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一週間ほど時が経過してしまいましたが、G7サミット(6月8〜9日にカナダ・ケベック州のCharlevoix=シャルルボアで開催)では、各国の環境問題に対する基本的スタンスが透けて見えたのではないでしょうか。
このサミットでの議論を要約すると、少なくとも環境問題に関する限り、世界の主要国は、日・米と欧州の二つに完全に別れたようです。この傾向が続けば、そのうち、欧州各国は日・米は「不正義の国」であるというラベルを貼ることが目に見えています。米国のスタンスは、トランプ大統領が次の大統領に変われば、そこで完全に変わりますが、日本はそうでは無いかもしれません。これまでも記述しておりますように、日本語が不完全であること、「正義」を語るのがやりにくい国だからです。かなり心配です。
この「不正義の国」ラベルは、当然、裏に欧州得意の環境規制が付随します。しばらく前のことになりますが、化学物質に関するRoHS規制とかREACH規制とか言った例を見ると、今後も同様に「未然防止」を謳い文句にした規制のようなものを考え出してくるものと思われます。「パリ協定」に関しては、2023年から行われる「Global Stocktake」が、武器になることはほぼ確実なのですが、「マイクロプラスチック規制」に対しては、どのような武器が構築されることになるのでしょうか。今の所、見えません。
日本は、欧州との経済的な関係をどのような形で維持するのか。もし、維持しようと思うのなら、欧州の考え方を受け入れるかどうかの判断のために、「気候正義」を十分に咀嚼し、他の環境規制の可能性も十分に推察することが必要になるかもしれません。あるいは、それとも、孤立した島国としての道を歩むのか。この後者を選択するメリットは何かあるのでしょうか。

C先生:本日のテーマは、シャルルボア・サミットでの環境関係の話題。6月8日に、東大農学部の倉橋先生のプロジェクトのシンポジウムが行われて、そこで藻類バイオマスの新しい情報を得たものだから、前回の記事はそれにしたわけだ。そうしたら、9日のG7では、環境関係の問題として、気候変動、海洋、エネルギーが議論されて、エネルギー安全保障を強化する行動には、共同でコミットするという結論になった。しかし、気候変動に関しては、次のような記述になっている。
A君:「米国を除く6ヶ国は、地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」の履行に向けた強い決意を確認する。政府や市民社会などすべての関係するパートナーと協同し、制作のギャップやニーズ、最善の方法を特定する」。
B君:トランプ大統領は、もはやパリ協定は無視するという態度を表明してしまったので、まあ、こうなるのも当たり前。トランプ大統領であれば、自分に不正義のラベルをベタベタ貼られても、何も感じないのではないか?
A君:まあそうですよね。トランプ大統領の正義は、自分を支持してくれる選挙民が、経済的に少しでも潤うことだけですから。米国全体の利益すら、ほとんど考えていない。
B君:先日から始まった様々なな輸入品に対する関税のアップの話が、中国にも対して適用されて、どうも中国は報復措置を取ったようだ。そのために、株価が下落している。
A君:トランプ大統領にとってみれば、株価の下落は余り大きな問題ではないのでしょう。いつでも自分を支持してくれる選挙民の懐具合だけを考えていますから。しかし、政治面には影響があるでしょう。中間選挙で勝てなくなる可能性は高くなると思いますが。
C先生:次の話題が、持続可能な海洋と漁業。「健全な海洋は数十億人の生活や食料安全保障、経済的繁栄を直接支えていると認識する。持続可能な海洋と漁業を促進し、プラスチックごみや海洋廃棄物に対処する」、といった記述になっている。
A君:その次にも若干の説明があって、「プラスチックが経済や日々の生活で重要な役割を果たす一方、プラスチック製品の製造、使用、管理、廃棄に関する現行のアプローチが人間の健康に脅威をもたらすとの認識の下、カナダと欧州各国首脳は、『G7海洋プラスチック憲章』を承認する」。
B君:プラスチックが現在のような形態で使われていると、本当に『人間の健康』に脅威をもたらすのだろうか。これは疑問だ。
A君:原文はどうなっているのでしょうね。
https://g7.gc.ca/en/official-documents/charlevoix-blueprint-healthy-oceans-seas-resilient-coastal-communities/#a1
ここに原文があります。タイトルは、「CHARLEVOIX BLUEPRINT FOR HEALTHY OCEANS, SEAS AND RESILIENT COASTAL COMMUNITIES」です。ブループリントとなっているので、まあ、設計図=青写真ということでしょうか。
B君:そして、この文書のAnnexとして、Ocean Plastics Charter。すなわち、「海洋プラスチック憲章」が付属している。これも結構長い。
A君:その説明ですが、本当に長いので、ざっくり行きます。
1.持続可能なデザイン、製造、そして、使用後の市場
a.100%リユース可能、リサイクル可能、あるいは、もし代替品が無いのならば、recoverableな(正確な定義は不明)プラスチックを2030年までに実現。
b.代替品の環境影響評価を考慮しつつ、使い捨てプラスチックの不必要な使用を大幅に削減する。
c.グリーン購入を推進して、廃棄物の削減、プラスチックの再生使用、プラスチックの代替品を検討。
d.産業界と協調しリサイクルされる量を最低でも2030年までに50%増加。
e.二次使用市場の拡充のために、製品のスチュワードシップ、設計、リサイクルを実現するための政策、国際的なインセンティブ、標準化を推進する。
f.産業界と協働で、マイクロビーズの使用を2020年までにある程度減少する。
2.収集、管理、などのシステムとインフラの整備
a.産業界とG7以外の政府との協働により、リサイクル・リユースされるプラスチックの割合を2030年までに最低でも55%とし、2040年までには100%にする。
b.原料としてのプラスチックの管理のための国内の能力を増強し、海洋環境に漏れ出ないようにする。収集、リユース、リサイクル、再生、そして、環境適合型の処理などが対象。
c.プラスチックについて、全サプライチェーンをチェックし、製造に関して、より大きな責任体制を作り、不必要なロスをチェック。これには使用前のプラスチックペレットを含む。
d.国際的な活動を加速するなどして、公的・私的ファンディングを得て、排水の処理に新規な取り組みなどを行うと同時に、海岸線の清掃を強化。
e.特に、地方自治体との協力によって、小さな島などのみならず、地域全体の意識を向上させる。
3.持続可能なライフスタイルと教育(概要)
プラスチックが海洋に入らないように、あらゆる方法を強化。 特に、女性や子供の役割を重視。
4.研究、イノベーション、新技術(省略)
5.海岸でのアクション(省略)
B君:相当省略しているが、確かに、これでも雰囲気は十分に分かる。どうみても、『人間の健康』に脅威をもたらすという表現は、その主なポイントは、やはり良質なタンパク質の不足などといった栄養面ではないか。
A君:そして、最後の脚注があって、米国の意見が述べられています。
脚注:米国は、健全な海洋、海、そして、海岸のコミュニティーの保護を強く支持する。しかし、米国は、パリ協定から離脱の意思を示しているので。青写真で気候変動に関連する言葉については、慎重に対応した。
B君:待て待て。この脚注はなんだ。海洋関係については、米国も問題なく支持ということではないのか。ということは、米国と日本が反対したと言いながら、米国は賛成派だったということを意味しないか。
A君:そうも読めますね。ということは、このプラスチックによる海洋汚染について、サインしたくなかったのは、日本だけ。その日本の態度に忖度して米国もサインしなかったのでは。なぜなら、この憲章には、パリ協定に関わることは何も記述されていないので。
B君:そもそも、日本の現在の状況から見て、健全な海洋、海、海岸地域に反対する理由があるのだろうか。かなり理念的なことが書かれているだけなのだが。
A君:というよりも、ゴールだけが記述されていて、どの項目を見ても、とてもターゲットだとは思えない記述になっている。日本人は、やはり、ゴールとターゲットの区別ができていない。
C先生:成る程。確かにそんな感じだ。日本がサインしなかった理由だけれど、どこかに記述されていたかな。
A君:いくつかの報道機関が、こんなことを書いています。日本政府の官僚らしき人の発言として、「プラスチックごみを減らしていく趣旨には当然、賛成しているが、国内法が整備されておらず、社会にどの程度影響を与えるか現段階でわからないので署名ができなかった」。
B君:馬鹿か! 基はブループリント。ブループリント(=青写真)とは、建物ではない。設計図であって、これは単なるゴールだ。設計が悪ければ、直す必要があるのだから。ゴールなのだから、そちらの方向に進むということでしかない。ゴールは、ターゲットとは違う。ターゲットとなると、実現しなければならない。ゴールであれば趣旨に賛成してそちらの方向に向かって歩めば良い。国内法が整備されていなければ、サインしてから整備に向けて努力すれば良い。ああ、そうか。それが業界と政界の反対で整備できないということなのだ。この青写真の論調だと、ほとんどすべての国(除くフランス)が国内法などを持っていない状況だと思われるのに。現実は調べようが無いので、わからないけれど。
A君:国内法が無いからサインできないというのは、全くふざけた話ですね。ブループリントという意味が分かっていない。これ以上、日本を不正義の国にしてしまったら、欧州から経済的な反撃を食らうだけだということが分かっていない。
B君:安倍さんが国内産業は大丈夫かとか、言ったので忖度したのだろうか。あるいは、日本には国内法は無いよな、と聞いたのだろうか。もしそうならば、再び忖度が行われて、サインを回避したものと思われる。あるいは、米国がサインしないから、日本もサインするなと言われたのかと思ったが、それはどうも無い。米国の本音は賛成のようだから。
C先生:忖度が行われたとしたら、それはとんでもないことだ。そうでないとしたら、やはり、日本語の不完全さがまたもや惨めな結果を招いたように思う。官僚にとって、一旦発言したらそれは目標だから必達だと思っているのではないか。国際交渉など、そんなものではない。むしろ、どのような行動が正義かという議論が行われる。パリ協定のように、「気候正義」と書いてあれば理解しやすいが、書かれなくても「正義」とは何かという議論をしているようなものなのだから。
A君:パリ協定で正義が必要だという議論がよく理解できるのは、Stockholm Resilience Centre(以下、SRC)のような地球限界というコンセプトではないですか。このセンターによれば、気候変動、生物多様性、空中窒素固定の3つのジャンルですでに、地球限界を超していると主張していますね。
B君:それもそうだけど、SRCが扱うと、SDGsもずっとわかりやすくなる。もっとも上に経済があって、中に社会が、そして、もっとも下の地球環境(生物圏)が来ている。これをどう理解するのか、と言えば、ゴア氏が副大統領のときに示したように、経済がいくら保護されても、地球がなくなったら終わり、ということ。
A君:今回の海洋プラスチックの問題も、実は、海洋生態系がなくなったら、ヒトの生活が大打撃を受ける。経済がいくら成立しても、食料という基本的なところで問題がでるということですね。それで、不健康な食事をしなければならなくなって、間接的ではあるけれど、人間の健康にも影響する。
C先生:その件だが、実は、日本の海洋プラスチックの研究も、ちょっと奇妙なのだ。海洋プラスチックが何か有害物質を吸着していて、それを魚が食べる。ヒトがその魚を食べるので、ヒトに健康影響がでる。有害物質としては、「環境ホルモン」を想定しているらしい。しかし、このロジックが成立するのは、かなり極端なケースだろう。例えば、極めて局所的な高濃度の環境汚染なら無いとは言えないが、海洋レベルでは、海水の量が余りにも莫大なので、「ない」と断言できる。なぜなら、ヒトという生物は、非常によくできていて、非常に特殊な成分でないかぎり、微量では健康影響が出にくいのだ。そのために、これほど地球上でのさばっていられるのだ。よく言われる環境ホルモンは、実は、極めて一般的な物質だ。もし、何か危ない例を上げろと言われれば、例えば、ある種の医薬品か液晶に類する物質が大量に海に流出するようなケースだけだ。この場合でも、プラスチックに吸着されている量では何も起きないだろう。
さらに言えば、ヒトへの有害性として環境ホルモン性のある物質に狙いを定めている研究者がいて、それがなぜか主流になっている。これが日本の現状。そんな可能性がどこにあるというのか。「ヒトの健康」よりも、今回のブループリントの主張のように、海洋生態系に影響がでて、漁民が困るとか、そもそも動物性タンパク質の供給量が地球レベルで不足するとか、そんな考え方の方が普通だと思うのだけど。日本の研究者で、これを問題だと考えている人を知らない。
まあ、いずれにしても、今回、日本がサインしなかったのは、大間違い。その理由が、報道の通りだとしたら、それこそ「馬鹿か!」だ。「国内法が無いから」。そんなものは理由にならない。そもそも、ブループリントという言葉をどう理解しているのだろうか。ブループリントが何回か書き直されて、それから建物の工事に取り掛かるのだ。
やはり、日本の官僚が現実的(=実は、内閣府からの目線を気にしすぎ)になりすぎているように思う。これは、内閣人事局の影響による部分が多大で、要するに、内閣府の力が強すぎるのだ。「日本という国のためには、何が必要か、それがどうあるべきなのか」、という議論を官僚がもっと自由にできるような時代に戻らないと、この国はさらにさらにダメな国になるだろう。
現日本政府、いくらなんでも、なんとかせよ。政府関係者をこれほど罵倒した記事を書いたのは始めてだ。「パリ協定」によって地球レベルの環境問題に対して取るべき対応は、完全に変わったのだと理解せよ!!!!
そして、この状況がもしも理解できないのであれば、やはり、一神教と多神教の違いを再度勉強し直すべきだ。このところ、そのような本を見直しているが、やはり、多神教である筆者個人としては、「ふしぎなキリスト教」橋爪大三郎・大澤真幸著、講談社現代新書、2100をお勧めしたい。しかし、本文章を書くにあたって、もう一度ペラペラとめくって探した限りでは、「最後の審判」についての記述がほとんどない。第二部の9に、キリスト教の終末論はあるのだけれど。日本以外のG7の国々の人々の発想の原点を理解しようとすれば、「最後の審判」の勉強も不可欠だと思う。


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