同量が、人工的に放出される有機物の大気中での酸化分解によって生成しているものと思われる。

 都市部では、大気中の酸化反応によって生成するホルムアルデヒドが7割程度を占める。

 動物の排泄物や微生物の代謝過程などでも発生する。また、森林火災においても発生するが、量的には少ない。

 自動車の排ガスの中にも存在し、タバコの煙の中にも存在している。また、暖房設備・調理設備なども発生源であるが、量的には少ない。



B君:本当に、様々なでき方がある。基本的には、有機物があって、それが自然界でなんらかの化学反応を起こせば、副生してしまう、という感じか。

A君:大抵の有害物はタバコの煙の中にあるというのも面白いところで、元々環境問題というのは、「煙との戦い」と「毒水との戦い」なのですから、タバコは生物の敵と言えますね。

B君:自然の中でどうしてもできる物質。となると、それなりにヒトは慣れている。だから、それほどの害をなすものでもない。タバコのように、本来、生物の敵である煙を積極的に吸えば、話は別だが。

A君:それなら、どんな健康影響があるか。これをまとめたものが、次の文章。


ホルムアルデヒドのヒト健康影響

発がん

 ホルムアルデヒドは、IARCというがんに関する国際機関が、ヒトにがんを発生させるとしてグループ1に分類している。

 しかし、一般に、どのような有害物の場合でも、摂取のやり方によって健康影響が大きく異なる。

 がんが発生するという実験的な根拠は、吸入する空気にホルムアルデヒドを含ませると、ラットの鼻腔に腫瘍が観察されたこと。しかし、マウスやハムスターでは認められていない。

 ヒトについては、腫瘍との関係が詳細に研究されているものの、説得力があるデータがあるレベルではない。

 にもかかわらず、IARCがホルムアルデヒドをグループ1(ヒトに対して発がん性あり)に分類したのは、基準をより安全サイドにするためだったと思われる。

 参照にされたのは4つの論文。これは、数多くある論文の中で、少ないと言える数である。

 そのうち2つが、白血病に関するものであった。その他の2つは、ヒトの場合、ラットと違って、鼻腔での発がんは認められていないという趣旨のもの。

 白血病の発生については、上記の参考書は疑念を表明している。


B君:このあたりの状況が、一般の方々にはわかりにくいところ。これは発がん物質、これは違うという二分法が効くと思って貰っては困る。かなりグレーなところに、なんとかして線を引いている。

A君:本当にそうですね。もともとグレーなのだから、グレーのままやるのが自然で、それで被害も出ないようにするのが腕というもの。余りに、厳密にやると、それが不幸を生み出す。ところが、法律に書こうと思った瞬間に、グレーな法律は書きにくいので、白と黒の境目を決めなければならなくなる。

B君:そのために、IARCにしても、白と黒の境目をにらんで、結局グループ1にしてしまった。

A君:もともとグレーだとは言いながら、過去には、色々と環境問題になったという経歴も持っていて、そういう前歴があると、人間社会でも同様なことがおきますが、化学物質の世界でも、やはり取り扱い注意になってしまう。

B君:歴史は極めて重要なのだ。そこで、ホルムアルデヒドが環境問題になった例を次の文章でまとめた。


ホルムアルデヒドが環境問題になった例

1966年:ユリア樹脂食器からのホルムアルデヒド
 プラスチック食器からのホルムアルデヒド溶出量が多かった

1968年:天然のしいたけや燻製のホルムアルデヒド
 乾燥しいたけは、100〜200ppmのホルムアルデヒドを含む。
 燻製した食品の保存が効く理由は、煙中のホルムアルデヒドを食品に染み込ませているからである。そのため、3〜30ppmのホルムアルデヒドを含む。

1994年:シックハウス症候群の最大の原因物質
 この問題がもっとも重大な問題にった。しかし、簡単に記述できる問題ではないので今回は省略。

1999年:ミネラルウォータ中のホルムアルデヒド
 市販の外国製14品種、国産の16品種を分析したところ、アメリカ産3種、フィンランド産1種でホルムアルデヒドが検出された。国産品では、北海道産、高知県産、福岡県産以外のすべてで検出され、最高値は、長野県産の59μg/Lであった。
 これをどう解釈するか。まず、全く問題にならないレベルだったことは確実。国産に多いからとって外国品を選択するのは、いかがなものか。それは、硬水は少々味わうには良いが、日常的に飲むことがそもそも良いのか。また、硬水には多めのヒ素を含むが、ヒ素は飲料水における最大のリスク要素であることが確実だからである。
 個人的見解:もっとも安全性が高いことが確実に言える水道水を飲むのがベスト。

1996年:養殖トラフグ中のホルムアルデヒド
 ホルムアルデヒドが殺菌剤として使われていた。


A君:シックハウスの件、これが最大の問題だったと思います。しかも、この件は、個人の感受性に強く関わるものだったので、大変大きな社会問題になった。

B君:社会的に大問題になったもの故に、行政側としては、慎重に見える取り扱いをしたくなるのが人情というもの。

A君:ということで、現時点での水道水の基準値は、0.08mg/L。これは、相当に慎重サイドの設定になっていると思いますね。恐らく、シックハウスの原因物質に対して厳しい対処をしている形を見せたいという気持ちもあったのではないですか。

B君:なぜこのような数値の基準になったのか、を記述したものが、次の段落。


水道基準は0.08mg/L
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

 一方、WHOの指針値は0.9mg/Lである。(上述の参考書より)。
 そして、WHOによるリスク評価書がこれ。
http://www.who.int/water_sanitation_health/dwq/chemicals/formaldehyde130605.pdf

 なぜ、WHOの10倍も厳しい数値が日本で採用されたのか。それは2003年のことである。その基本となる考え方は、
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ypmm-att/2r9852000000ypu6.pdf
にある。

・1 日に飲用する水の量を 2L
・人の平均体重を 50kg(WHO では 60kg)
・水道水由来の暴露割合として、TDI の 10%(消毒副生成物は 20%)を割り当て
とする条件の下で、対象物質の 1 日暴露量が TDI を超えないように評価値を算出した。ただし、物質によっては異なる暴露シナリオを用いている場合がある。

 しかし、2003年までホルムアルデヒドを水質基準として採用していなかった。厚生労働省は、「浄水中で評価値の10%を超過するような例もあることから、水質基準とすることが適当であると」と判断したからである。

 その根拠となったデータが上述の参考書には出ている。出典はこれ。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/k30.pdf



表1 その当時まだ監視項目であったホルムアルデヒドの濃度が現時点での基準値を超える状況 大変興味あることには、この時点ですでに、原水よりも浄水での濃度の方が高い確立で基準値を超すことが分かっている。すでに、ヘキサメチレンテトラミンの影響があった可能性もある。


表2 この表の読み方がよく分からないが、原水については、1259箇所の調査対象のうち1箇所だけが、浄水については、5979箇所の調査対象のうち、やはり1箇所だけが問題と読める。
 もしもこれが正しければ、その場所を特定し、原因を探るべきだったようにも思える。


A君:基準値を定めるには、なんらかの実験的なデータが存在しているのです。

B君:すでに引用した
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/k30.pdf
の中にその根拠とした実験データが記述されている。

A君:そのデータは、次の文章になります。


 一方、動物実験において、Til ら (1989)は雌雄各群 70 匹の Wistar ラットに、雄には 1.2、15、82 mg/kg/day を、雌には 1.8、21、109 mg/kg/day のホルムアルデヒドを 2 年間飲水投与した。雌雄ともに最高用量群にのみ、摂餌、摂水、体重の減少、胃粘膜壁の不規則な肥厚が認められた。病理組織学的に、過角化症と限局性潰瘍を伴う前胃の乳頭状上皮過形成、および潰瘍と腺過形成を伴う腺胃の慢性萎縮性胃炎が観察された。さらに、腎相対重量の増加と腎乳頭壊死の発現増加が認められた。しかし、胃を含め、諸臓器に腫瘍発生は認められなかった。一般毒性に対する NOAEL(No observable adverse effect level=無毒性量) は、雄雌で 15 および 21 mg/kg/day である。


B君:実は、最後の「NOAEL は、雄雌で 15 および 21 mg/kg/day」だけが重要で、この値を基本に、基準値が作られている。
 ヒトの場合、雄の体重を60kgとすれば、900mg/day、雌の体重を50kgとすれば、1050mg/day。これに安全係数を掛けて、1日に2L飲むということから換算する。

A君:その水質基準案の説明は、こんな風になっています。


 NOAEL:15mg/kg/day に不確実係数:100(種差と個人差にそれぞれ 10)を適用して、経口摂取による TDIは 150μg/kg/day と求められた。しかし、ホルムアルデヒドは入浴時等の水道水からの気化による吸入暴露による影響も考慮に入れる必要がある。したがって、気化による吸入暴露経路による発がん性を考慮し、追加の不確実係数:10 を適用し、TDI を 15μg/kg/day とした。
 消毒副生成物であることから TDI に対する飲料水の寄与率を 20%とし、体重 50kg のヒトが1日 2L 飲むと仮定すると、評価値は、0.08 mg/L と求められる。


B君:ということだ。WHOの見解によれば、ホルムアルデヒドは、水との親和性が非常に高いために、水から蒸発して気化することは考えなくても良い。すなわち、追加の不確実係数の10を考える必要はないというのが、WHOの見解。そのため、WHOの基準値は、日本の基準値よりも約10倍緩いのではないか。

A君:なるほど。確かにホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンは臭いはしますが、だからといって、ホルムアルデヒドが空気中を漂うということは無いということですね。

B君:それはそれとして、ホルムアルデヒドは消毒副生物だと考えているようだ。たしかにその通りではあるが、果たして、通常の意味での消毒副生物なのだろうか。

A君:通常の意味での消毒副生物とは、消毒に使う試薬である塩素もしくはオゾンと反応して、生成する副生物を意味するのですが、今回の原因物質であるヘキサメチレントリアミンについては、塩素とオゾンと反応するわけではなく、触媒作用によって分解するだけだと思われるので。

B君:さて、ということで、基準値案ができた。さて、基準値を決定すると何が起きるのか。

A君:その説明が以下の文章です。


そもそも水質基準項目と基準値とは何か

 現時点で、水質基準項目と基準値は50項目ある。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html
 そして、水道法の第四条によって、この基準値を満足する水を供給しなければならないように決められている。
 したがって、この基準を超してしまうような状況になることは、水道事業者にとって、絶対に避けなければならないことである。


 第四条は以下の通り
(水質基準)
第四条  水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない。
一  病原生物に汚染され、又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。
二  シアン、水銀その他の有毒物質を含まないこと。
三  銅、鉄、弗素、フェノールその他の物質をその許容量をこえて含まないこと。
四  異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。
五  異常な臭味がないこと。ただし、消毒による臭味を除く。
六  外観は、ほとんど無色透明であること。
2  前項各号の基準に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。



A君:だから、一度基準値になってしまうと、法令遵守が義務化される。すなわち、この値を超えた水道水を供給すると、法律違反になってしまう。

B君:法律上は明らかにその通り。しかし、先日の福島原発事故のとき、厚労省は、次のような通知を出している。


放射性物質基準超えても飲用可 厚労省が見解通知
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025z5g.html

 政府の原子力災害現地対策本部が実施した水道水中の放射性物質の調査結果を入手しましたので、お知らせいたします。

1.調査結果
 政府の原子力災害現地対策本部が、3月23日までに福島県内で採取した水道水中の放射性物質の調査を実施した結果(342データ:別添1)を入手しましたので、お知らせいたします。今回の調査で「乳児用の指標値(放射性ヨウ素)」(参考4)を超過する値はありませんでした。
 また、上記以外のもので、新たに厚生労働省が報告等を受けた測定結果について情報提供します。(635データ:参考資料)
 今後とも、水道のデータを入手し、それに基づき適切に対処してまいります。
 指標値を超える水道水を一時的に飲用しても健康影響が生じる可能性は極めて低く、代替飲用水が確保できない場合には飲用(乳児による水道水の摂取を含む)しても差し支えありません。また、手洗い、入浴等の生活用水としての利用は可能です。


A君:それは、この放射性物質の基準というものは、その当時、食品に関する暫定基準であった。ですから、これを破っても、法令遵守をしていないという非難を受けることはないものだったと思いますが。

B君:しかし、一般人にとっては、その区別は余り重要なものではなかった。そこで、これに対して、一般人からの反応を見ると、このようなものが多かった。


放射線を暫定基準値を超えて含む水道水に関する一般社会からの意見の一例


水道水 放射性物質基準超えても飲用可 厚労省が見解通知
 厚生労働省は19日、水道水に含まれる放射性物質の量が基準値を超えた場合について「飲用は控えるべきだが、代わりがない場合は飲んでも健康には差し支えない」とする見解をまとめ、各都道府県に通知した。
 通知は「基準値を超えるものは飲用を控えること」とする一方で「生活用水として利用するのは問題ない」。「代わりの飲用水がない場合は飲んでも健康には差し支えない」とした。
 厚労省は「基準値ちょうどの放射性物質を含んだ水を1リットル飲んだ場合でも、東京からニューヨークに飛行機で移動した場合に浴びる放射線の影響よりはるかに少ない」と説明している。
以上 北海道新聞 (03/19 22:08) http://www.hokkaido-np.co.jp/news/dogai/279663.html



A君:我々にとっては、厚労省の通知は、ごく普通の判断に基づくものだったと思いますね。

B君:あたり前。その程度の放射線であれば、その害は知れている。しかし、水を飲めなければ、命に関わるから。

A君:しかし、ネット上の意見は必ずしもそうではなくて、以下のようなものが大多数だった。

ネット上の一つの意見
 「飲用は控えるべきだが、代わりがない場合は飲んでも健康には差し支えない」
いや、健康に差し支えないのなら、飲用を控えなくてもいいんじゃないカナ。
 なにその矛盾・・・。
 じゃぁ、基準値ってのは何のためにあるの?飲めるか飲めないかの基準じゃないの?
 私の考えがおかしいのか。


A君:「私の考えがおかしいのか」という問に対する答えとしては、「そうとも言える」ですかね。なぜなら、暫定基準というものは、基準値と違って、比較的柔軟に運用しても良いもの。しかし、そんなことまで分かっている人は居ないので、このメッセージはかなり不信感を呼んでしまったと思われます。

B君:当然、そんなことまで分かっているとは思えない。

A君:もしも、暫定基準だろうが、基準値だろうが、同じようなものだという理解を一般社会がしているのならば、そのような解釈をするということは、生活の知恵としては有りうるのではないだろうか。

B君:それは、現在のように法令遵守が行政の最大の責任だと思われている時代には無理だ。しかし、もともと法律というものは、本来、社会を適正に回すためのツールに過ぎない。ローマ法は基本的には、不文の慣習法だったので、やはり生活の知恵の一つだったのではないか。

A君:「法令遵守」を無視することが可能だとすると、今回のホルムアルデヒドのように、マージンが最低でも1000倍はあって、毎日この濃度の水2000リットルを2年間に渡って飲み続けても悪影響は出ないという基準をもった規制対象物質があり、あるとき、その濃度が基準値の2倍程度になった。さて、水道水の供給を止めるのか。

B君:法律を無視するのは、現時点では確かに無理。それには法律改正が必要だが、一般に、官庁というものは、法律は厳しい程仕事が続くので良いという発想なので、そのように法律を緩める改正は通らない。現時点では、法律は、一旦作ると、厳しい方向にしか変化できないという宿命がある。

A君:それもどうかと思いますね。今回、この程度の毒性の物質が、基準を2倍超えたために、あれほど長蛇の列を作って水を獲得するということは、市民にとって望ましいサービスだったのでしょうか。給水を止めないで、飲料水を一人2Lペットボトルで供給するというやり方もあるかもしれないと思いますね。

B君:市民社会の本音を聞いてみたいが、それには、まず、飲料水のリスクというものを十二分に理解していないとだめだ。となると、現時点で判断ができる市民は居ないだろう。

A君:今回は、時期が良かったから何も起きなかったけど、真夏の炎天下、高齢者が列を作っていて熱中症にでもなって死亡でもしたら、社会問題になったのでは。

B君:たしかに、そんなリスクがある。様々なリスクを考慮した上で対応を考えるという時代になっているように思える。


ヘキサメチレンテトラミンをどのように規制するのか

A君:さて、今回のように、ヘキサメチレンテトラミンのように、その物質そのものは、ほぼ無害。膀胱炎の医薬品として使われるような物質。しかし、最終的に分解するとき、ホルムアルデヒドのような毒物を出す物質をどのように規制すべきか。

B君:それは比較的簡単なのではないか。なぜならば、まず、量だ。今回廃棄された廃液は60トンであったとされる。このように大量に製造されている化学物質であれば、どのぐらいの製造量があるか、ある程度把握されているのではないか。

A君:もしも放出されるのであれば、今回のように、廃棄物として処理される場合でも、その量は、PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)で規定されている462物質であれば、報告することが義務になっている。

B君:ヘキサメチレンテトラミンは、PRTR法の対象物質(第一種)なので、報告の義務がある。

A君:NITEが出しているPRTRマップを利用して、この物質の関東地方での放出量を見てみますか。




図 関東地方でのヘキサメチレンテトラミンの放出量 NITEによる

B君:このような物質をいかに把握するか。それも実はそれほど難しくはない。水道法の基準値というものは50項目しかない。この50項目にも、味とか色とか臭いとか言った一般項目もあるので、物質だけをまず抽出する。そして、ある物質を河川に投入したとき、これらの物質を生成する可能性のある物質を「しらみ潰し」にリストアップする。

A君:そして、それらの物質の製造数量を把握しているかどうかが問題になりますが、それがどこかにデータがあれば、その量によって、判断をする。

B君:場合によっては、製造者している事業者による製造数量の届出を義務化するという方法でも対応が可能かもしれない。

A君:ということが可能になれば、それぞれの物質について、河川への放流の規制も可能になる。

B君:なんとか対策は可能のように思えるし、実際に調査をしてみれば、それほど多くの物質が問題になるとも思えない。少なくとも、今回の汚染事件と同じことは、二度と起きないと考えても良いように思える。


最終的なまとめ

C先生:そんなところで良いだろう。
 しかし、この問題の本質をよくよく考えてみると、原発事故と同様のところがある。今回の水道水のホルムアルデヒド汚染についても、「水道水の安全神話」というものが機能していて、何が起きたらどう対応するか、という戦略というかリスク対応が検討されていたとは思えない。厳しい基準値を定めたのは良いが、適正なレベルよりもかなり厳しすぎるためもあって、法令遵守を遂行するためということだけで、全面的に取水を止めるという事態になった。

 ICRPの言う緊急時対応のようなことを普段から社会に対しても広報を行い、了解を得ていれば、絶対に給水停止にする基準値に加えて、それを下回っているが、なにか対応をすべき基準値を設けて、別の対応をするといった複数の基準値を儲けるといった制度的な検討が必要なのではないだろうか。

 今後、ますます高齢化が進行すると、水道を有無を言わせずに止めて、「ポリタンクをもって長蛇の列に並べ」というのも酷なような気がするからだ。

 これは、言い換えれば、低線量被曝のときに、被曝を避けるだけが解ではなくて、その他の行為を選択した場合に想定されるリスクとの比較して、ALARAの原則に則った対応をすべきだという、ICRPの勧めのようなものが、水道水供給のように基盤的な社会インフラについても、あっても良いのではないか、という気がする。

 今回、水道の基準値というものがお分かりになったと思うが、基準値はあくまでも管理のための数値であって、それを超したからといって、健康に被害がでるという数値ではなく、数100倍、あるいはそれ以上の余裕をもって決められている値なのである。

 低線量被曝で言えば、1mSv/年というものは、平常時の管理のための数値。水道であれば、これを超すと給水停止という事態に追い込まれるが、放射線の場合には、緊急事態が発生することは、事故、テロ、などなどによって確率がゼロではないし、また、医療用などで被曝をすることもあるので、この値を超したらからすぐ対応は取ることはない。そこで、これまでもこのHPで述べてきたように、ALARAの法則というものがあって、対処法によって発生する他のリスクとのバランスを取りながら、徐々に、被曝量を下げるという行為が推奨されている。

 水道水の場合には、なぜか、かなり厳しい値が基準値として決められているので、今回のような事態になると、住民に対して、水汲みのための行列といった、全く形態が異なる相当なリスクを課してしまうことになる。

 このような意味では、低線量被曝に関する管理の枠組みの方が、進んでいるように思える。