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    「未来のための化学」 何を語るかは難問だ!  
        その1: 取りあえず、フロンの話など。 10.27.2019

               



 このような題になった理由であるが、実は、10月23日(化学の日)に、一ツ橋の学術総合センター「一橋講堂」において、「化学から未来を 化学の可能性」というフォーラムが行われた。そこで、4件の招待講演の一つとして、「未来のための化学」なる題名で講演を行った。その講演のために色々と考え、最終的に準備した状況のご紹介が、本日の記事の目的である。
 実際には、何を話すべきなのか、かなり迷うと同時に、決断するまでに、相当な苦労をした。発想法が普通すぎたのかもしれない。「未来のため」という形容句が付けば、なんらかの未来に関わる地球的課題を取り上げて、そこへの貢献がどのぐらいできるのか、といった考え方でまとめるのが妥当ではないか、まずは、こう考えた。
 もっと飛んだ考え方もあるとは思う。人類が必要とする未来像を考えて、その実現のために必要不可欠な技術を考えるといった方法論もあったかもしれない。
 この考え方を入れないと、かなりつまらないことになりそうな気がしたのも事実である。ここから何か新しい化学像が出てくる可能性は無いとは言えない。しかし、最初の機会に、このような発想で行くのは、未知の分野で何かを語ることになって、リスクが高そうであった。
 そこで、無難なアプローチとして、まず「地球的課題から」を試みることにした。となれば、当然、パリ協定であり、SDGsである。これは、今後数10年に渡る人類の共通の未来的課題がカバーされていると考えられるからである。それから先は、この記事を書きながら、何か考えることになってしまった。


C先生:「未来のための化学」として何をしゃべるのか。かなり難しい課題だったので、約3週間前から考え始めたのだけれど、その前に、例年のようにICEFが椿山荘で開催されたので、それにかなりの時間が取られてしまった。そのため、事前に考えられたのは、本記事の前書き程度までだった。ということで、当日までには、もっと違う考え方を入れたいと思いつつ、少しずつ進める以外に方法はないようだった。

A君:地球レベルでの貢献となると、SDGsが当然。これはその通りでしょう。
 余り、日本では普及していない考え方ですが、本来のSDGsへの取り組み方は、これは各人が自由に考えるということよりも、国連総会での合意文書に掛かれていることなので、すでに、本Webサイトでも述べたように、英語の原文をお読みいただきたいところです。

B君:SDGsの最終目的は、Transform Our Worldであり、それを、5Psと呼ばれる項目を改善することによって実現する、というのが、SDGsの本当のストーリーである。People、Planet、Prosperity、Peace、Partnershipが5Ps。様々な人類の未来的課題として何を取り上げるか、それも、実は、SDGsの17Goalsに書かれていると言えるのではないか。

A君:未来に本当に起きそうなことを考えて、そこから、未来の化学を考えるという方法論もありそうですね。

B君:それはそうだ。本当に起きそうなことには最低限二種類あって、本来、起きてしまったら大変に困ること。その対策のために対応する技術を開発すること。それと、起こさなければ未来が十分に明るくならないこと。こちらはポジティブな感じ。

A君:起きては困ることはいくらでもあります。例えば、現時点でしたら、気候の大変動が起きては困ることの最大のことかもしれません。フランスの小さな町では、気温が46℃以上などになりましが、このような状況は起きては困ることが最高の例の一つでしょう。当然、優れた性能のエアコンを使って冷房するしかない。命に関わりますから。

B君:日本なら台風や集中豪雨の狂暴化が最大の問題かもしれない。これは対策が大規模になるからかなり困難。しかし、フランスなら、やはりエアコンの整備だろうね。

A君:エアコンだと問題は冷媒ですね。なぜかといえば、冷媒は立派な温室効果ガスだから。
https://www.agc.com/innovation/library/pdf/65-10.pdf

B君:以前は、冷媒は、オゾン層破壊物質であるという理解でモントリオール議定書なるものが合意されて、冷媒による環境負荷=オゾン層破壊の防止が実行されてきた。

A君:その削減が実現して、オゾンホールと呼ばれたオゾン層の無い空気の層、主として、南半球にあったのですが、それが消えました

B君:オゾン層は、太陽光の紫外線を吸収するので、生物の皮膚に対する悪影響を防いでいた。すなわち、ヒトの場合だと、白色人種の皮膚がんの発生が紫外線の悪影響の主たるものだが、オゾン層はその防止役でもあった。

A君:白色人種を民族で言うと例えばケルト人。国籍で言えば、英国による強権に耐えかねて、アイルランドから世界各地に渡った人々が有名。メイフラワー号は、イギリス南西部のプリマスから1620年に出港しているので、その性格はかなり違う。

C先生:ケルト人の難民の歴史は、ダブリンにある難民博物館の記事を参照していただきたい。
http://lebenbaum.art.coocan.jp/Travel/IrelandDrive2.htm
 要するに、時代が全く違う。有名なジャガイモ飢饉が1845年で、100万人が死亡し、100万人が海外移住を強いられた。その理由は、英国人領主の横暴さ。悲惨な飢饉の状況にもかかわらず、英国人が経営する農園から英国へのジャガイモ輸出は止まらなかった。
 移民の目的地は、最初は、ヨーロッパ、次にアメリカ、そして、南アフリカ、インド、最終的にはオーストラリア、ニュージーランド。

A君:オゾン層破壊は、南半球が深刻だったので、オーストラリア・ニュージーランドのケルト人の子孫の皮膚がんが最大の問題だった。

B君:モントリオール議定書によって、オゾン層破壊の原因であった塩素を含む冷媒(フロン類)が規制されて、オゾン層破壊係数の低いフロン類に転換されたために、問題が解決した。

A君:しかし、フロン類は同時に温室効果ガスでもあった。しかも、その温暖化係数は非常に大きなものだった。COの温室効果を1とした係数ですが。

B君:フロンというと冷媒だけれど、炭素などのフッ化物は様々な用途に使われていた。例えば、SF6は分子式なのだ。すなわち、硫黄にフッ素が6個付いた化合物。これでも気体だけれど高圧電力のスイッチの放電防止用、NFは、半導体の製造プロセスなどに使われた。

A君:温暖化係数GWP:Global Warming Potentialは、COを1としたときの相対値だけれど、なんとなんと、SFは22800、NFは17200だったのです。その後、塩素を含まない冷媒が開発されたけれど、代表的な冷媒の温暖化係数は、まあ、以下のような感じです。



 表1: 各種フロン類とその温暖化係数GWP

A君:続いて、キガリ改正への対応を図示したものを次に。こんなペースで急速に排出量を減らさなければならないのです。これは実現できるかどうか。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/kagaku_busshitsu/pdf/006_07_00.pdf


 図1 キガリ改正を日本に当てはめた場合に要求される削減の道筋

B君:フロン類に関して、具体的には、R32に関して、ダイキンによる発表の記事がある。
 『ダイキン工業は1日、ハイドロフルオロカーボン(HFC)32(R32)単体冷媒を使った空調機の製造や販売で、特許権の不行使を宣言したと発表した。同冷媒の特許に関して同社は2015年、全世界に無償開放したが個別契約が必要だった。』
 さらに、以下のような記事が見つかる。
 『今回の宣言により書面契約を不要とし、従来の冷媒に比べて温暖化影響が低いR32の世界的な普及を促進する狙いがある。
 対象の特許は約270件に上る。同冷媒は従来の冷媒「R410A」と比べて温暖化係数が約3分の1。同社はR32を使った家庭用空調機を12年に世界で初めて発売。
 現在は同冷媒の家庭用・業務用空調機は世界60カ国以上で販売されている』。

A君:特許料よりも、地球環境。という意味ではなかなかの決断。しかし、R32の温暖化係数で十分なのだろうか。

B君:いや、R32だけでは不十分というのが、個人的な理解。その理由であるが、2029年に来る予定の規制値を満たせない可能性があるから。上図1をご覧いただきたい。

A君:となると、どうもR32への転換で、最終解決ということではなさそうですね。R32だと廃冷媒の完全回収が必須になるのでは。

B君:まあ、R32以外にも、色々と新しい提案が出ているので、コストなどの検討を含めて、なんとか実用化されるのではないか。

A君:その例です。
冷房用の冷媒の選択 三菱重工
https://www.mhi.com/jp/news/story/190418.html

B君:まずは、R454C冷媒。これは、オゾン層破壊係数がゼロで、CO2の温暖化影響力を表現するGWPは146。中小型空調機器用冷媒として現在広く使われているR410A(GWP:2090)およびR32(同675)と比べるとそれぞれ約1/14、1/5となっている。「本実証機の冷媒による温暖化影響(注2)は、従来機(注3)に比べ91.3%の削減となります」、と主張している。

A君:さらなる説明の記述がこれです。

「2016年10月にルワンダの首都キガリ(Kigali)で、オゾン層保護のためのウィーン条約・モントリオール議定書の対象物質として、オゾン層は破壊しないが地球温暖化には悪影響がある代替フロン(HFC)まで段階的に削減する改正(キガリ改正)が行われ、世界を挙げての気候変動防止に向けた取り組みが強化されています。さらに、環境意識の高い欧州連合(EU)諸国は、GWP150以上のHFCを含む地球温暖化物質の販売・使用規制範囲を、2015年以降順次広げています。R454C冷媒を世界で初めて採用した家庭用エアコンの開発は、こうした流れを前向きに受け止め先んじた成果として実現したものといえます」。

B君:しかし、さらに上位の性能のフロンもある。例えば、R1224yd(Z)。これはGWPが1以下。そのうち、このような冷媒が使われるようになるのかもしれない。
https://refrig.jp/archives/710

A君:それでは、次の話題は、2.効率(エネルギー効率、寿命など)が悪いから新しい材料が必要ということ。例としては、熱の運搬・貯留などに使う材料

B君:効率が大幅に下がるとなると、確かに、2030年以降の見通しがかなり苦しくなるように見える。あらゆるエネルギー関係の新機能の開拓が不可欠なのだろう。しかし、熱の運搬・備蓄は難しい。備蓄については、ジーメンスの人工岩山に熱を貯めるといった提案などがあるけれど。

C先生:となると、この問題だけではなくて、「未来の化学」とは、想定される課題を予め十二分に予測した上で、それぞれについて、対策を練っておくことが必須だということ。まあ、いつもながらの結論だけれど。

A君:ということです。その補填を目的として、以下、「基本的に必要な考え方とは何か」という感じで議論をしてみたいと思います。
 まずは、問題点1.使えなくなるものがあるから化学で次を作る

B君:使えなくなるものの最大のものが化石燃料。

A君:問題点2.その代替は、自然エネルギー
 これは、電力ということになるので、化学という面からみると、結構厳しい事象が多いですね。

B君:問題点3.炭素を還元剤として使うという、金属精錬の根本的な原理原則が使用不可能になってしまう。

A君:その最大の事例が、「製鉄」ですね。炭素の塊であるコークスで、酸化鉄である鉄鉱石中の酸素を奪い取って、溶けた鉄を作る。

B君:その溶けた鉄は、高炉の上部から下部に自然に流れ出てくるので、プロセスとして連続になる。一定程度、液体の鉄がたまったら、出口をぶち破って、そこから溶けた鉄が流れ出る。

A君:ところが、これを炭素なしでやろうとすると、使える元素が限られてしまいます。炭素が使える理由は、炭素が、酸化鉄の酸素原子と結合して、COになるから。

B君:それなら水素で酸素原子を奪って、酸化鉄を鉄にすればよい、と思うと、「ブーーー。残念でした!」となる。なぜなら、水素還元は吸熱反応で、温度が下がってしまう。高温でしか起こせないのが還元反応なのに。

A君:その温度を高めるために、まさか炭素を燃やすという訳にもいかない。「元の木阿弥」という言葉通りになってしまうので。

B君:そこで必要な装置が、高温ガス炉なる原子炉。これに類する解以外に解はないことが、ほぼ証明可能。

A君:この世の中、結構不便です。その最大の問題が、地球上に存在している元素には、限界があるということ。そして、最大の限界は、地球に存在している元素と、この宇宙に存在している元素は同じであることで、宇宙船を作って、宇宙のどこかの別の星から、地球には存在していないけれど、極めて有能な元素が見つかるだろうから、宇宙を探索するという考え方は成立しないので。

B君:地球上に存在するある元素が枯渇状態になったから、例えば、金が不足した、銅が不足したからといって、例えば、月に行って探すということは、まず、コスト的に合わない

A君:その次ぐらいの問題が、エネルギーを備蓄するということが、かなりコスト高になることですかね。

B君:化石燃料というものは、地球が人類のために備蓄してくれていたような性格の燃料なので、備蓄にはもともと最適という特性を持っている。

A君:エネルギーが電気ということになると、これは物質ではないので、一旦、ある種の物質に転換した上で貯めることになります。電池がやっていることがそれ。コンデンサーのように、物質転換をしないタイプの電気の備蓄は、量も溜まらないし、長期間保存という訳にもいかない。電池でも、長期間のエネルギー保存は苦手中の苦手だけれど。

B君:化石燃料は、なんと言っても、人類にとって、実に楽ができるエネルギー源だった。エネルギー源だけではない、何を作るにも便利な素材でもあった。なんといっても、地球が備蓄してくれていたのだから当たり前。それだけに広く活用されたものの、しかし、CO2という「短期的には一見無害、超長期的には凶悪な廃棄物」がでてしまうモノだった。

A君:COの厄介なのは、このご本尊は人間でも排出しているぐらいですから、一見、悪いように見えないことですね。しかし、温室効果ガスということで、海面温度の上昇にの最大の原因であって、海面温度は、地球の体温みたいなものだから、海表面でおきる現象が変わってしまって、台風との相互作用が、その最大のリスクを生み出しているようですが、とにかく、凶悪な雨を降らせる台風が出現してしまう。

B君:現時点では、温暖化は、まだまだ序の口。パリ協定では2℃以内が目標だった。その後、IPCCの特別報告書で1.5℃。しかし、その1.5℃を実現しようとしたら、バイオマスCCSのような、極めて乱暴な対応をしなければならないので、地球生態系が大きく棄損されてしまう可能性が高い。

A君:人間にとってCOは、自分の呼吸によっても作られるぐらい、一見、無害なガスですが、その無害と見える性格が実は悪質な本質を隠している。

B君:一見、無害な善人に見えるけど、実は、凶悪なる悪人みたいなものかもしれないね。

A君:確かに。人間でも一見無害な人は実は危ない

C先生:「未来の化学」について、確実に言えることは、まず、現在の状況をゼロリセットして、なんら前提がないところから、どのような機能をもった物質・材料が必要なのかをもう一度見直すという作業が不可欠なのだろう。それには、それこそ、自由な発想をもった研究者が、人類に未来への貢献を目指すという大志を抱いてチャレンジをすることになるはずなのだ。しかし、「未踏チャレンジ」の審査のときに、提案者が述べているマインドなのだが、「この研究は、インパクトファクターの高い論文が書けます。だから助成してください」これではダメだろう。「どのような新事実が分かれば、人類の未来を過去から不連続な形で書き換えることができるのか」、といった発想を持ってもらわないと。言うは易く行うは難し。。。。。