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    久し振りに温暖化懐疑論    11.15.2015 
              素人が書く誤りだらけの扇動本        




 企業などで講演をすると、いまだに、温暖化懐疑論を信じている人がいたりして、非常に驚く。武田邦彦の『努力』には敬意を表する以外になさそうである。彼は、温暖化懐疑論で反中央政府の先兵になり、名古屋市長の経営アドバイザーなどの公職、テレビタレントもどきの地位や大邸宅を手に入れた。「何がウケるか」を極めて良く知る才人であって、「自己の主張が嘘であることを知っていながら、テレビ受け発言をする」確信犯である。

 このような確信犯は、それなりの利益を得ることができるのだけれど、素人の信念から、他人が述べている自分に都合のよい理屈だけをまとめて本を書いてしまう人は、元は良心的なだけに、お気の毒な結末に終わりるのが通例である。すなわち、専門家から全く相手にされず、単に無視されるだろう。しかし、まあ、著者としてはそれで良いのだろう。温暖化がウソだという発言を支持する人々は一定数存在しているので、そのような人々に対して、ある程度の著書が売れれば、それなりの満足度は得られるだろうから。

 温暖化懐疑論の本を出版する時期としては、現時点は大変に良い選択である。11月30日からCOP21がパリで開催されるため、メディアへの温暖化・気候変動問題の露出量が増えているからである。東日本大震災以来、温暖化がどこかに忘れていたような状況下では、懐疑論を出しても、誰も買わないからである。

 その代表とでも言えるような本が出たので、ちょっとだけご紹介し、反論を書く変わりに、(1)南極の氷が増えた説明、(2)中学生でも分かる温暖化の説明の2点をできるだけ簡単に記述してみたい。

『地球はもう温暖化していない
 〜科学と政治の大転換へ』

 深井有、平凡社新書791 

  2015年11月15日 初版一刷

 アマゾンでこの本の書評を見ると、いまだに温暖化懐疑論を信じている人が居ることが分かる。しかも、温暖化懐疑論者は、「微量放射線でも致死的に危険」論者と同じように、かなり狂信的な反政府スタンスの人が大部分なので、いつまでたっても数が減らない。アマゾンをちょっとつついて見たくなりました。



C先生:地球物理学専攻というと、気候変動が専門と思うかもしれないけれど、この本の著者、深井有中央大学名誉教授(1937年生)は、金属物理学が専門であって、環境問題というものが何かということについては全くの素人と思われる。東工大の丸山茂徳教授もプレートテクトニクスという地殻の専門家であって、温暖化の専門家ではないのだが、かなり強固な反温暖化論を展開してきた。

A君:宇宙線が雲の発生を決めているので、太陽活動が高まることによって低層雲が増える。低層雲が増えれば、地表への太陽光の到達量は減り、宇宙への反射量が増えるので、地表の温度は下がるという理屈。メカニズムとしてはあるでしょう。

B君:それに対する常識的な反論はこんな風になる。
『確かに、そのようなメカニズムは存在する。しかし、その効果によって、どのぐらいの気温変化が起きるかということの定量性が全く明らかになっていない。』

A君:確かにその通りです。温暖化の機構には、様々な要因があることはよく知られた事実。宇宙線もその一つ。太陽の活動は非常に大きな要因となる。しかし、太陽活動の一つの指標と思える黒点の数は、大体11年周期で増えたり減ったりしているけれど、気温の変化との相関は極めて不明確です。

B君:要するに、いくら理屈をこねても、その定量的な評価ができないかぎり、単なる屁理屈としかみなされないのが科学というもの。

A君:物理学的な議論をしたいのならばモデル化し、温室効果ガスの増大によって起きるであろう定量的な温度上昇の計算が間違っているという証明をしないと、そもそも議論ができないのです。

B君:そう指摘されると、懐疑論者は反論できないのですが、そこで出してくるのが、クライメートゲート事件(研究者のメールが流出して、気候学者の実体と品性が暴露された)に関連させて、計算をやっているプログラムには、結果が操作されるような仕組みが組み込まれている、といった主張をする。

A君:クライメートゲード事件は、英国のイーストアングリア大学で起きたことなのですが、他国では極めて大きなスキャンダルだという報道がされたにも関わらず、当の英国では、当初非常に大きな問題として報道されたのに、恐らく政府の真面目な対応が評価されたのだと思いますが、一般社会からは問題にされていないのが実態です。

B君:逆に、温暖化懐疑論者がいまだに存在しているのは、世界でも日本と米国の共和党支持者ぐらい。英国国民は、残念なことだけれど、日本国民よりも科学リテラシーが高くて、温暖化の本質をかなりキッチリと理解している。

A君:もう一つの反論が、IPCCは国連機関だから、温暖化というウソで危機感を煽って予算を確保している、という言い方。国連への不信感をうまく利用している。

B君:しかし、IPCCは、国連機関とは言えない。例えば、外務省の国連機関のリストに載っていない。

A君:IPCCは、国連機関であるWMO世界気象機関とUNEP国連環境計画の2つの機関が合同で作った、政府間パネルで、実体は、研究者の集合体。

B君:IPCCがときどき政治的発言をしたのは事実。それは、インド人のパチャウリを座長にするという失敗をしてしまったから、と言えるのでは。

A君:この秋に座長に決まったのは韓国人ですが、果たしてどうなるでしょうか。

B君:IPCCには2000人を超す研究者が参画している。勿論、科学者なので、自分の意見を押し通そうという人が多いので、完全な一致を見ることは無いけれど、しかし、科学という世界も、実は、多数決の世界なのだ。

A君:丸山教授が支持する宇宙線が地球の気候を決めるということ自体は、どの科学者も同意はしているのだけれど、それならどのぐらいの割合で決めるのか、という定量的な話になると、まだ研究結果すら充分でない。そして、温室効果ガスの影響を無視すべきだという深井氏の主張は、科学者であれば、誰も支持することはできない。支持しない人:支持する人の比は、まあ、2000:1ぐらいで、結論は論外ということなりますね。

B君:IPCCに参画している科学者以外を含めれば、温室効果ガスが温暖化現象に無関係だと言い切る科学者の割合は、1000:1ぐらいではないか。妙な科学者というのは、どこにでも居るので。日本気象学会の会員は3700名らしいが、意見分布を知りたいぐらいだ。

A君:そう言えば、気象学会関係者で懐疑論を支持している人は聞いたことが無いですね。

B君:丸山教授も深井氏も地球物理系。気象学も物理学の一部ではあるけれど、物理学系は、もともと独特の意見を認めるという心の広い学問分野なので、懐疑論者は多くても不思議ではないのだ。しかし、自分の専門がそれに近いと、学問のレベルというものに関する直感が利くので、反論することが、自らの学者としての良心に反することだというのがよく分かるのではないか。

A君:もう少々、具体的にIPCCがやっている温暖化の定量的な作業を説明すべきではないですか。勿論、温暖化を直接的に検討しているWG1での話になりますが。

B君:様々な研究者が、自分で作ったシミュレーションプログラムを他の研究者と同じ前提条件で走らせて、その結果を比較するということが実際に行われる基本的作業。当然、結果はばらつくのだけれど、そのばらつきをどのように信頼性ということに結びつけるか、これは統計論なので、そのような議論を行う。

A君:温暖化の主たる要因である温室効果ガスの理論は、かなり良く一致したデータがでるのです。ただし、この本でも述べているように、ハイエイタスと呼ばれる温度上昇の一時的な停滞が起きていて、これが懐疑論者の反論の根拠になっていますね。

B君:そう言えば、NASAが南極の氷が増えているというデータを発表したら、これも懐疑論者の反論のネタになったようだ。

C先生:それなら、そもそも温室効果ガスによる温度上昇とは何か(ハイエイタスとはどう説明するか)、ということを中学生にでも分かるように説明をすること。温度が上がっているのに、南極の氷が増えているということの理由もできるだけ分かりやすく説明することにしよう。


中学生でも分かる
温暖化とハイエイタス(温度上昇の一次停滞)の説明
南極の氷が増えている説明

A君:まず、深井氏と同じ主張になりますが、太陽が地球の温度を決めていることは、地球の周辺にあるもっとも大きなエネルギーの発生源ですから、当然のことです。

B君:エネルギーという言葉は、中学生はどのように理解しているのだろうか。いずれにしても、太陽が地球に与えているエネルギーの量は莫大で、現時点で全人類が使っているエネルギーの1万倍以上。ただし、地表に届く前に、雲などによって反射されて宇宙に戻ってしまう量が1/3程あるので、雲の影響は確かに大きい。

A君:地表に届くエネルギーは、太陽光と呼ばれるものですが、目で見える光としては、我々は白い光が来ているように見えます。この白い光は、大気を通過して来るのですが、大気によって吸収されることは余りありません。

B君:そして、地表に届くと土などに吸収されて、そこの温度を上げる。完全に黒い色だとほとんどのエネルギーを吸収する。温度の上昇は様々だけれど、季節によるが、平均的に20℃程度の地表の温度になる。

A君:20℃程度の温度になった土ですが、太陽光はどんどんとやってきますが、それを受け取っても土の温度がどんどんと上がる訳ではありません。それは、土は、別の光の形でエネルギーを放出しているから。その光は赤外線というものです。太陽光のエネルギーは、赤外線になって、再び宇宙に戻っていきます。

B君:ところが、赤外線が大気層を通過するとき、そこにある水分子や温室効果ガスは、その赤外線を吸収する。丁度、温室に使うガラスや塩化ビニールシートが同じように赤外線を吸収して、温室の温度を高めに保つことと同じことが、10kmぐらまで存在している大気層がやっていることになる。これを温室効果と呼んでいる。

A君:大気中の温室効果ガスの量が増えると、温室のガラスを二重、三重にしたのと同じことになって、温室の温度はより高くなる。これが現時点で現実に起きていることです。

B君:温室効果ガスが無いと、地球の表面温度はマイナス15℃だと考えられている。

A君:温暖化効果ガスのお陰、水が最大の温暖化効果ガスですが、そのお陰で地球上の生命は維持されているのです。

B君:エネルギーという言葉で説明すれば、温室の中には、多くのエネルギーが溜まっている状態になっていて、生命にとって快適さが保たれている。

A君:温室効果ガスの量が増えて、結果として温室効果が大きくなって、より多くのエネルギーが溜まる状態になることが、地球温暖化だと言えます。

B君:より多くのエネルギーが地表付近に溜まっていること、これは、温室効果ガスが赤外線を吸収するという事実から、誰も否定のできないこと。

A君:実際には熱という形を取るので、エネルギーが溜まることで、温度は上がるのです。温度の上がる対象は、大気の温度だけでなく、地面の温度、水の温度があります。水は、もっとも大量に存在しているのが、海水ですので、海水の温度が上昇します。

B君:ところが、海水というのは、同じ量のエネルギーが溜まっても、温度が上がりにくいという性質がある。すなわち、水は比熱が大きい。それに比べると、大気の温度は簡単に上がってしまう。

A君:温度の上がりやすさと上がりにくさを、一般には比熱、厳密には熱容量という言葉で表現しますが、海水と大気との熱容量の概略は、
◯海水の熱容量 5.6E+24 J/K
◯大気の熱容量 5.3E+21 J/K

B君:海水を1℃温めるのに必要な熱量は、大気を1℃温める熱量の1000倍以上ということになる。

A君:海水の表面だけが温度が上がるのではなく、深海部まで温度も上がるのだけれど、深海まで熱が伝わるには、相当な時間が掛かるので、まあ、海面付近の温度が上がることになります。

B君:海面温度の上昇が、現在の気候変動の原因の大部分と言っても良いぐらいだ。台風の状況が以前とかなり違ってしまったこと、この間の茨城県の大水害が起きたが、それは、線状降雨帯といった現象が原因で、以前よりもこのような現象が起きやすくなっている。それもこれも、海面の温度が上がったことによって、大気に供給される水蒸気の量が増えたからだと考えられる。

A君:気象庁の解説によれば、
http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/shindan/b_1/glb_sst/glb_sst.html
『地球全体の海の平均海面水温は、2014年春以降明瞭に高い状態が続いていて、2015年の各月の海面温度は、1891年の統計開始以来もっとも大きな偏差になっている。』

B君:このWebサイトは非常によく出来ているので、2000年ぐらいから現時点までの全地球の海水面温度の変化を示してみると、状況が非常によく分かる。

A君:最近の気象庁のWebサイトは面白いデータが、よく分かる形式で見られるようになっています。

B君:ということで、温室効果ガスによって温暖化が起きる可能性は、確実だし、その定量的な評価もまずまず正しい。しかし、実際にどのような現象が起きるか、というと、エネルギーという目に見えないものが地表に溜まっているということが、その実体なので、具体的に気温が上がるのか、海水温度が上がるのか、起きる現象は多様なのだ。したがって、深井氏の主張にもあるのだが、気候変動はもっと長期間に渡ってじっくりと傾向を見つつ、将来の可能性の範囲を検討するという対象なのだ。深井氏も自分の主張を有言実行すべきだと言うのが一つの結論になるのではないか。

C先生:そろそろ、南極の氷の量の話に移ろう。

A君:「温暖化で南極の氷が1年に1000万トン規模で増加していることがNASAの報告で明らかになった」、ということが反響を呼んでいますね。

B君:例えば、これか。本音は、NHKを攻撃するのが意図の記事だな。
http://www.mag2.com/p/news/123064

A君:まぐまぐニュースというのは、株式会社まぐまぐが提供しているようですが、資本金1億円の企業です。渋谷区渋谷一丁目ですから、C先生のオフィスに近いのでは。

B君:要するに、メールマガジンを発行している人に対して読者を集めるサービスをしている会社だ。だから、中味に対して、全く責任を持っていない。

A君:反響を呼んでいるなどと書いたらいけないニュースソースですね。

B君:そのまぐまぐニュースのメルマガが支持しているのが、武田邦彦の過去の発言なので、「(今回の南極の氷の増えていることを読めば)子供をさんざん脅した、(温暖化→南極の氷が融ける→海水面が上がる→ツバルが沈んでいる)という図式はまったくのウソだったのである」、と全く真実を知らない記述しても当然なのだけれど、武田邦彦なら、もっとまともな記述ができると思う。

A君:実際、武田邦彦のブログでは、まずまずまともな説明になっている。アドレスは読者各位で探して下さい。

B君:放射線関係と違って、物理的にかなり明確なことなので、余りの嘘だと流石にバレるということだろう。

A君:さて、NASA発表の説明ですが、現在程度の温暖化だと、南極の氷は増えて当然なのです。その理由は、南極が充分以上に寒いから。今ぐらいの温暖化だと、南極の氷が溶けるほど、海水の温度が上昇しているわけではないことが最初の理由。そして、二番目の理由が、温暖化で南極周辺の海の温度は多少上がるので、海面からの水の蒸発量は増える。蒸発した水分は、南極上空に送られると、そこは充分以上に寒いので、雪になって降るか、氷の表面でいきなり固化して氷になり、氷の量は増加する。

B君:地球の平均気温の上昇が2.5℃ぐらいになると、流石南極でも、周辺部の氷は溶け始めて来るものの、それでも中心部の氷の量は増えると言われている。現在の1℃程度の上昇では、南極の氷は増える。

A君:一方、グリーンランドの氷床は、1〜4℃の温度上昇で溶け始めると言われていて、その平均値である2.5℃を超えないように、世界全体の温暖化防止策のゴールが2℃未満ということになっているのです。

C先生:こちらの説明は簡単だ。しかし、まぐまぐニュースのブログが敵視しているNHKだけれど、7時・9時のニュースでも、また、NewsWebでの説明も不十分だった。敢えて言えば、説明が非常に下手だった。これでは、本来のメカニズムは非常に簡単なことなのだけれど、その説明になっていない状態だった。もっとちゃんと説明をして欲しい、と思ったのだ。