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  ICRPの伊達市ダイアローグセミナー
  02.26.2012



 明日から米国出張だというのに、福島に行って来ました。簡単にご報告をします。来週の日曜日に帰国予定なので、来週分として、余分ながら、アンコール遺跡の写真をアップします。

 本日、26日早朝6時半過ぎに家を出て、福島へ。福島から阿武隈急行の電車に乗り継いて、保原へ。ここは伊達市である。雪景色の駅を降り、タクシーで保原スカイパレスに向かう。

 ここは、ICRPが主催する伊達市ダイアローグセミナーの会場である。今回は2回目。前回は福島市であった。

 ここで、半谷氏(たむらの子どもたちの未来を考える会)の活動をより強化する福島ステークホルダー調整協議会なるものを立ち上げるという宣言をするために、このセミナーの協力者の一人でもある半谷氏からICRPの丹羽先生に頼んで、私的に参加をさせて貰った。しかし、同じ考えの団体が、少しずつ立ち上がりつつあることが分かった。

 今回の参加者だが、海外からも相当多数のICRP関係者が来日している。先日、NHKのICRP関係の放送でインタビューされていたクリス・クレメント氏も参加していた。海外からの参加者が以下のように多かった。

ICRP関係
 ジャック・ロシェール
 クリス・クレメント ICRP事務局長

報告者
 フランス4名、ベラルーシ2名、ノルウェー2名、OECD2名



 セミナーは昨日から行われており、到着したときには、ベラルーシなどの報告が行われていた。その後、スウェーデン、ノルウェーのサーメ人のセシウム暴露についての報告ががあった。

 そして、本日のご報告は、最後に行われた、メディア、科学者、などによる様々な状況に関する議論。

 この最終セッションでは、メディアの意見、政府、自治体の意見、放射線NPOの意見などが表明され、なかなか興味深かった。


メディアの意見

by福島民報 早川正也氏

 昨年の11月以来、むしろ悪化しているのではないか。

 低線量被曝への懸念が県外に拡大。特に、被災地のがれきが処理されない。東京と山形を除いてどこも受け入れない。

 トータルな視点で見て、コントロールしていかなければならない。点でやっているうちは、力を持たない。そこのコントロールを誰がするのか。この状況をどのように打破すれば良いのか。

 このまま行くと、福島に対する偏見と差別がますます進行し、福島だけが立ち直れない状況になってしまうのではないか。

 改めて、低線量被曝の健康影響について、丁寧に説明するしかない。


by 福島民友 菊池克彦氏

 食品安全委員会、文部科学省の審議会の不一致。国に求めているものと、国の対応がずれていると思わざるを得ない。

 今後、数10年間にわたって、低線量の環境の中で暮らしていく福島県民。

 今後、どうなるのか。新しい基準にするには、モニター体制をどのように確立するのか。自治体の体制も追いついていない。機械は配られるが、特定のマニュアルさえない。今後、数10年間これを続けることのコストは大変。このコストを国民が理解するのか。

 福島の現状を風化させない。


by NHK 藪内潤也氏

 東京の科学文化部に所属。例のドキュメンタリーができた経緯を聞いたところ、「NHKの番組も多様」とのこと。プロデューサの独断でできてしまうという意味だと解釈した。報道系には一定の方針があるとのこと、具体的には、最良の科学的知識に基づいてニュースや番組を提供しようとしている」という方針とのこと。頼もしい。

 11月からどのように変わったか。

悪くなったところ。
○健康調査
 200万人を対象。外部被曝と内部被曝の線量を推定作業。これが大幅に遅れている。28000人のうち、1700人しかできていない。

 避難したパターンごとで外部被曝線量を出すことにしているが、そのデータが18パターンになっていたが、最大19mSv。しかし、県は公表を12月にやっと行った。

 「浪江からの避難者の被曝量はが2mSvぐらいだが。一般人にとっては、2mSvが高く見える。1mSv絶対主義のようなものがあり、一般人にとっては、それを超える線量をどう捉えたらよいかどうしても難しい」。

○食品の新基準。
 2月24日の厚労省審議会で承認。
 食品 100Bq/kgなどの規制は、安全サイドへ、という科学性の無いもの。「何がなんでも安全側へ」という感情的論理に対抗するには、どのような論理を使うべきなのか。

 本HPの解釈は、「安全サイドの最終兵器、『子どもに何かあったらどうするの』、これに対抗するのは大変だ」。


福島県の除染対策

by 渡邉桂一氏 原子力災害現地対策本部
 政府の取り組みを説明

 個人としての意識。政府の対応にどのようなことが求められているか。1年間ここで生活し、政府への不信感、縦割り行政の悪癖、がある。これらを拭い去ることが難しい。伊達市のように先進的に取り組んでいる自治体、あるいは県の助けを借りる以外にないのではないか。

 除染についても、リスクコミュニケーション、ホールボディーカウンターなど、トータルに安心感を得るような施策が必要。安心して避難地域に戻ってもらうことが重要。住民のニーズをもっとも把握できる自治体に予算を与えることが重要。

 縦割り行政。国も大きな組織。できるだけ味方を増やす。連帯感が大切である。

 感想:個人的意見を交えたもので、なかなか聞かせた。福島に1年間滞在してきただけのことはある。


by 伊達市長 仁志田昇司氏

 行政に関する不信感の払拭。避難指示の不徹底。一部官庁の避難の必要性認識していた。SPEEDIの公表遅れ。自衛隊は、南相馬市役所で、避難をしろと言って回った。

 戦略的思い切った決断で信頼回復。戦略としては、放射能と時間との戦い。やはり速やかに進めることがもっとも重要。

 放射能への不安の解消

(1)学者への不信
*低線量被曝によるエビデンスのなさ
*東大教授の涙の記者会見
*ツイッター、講演・テレビでの過激な発言  科学が情緒に変わった。

(2)放射能への過剰な不安
*子どもの基準は大人と同じで良いのか
*少子化 過剰な愛情 放射線に対する過剰反応
*外部被曝 とにかく避難したい対策
*内部被曝 給食に福島県産を使うな、(風評被害対策との矛盾)

(3)風評被害 = 差別問題
*ガソリン、食料の配送拒否
*コメ、野菜、果物など農産物の取引拒否
*工業製品にも、放射能汚染が無いことの証明書の要求
*放射能への嫌悪=差別意識 →大文字焼き、花火、橋梁

(4)対策
*自分で測って自分で納得する体制へ
*空間線量、土壌放射能量、食品などの測定体制の整備充実と情報公開
*放射能教育
*国としての統一見解
*国が決断、実行  例:中間貯蔵所、設置場所など、居住不可地域対策の明示

 国としての総合政策・戦略の必要性

*除染目標値を下げれば良いというものではない。
*厚労省が決定した食品の新しい放射線規制は政府内での見解の相違
*農水省が行おうとしている稲作の現実、現場に即したものか
*放射能に対して戦う意識を


by 田中俊一氏 放射線安全フォーラム

 科学的合理性を欠いた放射線防護に関する変更が繰り返されている。 科学的根拠に乏しい低線量被曝(特に、セシウムの内部被曝)のリスクに関する一部科学者やメディアの発信がひどい。 内部被曝線量を生涯100mSvとすることの合理性がどこにあるのだ。

 細野大臣の下で作られたWG報告書(平成23年12月22日)は妥当だった

 これまでの解析で、現在の暫定規準であっても、0.1mSvの実質的な内部被曝しか無いことが分かっている。新しい基準で、これが8μSv/年間下がると厚労省も白状している。0.008mSvの低下。これで何の意味があるのか。

 水は10Bq以下が規準となるが、Ge検出器での測定には5〜10時間かかる。漁業が大打撃を受けるだろう。茨城県の底魚、ひらめ・かれいは全部100Bq/kgを越しているから。

 住民の推定外部被ばく量が20mSvレベルの地域に入るボランティアも平常時の1mSvを上限として規制することの意味が分からない。

 これは福島県民への差別である。

 厚生労働省の除染電離則はひどいものだ。

by テッド・ラゾ氏(OECDのNuclear Energy Agency)

「消費者の安全だけを追求するのは間違い、消費者と生産者の安全は両方とも極めて重要である」。


その後の質問のセッションに移行。

 質問:よく、低線量被曝のリスクは分からないと言われる。自分は問われると、子どもが1mSvの被曝を受けると、損失余命が1.4日だと答える。このような答え方をどう思うか」。

 東京医療保険大学の伴信彦教授の回答は、かなりはっきりしたものだった。

 伴氏:「分からないのではなない。いくら分かろうとしても、分からないぐらい小さいので、その大きさを決めることができないのだ」。

 これは、本HPでもしばしば言っているように、現代の科学をもってしても、いかなることについても「それが無いこと」の証明はできない、をより明確かつ定量的に述べたものだと言える。

 伴氏:「メディアは、一つの意見を書くことの責任を取りたくないために、100人対1人の意見の対立であっても、それを1対1の重さで書く」、と批判。

 メディアからの答えは、「この点はもっと意識すべきだろう」。

 全くその通り。地球温暖化の場合でも、温暖化が物理的に妥当だと考える科学者が1000人、懐疑論者が1人といった割合だと思う。


最後に散発的な情報

 最近得た関西の某県の職員からの情報:「津波瓦礫の全国処理が進まない一つの要因。関西における自治体へのクレーマーは誰か。それはどうも、福島から関西に避難してきた人らしい」。

 今日得た情報をネットで確認したもの:「福島では医者がどんどんと辞めている。どこかへ移住している。これでは、県民の安心は得られない」。

 この2つの散発的な情報を組み合わせると、関西に移住した医者が、関西の自治体に対して、ガレキを受け入れるなという訴えを毎日やっているのかもしれない、という恐るべき推測ができる。さて、真実はいかに。

 一般の医者の放射線リスクに対する知識は、かなり限られたものなので、本当かもしれないという気がする。