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   電気自動車の将来動向  06.18.2016
         やはりパリ協定が影響するのだが。。。




 6月12日のことだったと思いますが、日経の「真相・深層」という欄に、「米規制・プリウス翻弄」という記事が掲載されました。その中身は、2014年の12月に本サイトにアップした記事、「水素燃料電池車が必要な本当の理由−カリフォルニア州のZEV規制」という記事の中身と100%同じでした。日経よ、「今更何を言っているのだ」、というのが個人的感想ですが、2018年に始まる規制ですから、一般向け経済情報としては、そろそろ関心をもって貰えるか、というタイミングなのかもしれません。

 ということで、米国におけるカリフォルニア州のゼロエミッション車の動向についでお知りになりたいのなら、いまだに、本Webサイトのこの記事が、1年半前に書いたものですが、最新情報です。
http://www.yasuienv.net/ZEV2018.htm

 6月17日には、新型「プリウスPHV」の発表も行われました。Responseによれば、http://response.jp/article/2016/06/18/277107.html
現在、筆者が所有している第3世代プリウスPHVの電池を倍増し、ソーラー充電システムをルーフに設置するオプションもあるようなもので、高そうです!

 ということで、電気自動車に焦点を当てて、このところの動向をちょっと考察してみたいと思います。



その1:テスラ モデル3発表

 最近の話題は、またまたテスラに取られてしまいました。Model 3がそれで航続距離345km分の電池を搭載、車両本体価格は、3万5千ドルからということのようです。今年の3月31日のイーロン・マスクによる正式発表ビデオでは、それ以上詳しい情報はありません。https://www.teslamotors.com/jp/model3

 イーロン・マスクは、まず、電気自動車がなぜ必要なのかを述べ、大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超したこと、現在の濃度であったのは今から1100万年前であると述べています。ガソリン車は有害なガスを出し、そのために年間53000人が死亡しているとも述べました。「ロードスターは少数生産の車でしたが、これによって、電気自動車が小さくて遅い車ではないことを証明したことから始めた。しかし、非常に高い車でした。次にモデルSを作りました。次に、SUVであるモデルXを開発しました。この2つのモデルで得た収益で、モデル3を開発しました」。

 「モデル3の特徴は、まず非常に安全な車。当然、100mまで6秒以下で到達する性能は維持しますし、EPAのテストで345km走れることを目指します。自動運転の機能をもたせます。5人が充分に乗れるセダンです。スーパーチャージーという機能も搭載しています(どうやら急速充電が可能ということらしい)」。

 「モデル3が売れると、現在世界で生産されるリチウム電池のすべてを使うことになるので、50GWhの電池を生産できる工場を作りました」。

 現時点での情報はこの程度で、”電費”やどのぐらいの電池を搭載しているのか、などは、未発表と思われます。



その2:ノルウェーで電気自動車の販売急増

http://gas2.org/2016/01/21/electric-car-sales-surge-in-norway-during-2015/

 この記事は、ノルウェーでなぜ電気自動車の販売数が増えたかを説明しています。その理由は、この記事に言わせれば、「インセンティブさ、バカくさ!」、です。ノルウェーでは、「ほぼすべてのPHVとEVの販売税と登録費用を無料。さらに、EVであればコミュータ用の特別のレーンを使うこともできるし、多くの都市で駐車料金もタダになる。さらに、大部分のフェリーと橋の通行の両方が無料にもなる。当然、充電施設も急速に拡充された」。

 このようなインセンティブによって売れた電気自動車の台数は4万台と考えられいます。なんと、ノルウェーで売れた新車の30%ぐらいですから、大変なものです。

 具体的にどんな車が売れたのか。もっとも売れたのが、VWのe−ゴルフ、テスラ、そして、Nissan リーフ。そして、プラグインで売れたのが、三菱アウトランダーPHEVでした。



その3:IEAは電気自動車の将来をどうみているか。
https://www.iea.org/media/topics/transport/GlobalEVOutlook2016FLYER.pdf

 IEA(国際エネルギー機関、OECDの一部)は、エネルギー関係に関する未来予測では有名な組織ですが、電気自動車の将来について、このURLのような1枚のまとめ行っています。

 2015年にどのぐらいのEVが売れたのか、その2010年からの増加状況を示す図が次です。



図1 EVの販売数の国別推移 by IEA

 2015年の販売数で言えば、1位がなんと中国、そして、米国、続いて、オランダ、ノルウェー、英国、日本、ドイツ、フランスといった順番。

 中国の驚くべき増加率ですが、その理由は、多くの都市で大気汚染が余りにもひどいので、政府がEVの普及を後押ししているためです。ノルウェーの例のように、インセンティブを与えれば、販売数は増えるのです。

 テスラの米国ですが、どうやら2015年に販売数がわずかながら減ったようです。実は、第6位のEV販売台数の日本でも、似たような傾向を示しています。それは、やはりインセンティブの減少も原因の一つでしょうが、個人的には、電気自動車の実態が分かってしまったということもあると思っています。

 その理由は、電欠の怖さが認識されたためかと思います。つくば在住の某先生は、先駆的環境対応ということで、日産のリーフを買いました。しかし、先日手放して、某社のクリーンディーゼルに買い替えました。その理由が「電欠の怖さ」でして、「つくばから成田空港まで、距離は60km以下だけど、とてもリーフでは往復できない。まあ、ギリギリかもしれないけれど、とても、夏のエアコン、冬の暖房を効かせた状態では不可能」、と述べられていました。奥様は別の車にお乗りだったようですので、お買い物用にはリーフは良いのでは、と言いましたが、奥様は別の趣味で車を見ておられるようでした。米国でもリーフはかなり売れましたが、近所のスーパーに行くという用途に限れば、運用コストもタダみたいなものですから、リーフのメリットが享受できるのです。すなわち、一家の3台目の車がリーフという用途だったようです。

 もっともテスラでも似たようなものです。もしも日本で買えば、自宅で充電に使えるのは200Vの充電器です。15A流すことができますので、3kW/hという充電速度です。テスラの電池は、大きいタイプだと85kWh分も搭載しています。フル充電には、まあ、30時間は掛かるのです。どこかに遠出をしたとすると、その翌日は別の車で、そして、翌々日も恐らく別の車で、そして、3日目にはやっとテスラに乗るということが可能な人が買う車な訳です。

 ところが、米国は、キャンピングカーの大きな車のために、400Vのコンセントが設置されている家があります。テスラは、オプションで、400Vの充電口を二つ付けることができるようですので、200Vしか使えない日本の4倍の速度で充電ができます。このような状況なら8時間でフル充電になりますので、テスラでも翌日にまた乗ることができるのです。

 実は、ノルウェーの場合にも、400Vの給電があります。用途は、なんと電気暖房用です。寒い国ですから、ヒートポンプ型のエアコンでは無理で、単なる電気ヒーターが暖房用に使われています。もとも水力発電が主力ですから、二酸化炭素発生量の点では、電気がベストなのです。

 というようなことを言うと、そのために急速充電があるのではないか、という反論が来るのですが、テスラのような高価な車を買っている人は、一般に、急速充電のためだけに、わざわざそこに行く時間を使うことを嫌がるのが普通です。いくら30分程度で終わるからといっても、忙しいので嫌がるのです。電気自動車は、その基本はやはり夜にじっくりと充電することなのです。その方が、電池の寿命にとっても、良いからです。

 図2は、これまでのどのぐらいの台数のEVが売れたか、累積数を示しています。PHEVとEVとの合計で120万台ちょっとのようです。日本は、第三位につけています。その大部分は、やはり日産リーフだと思います。



図2 これまでに売れたEVとPHVの国別実績 by IEA

 次の図3が、充電設備がどのぐらいあるか、ですが、個人用、公共向けの低速充電装置、同じく急速充電装置、この3つに分けて示しています。



図3 充電設備の普及数。急速充電設備の数は、まだ3万台に行っていない。 by IEA

 やはり、まだまだ実用になるには、公共用の施設の充実が不可欠のようです。特に、急速充電設備が何10倍になることが不可欠でしょう。

 次の図4が、バッテリーの進化を示すものです。進化といっても、コストの低下で示しています。実は、テスラが偉いのは、バッテリーを自分で作っていることとも言えます。もっとも、これまでの電池は、18650と呼ばれる円筒形の汎用のリチウム電池、元々は、三洋電機が作っていた電池を1万本ぐらい組み合わせて作っていたのです。



図4 バッテリーの進化とその予測値 by IEA

 テスラが新しく作ったネバダ州の電池工場でも、恐らく、そのような小型電池を組み合わせて駆動用電池を作るのではないか、と思われます。

 MITのTechnology Reviewによれば、
https://www.technologyreview.com/s/601178/
the-tesla-model-3-may-depend-on-this-battery-breakthrough/

新しいテスラモデル3の価格は$35000で、モデルXの約半分。これが実現できるかどうか、それは、電池の価格次第だと分析しています。まあ、当たり前のことです。そして、カリフォルニア州からネバダ州に入ったところに作っているGigaFactoryで、その電池を作るのでしょうが、そこでどのようなイノベーションが行われようとしているのでしょうか。上記MITの記事では、テスラと協力しているパナソニックが開発中の、これまで陰極用に使ってきたカーボンにシリコンを加えるという新技術が使われるかもしれない、という予測をしています。もしも、10%程度でもシリコンを加えることで、性能が改善できれば、それは重大なブレークスルーだという訳です。

 実際、リチウムイオン電池の負極、普通は炭素で作るのですが、シリコンでそれを置き換えようという論文が山程あります。

 そもそもどのぐらいの電池価格が予測されているのか。すでに示したIEAの図4でも、右下にその予測値がでています。テスラは2020年に1kWhの電池で$100程度を考えているようです。GMは、もう少々悲観的な予測をしているようです。MITの記事では、モデル3が発売になる2017年に、この$100程度になれば、利益が出ると考えているようです。

 イーロン・マスクのプレゼンの中でも、モデル3の発売時期について、余り正確なことを言っていません。すでに10万台を超す予約が来たようですが、発売時期を果たして1年以上待ってくれるのでしょうか。となれば、2017年3月末ぐらいまでが、一つの目安になるでしょう。これは大変に興味深い事態が起こり始めているように思います。

 しかし、長期的に見れば、電気自動車を普及せざるを得ないのは事実なのです。次の図5ですが、パリ協定で定まった2050年目標、すなわち、世界全体で40〜70%削減目標の高いところ、具体的には60%削減程度、を満足するためには、2050年までに1億台程度の普及が不可欠と考えられています。しかし、2020年の予測値はその1/5です。今すぐに全面的勝負ができるとはとても思えないのです。



図5 電気自動車の普及数。パリ協定達成のためには黄色線が必須。



その4:そろそろ結論 経営者のスタンスとそれを支える社会が重要

 パリ協定が産業界に与えている目標は、どんな分野でも、どの産業についても、とてもとても簡単に実現できるようには思えないものばかりです。しかし、ノルウェーのように、政治がインセンティブをつけると、あらゆる変化が一気に起きてしまうのも事実です。

 このように考えれば、すべての産業は、パリ協定の中身を精査し、どのような対応が求められているかを明らかにし、その可能性・不可能性を冷静に判断し、もしも、行動を開始するとしたら、何年間程度の準備時間が必要とされるか、を推定し、全体的な未来戦略を作ることでしょう。

 テスラのイーロン・マスクの偉いところは、それを一般社会に向かって、自らの意志として、言い切ってしまうことです。一方、日本の企業は、他の競争相手の顔色を伺っているばかりで、社長が自分の意志で社会的なテスラのような公約をしないのです(とは言っても、日本の自動車産業は例外的で、まずまずです)。同じ公約といっても、常にチャレンジをしているテスラの公約は、実現できなくても、社会は許容するのです。その理由は、イーロン・マスクという人格のなせる技ではないかと思うのです。日本の製造業に求められるのは、そのような人格を持った強い経営者が出てくることのように思えます。同時に、チャレンジをする経営者が出てきて公約をした場合にも、「その公約は必達だ」というような株主がいなくなることが求められるのです。チャレンジをすることに価値があるという社会、それを目指す社会的な改革が行われない限り、いくらアベノミクスが強調されても、日本の産業活力、特に、製造業の未来には限界があるのです。